焦心

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 94 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月18日〜01月25日

リプレイ公開日:2005年01月26日

●オープニング

「あの娘は、待って居るんです、私を‥‥」
 そう言うと、老人はがっくりと肩を落としてすすり泣きを始めます。
 その老人が20代半ばの青年に付き添われてやってきたのは、すっかりと風の冷え込んだ夕刻のことでした。
「どうにもこうにも、最近ずっとこうなんですよ‥‥頻りに探してくれ探してくれ言い出して‥‥」
 そう言って男性が溜息をつくと、これまでに聞き取った内容をまとめて話し始めます。「この爺さんはいわば俺の育ての親でねぇ‥‥孤児だった俺を拾って養子にしてくれて、そりゃあもう可愛がってくれたんだが‥‥」
 そう言うと困ったように頬を掻いて言うには、青年を拾う前に老人は東北の方に暮らしていたそうです。
 その頃の老人は武家の次男坊で、遅くに妻を娶り、娘が生まれたときに妻を亡くし、男手で幼い娘を育てながら暮らしていたそうです。
 暮らし向きは大変苦しかったのですが、娘をたいそう可愛がって居たそうです。そんなある日、親類のところで一大事があったらしく娘を連れて、江戸へと向かった時のことでした。
 あと少しで江戸と言うところで娘が熱を出し、その直ぐ側の宿場にあった小さな酒場兼宿をしていた所に草鞋を脱ぎ、そのまま動かすわけにも行かず、その店の女将が勧めるままに路銀の殆どを渡し、娘を頼んで江戸へと向かったそうです。
 親戚の死に目に何とか間に合って、その家を継ぐことでお家取りつぶしも免れ、直ぐに娘を引き取りに向かったところ、既に店はなく‥‥。
 方々探しても行方は分からず、旅の身空にしては大金であるお金と共に、宿の夫婦は娘を連れてを消してしまっていたのでした。
「あれからこの子と出会い、育ててきましたが、あの、別れ際に、必ず迎えに来ると、そう言った時に娘が私を見た、あの目が忘れられないのです‥‥せめて死ぬ前に一目、と‥‥」
「近頃、この爺さんが言った宿の後に手が入れられて、どっかの誰かが住み着いたとか聞いてから、もうずっとこの調子で‥‥ただ‥‥今のこの爺さんを行かせるわけにも行かないし、もしかしたら娘さんの手がかりにもなるかもと思って‥‥誰か、調べに行っては貰えないだろうか?」
 そう、老人の様子を心配そうに見ながら、青年は頼むのでした。

●今回の参加者

 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea0574 天 涼春(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea2605 シュテファーニ・ベルンシュタイン(19歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea5171 桐沢 相馬(41歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5944 桂 春花(29歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea7310 モードレッド・サージェイ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea9789 アグリット・バンデス(34歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●リプレイ本文

●余命は幾ばくも‥‥
「生き別れの娘、か。不本意な別れ方してんだ、そりゃ心残りにならねぇ方がおかしいくらいだよな」
 そう頷いて言うのはモードレッド・サージェイ(ea7310)です。
「地道な調査ってのは正直俺の性には合わねぇが、今回は特別サービスしてやんよ」
 その言葉に所に伏せっている老人は目に涙を溜めてモードレッドへと目を向けます。
「できれば本人を見つけて会わせてやりてぇが、そうでなくとも元気で暮らしてる、って事ぐらいは伝えてやりてぇもんだな‥‥」
 2人の様子を見ながら、モードレッドは小さく呟きました。
「安心致せ、娘殿は必ず戻って来られる。娘殿の思い出の品があるのならば、お預かりしてもよいであろうか?」
 天涼春(ea0574)は老いと病で痩せた老人を励ますとそう尋ねました。言われた言葉に青年は古ぼけた手のひら程の人形を取り出します。
「爺さんがずっと大切にしていた人形です。娘さんのだと‥‥」
「娘さんのこと、もう少し詳しく分からないかしら? 特徴とか」
「娘は‥‥左の手首‥‥そこに火傷の痕が‥‥」
「火傷の痕?」
 シュテファーニ・ベルンシュタイン(ea2605)に老人が答え、思わずシュテファーニは聞き返します。
「なんでも娘さんがちっちゃい頃竈を覗き込んだで着物の袖が燃えたそうで、火傷したとか‥‥大人の拳程の火傷痕が有るそうで」
「特徴は、それくらいなのですじゃ‥‥」
 申し訳なさそうに擦れた声で謝る老人。
「人は縁のあるところに移動したがるもの。誰かから逃げるときも、そうでないときも意図しなければな」
 桐沢相馬(ea5171)の言葉に目を向ける老人と青年。桐沢は続けます。
「女将がその娘さんで、幾つかの選択肢の中からあの宿に来た可能性は無きにしもあらずだ」
 そう言う桐沢は、それでも脛に傷を持つ可能性もあるからと、あの宿の夫婦や浪人の状況を調べ、問題が起きていればそれを解決してからの方が良いだろうと告げます。
「もし‥‥何か巻き込まれているのならば、本当に、申し訳ないですが‥‥」
 その言葉に頷く桐沢。
「おじいさん、もう少しだけ待っていてくださいね」
 老人に優しく微笑みかけながら、エレオノール・ブラキリア(ea0221)はそう言って励ますのでした。

●その宿
 もし本当に宿の女将さんが娘さんだったのならば。
「依頼主さんの願いをかなえてあげたい。父を想わない子はいないから‥‥」
 桂春花(ea5944)はそう小さく呟くと宿の戸を開けて中へと入りました。
 宿には先に桐沢が長逗留と称して泊まり込んでいて、泊まり客は桐沢の他に、浪人3人が他と少し離れたところの部屋を占拠していて、それ以外に泊まる客は浪人達を嫌がってかいない様子です。
「あぁ、申し訳ありません、いらっしゃいまし‥‥」
 悲しそうな影を落としている女将が春花を出迎え、泊まる旨を告げると直ぐに荷物を預かって足湯を用意し、その間に亭主が茶を淹れて持ってきます。2人の暗い様子とは裏腹に、持てなしは細やかで2人の人の良さが窺えます。
「お腹が空いてますでしょう、すぐに用意しましょう、ねぇ、お前さん」
「あぁ、直ぐに暖まるもんでも用意しやしょう」
 暗い影を落としてはいるものの夫婦は仲睦まじいのですが、直ぐに奥の方の部屋の襖を開けてちらりと目を向ける浪人に気が付くと、夫婦は口を噤んで礼をすると歩き去っていきました。
 エレオノールが酒場へ入ると、気が付いた女将さんは慌てた様子で出て来て迎え入れます。
「私は流れの謡い手、ミリア・スレイテルと申します。良ければここで少しの間歌わせてくれませんか?」
「そうして頂けると、本当にお客様は喜ばれるでしょう‥‥でも‥‥」
 そう言って不安げに女将が見る方には、丁度降りてくる浪人達の姿が。それを見て、エレオノールは大丈夫ですと言い、女将さんは何度も礼を言いながら夜に酒場で歌うことを、逆に頼むのでした。
「この宿屋、随分昔からあったみたいだけれど、昔はどんな風だったんでしょうね」
 飯処が酒場へと変わる頃、エレオノールは食事を頂きながら、辺りを見渡してそう言いました。丁度お茶のお代わりを淹れながら女将さんはどこか悲しそうに、懐かしそうに口を開きます。
「昔から宿だったのよ。あまり、評判の良い宿ではなかったのだけど‥‥」
 そう微笑んで、女将さんはお客の相手に戻ります。やがて涼春が宿へとやって来て、春花も部屋から降りてきました。
 エレオノールが郷愁を込めた歌を始めると、ほうっと溜息が漏れたり感心したように女将さんへと褒めるような言葉をかける人も居ます。
 決して賑やかではありませんが、逆に、ゆったりと食事を楽しみ酒を飲む人達が集まり、女将も歌に僅かに涙ぐむ様子を見せます。
「自分は異国より参った者である。故郷に残してきた家族達がどのような気持ちで待っておられるのであろうか? 自分が帰る場所が残ってるかどうか不安になる事がある。異国の歌を聴いて郷愁に陥るとは、自分も修業が足らぬであるな」
 涼春の言葉に袖で目元を拭いながら、本当に、と頷く女将。春花はそんな女将に声をかけました。
「私の父は妖怪との戦いで亡くなりました。父は厳しい人で私はあまり好きではありませんでした。でも父が最後にこういったそうです‥‥『娘に父親らしい事が出来なくて済まなかったと伝えて欲しい』と。親というのは子の事をいつでも思ってくれてるんですね」
「私は‥‥おかしな話なのですけど『必ず迎えに来る』そう言った人がいましてねぇ、父も母もいるのに、あれが本当の父親だったのでは、なんて時折思うんですよ」
 そう言って女将は再び目元を拭って仕事へと戻るのでした。

●父への思い
 超美人(ea2831)とアグリット・バンデス(ea9789)は先ほどから、酒場の付近住民へと聞き込みをしていると、皆口を揃えて、あの夫婦は良い人達で料理も旨いが、出来た当初から居着いている浪人達はろくでもないと答えます。
「浪人との繋がりが全く見えねぇんだよなぁ」
「弱みでも握られて脅されているとしか思えないが、何が元で脅されているかが」
 アグリットが言うのに美人も頷きます。
「‥‥あんたらかぃ? あそこの宿のこと、嗅ぎ回っている奴らってぇのは」
 他にも聞いて回ろうとしたところに、柄の悪そうな浪人者が近付いてきますと、軽く刀をちらつかせます。
「お前あの宿に雇われてんのか?」
「まぁ、そちらからで向いてくれたのならば話は早い」
 この浪人が、女・異国人というのに甘く見た事を後悔するのに、そう時間はかからなかったようでした。
 同じく聞き込みをしていたシュテファーニは、近くに住む農家のおじさんに変わった話を聞きます。
「あそこの女将さん、泥棒の子供だとか言う噂を立てているみたいだな、あの浪人者に」
「泥棒?」
「あぁ、かなり昔にあそこの宿屋に済んでいた夫婦、なんでも泥棒の一味だとかで、その時に客の持ち物やら金やら、いろんなものを持って消えちまった事件が起きてな」
 なんでも昔あそこで宿をしていた夫婦者は、ある日客の金や高価そうな物をちょろまかして、そのまま逃げたと言うこと。その時、そこにいた小さな女の子が女将さんなのかもな、とおじさんは言います。
「まぁ、なんにせよ、今いる夫婦は良い人達だし違うとは思うけど‥‥そう言う噂が流れちゃ、女将さんとかも大変だろうねぇ」
 シュテファーニはそれを書き留めると、仲間達と合流するために急ぎ足でその場を立ち去るのでした。
 桐沢は、何やら2人の浪人が血相を変えて刀を手に駆け下りていくのを見かけると立ち上がり後を追いました。浪人達は桐沢が後を追うのに気が付いていない様子で宿を出て向かいますと、先ほどまで聞き込みを続けて、女将の手首に拳大の火傷の痕があることを聞き出していたモードレッドを見つけ、連れだって男達に付いてきますと、そこにはアグリットと美人、それにのされて話を聞き出されている浪人がいました。
「野郎っ」
 図らずも囲まれるような形になった浪人達は逆上したように刀を抜きますが、それよりも早く桐沢の鋭く繰り出された刀の連撃にかわすことが出来ず倒れ臥します。
「くっ」
 残された一人は逃げ道を必死に探しますが、『害を成すならお相手する!』そう言って刀を向ける美人の言葉にがっくりと膝をつくのでした。
 酒場で浪人達を部屋へと連れて行き締め上げると、女将さんを連れ去り、人買いに売っていなくなった前の宿の夫婦のことを嗅ぎ付け、身請けされ今の亭主と一緒になっていた女将さんと亭主を強請り、夫婦は浪人達に金を搾り取られていたようでした。
「これに見覚えは無いであろうか?」
 そう言って涼春が出した人形を見ると、女将さんは小さく唇を奮わせて、そうっとその人形を受け取ると大切そうにぎゅっと抱きしめます。
「これは‥‥私の小さいときに大切にしていたお人形です‥‥無くしたとばかり‥‥」
 実の父親が探していると聞いて、女将さんはそれ以上言葉にならないのでした。

●束の間の再会
 はらはらと涙を流し老人の手を握る女将。一行は夫婦を老人の家へと連れて来ていました。
「本当に、長い間、すまんかったのぅ」
「おとっつぁん‥‥探してくれて有難う、本当に有難うね」
 漸く会えた父と娘。老人はその日のうちに息を引き取りましたが、その顔は安らかでした。
 涼春の手によって上げられた通夜、そして葬式が滞りなく済むと、女将は再び亭主と一緒に宿へと戻って行きます。
「父のお陰で私ども夫婦は救われ弟も出来、これからは胸を張って生きていけます」
 言いつつ亭主と微かに微笑みあってから、女将さんは一行へと向き直ります。
「皆様のお陰で私はずっと会いたかった、本当に父親に会え、その親の死に目に会えました。このご恩、一生忘れません」
 そう言うと2人と、そして青年は深々と頭を下げるのでした。