寒鮒漁

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月30日〜02月04日

リプレイ公開日:2005年02月07日

●オープニング

「‥‥‥あ、あの、こちらに来れば、冒険者の方を‥‥そ、その、雇えると‥‥」
 小さな声で言うのは12、3の少年です。その少年は5つ程の可愛らしい、女の子とも見えるような少年の手を引いています。
「実は、寒鮒を食べにおいでと、昔うちで働いていた爺やがお手紙をくれたので、良い機会だから行ってみようかという話になったんですが‥‥」
 少年は話し始めると落ち着いてきたのか、口調も幾分しっかりとしたものへと変わりました。
 そういうと、その少年、弘満は弟の幸満へと目を落とします。幸満がきょとんとした様子で首を傾げるのに、弘満は顔を上げておずおずとギルドの人間に話を続けます。
「やはり、父はともかく、2人の兄もいるのですが、その兄たちもどうしても用事があって付き添えない、爺やはもうよい歳です。迎えに来るとはいうものの、無理はさせたくありません」
 そう言うと、弘満はぎゅうっと弟の手を握って、その頭を優しく撫でてから口を開きます。
「私たち兄弟は今まで遠出というものをしたことがありません。また、向こうで寒鮒漁をというのも、何分経験がないものでどうなるか分かりません。でも、身内に頼らずに何かをする、良い機会なのではないかと思ったもので‥‥」
 そう言うと、よく分からないままににこにこしている幸満に軽く笑いかけた弘満は、ギルドの人間に改めて頭を下げるのでした。
「お願いします。私と弟が爺やの村に行って、寒鮒漁をするのを、どなたか手伝っては頂けないでしょうか」

●今回の参加者

 ea0012 白河 千里(37歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0555 大空 昴(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0639 菊川 響(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2630 月代 憐慈(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea5927 沖鷹 又三郎(36歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7234 レテ・ルシェイメア(23歳・♀・バード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●寒い道中
「透さん! 月代さんに、白河さんもお久し振りです」
 大宗院透(ea0050)に気が付いて声をかけた弘満は、続く一行の中に白河千里(ea0012)と月代憐慈(ea2630)の姿を見て嬉しそうに笑うと、服の袖に掴まって兄に隠れていた幸満もちょこんと顔を出します。
「然程経過してないのに精悍な顔になったな弘満、再会嬉しいぞ」
「私も、またお会いできて本当に嬉しいです。今回は宜しくお願い致します」
 白河の言葉に照れながら笑い応える弘満は、初見の人々に向かってぺこっと頭を下げ、宜しくお願いします、と繰り返します。
「お久しぶりです‥‥元気にしていましたか‥‥」
「ええ。透さんもお元気でしたか?」
 友人同士、久々の再会に透も心なしか嬉しそうに見えます。
「いやぁ、また二人に会えるとは‥‥やっぱり嬉しいもんだな。元気にしてたか? 二人とも」
「ゆき、げんきにしてた☆」
 前は泣いてばかりだった幸満も、月代の言葉ににこっと笑って頷きます。そんな様子に大空昴(ea0555)はにこにことした顔で近づいて弘満を見、続いて幸満を見て頭をなでると元気に挨拶です。
「弘満くんに幸満くんですか、可愛いですね。私の弟も私が家を出る時、丁度弘満くんと同じくらいでしたっけ」
「この時期の寒鮒は最高に美味しいでござるよ」
 沖鷹又三郎(ea5927)も初めて会う2人にそう笑いながら自己紹介。
「以前の依頼でご一緒した無精ひげの兄ちゃんは遠縁なんだ、二人のことは聞いてて会ってみたかったんだ。よろしくなっ♪」
 菊川響(ea0639)の言葉によろしくです、と幸満がぺこり頭を下げます。
「今回はジルベルトさんもいないし今回の母親はこの人で決まりだな」
「母上役はいるからいいとして、前の父上は今回来られなかったから‥‥代わりは誰が良い?」
 菊川が母上と言って白河を見るのに笑いながらも、父親と言われて一同の目は、本当に何となくなのですが、嵐山虎彦(ea3269)へと視線が集中します。
「俺かよ。っと、初めましてだ、弘満に幸満。短い間だが宜しくな」
 にぃっと笑う嵐山に幸満がびっくりしたように月代の後ろへと引っ込み、弘満は初めて見るジャイアントの巨体に目を瞬かせながらもよろしくお願いいたしますと頭を下げるのでした。
『ふたえご、あんまり揺らさず歩いてやってな?』
 オーラテレパスで菊川が愛馬に語りかけつつ引いて歩きます。愛馬の上の幸満は、白河に借りたまるごとネズミーを菊川が着せているため、だぶだぶもこもこですが、思いのほか暖かいためか、うつらうつら、何時の間にやら馬にきゅっと掴まったまま夢の中。
「私はあれから、何故か家事全般の依頼をよくうけています‥‥弘満さんはどうですか‥‥」
「私は最近再び道場に通いだしました。帰ってきたら、幸満と一緒に手習いをしたり‥‥」
 菊川に防寒着を借りた防寒着を着て、弘満は透と並んで歩き、どちらも口数は多くありませんが、とても楽しそうなのでした。

●いざ寒鮒漁
「おぉ、これはこれは、ようこそいらっしゃいました。‥‥坊ちゃま方もお元気そうで」
 そう出迎えてくれるのは小柄で身軽そうな老人。老人は嬉しそうに一行を家へと連れて行き、漁は明日にとゆっくり休ませてくれるのでした。
 次の日、村の大きな池に用意してあった2艘の舟へと別れて乗り込む一行。池の底はさほど深くないのですが、弘満と幸満が入る身は少々水が冷たすぎるとの配慮からのようです。
 レテ・ルシェイメア(ea7234)は舟の縁に掴まってじっと目を凝らしますが、なかなかそれらしいのが見あたらずに小さく首を傾げます。
「おさかな、どろのしたでおやすみしてるんだよ」
 弘満と爺やから聞いていたのでしょう、幸満が小さな声でそう言ってちょこんと首をかしげます。どちらかというと、レテの乗り込んだ舟は幸満と一緒に漁の様子を楽しむ為のようで、定員のためか幸満に気に入られているからか、こちらには幸満にぎゅっと服の裾を捕まえられている月代が乗っていて、爺やが舵を取っています。
 丁度もう1艘よりも深い辺りで舟を止め、網を沖鷹が引き上げるところでした。
 幸満は菊川に借りて釣り竿に教わりながら餌を付けて、にこにこしながら月代に手を借りてちゃぽんと池の中に糸を垂らします。まだ内気な部分はあるものの、年相応に好奇心が出てきたようで、嬉しそうな様子が伝わってきます。
 この時期、泥の下でじっとしている魚が食いつくのは難しいのですが、幸満にはそれすらも珍しいことらしいのでした。
 もう一方には白河、嵐山にまるごとネスミーを着た透と弘満、そして網の具合を見ている昴の姿が。
「あんばいはどうですか‥‥『不慣』れな人には『鮒』を取るのは難しいです‥‥」
「ほんとですね、泥の下にいて見つけにくいから」
 透の言葉にくすっと笑ってから頷く弘満。
「おぉっと‥‥小船に俺はでかすぎるなぁ」
 そう言いつつも身を乗り出して池の底を覗き込む嵐や矢を、悪戯を思いついたような顔をすると、つま先でちょん、と押して、バランスを崩すのを見ると帯を引いて笑いながら口を開きかけました。
「うわっ!?」
 途端に舟の右側面と左側面に、大きさの違う水柱が合計四つたちます。
「冷たっ!」
「りょ‥‥漁は危険と隣り合わせだから気をつけようなっ♪」
 舟の上に一人残された透は弘満の落ちた方へと顔を出してみると、慌ててもがいて立ち上がった弘満は照れくさそうに笑います。
「‥‥大丈夫ですか‥‥」
「うん、大丈夫です、お水の中は思った以上には冷たくなかったので」
 聞かれる言葉に笑って頷く弘満は、立ち上がる嵐山と一緒に、がぼがぼ言っている昴に手を貸して立ち上がらせます。
「わ、積もった泥がまきあがったから‥‥」
 寒さでじっとしていた鮒の姿が見えるのに、池に落ちた面々は網で掬ったり手で掴んだり‥‥気が付けば弘満はすっかり昴と一緒に子供のようにはしゃぎながら鮒を捕まえているのでした。

●美味しい御飯
 池に落ちた面々は、爺やの家にあるお風呂を借りて泥を落としていました。昴は直ぐ隣にあるお宅で一人悠々とお風呂につかって存分に暖まっているようです。
「お兄ちゃん♪」
 そう言いながら広いお風呂につかっていた弘満の所に飛び込んでくる幸満。幸満も一匹、菊川と月代に手を借りて釣り上げられたのが余程嬉しかったらしく、身振り手振りで一生懸命説明し、弘満はそんな弟にきちんと服を脱いで入ってくるように、やんわりと教えつつも、えらかったね、と褒めるのを忘れていない様子。
 そんな一行の耳に、どこからかレテの神楽舞の曲が聞こえて来ます。レテはどうやらその場にいない友人を思って演奏しているようで、風呂に入っている面々に、その音は心地好く聞こえるのでした。
 一行がお風呂で冷えた身体を温めている間に、沖鷹は爺やと手分けして寒鮒を捌いている最中でした。
「やはりこの季節は鍋か煮込みや鮒こく等か‥‥温かい物でござるかな」
 そう言いながら取れ立ての魚の骨を抜いたりしている沖鷹。
 うろこと苦玉以外を取除き身を筒切りにすると、大鍋にたっぷり煮立った湯の中に、切り身を放り込み、あくを取除いて味噌を加えます。やがて、食欲をそそる良い香りがしてきますが、これを食べられるのは明日。
 他にもごま油で捌いたものを炒め、出汁をかけたものを用意したり、甘露煮、味噌煮を作り上げる頃には皆それぞれに寛いで良い感じにお腹を空かせているところでした。
「日の目玉、寒鮒料理ですっ! それでは頂きます!」
「美味いっ!」
 昴が気合いの入った様子でそう言って橋を延ばすのとほぼ同時に、先ほどまで酒をかぱかぱ飲んでいた嵐山は、熱々の鮒飯に思わず大きな声を上げます。その横では狙ったものが丁度重なったのか、白河と月代がにっと笑い合いつつ食べ物の攻防戦を繰り広げています。
 しっかりと火を通され煮込まれた料理もそうですが、鯉ほど脂がしつこくない鮒の刺身が他の料理と良く合い旨味を引き立てます。
「おかわり〜♪」
 釣りを習ってすっかり懐いた様子の幸満は、菊川の膝の上でそう言って小さなお茶碗を差し出しているのでした。

●豆まきの思い出
 翌日、鮒こくを頂いた後豆まきをやることになりました。
「ついに念願叶う時が‥‥! ずっと夢だったんですよぅ」
 そう言って、大凧に固定され空へと舞い上がりながら感涙にむせぶのは鬼の褌に鬼の面の昴です。
「わわ、私飛んでます! 高いですっ!」
 聞こえてくる声に兄弟も沖鷹が炒っておいてくれた豆を升に入れて見上げていますと、白河達も準備が出来たようで升を手に上を見上げます。
「鬼には容赦なく投豆が礼儀だ♪」
 そう言いつつも何となく目のやり場に困って直ぐ側で兄弟に話しかけていた月代へと目を留めます。
「えい、鬼はー外♪」
「っと、何で俺が鬼なんだっ! 地上の鬼を幸満君、一緒に全力で退治だ!」
「たいじ〜! おにわーそとー!」
 月代の言葉に気合いが入ったように投げる幸満ですが上手く白河の方へと投げられません。そこへ菊川が膝をついて幸満へと屈むと、豆を握り直させて投げ方を教えて上げているらしく、次第にぱしぱしと当たるようになっています。
「心の鬼を追い出してやったに何故怒る?」
 そう言いながら標的を鬼の面を沖鷹から受け取っている嵐山へと切り換えた白河。お面を付けて幸満を驚かせて、半泣きの幸満に思い切り豆を当てられる嵐山に思わず楽しそうに笑う弘満に透が小さく言います。
「案外楽しかったです‥‥」
「‥‥凄く楽しかった‥‥良い思い出ですよね」
 ふと見れば沖鷹が笑いながら上方で福を呼ぶといわれる恵方巻きを運んでくるのが見えます。
「はっ、強風が!? ああぁあぁーー! かぜにぃーー、なりぃたいぃーー!?」
 上空で聞こえる昴の声を聞きながら、弘満は恵方巻きを食べに透と向かうのでした。