我が儘爺と若侍

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜01月31日

リプレイ公開日:2005年02月03日

●オープニング

「実は、どうしようもない我が儘な老人の接待をして欲しいのですよ」
 そう言う青年は身形も良く、立派な若い侍です。その青年が来たのは、そろそろ日も落ち、辺りが暗くなる頃でした。
「それがし春には祝言を挙げてという予定になっているのですが、それには少々難関が有りまして‥‥」
 そう言うと青年はほうと小さく溜息をつきます。
「実は、許嫁には母親と祖父が居るだけ‥‥その祖父がまぁ、今頃になって嫁に出したくはない、と‥‥」
 どうやら孫を嫁に出すのが惜しくなった老人、許嫁も母親も酷く悲しんで頼むのですが、聞く耳を持ちません。挙げ句に孫娘に近寄るなと、食い詰め浪人を雇って青年を追っ払う始末。
 許嫁の母親に聞いたところ、この食い詰め浪人、許嫁にしつこく迫るので、娘はこの浪人のことを泣いて嫌がりますが、浪人が刀をちらつかせるので祖父に訴えることも出来ず、老人も青年と会いたいが為に孫娘が嘘を言っていると決めつけたりと、追い払うこが出来ません。
「それがしの役目柄、両家の位置は本当に目と鼻の先。せめて仲良くしようと言う姿勢だけでも見せておきたいと思いまして、接待をしようとなったわけです」
 そう言うと青年は少し考え込むような様子を見せます。
「これで接待が上手く行けば許嫁の祖父もあの浪人を雇ってそれがしを追い払う理由はないはず。ですが、大人しくあの浪人が引っ込むとも思えませんし、接待しても祖父が意固地にするならば、それはそれで強攻策も頭に入れていますので‥‥」
 そう言うと、青年は頭を下げて頼み込むのでした。
「お願い致します、何か手遅れになるような事態が起きる前に、何とか対処するためにも、手を貸して頂けないでしょうか!」

●今回の参加者

 ea0235 周防 佐新(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0574 天 涼春(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea2127 九竜 鋼斗(32歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3547 ユーリィ・アウスレーゼ(25歳・♂・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea5388 彼岸 ころり(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7049 桂照院 花笛(36歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9771 白峰 虎太郎(46歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●噂の真相?
「何か心当たりはないだろうか?」
「さぁ‥‥ただ、先方の家柄が良いと、始めはそれは乗り気で。‥‥その、父はお金などに、とても執着なさる方ですので‥‥」
 周防佐新(ea0235)の問いに、恥じるように答える母親。母子揃ってお参りに行くといって抜け出してきたようで、依頼人の家へやってきた許嫁の娘と母親はしばしの間聞かれることに思いつくだけのことを話します。
「じゃあ、何でまた急に反対し始めたのだ?」
「御祖父様は、この方が役人だと知ると‥‥」
「言っていた『お役目』か?」
 娘が言う言葉に白峰虎太郎(ea9771)が口を開きます。その言葉に頷く若侍。
「それがし次男坊ゆえ家を継ぐのではなく江戸の為にと‥‥」
 幸い跡目を継いだ兄が心を砕いてくれたお陰で役人となり独り立ちできたと話す依頼人。今ではお役目も板に付き、兄が知人を通して弟へ薦められた縁談で出会ったこの娘さんと所帯を持って一人前、となるはずだったそうです。
「互いに気に入ねば断るつもりでしたが‥‥」
「この方なら、と‥‥」
 顔を赤く染めつつも、周りを気遣ってか控えめに笑いあう二人。そんな姿を見て母親は嬉しそうに笑います。
「差し支えがなければご主人はどうなされたか伺っても?」
「夫は流行病で‥‥父とは折り合いが悪かったため、娘と墓参りへ行くのも父の目を盗んでなのですけど‥‥」
 夫が死ぬのを待っていたかのように家を処分し転がり込んできたらしく、辺りに家を乗っ取ったなどと陰口を叩かれることもあり、心を痛めていたそうです。
 話を聞いてから辺りへと話を聞きにでたのは白峰。
 付近の家や飯屋などにそれとなく聞くと、皆揃って『あそこの母と娘は良い人たちだが、爺さんは〜』と、口々にとにかくこすく意地汚いと話します。
 老人は似た者夫婦だったそうで、盗みや強請たかりで暮らし、嫌われていたとか。
「ここの近くで生まれたばかりの赤ん坊が盗まれてね。確か女の子で、もうかれこれ30‥‥4、5年は経つな。当時は、同じ頃に生まれた乞食夫婦の赤ん坊が怪しいって言われてたけど、証拠もなくてねぇ」
「‥‥今の話は本当か?」
 九竜鋼斗(ea2127)は思わず共に聞いて回っていた桂照院花笛(ea7049)と目見合わせます。
 二人にその話をしたのは武家で長い間下働きをしている老婆で、赤ん坊が生まれたときの屋敷の沸き立つ様子も、盗まれた赤ん坊を捜し悲嘆に食える様子も良く覚えていたようです。
「その赤ん坊のご両親は‥‥」
「赤ん坊は安定する年齢に育つまでは神様と同じ。でも、それと思い切ることができるのは、目の前で死なせたときだけ。だからこそ、家財道具まで失ってなお探し続けたんだろうねぇ」
 花苗が聞く言葉に老婆はしみじみとした様子でそう言うのでした。

●接待の席は和やか?
 船宿で藍色の着物に前掛けをしていたケイン・クロード(eb0062)は、前掛けの裏にナイフを隠し持っていました。
「人の恋路を邪魔するヤツは〜、サクッと刺されて地獄に堕ちろ〜♪ きゃははははは♪」
 楽しそうに物騒なことを口走るのは彼岸ころり(ea5388)。華やかな姿に着飾り、剣舞を見せるつもりの様で、『ホントには殺らないけどね〜♪』という言葉にわずかに残念そうな響きを感じた者もいるかもしれません。
「船宿に勤めている笑顔の三味線弾きなのだ。三味線演奏のサービスなのだ。どうぞくつろいで聞いて欲しいのだ〜♪」
そう言って三味線を弾いて場を和ませようとするのはユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)。
 ユーリィ曰く『ウソはいけないのだ〜でもジャパン語でウソもホーベンっていうらしいのだ。いいウソはついてもいいらしいのだ!』とのこと。
「自分は異国の僧であるが、『和』を尊ぶ心を持ってジャパンの茶道を振る舞う事に致そう。茶道も仏教も『和』の大切さを説いておられる」
 浪人を連れてやってきた老人を穏便にもてなそうとしているのは天涼春(ea0574)。茶道の心得があるわけではないようですが、過去にお茶の先生が点てていたのを見よう見まね、心得のある周防に手伝って貰い何とか点てることができ、控えていた花苗がケインの運んできた寒椿を模した和菓子を運んできて振る舞います。
 忌々しげに胡座をかき依頼人と娘を睨み付けている浪人は、刀を見せつけように持ち、いつでもこの場を壊せるとでも言うようでした。
「申し訳ないが、刀はこの場には無粋なもの。目の届かぬ背にでも回して頂きたい」
 周防がそうやんわりと言うのにフンと鼻で笑って一言。
「断る」
 腰を浮かしかける依頼人を手で制する周防に、依頼人もぐっとこらえ腰を下ろして息を吐きます。浪人の方はにやにやと嫌な笑みを浮かべます。
「恋の話をするのに船宿は向かない‥‥鯉ではなく鮒だからな」
「殺しはしないけど、まぁ問題のおじーちゃんにはちょっとびっくりしてもらおーかな♪」
 隣室で控えていた九竜がそう呟くのと、ころりがそう言って立ち上がるのはほぼ同時でした。
 九竜と白峰はその時ころりがにやりと笑うのを見て不安を覚えます。
 ユーリィの伴奏に合わせて踊り出すころりですが、舞と言うより型を実演している様は迫力があり、終わってさがる段に小太刀をうっかり落としたふりをします。
 とすっと小さな音をたて老人の膝ぎりぎりに落ちた小太刀を拾うころりは、慌ててわびの言葉を口にしますが、にやりと笑う様子に老人は青ざめた顔で見るのでした。

●浪人へのおもてなし?
 そろそろ酒が入り良い気分になるはずの所ですが、老人は青ざめつつ結婚には反対だと言い張り、浪人は酒を呷りながら依頼人を挑発してこの席そのものを駄目にしようとしています。
「オ酒、タリナイデスカ?」
 わざと片言を装いながらケインは新たに酒を運び入れ殺気感知をすると、挑発に乗ってこない依頼人に業を煮やしたのか、依頼人に殺気を向けている浪人。ケインは万が一に備え、娘と浪人の間にはいるように気を付けています。
「いい加減やめろっ! くだらねぇ。こんな若造にでかい顔させているのがそもそも気にくわねぇ」
 不満が限界へと達したのか目の前の膳を蹴り倒すと浪人は、許嫁の娘に手を伸ばして掴もうとしますが、周防と賄いを運んできたケインがその間に入り、その間に花苗がコアギュレイトを唱え浪人の動きを封じます。
 そこを白峰に捕まえられ裏通りへとつまみ出されるた浪人。浪人を放りだしてから中へと戻る一行。
 身体の自由を取り戻した浪人が宿へと再び向かおうとしますが、音もなく忍び寄ったころりに気が付くことが出来ません。
「はい、お陀仏様でした〜♪」
 そう言うのと浪人がころりの手よって命を絶たれるのはほぼ同時。ころりは毛布に遺体を包むと、そのまま川へどぼんと投げ込むのでした。

●終わり良ければ?
 浪人が運び出されたのを見送った後、その場に残された依頼人達は暫し言葉がありませんでした。
「っ、とにかくっ儂は反対じゃっ!」
 はっと我に返ってそう言う老人。
「何でですか? 始めお家柄を聞いたときはあんなに乗り気だったじゃないですか」
「ふんっ、この男にやるぐらいなら金持ちの中年商人に嫁がせた方がなんぼかましだ」
「家を出てでも、私はこの方と一緒になりますっ!」
「そんな道理が立つかっ!」
 手を振り上げる老人から依頼人が庇って娘を部屋から連れ出すと、母親も押さえてはいるものの明らかに怒った表情を浮かべています。
「意地の張り合いはダメダメー! なのだ。みんな仲良し、それが一番なのだ♪」
 ピンと張り詰めた空気を断ち切ったのはユーリィでした。三味線を奏でメロディーをかけると、老人は大分落ち着いたのか、母親と共に表情が少しのんびりしたものとなります。
「娘の様子が心配なので、ちょっとお任せしても宜しいかしら?」
 どこかのんびりした様子でそう聞く母親。船宿の人間に聞いて離れの部屋で依頼人が娘さんを慰めているらしく、母親が向かうのと入れ違いに、浪人を外へと連れ出した面々が戻ってきます。
「反対される理由をきちんと話されるのが良いと思います。闇雲に反対では道理も通らず何が不服なのか青年に伝えるべきでしょう。婚姻は当人以外の相互理解も必要ですものね」
 花苗の言葉にぐっと押し黙る老人を見て、九竜が口を開きます。
「同じ向けられるなら恨み辛みのこもった憎しみの目より、幸せそうに巣立ってゆく晴れ晴れとした一度の笑顔の方が良いだろう。若い娘から恋を奪うのは、命を奪う事と同じだぜ? そんな事をしてりゃあ、いつか本当に‥‥」
 そう周防が言もそっぽを向く老人に九竜が口を開きます。
「今回のことで、頑なに拒む理由を調べさせて貰った」
 九竜の一言でびくっとした老人は、忌々しげに顔を歪めながら太い溜息をつきます。
「自分の知人の話であるが、最近紅絲で結ばれた方がいらっしゃったのである。ご実家の方が交際を反対された様であるが、持ち前の人徳で乗り越えられた様子。深き業を背負われてる様であるが、それを乗り越える事が出来ると自分は信じている」
 老人へと涼春はそう諭しているのでした。
 数日後、依頼人から文書で無事に話がまとまり、春に祝言を挙げることになったという報告と、自分の屋敷に許嫁の娘とその母親が既に移り住んできて、老人は元の家で一人、人を使って暮らす事になったと言う連絡が届きました。
「悪いことばかりしていたので過去のことを知られると、自分の身が危ないからと反対していたようですね。元々役人はとにかく嫌いだったようですし」
「春に祝言を挙げるときにもし宜しければ、と書き添えてあるな」
 花苗がそう言うと、文書を読んでいた涼春が顔を上げます。どうやら、祝言の時に入らして下さいというご招待がも書かれていたようです。
「二人の結婚‥‥成功したらいいのだー♪ 」
 そういってユーリィは嬉しそうに笑うのでした。