抜き師の気鬱
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月07日〜12月14日
リプレイ公開日:2004年12月15日
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●オープニング
「大きな声じゃ言えない依頼だが‥‥手ぇ貸して欲しい」
一見優男といえる若い男がギルドに足を踏み入れたのは、ある昼下がりのことでした。
「俺は‥‥人にゃいえねぇような生業をしている。と言っても、足を洗ったはずだった。ただ、ちと知人と酒の上で賭をしちまってな、そいつがいけなかった」
男は落ちつかなげに辺りを見渡します。
「大きな声じゃいえねぇが、育ててくれたおやっさんの影響で、俺は抜き師として食ってきていた。抜き師なんて言い方じゃあれか‥‥有り体に言えばスリだ」
声を落として男は言うと、肩を竦めます。
「3年前に足を洗って、今じゃ堅気んなって、茶を商っている。昔の仲間も、馬鹿をやらずに真面目に地に足つけて働こうっつって、皆で決めて店を構えて、俺ももうすっかりその世界から足を洗っていたんだが‥‥久々に皆でがんがん酒を飲んだとき、誰かがぽろっと言ったんだな。『もうおめぇの腕も落ちたろ』って」
そう言うと、男はなにやら高価そうな財布を取り出して席に置きゆっくりとそれを開いていきます。
「酒の上で乗せられてやっちまったのは悪いと思っている。相手に気がつかれないうちに抜き出して、中に安いお守りでも忍ばせて、気がつかれねぇうちに返して、あとで仲間に自慢してやろうなんて考えていたんだが、これを見て、そうも行かなくなっちまってな」
そう言うと、その財布の中から出てきたのは、何枚かの商家・武家の女性達の借金の証文でした。
どうやら聞いたところによると、とある神社の参拝道で、ふくよかな商人を狙ってちょいと悪戯をしかけたのだそうです。そこで財布を抜いて、中にお守りを忍ばせようとして、この証文に気がついたそうです。
そのうちの一枚を抜き出して見せながら少し興奮したように言い募ります。
「こいつが可笑しい、確かに良く出来ちゃ居るんだが、ぜってぇこの女はこんな借金背負っちゃいねぇのさ。第一字が違わぁ」
どこか苛ついたように言うと、ふと我に返ったのか照れたのかぶっきらぼうに口を開きます。
「何で分かるかって? 惚れた女の字ぐらい見ただけで分からぁな、当然。それに足ぃ洗ったたぁ言え、目端が利かなきゃ抜き師でなんてできねえ」
そう言うと、少し困ったように溜息をつきます。
「腕っ節が強いわけじゃねぇ。手先が器用でも忍び込んでどうこうは出来ねぇ。こいつん持ち主のこと調べて、後ろ暗かねぇか調べて欲しい。もしこれが全部偽造だったとしても、出るトコ出れば、認められかねねぇぐらい良くできてる。引き立てられて下手すりゃ身売りさせられかねねぇ」
そう言うと男は頭を下げて言いました。
「抜いたってことおおっぴらに言って俺が掴まろうが何しようが覚悟は出来てる。ただ、証拠を押さえることが出来ねえと、このまんまじゃ証文にある娘達は身に覚えのねぇ借金で一生台無しにされちまう。調べて、そいつらのやってることを潰さねえと気がすまねぇ。何かあったときは全部俺が被る。だから頼むっ、俺に手ぇ貸してくれっ!」
●リプレイ本文
●傾向と対策
「愛の為に己が身を投げ出すか、若いな。だが、それがいい‥‥」
フッと笑いながら口を開くのはマケドニア・マクスウェル(ea1317)、通称マケマケ君だという、童顔のシフール59歳。
「ならばその愛の為に戦おう。我等ラヴウォーリァーズ!! ‥‥ユニット名も決まったところで、先ず証文に名のある女性達に会いに行こう。そう、愛の為に!」
そんなマケドニアにちらりとクールな視線を送ると、白鳥氷華(ea0257)は少し考える様子を見せてから顔を上げて口を開きます。
「間違っても投書の類を投げ込まぬように‥‥依頼人殿もな。良い手でもこういうふてぶてしい奴に脅しや改心を訴える投書は効かないどころか逆効果だからな」
「わかった、俺はあんたらの指示に従う」
氷華は過去にギルドで扱った依頼で、依頼人を結果的に死なせてしまった報告書を確認したのでしょう。それを聞いて頷く依頼人。
「しっかし、ホントに見事に女ばっかだな。金貸しのヤツ、悪党過ぎ。ムカつく」
改めて証文を確かめながら、里見夏沙(ea2700)は忌々しそうに呟きます。依頼人と取引のある商家やお得意様の武家など、確かめてみただけでもその殆どが年頃の娘で、中には小町娘として評判の娘まで混じっています。
「この娘達に実際に名を書いて貰い、それを比べて‥‥」
「紅葉はこの娘さん達の近辺での噂を聞いてから伺いとうございます。実際に借りたのなら、何かしら噂が立つのではないかと思いますゆえ」
里見の言葉に火乃瀬紅葉(ea8917)がそう言うと、リィ・フェイラン(ea9093)が一枚の証文を見ながら、ふと気が付いたように口を開きます。
「武家や商家の娘ともなれば、読み書きの手解きは受けているのだろう。証文はその字を巧妙に真似しているため、本物と判断されるのかもしれない。‥‥だが、個人を証明するための『印』はどうだろう? これを巧妙に真似ることは難しいと思うが」
一般的に大名ならば花押、商家などなら墨、武家ならば墨汁か朱肉で判が証明書には押してあります。それをフェイランは指で指しながらいうと里見は頷きます。
「この財布の持ち主、確かにその高利貸しなのですね」
レディス・フォレストロード(ea5794)がそう聞くのに依頼人が頷くと、零式改(ea8619)がにやりと笑って口を開きます。
「拙者はレディス殿と共にその金貸しの屋敷へと忍び込んで、悪事の証拠を掴むでござる」
「では‥‥俺はそちらに押し入るときまで大人しく身を潜めていよう。俺が尾行や情報収集するのでは、目立ちすぎるからな」
デュランダル・アウローラ(ea8820)が言う言葉に頷くと、一行は立ち上がり、それぞれが出かけていくのでした。
●情報収集
「大店の娘さんでしっかりしたお嬢さんだから、お金に困るとかがあるはず無いよぉ。しかもお店に問題が起きたって言う話も聞かないし‥‥」
「そうですか‥‥」
色々とあちこちの娘さんのことを話してくれる茶屋のおかみさんですが、全く借金をするような話は全くと言っていいほど出てきません。
「やはり全くと言って怪しい噂はないように思いまする」
そう言う紅葉に頷くと、里見とマケドニアは紅葉と共に財布の中にあった家々を回ります。
「事件に巻き込まれている恐れがあり、それから身を守る為の手段である事に間違いないです。大丈夫、真っ当に生きてる人間に禍なんて起きる事はないから‥‥」
そう里見が言う言葉に、頬に手を当てながらその娘は驚いたように迎え入れるとお茶を出して話を聞きます。
「わたくしの名前と印をですか? 宜しいですよ。伊介さん、お元気でらっしゃいますか?」
そう依頼人の事を聞きながら判を用意するこの娘は菓子屋の娘お節です。のんびりとした様子で木簡にすらすらと柔らかな字を書いて判を押すお節。
里見が武神祭の時の傷跡などを見せながら冗談交じりに話すのに、突然知人の紹介で冒険者がやってきたという事柄に緊張していた様子のお節は直ぐに穏やかな様子で色々と話してくれ、やはり金策に困った様子は微塵もありません。
「この事は紅葉達が必ず解決いたしますゆえ、他言無用に願いまする。今はただ、紅葉達を信じてくださいませ」
「分かりましたわ。伊介さんに宜しくお伝え下さいましね」
そう言って3人を送り出すお節。3人は依頼人が惚れた女と言って見せた証文にはお節の名と判が押されているのを思い出します。
マケドニアと紅葉に依頼人の元へで待って貰っている間に、里見は先に江戸内にいる代書人を捜している氷華と一時的に落ち合います。
「今のところそれらしいのは一人ぐらいしか見あたらないのだが‥‥この、元吉という代書人は、ここ暫く閉じ籠もって出て来ないらしく‥‥」
氷華が里見に紹介された代書人仲間から聞いて回ったところ、元吉は真面目な代書人だったのだが、ここのところ賭場に出入りしていたらしいとか、出入りしていたのではなく連れ込まれていた、とか色々な話が出てきています。
その賭場に件の金貸しの家人が出入りしているだのという話もあり、時期を考えてみてもとても無関係とは言えないそうです。
氷華はちょうどこれからその元吉に会いに行くところだったらしく、里見と共に乗り込んでいくと、元吉は酷く怯えた様子で二人を出迎えます。
「か、勘弁して下さい、私殺されちゃいますっ」
元吉は気の弱い男らしく腕は良いのに払いを貰えなかったりなどのある、少々不運な男とのことで、余程怖い思いをしたのか酷く脅しつけられたか、びくびくしながら泣きそうな顔をして壁にへばりつく元吉。
「俺と同じ職業で悪事に加担してんじゃねーっつの。大丈夫だよ、此方の味方についたら罪を軽くしてもらえる様口添えしてやるから」
里見の言葉に、びくびくしながらも、無理矢理押しつけられた為か、証言を約束する元吉を、元吉が怯えるので彼を連れてその長屋を後にするのでした。
●潜入
零式とレディスがその屋敷へと忍び込んだのは、高利貸しが仕事で店に出ている時間帯を狙っての時間帯でした。
店の方ではリィが借金を返しに来た、と言って店主を引き留めていました。
塀を飛んで乗り越えるレディスにそれを乗り越えて中へと入り込み、見事に気配を消して建物に近付いた2人は、程なくして一般の証文などを収めてある部屋へと辿り着きました。
『ここは田積屋か? 父から聞いたのは積田屋なのだが』
『いえいえ、積田屋などと言ったお店、ございませんよ』
表から聞こえるそんな会話を聞きながら、暫くごそごそと調べて時折零式にそのものの重要度を確認して貰うレディス。
「忍び込み、息を潜め、物色するという行為は‥‥なんとも楽しいですね♪」
「このような輩、さっさと暗殺してしまえば楽なのでござるが‥‥おっとっと、今のは冗談でござる。拙者は善良な一般庶民でござるよ」
楽しそうなレディスの横で小さく呟く零式ですが、ふとレディスに見られてあからさまに嘘と分かる誤魔化し方をしつつ作業を続けます。
しかし不法に近い証文も有るのですがそれらしい物は見あたらず、零式は先にレディスを戻すと、物色した部屋をそのままに天井裏に潜んで様子を窺っています。
程なくした戻った金貸しは直ぐに物色された後を見て家人を呼び、その間に畳を起こしてその隙間に隠してあった数枚の証文を確認してからほっとしたように息を付きます。
「これ以上なんやかやと問題が起きたら面倒だ‥‥数日中に取り立てるためにも人を集めておけ」
そう言う金貸しの言葉に頷いて立ち去る家人。金貸しも去るのを待ってから、それを持ち帰り戻るのでした。
●捕り物
その日、金貸しの店の客がはけた夕刻を見計らって、レディスを除いた一行は店へとやって来ました。
「何奴っ」
見張りにリィが立ち、黒ずくめ・深くフードを降ろしたデュランダルが先頭を切って中へと乗り込むと、数人の連れてこられたばかりという様子の用心棒が刀を抜きつつそう言いますが、答える暇も与えずに斬りかかります。
眉を軽く潜めたデュランダルはそれを簡単に受けると逆に殺さない程度に切り伏せ、戸口から奥に逃げ込もうとした金貸しへと歩み寄ろうとします。
それに立ちふさがる用心棒や浪人達ですが、あからさまな技量の違いで倒されるところを氷華や里見に取り押さえられています。
金貸しが逃げ込んだ部屋は、例の証文を置いてある部屋でした。
マケドニアは唱えようとしていたトルネードをやめ直ぐに追いついたデュランダルに任せることにします。
「‥‥悪行を働きたくば、好きなだけするがいい。ただし、この次会う時は、その五体、ことごとく肉片と化すことを覚悟しておけ」
フードもおろし、既に用心棒達の血で青かった瞳を赤く染め上げながら睨み付けるデュランダルにがたがたと震えて目を見開き見返す金貸し。
レディスが呼んだ役人が見えて、リィの笛が辺りに響くのと金貸しのその様子に落ち着きを取り戻したか、踵を返すデュランダルとそれについて部屋を出て行くマケドニア。
氷華は今までに集めた証拠と、代筆したと証言すると元吉が約束した事を記す木簡を縛り付けた用心棒に添えると、仲間と共に屋敷を後にするのでした。
●ありがとう‥‥
お節とマケドニアが何やら話しているのをよそに、一行は依頼人に感謝されて依頼料を受け取り立ち去るところでした。
偽の証文事件は大きな話題を呼んでいて、暫くはお節や他の娘達の所に役人が話を聞きに来たりということが続きそうだと依頼人は教えてくれます。
別れ際、紅葉が微笑みながら口を開きます。
「想いは伝わると、紅葉は信じておりまする‥‥ほら」
言われた方を見ると、お節が慌てたように依頼人の方へとやってくるのが見えます。
依頼人は顔を戻すと、既に仲間の元へと歩き出している紅葉に気が付き、一行へと深々と頭を下げるのでした。