お歳暮を届けに

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月15日〜12月20日

リプレイ公開日:2004年12月26日

●オープニング

「そのその、お歳暮のお届けを手伝って下さいっ!」
 そう言ってぺこりと頭を下げる娘さん。言っている内容は内容ですが、必死な様子にギルドの人間は目を瞬かせて訳を尋ねます。
「実は‥‥昨年は父を亡くしたのでお歳暮をお届けなどしなかったのですが‥‥今年から、父の代からお世話になっている方々にお歳暮を持って行かなければならないのです。それは良いのですが‥‥」
 そう言って困ったように笑う娘さん。あはははは、などと笑って誤魔化していましたが、小さく溜息をついて口を開きました。
「その‥‥父のお世話になった方とかって、強面の方が多いんですよ〜。なので、あと3軒残っていまして‥‥」
 そう言って顔を赤らめて頬をかく娘さんに、ギルドの人間も思わず小さく笑います。
「と言うことでです、もし宜しければ、わいわい一緒にお歳暮を届けに行って下さらないでしょうか?」
 そう言うと、娘さんは『どうでしょう?』などと言いながら首を傾げるのでした。

●今回の参加者

 ea0517 壬生 桜耶(34歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0555 大空 昴(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2175 リーゼ・ヴォルケイトス(38歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6982 レーラ・ガブリエーレ(25歳・♂・神聖騎士・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●お歳暮を届けに
「娘さんも強面の人たちじゃあ、やっぱり多少は近寄りがたいかな」
 そう言って少し考える様子を見せて言うのはリーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)です。先ほど武装していくのは非常に失礼とのことで、娘さんに頼んで青の着物を借りて身につけています。それでも、習性から刀はどうしても手放せないようでしたが。
 リーゼが向ける視線の先には娘さんが居ます。
「ふむふむ、行く家行く家、親父さんの顔がおっかなくて正視できないんですね」
「そ、その、おっかないはおっかないですが、正視できなくは‥‥」
 娘さんと微妙にちぐはぐな会話を繰り広げているのは大空昴(ea0555)。
「そういう事なら私に任せてください! 恐い顔と話をさせたら江戸一と呼ばれた、この私の腕の見せ所です!」
 えっへんと胸を張ってそう言う昴に『そうなのですか!?』と真に受けて驚く娘さん。
 同じ年頃か、ほんの少しだけ年上の昴とは端から見ていると仲の良い友達同士とも取れる様子で、冒険者に依頼を頼んだ事に少し緊張していた娘さんですが、少し話しただけでその緊張もほぐれたようです。
「初めてのお使い〜!! ってことで、娘さん。よろしくじゃん♪」
 そう元気良く言いながら、とりあえずは礼儀正しく頭を下げるのはレーラ・ガブリエーレ(ea6982)。
「んむー、全部ついて言っても良さそうなら、ついてまわるじゃん! まだまだジャパンに来て日が浅いから、いろいろ勉強したいじゃん♪」
「まぁ、人数的にこれぐらいでしたら皆で回っても問題ないでしょう」
 レーラの言葉に壬生桜耶(ea0517)がそう言うとリーゼもそうだな、と頷き渡すお歳暮の品と場所を確認して、一行は出かけるのでした。
 最初の酒場に向かう途中、お歳暮をしきりに持たせろと言ってご満悦で受け取ると言われた酒場の方向へ歩き出すレーラ。その直ぐ後ろには安全を確認しつつ進むリーゼ。
「‥‥こういう時、兄さんの特技が恨めしい‥‥」
 そんなことを言いつつナンパが特技である兄を思い浮かべて時折小さく溜息をつきつつも、何とか娘さんの緊張をほぐそうと話しかける桜耶に、その桜耶と共に娘さんに話しかけてはにこにこと笑う昴。
 そんな長閑な一行ですが、突如、ガッ、と言う短い音と共に一瞬レーラの身体が前のめりに飛びます。
「あっ、危ないっ!」
 桜耶が気が付き、その声でレーラの直ぐ後ろで町の様子を見つつ歩いていたリーゼも気が付いたのか手を伸ばしてしっかりと地面に落ちる前に受け止めます‥‥お歳暮を。
 ずしゃあっ! と派手な音を立てて滑り込むレーラに、娘さんが慌てたように近付いて覗き込みます。
「だ、大丈夫ですか!? 今良い音がしましたけど!」
「い、痛いじゃ〜んっ!」
 涙目で擦り剥いた自分にリカバーをかけながら言うレーラに、お歳暮をしっかりと受け止めたリーゼも近付きますが、溜息をつきながらレーラを見るその目にはありありと、少し落ち着きなさいと物語っていました。

●酒場の亭主
 酒場、と言っても昼間はお総菜を商っているからでしょうか、その時間からも店は開いていました。時刻はお昼には少し早い時間で、混み合い始めるより少し早くに着いたのは幸運だったかも知れません。
「まずは一軒目で小手調べです。こういう物は気合です、気合で負けたら終わりです!」
「き、気合いですね!」
 昴の言葉に緊張したようにぐっと顔を引き締める娘さんですが、ふと、何かに気が付いたような昴の様子に首を傾げます。
「ところで娘さん‥‥あの、お名前は?
「あ、あの、私、ゆき乃と‥‥」
「まぁ千代でもなんでも良いです。さぁ千代さん、ご一緒に! たのもぉー!!」
「‥‥‥‥千代で結構です」
 心なしか娘さんは寂しそうにさめざめと泣いては居ましたが、昴は気にせずに元気良く店へと入っていきました。
「おう、ゆき乃ちゃん、去年の暮れに主人さんが亡くなって以来だったねぇ」
 いくらでも人を斬っていそうな程に鋭い眼光、そう形容するより他はない厳つい、角張った顔をした初老の、店の主人が出迎えますが、ゆき乃改め千代が入ってきたのに気が付くと、その目をまるで糸のように細め、目の回りに皺を一杯作って笑います。
「‥‥‥じゅるり‥‥がはっ!」
 手近なお客が食べている蕎麦切りが余程美味しそうに見えたのでしょう、思わず目で羨ましげに見たレーラですが、次の瞬間、それまで冷静な様子で酒場の主人を見ていたリーゼが表情を変えずに主人を見つつ、首筋に手刀を叩き込んで黙らせます。
「礼儀を知らない者でして、大変申し訳ない。‥‥ああこの者については、御気になさらず」
「ほう、そこの異国の方はなかなかやるねぇ。まぁ、ゆき乃ちゃんと一緒に来た人なら歓迎しよう、うちで一番人気の蕎麦でもご馳走するよ、もうお昼だしねぇ」
 そう言って奥へと引っ込んでから、暫くして蕎麦を人数分用意して出す主人。それを待って居ながらお茶を啜っていた昴は、これを好機と見るや、蕎麦を置いて他愛のない話しをゆき乃さんにしていた主人へと話しに混じってから『そう言えばお歳暮の季節ですねぇ‥‥』と言い、主人が頷いた尾を見て、お千代さんがそれまで抱えていたお歳暮に手を添えてずずいっと主人へと渡すのでした。

●町道場の師範
「第一の試練は完了しました‥‥次に向かうのは道場でしたね!」
 張り切った様子の昴に頷く娘さん。一行の歩く速度は、美味しい蕎麦をご馳走になり、お腹がくちくなったこともあり、少し腹ごなしにゆっくりと向かっていました。
 見えてきた道場に近付きながら見えてきた道場が立派な構えで活気もある様子なのに感心するリーゼと、手刀を叩き込まれて少しの間ちんまりしつつお歳暮を抱えて歩いていたレーラに、賑やかな娘さん2人。最後を歩く壬生は、半ば保護者でもあるかのように生暖かい笑顔を浮かべて一行の後をついて歩いてきています。
「ほう、活気のある道場‥‥ますます興味が沸いたわ」
 道場の前まで来るとそう満足げに言うリーゼの横では、何やらぐっと握り拳を作って眉を寄せる昴の姿が。
「‥‥これは手強そうですねぇ‥‥でも、基本は先ほどと同じですっ! さぁ、ご一緒に、たのもぉー!」
「たっ‥‥たのもぉ‥‥」
 弱々しくですが昴に続いて言う娘さん。一方道場では『頼もう』と乗り込んできた人間を門弟の一人が出てきて一行を見ると、何やら不思議な集団にどこかと間違ったんじゃないかと言おうとしますが、直ぐに出てきた四十絡みの、大柄できつい顔つきの男性が出て来ると、用件を聞こう、と話しかけてきます。
「ここは成り行きでなのですが‥‥勝負を申し込みますっ!」
「ふむ、何故成り行きで勝負かは知らんが、私がお相手いたそう」
「と言う訳でいざ尋常に千代さん、行って下さい!」
「え‥‥えええっ! わ、私がですかっ!?」
 びしいっと決めつつ千代さんを前面に押し出す昴に慌てる千代さん。直ぐに千代に気が付いた師範が驚いたような、嬉しそうな表情を浮かべて道場から出てきて千代さんの手を取ってぶんぶんと握手をします。
「いや、ゆきちゃん久しいな。お父上の葬儀以来だ。そして、お父上に似ずに何より」
 そう満足げに言う師範におずおずとお歳暮を届きに来たと告げるゆき乃。喜びながら一行を迎え入れる師範にご教授願うというリーゼ。
 門下生では相手にならぬとのことで、暫し師範に直接稽古を付けて貰い、白熱するリーゼが居る脇では、レーラが練習用の木刀が重くて持ち上がらないことにしょんぼりとしていました。
 この後、道場でたっぷりと稽古をしたリーゼと、早くもへたばったレーラは茶菓子に満足、昴やゆき乃さんが門弟達と色々と話している横では、一人桜耶が時間を気にして時折外を見ているのでした。

●与力の小父様のご馳走
「ついに最後の試練です! ここでもまずは気合です! たのもぉー!」
 元気良く昴が役宅の門で声を上げる頃には、辺りは既にとっぷり暮れていて息も白くなりつつあります。
 門番が娘さんが名を告げると『お待ちかねです』と行って奥へと通されました。
 一行が部屋にはいるとそこには人数分のお膳が並べられ、正面奥に威風堂々とした与力の男性が迎えました。
「昼が一段落した頃、酒場の主より連絡を貰ってな、役目が引けてから待って居ったのだよ」
「お邪魔しやがります〜」
 そう言う与力はそれぞれ席に着くように勧め、ふとレーラに目を留めると何やら含み笑いを漏らします。
「ほう、そこの異国のえるふ殿、いまだに我が国の言葉は直らないようだな」
「あーっ、あの時の与力のおっちゃん!」
 過去にあからさまに怪しがられて奉行所でこってりと油を絞った与力であることに気が付くと頭を掻きながら笑うレーラ。
 千代がお歳暮を与力に渡すと、笑いながら受け取り、ゆるりとしていくように、と勧めながら、手を打ち、落ち着いた物腰の上品な婦人が酒や茶を携えて入ってくると、ささやかな宴席となりました。
 昴と千代さんはずいぶんと仲良くなって話しながら食事を頂いていたようですが、いまだにお千代さんと呼んでいる様子、最後までゆき乃と言い切れずにそのままで過ごしたようです。
「十手見せて十手〜」
「これ、お上よりお預かりしている物、見せ物ではないと言うに‥‥」
 レーラが与力に駄々を捏ね、そう答えつつも厳しい顔に柔和な笑みを浮かべつつ酒をのむ与力。
「本当に、礼儀知らずな者で失礼を‥‥」
「あ、ねぇ、それいらないんだったらちょうだい〜」
「断る」
 レーラの無礼さを謝りながらもしっかりレーラからお膳のご馳走を死守しているリーゼに、感心しながらも自分だけは平和に食事をしようと、与力の婦人に酒をついて貰いつつ、引率者のように生暖かく微笑みつつ見守る桜耶。
 お歳暮を届けに出かけたその日は、暖かなおもてなしとささやかな宴席で終わるのでした。