旬の食材〜睦月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月15日〜01月20日

リプレイ公開日:2005年01月20日

●オープニング

 その日、年も明けて風は冷たいながらも暖かな日差しをした冬の日に、その依頼人はやって来ました。
「ええ、もう、料理をしてくれる人やら、家の仕事をしてくれる方を熱烈募集中なのですよ!」
 そう言うのは、30程度の恰幅の良い商人と、商人が連れてきた10程の丁稚の冷めた様子の少年です。
「元々旦那様が考え無しにお休みあげちゃうからいけないんだし」
「でもでも、新年のこの時期、年越し辺りに頑張って働いてくれた人達ぐらいには、しっかりお休みをあげたいのが人の常でしょう!」
「そしてご親戚が遊びに来る日に料理人が休み、そして奉公人の殆どが里帰りって言うのは当然起こることだと思いますけど」
「ううう‥‥」
 丁稚の少年にやりこめられて、何故か立場も弱く、さめざめと泣く商人を無視して、丁稚の少年が口を開きます。
「そう言う理由で人手不足で。しかも旦那様、『今が旬だ』とどんと買い込んでしまったんですよ、ご親戚の持てなしように鰤を」
「だ、だってだって、脂がのってて美味しいから食べたかったわけで‥‥いーじゃん、旬なんだし‥‥」
 鰤は寒ブリと言われたりする、寒い季節にもっとも美味しい魚。どうやらこの商人、自分や親戚が食べる分にしてはたいそうな量の鰤を買い込んだらしく、お手伝いをしてくれればお給金も出すし、鰤を思い切り楽しんで貰って構わないとのこと。
 親戚が押しかける怒濤の一夜さえ過ぎてしまえば、後はなんとでもなると言うことを言ってぺこぺこ頭を下げます。
「どなたか、どうか親戚のもてなしと、あと調理をして下さる方が居ましたら、お願い致しますっ!」
 そう言う旦那に、丁稚の少年はやれやれとばかりに頬を掻くのでした。

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0404 手塚 十威(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2614 八幡 伊佐治(35歳・♂・僧侶・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea4927 リフィーティア・レリス(29歳・♂・ジプシー・人間・エジプト)
 ea8616 百目鬼 女華姫(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●厨房は大忙し
「良い食材で存分に料理が出来るという、俺にとっては嬉しい依頼ですね。来て下さったご親戚の方々に美味しいといって頂けるように頑張りますっ!」
 そうにこにこと笑って腕まくりをし、たすきを掛けるのは手塚十威(ea0404)。前掛け姿も料理の腕に相まってなかなかに様になっているようです。
「本当に、ありがとうございます、なにとぞ、宜しくお願い致します」
 米搗き飛蝗のように頭を下げる商人に、慌てた様子で頭を上げるように打て塚は、なんだか初々しくて好感が持てます。
「鰤の刺身に鰤大根、鰤の照り焼き、鰤の味噌煮に鰤の和風ステーキ、鰤のアラ酒塩焼き‥‥ジャパンの旬の魚の料理、美味しそうだね〜」
 しみじみとそう呟いてから『お客様に宴会を楽しんでもらえるよう、頑張らないとね』と照れたように言い直すケイン・クロード(eb0062)
「可愛いコ二人と一緒にお料理できるなんて‥‥ウフ♪」
 可愛い物が大好きなオカマ‥‥もとい、今回の依頼で実質的に唯一の女性、百目鬼女華姫(ea8616)が楽しそうに言うと、人数を改めて確認して、ケインと相談してお皿を用意して綺麗に洗い直し始めます。
「ええと大皿、小皿、深皿に小鉢、汁物御椀、それと飲み物用の食器もだね」
「なんと言ってもなんと言ってもお客8人にあたし達の16人分だから大変ね」
 密かに丁稚の少年が頭数に入っていませんがこれは気にしてはいけないのでしょう。
「お出しする料理とは別に皆さんお持ち帰り希望みたいなので作る量も半端じゃないし」
 先ほどから黙々と一生懸命に鰤を捌き、鍋を用意して大根を煮付けたりしている手塚は、そう言って小さく息を付くと休憩に。と、すかさず丁稚の少年が厨房で格闘している皆さんへとお茶を用意してくれます。どうやらお客様の相手の合間にも、厨房の様子にも気を配っていたようで、一礼してまたお客の相手へと戻っていきます。
 大分料理の準備も出来上がり、そろそろ盛りつけてお客出す時間が迫ってきたのを感じると、3人は再び準備へと戻ります。
「十威、お前さんまだ若いのに立派なもんだなあ」
 荷物運びなどをやってから、厨房のお手伝いとばかりに顔を出したのは嵐山虎彦(ea3269)です。
「家事はからっきしだが、ま、米を炊くくらいなら任せな! ‥‥って、あっちぃ!」
 うっかり竹で熱い息を吸ってしまって目を白黒させる嵐山は、ふと切り分けられてよく煮込まれた醤油味の鰤を目に留めると、熱さも忘れてぱっと目を輝かせます。
「おお、旨そうだなぁ♪ 一つ頂戴〜」
「つまみ食いは構いませんけど‥‥程々でお願いしますね。俺だってお持ち帰りはしたいんですよぅ」
「大丈夫大丈夫♪ ちゃんと持ち帰る分は残すから!」
 豪快に笑ってひょいと一切れ摘んで。口へと運んでから感に堪えないと行った様子でさらに手を伸ばす嵐山ですが、にっと笑った女華姫がぎっちりとその手首を握って止めるのに、あはははは、と引きつった笑いを浮かべると手を引っ込めるのでした。

●伊佐治・千里新春対決
「家事はそれほど得意ではありませんが、宜しくお願いします‥‥」
 そう言って手伝いを始めた大宗院透(ea0050)ですが、なに、なかなかに堂の入った様子でお膳や料理、お酒を用意する様に、商人は感心したように頷きます。
「料理運び配膳競争! 決まりは簡単じゃ」
 そう言うのは八幡伊佐治(ea2614)。どうやら折角なので白河千里(ea0012)と勝負をすることにしたようです。
『盆は同じものを用意、同じ量を乗せること。主や客に気付かれてはいけない。行動は優雅ににこやかに! 話しかけられたらきちんと丁寧に愛想よく答えよう。料理を零したら盆に載る料理が2皿増える。2往復毎に嵐山虎彦を探して勝つまでジャンケンして戻る。より多くの料理を早く美しく運んだ者の勝ち』
こんな決まり事を決めての配膳競争、無事に終わるか正直どきどきなものです。
 ケインと丁稚の少年がお座敷を整え、お客をその部屋へと案内したのを確認すると、密かに競争は始まったのでした。
「おじちゃんたち何をしてるの?」
「ばか、こういうばあい、おにーさんっていわないとおこられるんだぞ?」
「だーっ!」
 始まって早々、ほぼ同時に座敷へと着いた2人が、それぞれの前にお膳が用意し部屋を出て素早く走り出したのですが、美味しい御飯も好きだけど、面白いことはもっと好きな子供達に気付かれたのか、次に座敷前に来たときには子供達が興味深げに待ち構えていました。
「ほれそこの兄ちゃんに遊んでもらえ〜♪」
「くっ、ひ、卑怯な‥‥」
 そう言う白河ですが、ふと横をすり抜ける伊佐治に『妹御の首筋にホクロが二つ並んでて色っぽいが‥‥見たか?』などと囁くのはご愛敬。
「だーっだーっ」
 何やら白河が気に入ったらしい末っ子がきゃっきゃと裾を引っ張るのに、少々困ったような、それでいて思わず子供達を構いながらゆっくりと座敷へと向かった白河は、先に付いたはずの伊佐治が、旦那が兄と話し込んでいて暇を持てあましていた妹と、親戚の叔母に掴まってなかなかその場を離れられずにいたのに気が付きます。
 どうやら言われたことが気になって、思わず入ってから妹さんへと目を向けてしまったのでしょうが、昔は小町娘と評判だったであろう美人に掴まって、というのは案外悪いものではないかも知れません。
「ほぉ‥‥異国の踊りというのはなかなかに良い物ですな。長生きをすると色々な物を見聞きできて実に良い」
 伯父はそう頷いてリフィーティア・レリス(ea4927)が踊りを終えると、隣に呼んで料理を勧めながらそう満足げに言いました。
 先ほどから次々出されるご馳走に舌鼓を打つも、決して賤しくがっつくわけではないこの初老の男性、料理やお酒を運ぶのが一段落付くと、透にも声をかけて一緒に食事を勧めます。先ほどから競争している2人には声をかけづらいのもあるでしょうが、何より子供か孫かと言えるような年の2人にも美味しいご馳走を食べさせたくなったようです。
 淑やかにお酌をする透に礼を言って杯を受ける伯父。伯父はリフィーティリアと透に異国の話や冒険の話を聞いて、何度も興味深げに頷くのでした。

●勝負の行方
「はっはっは、酒持って来ないとじゃんけんしてやらんぞ♪」
 嵐山は厨房の人間が漸く一息ついて賄いを用意し出したのに、待ってましたとばかりにお刺身をつまみ食いして酒が欲しくなったのかそう言います。が、にっこりと見返す白河に、思わず『ごめんなさい』と謝ってじゃんけんを始めます。
「最初はぐーっ」
「ぱーっ」
 咄嗟に白河がだしたのに目を瞬かせている間に『勝った』と言って新たに盆をケインから受け取り走り去っていく白河。
「溢さないで下さいね〜、あはは♪」
 なんだかケインは楽しそうですがしっかりした物で、うっかり零そうものなら先ほどから手頃な台帳に記していたりします。
目を白黒させていると、漸く女性陣から解放された八幡が駆け戻って来るのが見えて隠れようとする嵐山。
「虎、どこ行くんじゃ。さっさとじゃんけんをせぃ」
 そう言うとちっと言いつつじゃんけんを開始する2人。最初はあいこ。もう一度、となったとき、嵐山が出すまで待って咄嗟にぱーへと変えて勝ったと言い切って盆を掴んで走り出す伊佐治に、嵐山は思わず拳固を握ったままの手へと目を落とすのでした。
 お客さんの方が一段落してから、漸く戻ってきた白河と伊佐治が加わりました。
「運んだ数は同じですね〜戻ってくるのも殆ど同じ、と‥‥」
「‥‥お二人とも、同じところで同じように足止めをうけていましたしね‥‥」
「まぁ、途中にどっちも女華姫の絞め技‥‥もとい抱擁をうけて苦しそうだったしな」
 ケインと透の言葉で勝敗は付かず、と言うことが分かります。嵐山の一言で、勝負の合間に色々あったことが窺えました。
 白河は子供達に掴まり、伊佐治はその母親に掴まっているのですから、必然的に2人とも足止めされる時間は変わらなかったようでした。

●鰤をお腹一杯
「お持ち帰り分は明日に作りますけれど‥‥まずは俺たちも御飯を頂きましょう」
 そう言って出されるのは、豆乳を煮た鍋を二つ程中央に置き、それぞれに盛りつけられた鰤大根にお刺身、特にお刺身は脂がしっかりのったところなどは見た目からしても唾が沸いてきそうです。
 吸い物はさっぱりとした味わい、切り身の照り焼きは良く生姜が利いていて生臭さもなく。カマの塩焼きと味噌煮は香りだけでも食欲をそそります。
 お客に出した内容と同じ物に、さらに賄いで手塚はアラ煮を加えました。
 後に和菓子が控えていて薄紅色の練りきりに中身は白餡で梅を形どった『福梅』と白のお餅に中身はこし餡。耳の形にくり抜いた羊羹をくっ付けて食紅で目鼻を描いた『雪兎』は、見た目にも美しく、また程良く甘くてお客さんにも大評判だったものです。
「流石に疲れたけど‥‥充実感はあるよね。あはは‥‥あ、お持ち帰りは一人どれくらいまで貰えるんですか?」
 ケインが聞くと、実はまだ賄いに出した一食分を作っても少し余裕があるそうですので、たっぷりとお持ち帰りは残っている様子で、流石にそれだけ仕入れてどうするのだろうと思わせる量買っていたのが分かります。
 2人も席に着き、一同揃って食事となりました。
「口の中が早春! 本来魚はあまり好かぬが生姜がきいて臭みがなく美味♪ 菓子も美味♪」
「ジャパンの鰤料理、なかなかだな‥‥」
「‥‥美味しいです‥‥」
 口々に言われる言葉に、手塚は照れたように頬を染めながらも、嬉しそうに箸を進めています。
「鰤は好きなんじゃ。寒鰤最高」
 そう言うのは八幡。丁度先ほど日付も変わり、依頼も最終日で八幡の誕生日でもあります。
「今年の誕生日は賑やかで幸せじゃの」
 八幡はそう幸せそうに、アラ煮を堪能しているのでした。