刀の行方
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月13日〜12月18日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
巷では、あちらこちらで高価な刀が盗まれ、それが裏で売りさばかれているなどという事件が、忙しい年の瀬にちらほらと聞かれるようになった、めっきり冷え込んできたある日の事でした。
「わたくし、大切な家宝の刀を盗まれ、その時一緒に盗まれた他の刀を売りさばいた男を、何とか突き止めたのですが‥‥」
そう言って困ったように俯くのは、すらりとして大変に凛々しい若侍。
若侍がそこで言葉に詰まらせたのには訳がありました。何とそれを売りさばいたというのが、近頃密かに名の知れていた薬師なので、知人に言っても信じて貰えないのだとか。
その薬師、実際に怪しいところがあるとかで、確かに非常に儲かっていそうではあるのですが、それでも新築の家をほいほいと買えるほどではないらしく、元々薬師をやる前は、偉い放蕩三昧の薬屋のどら息子だったとか。
「元々、家宝の刀は長兄が管理しておりましたのに、何時の間にやらわたくしの失態と言うことになり、取り返してくるまで帰ってくるなと‥‥」
そう言って肩を落としていた若侍は顔を上げてギルドの人間の胸ぐらをつかんで揺すぶります。
「あんまりじゃあありませんかっ!? だって、わたくしはそもそもその刀がどの倉の、どの辺りにあるかなんて全く知らなかったのですからっ! 長兄がそれでわたくしに責任を押しつけた後、次兄は『運がなかったと思って、死ぬ気で見つけてこい』とお金の入った財布を一つ放って寄越して、兄や両親を止めも取りなしもせず‥‥」
くうっ、っとやはりギルドの人間の胸ぐらをぎっちりと掴んだまま、若侍は項垂れて唇を噛んで偉く悔しがっています。
「わたくし、あの刀を取り返すまで帰れませんし、何よりこのまま黙って引き下がれませんっ。あの薬師が家宝の刀を盗み出した、確たる証を手に入れてお役人に突き出さねば、腹の虫が治まりませんっ! どなたか、どなたか手助けして下さる人を‥‥‥」
そこまで言って、ギルドの人間を捕まえたまま泣き崩れる若侍。よっぽど悔しかったのでしょう、涙ながらに頼む様子に、息苦しくとも振り払えないギルドの人間は、救いを求めるように辺りに救いを求める視線を送るのでした‥‥。
●リプレイ本文
●情報を集めに
「遊ぶお金欲しさに人様の物を盗むなんて許せません! 神皇様に代わってお仕置きよ!!」
「武士の魂である刀を盗むとはなんという下郎なのでしょうか。そのような輩は懲らしめなくてはなりません」
依頼人から話を聞いてそう息巻くのは楠木麻(ea8087)、その横で落ち着いたながらも同意するように言う本多風露(ea8650)。
「刀がどこにあったのか詳しく話せ。あとは何時気が付いたのかもだ」
「気が付いたのはギルドへと尋ねていった日の前の晩です。その一週間ほど前に家の庭にあった倉の中で刀を検めたそうなので‥‥」
氷雨雹刃(ea7901)の言葉に若侍はそう答えると再び氷雨は口を開きます。
「支障がないようならば届け出たらどうだ?」
「お兄さん、お役所に届けは? ‥‥名誉とかで駄目なら盗品の隠し場所を調べてその刀だけは、お役所に出す前に見つけないといけないけど」
「名を出してもわたくしの責任になるでしょうし、直ぐに届け出をしてきます」
氷雨の言葉に草薙北斗(ea5414)がそう口を挟み、若侍は頷いて立ち上がります。
「お兄さんも大変な兄様達をお持ちだね〜。僕は兄弟居ないけど♪」
見送る北斗の言葉に力なく笑って部屋を出て行く若侍を見送って、改めて狙われそうな屋敷を確認する一行。
「拙者がギルドや付近の酒場で聞いてきたところに寄ると、被害の殆どが武家で、役所で聞いても届け出などはごく一部の者しか出していないらしいでござるよ」
「今まで被害にあったと漏れ聞くところでは、大抵が倉にあった刀が盗まれていたようだな。刀が有る家と面目を保つために口を噤む辺りから考えて、武家の家が殆どというのも頷ける」
水城紅牙(ea6026)が調べてきたことを告げると桐沢相馬(ea5171)が考える様子を見せながらそう言いい、幾つか条件が当てはまりそうな家や事件が起きている地域を確認してから頷いて言葉を続けます。
「それらの家の警邏をし、役所などに話を通しておこう」
「薬師が往診などで訪問する先の狙われそうな家に手紙を書いて届けた方が良いですね」
風露がそう続くのに氷雨が頷き、トマス・ウェスト(ea8714)が、中々な刀のコレクションを持つ麻へと顔を向けて奇妙な笑い声を上げて言いました。
「けひゃひゃひゃひゃ。我が輩の差してるカタナに興味を惹かれるようだったら、君の長屋を紹介するつもりだよ〜」
●良い鴨?
風露は酒場でくだを巻いている様子の浪人達に近付いてお金を握らせ話を聞きますと、大抵が屋敷内で少しでも怪しい素振りを見せたと言われ首になったという話しをします。
「柄の悪い奴らが裏から出入りしててそれを止めただけで首になったり、金は貰えない、口入れ屋には嘘を並べ立てて仕事を干されるわ、やってられねぇ」
くだをまく浪人達は、風露から貰った金でさらに酒を追加して飲むのでした。
「最近の用心棒は荷物持ちを嫌がる。浪人のくせに武士に持たせるのかだと面倒でねぇ。しかし、異国の用心棒は始めて雇ったよ」
李雷龍(ea2756)に往診用の道具の包みを持たせながら、耳障りな擦れ声で笑うのは件の薬師です。雷龍は先に薬師の所に雇われて潜り込むと、丁寧に対応しているのに気に入られたようで、移動中に荷物を持たせて連れて歩いかれているところでした。
「雇って信用できるか見ると、それはもう呆れるぐらい口が堅い連中で」
「そうなのですか‥‥」
暗に口が軽くてと言う言葉を皮肉下にそう言い、相づちを打つ雷龍を伴って自身の屋敷兼診療所へと戻ってきた薬師は、そこで奇妙な来客に首を傾げました。
「我が輩、最近開業したのだが、エゲレスの薬も切れそうなのだ〜。今のうちに懇意にしてもらおうと思ってな〜。けひゃひゃ」
「ほうほうそれは‥‥良い薬問屋を教えようではないか」
奇妙な笑い声を上げるトマスに微妙に身体ごと引いている薬師ですが早速と実家の薬問屋の名を挙げて勧めようとします。と、ふと気が付いた様子でトマスが差している霞刀を見て苦笑します。
「異人の薬師、そんな差し方をしてるといざというとき使えないだろう」
「お、こう差すのか〜? これは福袋で当てたものだがね〜。そういえば先日診療した女性に、長屋まで呼ばれたのだが、この刀に勝るとも劣らない物を所持していたようだね〜」
「診察? その娘さんはどこか悪いのかね?」
「包帯の交換もしなければならんし、ジャパ〜ンの傷薬も試してみたいから、どうせなら一緒に行かんかね〜」
「なるほど、良し、行くぞ」
雷龍へと目を向けてそう言って立ち上がる薬師を連れて、トマスは麻の住む長屋へと向かいました。
「このあいだの冒険で腰を痛めてね・‥‥まぁ、そのおかげでお金も貯まったし新しい刀も手に入りましたけどね。うっ! 痛たたた!」
そう言って腰をさすりながら身体を起こす麻。麻の言葉にちらりと薬師がトマスへと目を向けます。
「腰を痛めて傷薬、異国では変わった治療をする」
そう言いつつも薬草を用意して目の前で薬を作ると、それを布に塗って患部へ当てるようにと薬師。途中後架をお借りする、と言って立つことはありましたが、長屋の為かあちこち見て歩くことはせず、きょろきょろと辺りを見回してから戻ってきた様子です。
「トマスさんに言われて気づきました。ボクの屋敷の周りは空家だったのですね。夜道が怖いです」
そう言って麻が苦笑しているところに薬師は戻ってきて、用法を説明してから席を立つのでした。
●刀の在処
桐沢が武家屋敷付近を巡回していると、町人が辺りを窺っている姿が見えます。始めは訝しがっていた桐沢ですが、町人の一人が奉行所の人間と話していることで得心が行きます。
若侍が届け出たこと、そして桐沢自身が話しをしに行ったとき、検討するといった結果であることが分かったからです。
先ほども手紙を受け取った屋敷で警備を強化しているのを見ていたので武家屋敷の近隣では仕事をしにくくなったのがよく分かります。
雷龍が薬師の屋敷を自由に歩き回れるようになるのにかかったのは3日ほどでした。
「こちらの部屋には薬が置いてあるのですね」
「高価な物ばかりがしまってあるんだよぅ」
意味ありげににやりと笑う薬師に、屋敷の者が声をかけて呼び戻します。
雷龍が部屋の中に入って少し調べると、微かにへこむ畳があり、その畳を動かした跡もあります。
人気がないのを確認し確認する雷龍。畳の下には板が引いてありますが、その板を軽くずらすと、そこに下に降りる梯子がかけてあるのでした。
薬師が向かったのは離れでした。離れには3人ほど浪人者が集まっていました。薬師が入ってくると、武家屋敷の警戒が厳しくなったという話と冒険者長屋にいる麻に刀を売りつけるべきか刀を拝借するべきかという相談を始めます。
その会話を聞いているのは天井裏に潜んで覗き見している北斗と離れの壁に張り付いて盗み聞きしている氷雨です。
「下手に売りつけ盗品とばれた方が面倒だ」
浪人の言葉に薬師は頷くと、麻の長屋内の様子を話し夜に向けて準備をさせて、自身は忍び込んだときのための睡眠香を調合しに戻るのでした。
●捕り物
水城から連絡を受けた桐沢は若侍と共に麻の長屋側に潜んでいました。
「惰弱な、起きたことをグダグダと。貴様の両目は明日を見据えるためにあるのではないか?!」
「‥‥それはそうですけど‥‥」
溜息をつく若侍に」桐沢が活を入れます。
どこかに働きに出れば武士の子がと言われ、稼いだお金は長兄に没収されて独り立ちできず、次兄は若侍が我慢するのを良いことに我が儘放題。ただ、金に汚いのはないので親が出す金などをちょろまかしたりせずに若侍に渡すような、兄弟関係がとにかく悪い漏らして、冒険者について興味を持ったのか桐沢に話を聞こうとしています。
微かな音と共に4人の男達が忍んでやってくるのに、桐沢が制して話しを止めると、男達が長屋へと忍び込んでいくのを確認して入口の所を押さえに出ました。
他の仲間は裏口を押さえていて、長屋の中で刀の側麻が座って待っていました。
「武士道とは己の信念に従い間違いを正すもの!」
麻は扇を取り出した薬師にストーンをかけます。
「石になって反省してなさい!」
それを見て咄嗟に浪人が裏口と表にばらけて逃げようとしました。
「夢想流小太刀二刀、本多風露‥‥参ります」
風露を押しのけようとした浪人の一人を小太刀を構えて切り伏せると、浪人は呻き声を上げながら脇へと転がります。
「逃がさん」
その言葉と共に何とか長屋の裏まで逃げた浪人の目の前に、突如氷雨が降り立つとスタンアタックを叩き込みます。
「殺されないだけマシと思え。屑が‥‥」
倒れ込む男を縄で捕縛しながら氷雨は長屋の方へと目を向けました。
風露の脇を逃れてきた浪人の上に降ってきた北斗が爆発することにより、倒れ込んで目を回す浪人。庭で控えていた雷龍がその男を引き立てて捕まえていました。
長屋の表では桐沢が立ちはだかっています。
睨み合う浪人と桐沢。
先に耐えられなくなった浪人の刀を受け流すと、桐沢はダブルアタックを叩き込み、男は昏倒するのでした。
●のんびりお茶を
一行は麻の長屋でのんびりと依頼人が持ってきた茶や酒、それに菓子やつまみを食べながら事の顛末を聞きます。
「手柄は兄の物になってしまいましたが、皆さんのおかげで薬師を懲らしめることが出来ました」
「それで喜々とする兄達なら見限って一人立ちすればいい、お前には既に鋼の心があるはずだ」
桐沢の言葉に笑いながら頷く若侍。
役所に薬師を引き渡し捜査されたところ、床下から刀が隠されていた地下があり、無事に家宝の刀も帰ってきて、売り捌かれなかった刀は持ち主の元へと帰っていったようです。
「刀も戻って一件落着〜てね♪」
北斗の言葉に風露は頷くと、のんびりとお茶を飲むのでした。