むしろ腕白が良い‥‥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月07日〜12月14日

リプレイ公開日:2004年12月16日

●オープニング

 5つほどの幼い少年を連れた20ほどの侍らしき青年2人と12・3ほどの少年がギルドを訪れたのは、そろそろ師匠も走り出す時期の、寒い朝のことでした。
 皆兄弟らしく、手を引かれた幼い少年は、一見大人しそうで目のくりっとした、どこか女の子みたいな可愛らしい男の子。それを年の離れた兄たちがたいそう大事に可愛がっているのは傍目から見ても明らかなのですが‥‥。
「やだ〜っ、僕かえるぅ〜つまんないよぉ〜」
 長兄と思える青年の手を振り払おうとしてそう泣きわめく幼い少年に、3番目の兄がだっこをしてギルドの外へと出て行き、そこであやす声が微かに聞こえます。
「‥‥お恥ずかしいところをお見せ致しました、本日こちらに伺ったのは、他でもない、あの子達のことでなのです」
 そう言って、ギルドの人間に勧められるままに席に着くと、取り出した手拭いで額を拭いつつ話を始める青年。
「私ども、3人の兄とあの子の母親はちがいまして‥‥いえ、うちの弘満‥‥先ほど末の子をあやして出て行ったあの子が生まれて直ぐに私どもの母はなくなり、乳母として雇われた女性が後妻となり、それはもう、私どもも弘満も大変可愛がって貰ったものです」
 そう言って、どこかそれを偲ぶように目を伏せる長兄に代わり、次兄が話を続けます。
「しかし、その後妻も末の弟、幸満を産んでから、僅か2年で‥‥それ以来、多忙な父に代わり、自分たちがあの子を精一杯可愛がって、寂しい思いをさせないようにと気を配っていたのですが、それがいけなかったのかも知れません。すっかり屋敷からでないようになり、我ら兄弟のうち、誰かが居ないと泣く、拗ねる、と‥‥」
 そう言って、次兄は小さく息を付きます。
「私どが勤めに忙しいのもそうでしょうし、年がまだ近いし所為でしょう、弘などは、他の友達と遊ぶことも出来ず、また、遊びに連れて行っても末の幸満が他の友達と関わるのを怖がってしまうので、何時しか遊びに行きたいとも言い出さなくなり、屋敷でひっそりと幸のお守りをしながら勉学に励み、我らが帰ってきて幸を見る時間になったら、一人黙々と素振りをするような子になってしまって不憫でならず‥‥」
 どうやら兄弟思いの弘満少年は、可愛い弟のために、自分で我が儘を言うことなどをすっかり忘れてしまったよう、それに引き替え、末の幸満はそんな兄にべったりで、泣き虫で我が儘。
 たしなめようにも、父と母が構ってくれないなど言われてしまうと、二人の兄としてももはやそれ以上きつく言うことが出来ずに、悩んだ末にギルドへとやって来たそうです。
「数日間で良いのです、年若の冒険者達に友達になって貰うのも、大人の冒険者達に優しく厳しく接してもらうのも、あの子達には良い影響と信じております。何とか、何とかお時間を作っていただき、弟たちに屋敷の外の世界を見せて上げて貰えないでしょうか」

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0861 緋邑 嵐天丸(25歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2319 貴藤 緋狩(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3094 夜十字 信人(29歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea7675 岩峰 君影(40歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea7865 ジルベルト・ヴィンダウ(35歳・♀・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●弘満と幸満
 一行との顔合わせで弟の幸満はやっぱり泣いて兄の弘満にだっこされて宥められていました。
「ま、参ったな‥‥子供は嫌いじゃないんだが、何というか、接し方があんまり分からなくてな。一緒に住んでる九つ下の妹にも、どうやら怖がられているみたいだしね」
 困ったように泣きやまない様子の幸満に困った様子で頭を掻いているのは夜十字信人(ea3094)です。
「初めまして。私はしらかわちさと」
 白河千里(ea0012)兄弟に近付いてしゃがみ、同じ視線で幸満に声をかけると、幸満は涙と鼻水でぐじゅぐじゅになった顔を上げます。それを手拭いで拭って鼻をかませる弘満。
 お土産、と貴藤緋狩(ea2319)が幸満が好物という餡団子を出しながら声をかけると、弘満は幸満を降ろしてお茶の準備をして、皆さんもどうぞと言いながらお茶を出します。
「君らを預かる事になったわけだが。その間、これを父親あれを母親と思っていいぞ」
「ちょっと待てっ! 私は男だっ!」
 岩峰君影(ea7675)が貴藤と白河を適当に選んで指して言うと、白河が反論し、弘満と幸満はその様子に目を瞬かせて、月代憐慈(ea2630)はくすくすと笑って見ています。
「あなた達が弘満くんと幸満ちゃんね?」
 そう言って部屋に入ってくるジルベルト・ヴィンダウ(ea7865)は淡い桜色の着物に、白い前掛けという清楚な装いで二人に歩み寄るとにっこりと笑いかけてぎゅっと抱きしめます。
「弘満くん幸満ちゃん可愛いわ」
 真っ赤になって慌てる弘満と対照的に幸満はジルベルトの着物の裾を掴んで、嬉しそうににこおっと笑います。
「母親役はジルベルトさんで決まりじゃねぇ?」
 緋邑嵐天丸(ea0861)笑いながら言うのに、それまで大人しく黙っていた大宗院透(ea0050)が無言で頷いて居るのでした。

●少しずつ‥‥
 朝、目を覚まして早速ジルベルトにぎゅっとされた弘満と幸満。弘満は真っ赤になって朝食の席にやってきましたが、幸満はジルベルトにすっかり懐いて後ろをついて回っています。
 午前中はジルベルトに屋敷にあった値打ち物の絵草子を読んでもらいご満悦の幸満に、その間弘満は庭で素振りを始め、夜十字も加わる素振りに時折手を止めて真剣に見入っているようです。
 そんな弘満に声をかけるのは岩峰です。話があるというのに、幸満の様子を見て大丈夫と思ったか、弘満は部屋に向かうと岩峰と向き合います。
「お前も数年で元服だろう。このままというわけには行くまい。今のまま幸満がその時を迎えてどうなるか。分かってるだろう?」
 言われる言葉に小さく頷く弘満。
「世界の広さも理不尽さも誰かが教えてやらにゃいかん。‥‥今のお前はそれを果たせるか?」
 岩峰の言葉に俯いたまま膝でぎゅっと手を握りしめる弘満の頭に岩峰は軽く手を置くと立ち上がりました。
 その頃、庭では幸満の前で腰の物を木に立てかけて貴藤に木刀を持たせてうちかからせて居ました。
「自分が何も持って居ない時に役に立つのが真剣白刃取りだ」
 そう言って見事に貴藤の木刀を真剣白刃どりで受け止める白河ですが、気を良くして目隠しをしてやろうとして、しっかりと木刀を頭で受け止める白河。
「緋狩! 殺気を読んで止めようとしてるに何だその打ち込みは!」
 涙目でそう言う白河の教訓1は『何事も真剣に』でした。
「やーっ、僕行かない〜っ」
 外へと出かける段になり泣きながら駄々を捏ねる幸満に、月代はしゃがむと顔を覗き込みます。
「幸満君も出かけるって言ったんだよ? 幸満君は、良い子だから、お兄さんの言ってること、分かるよね?」
 ゆっくりと噛んで含ませるように幸満を諭す月代に、心配そうに弘満がそれを見ていますが、岩峰が手で制して様子を見させています。
「‥‥〜っ」
「良し、偉いぞ」
 鼻を啜り泣くのを踏みこたえてこくんと頷く幸満に、月代は微笑んでその頭を優しく撫で、目元をごしごしとしてから幸満が嬉しそうににっと笑い返すのを見て、弘満はほっとしたように息を付きますが、少し寂しそうでもありました。

●幸満連れて
 先頭を切ってずかずかと進んでいく岩峰に、それに続いて幸満を肩車している貴藤と、並んで歩くジルベルト。最後に月代が続いて歩いていきます。
 最初はおっかなびっくりだった幸満ですが、高い位置から見える人や景色にはしゃいで貴藤の頭にぎゅっと掴まり楽しそうにしています。時折兄の姿を探して泣きそうな顔をしますが、ジルベルトや月代の姿を見ると、袖で目元を擦って我慢するようになってきました。
 神社に着くとそこには既に白河が待っていました。白河はどこか楽しそうに拳にバーニングソードをかけて火を付けます。
「少し離れて‥‥でっかくなっちゃった♪」
 得意げに火を大きくしてから我に返ったかのように『同情など要らん!』と言う白河ですが、ふと思いついたように幸満に月代を指して笑いながら声をかけます。
「そこのおじちゃんは風を吹かせることが出来るのだぞ?」
「‥‥おじちゃん‥‥」
 にこやかに笑いながら呟く月代は、その手を白河に向けています。
「って、今はよせ! 火の威力がってか、危ないからっ!」
 バーニングソードは燃え移りませんが、白河の教訓2は『火遊び厳禁』でした。
 幸満を降ろし、貴藤は屋台が片付けられた中、一台だけ残っている屋台に歩み寄ると、人の良さそうな男性に話しかけます。それを見て白河が幸満を抱き上げて屋台が見えるようにします。
 前もって声をかけ、特別に屋台を出して貰ったらしく壮年の男性が手を貸しながら貴藤が林檎飴を作ると、それを幸満に渡します。嬉しそうに笑って林檎飴をなめる幸満に、神社で若い母親が赤ん坊を連れてお参りに来ていたのを貴藤が声をかけます。
 驚いた様子でしたが、赤ん坊を見せて上げたいという言葉に快く了承し、幸満はどきどきした様子で覗き込むと、そうっと伸ばした指を握る赤ん坊に、魅入られたように見つめるのでした。

●弘満と共に
 嵐天丸が焚き火を庭にしてそれを刀を抜き様に斬るのに、弘満は驚いたような、憧れの眼差しでそれを見ていました。
「魔法なんて使わないでも、戦技でこんぐらいの事は出来るようになるからな。素振りも良いが戦闘技術を持つ強い人に弟子入りでもしたらどうだ?」
 そう言う嵐天丸に、木刀に目を落として小さく頷く弘満。
「自分の強さの事にしたって、家族の事にしたって、『それにとって、本当に有益な事は何だろう。その為に今何をすれば良いんだろう。』って、その事を大切に思ってる分だけ真剣に考えてみると良いぜ。未来の事も含めてな」
「‥‥そうですね、これから考えてみます」
「あとは‥‥泳法のコツの事ぐらいだがな。この一番キツイ時期にやってこそ武芸の一つとして磨かれる。それに気力も養えるんじゃねえの?」
「その泳げないので、僕は‥‥」
 恥ずかしそうに言う弘満に口で泳ぐときのこつを教える嵐天丸。と言っても、怖がらずに水に慣れてより後は今一つぴんと来ない様子ではありましたが。
「どうですか、弟さんも他の方が面倒をみてくれていますので、外にでてみませんか‥‥私も一緒について行きますので」
「で、でも‥‥」
 そう誘う透に弘満は断ろうとしますが行ってこいとばかりに背を押す嵐天丸に透が手を取って外へと向かいます。
 二人は街中をぶらぶらと歩いて、茶店を覗いたりしていました。
「ここの団子は美味しいそうです‥‥”団子”は”談合”時にだすものですけど‥‥」
 団子を買いながらそう言う透に弘満は驚いたように目を瞬かせますが、直ぐに小さく笑います。
「なんだかそう言うことを言う印象じゃなかった物で‥‥済みません」
 そう言いながら河原で並んで団子を食べる二人。
「私にも異母の妹がいますが、私よりも立派な信念のもとに冒険者をしています‥‥本当に必要なときに兄として助けてあげればいいのだと思います‥‥」
 目を落として食べ終わった団子の串を弄りながら小さく頷く弘満。そんな弘満を見て透が少し恥ずかしげに目を落として口を開きます。
「‥‥折角、知り合いになったのですから、友達になってくれませんか‥‥私もこんな性格なので友達がほとんどいませんので‥‥」
 言われた言葉に驚いたように透を見ると、直ぐに嬉しそうに笑って頷く弘満。
「私の方こそ‥‥友達になってくれたら嬉しいです」
 そう答える弘満に実は自分は男だと明かす弘満ですが、驚きながらも感心するのでした。

●お兄ちゃんから離れろ!
 夜十字が作った鍋を突きながらすっかり一行に懐いた幸満と透や嵐天丸と一緒に普通の子供のように楽しげに話す弘満。
 一行が帰る日までそんな毎日が続き、別れる段位なって、小さくしゃくり上げながらも何とか笑顔で一行と別れる幸満は、それでも兄にだっこされたり隠れることも無く、姿が見えなくなるまで見送っていました。
 その夜‥‥。
 姿を変えて顔を隠した岩峰の姿が屋敷にありました。庭に忍び込み、わざと弘満の部屋の外で音を立てて誘い出す岩峰。直ぐに木刀を持って慌てたように出て来る弘満は、家に後は弟しか居ないためか震える手で木刀を構えます。
 岩峰は重傷に行かない程度に押さえつつ叩き伏せると、物音に起き出して兄を探しに来た幸満がそれ気が付いてびくっと後退りします。
「何だ餓鬼の多い家だな。泣くのか? 逃げるのか? お前の為に戦った兄貴を見捨ててか? まあいい、こいつを始末した後で追いかけてやるよ」
 そう言って弘満を踏みつけるのを見た幸満が無我夢中で岩峰の足にしがみついて噛みつくのに、身体を引くと、岩峰はわざとらしく顔の覆いを外して立ち去ろうとします。
「くそっ、顔を見られては力が出ない。覚えてやがれ!」
 その姿に幸満は気が付きませんが、弘満は気が付いたのか、よろよろと立ち上がると『ありがとう』と弟をぎゅうっと抱きしめるのでした。