下女泥
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:2〜6lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 69 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:02月04日〜02月09日
リプレイ公開日:2005年02月13日
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●オープニング
その依頼が舞い込んできたのは、息も白くなり、雪もちらつくとある寒い日の午後でした。
「いや、引き出してお役所にと言うのは‥‥当然なのですが、どうしても早く捕まえて取り戻したいんですっ」
そう言うのはとある大店の番頭さん。
「じつは、うちの御店は、俗に言う、下女泥というのに遇ってしまいまして‥‥」
そう言うと番頭さんは深く溜息をつきました。
下女泥というのは下働きの女性として口入れ屋などから御店に入り込み、暫くの間そこで信頼されるまで忠実に働き、信用されて金目のものがある所を調べておき、ある日突然それを持ち逃げしてしまうと言うものです。
「その、主人に預けておいた、娘への大切な大切な櫛を、一緒に盗まれてしまったのです。主人のものと一緒にしておいて貰えれば、うっかり落とすことも無ければ、手癖の悪い者がいたとしても盗まれることはそう無いと思ったのですが‥‥」
その櫛は、娘の嫁入り道具にと、こつこつ真面目に勤め上げ、主人の仲介でしかも口を利いて貰ったため予定よりも安く手に入れることが出来た業物です。
他にも嫁入りと花嫁衣装を仕立てる為のお金も、主へと預けておいていたためかなりの痛手ではあったのですが、そちらは主人が何とかしようと請け負ってくれたのも有りますし、わざわざ預かって貰っていた上に被害にあった主人からどうこうというのは断り、戻ってきたときに考えて貰えればよいとし、預けた以外に蓄えがないこともないので衣装など、無理をすれば何とかなるそうですが、櫛はそうはいきません。
「あの櫛は、娘のために考え抜いて選んだ櫛です。国元より出てきているため、側にいてやれなかった娘に、せめて、一度きりの晴れの衣装と違い、ずっと使い続けることの出来る櫛をと思ったのに‥‥」
そういうと、番頭さんはがばっと頭を下げるのでした。
「お願い致します。なにとぞ、なにとぞあの櫛を取り戻して下さいっ!」
●リプレイ本文
●女の行方
「人の大事なもんを盗んで、自分だけのうのうと生きるやなんて‥‥甘い! ウチが成敗したるわ!!」
びしいっという効果音が聞こえてきそうな勢いで言うのは女笑わせ師の音羽でり子(ea3914)です。でり子がいるのは花街を入ってすぐの通りで、まだ昼間だというのに客引きの姿やふらついている男達のことを見かけることが出来ます。
暫く聞いて回るも、特に有益な話が聞けないのですが、でり子の行くところ、なんだか笑いが絶えない様子でした。
ユキネ・アムスティル(ea0119)とハロウ・ウィン(ea8535)がその女の噂を聞いたのは、花街へと足を踏み入れてすぐのことでした。
「羽振りの良い女性を探しているんだけど、心当たりあるかな?」
そう聞くハロウに話を受けくれた女性は困ったように首をかしげて、暫く考え込みます。
「景気の良い姐さんが遊んでいるのは確かだよ。何処にいるかって言うのは分からないけど‥‥うん、ここ数日のことだと思うから聞いてみれば分かるかもねぇ」
「本当は言っちゃいけないって口止めされているんだけどねぇ‥‥」
花街で働いているおばさん方が秘密だよ、といいながら話すには、とある店の離れを借り切って住んでいる女性がいるらしいとのこと。
「何処のにそんな金があるのか、良く若い男を連れて遊び歩いているんだそうよ」
そう話すおばさんに礼を言うハロウ。
「疑わしきは金と女を調べるべし、とは言うがさて。この場合は金と男か」
ウィルマ・ハートマン(ea8545)がどこか吐き捨てるとでも言う様子で言う言葉に道行く人が控えめに振り返ります。
それを冷たい目つきでちらりと見てから、ウィルマは『追うコネは無し、取り敢えずは男でも追ってみる、か?』という結論になったためかいくつか聞いて回りますと、それらしい女がいるという噂が聞こえてきます。
女にくっついている男は、とある店の用心棒をしているらしい若い浪人です。ウィルマは話をする女性に何とか店の場所を聞き出すのでした。
「若い女性がこんな所へ来るもんじゃないですよ」
そう言われているのは町娘に扮した焔衣咲夜(ea6161)とレテ・ルシェイメア(ea7234)。
「こういう方が、何か高価そうな櫛を持っていた、なんて言うことはありませんか?」
「高価な櫛、高価な櫛‥‥持っている、というのではなくて、とある店に持ち込んだという話ならば聞いたことがありますけど‥‥」
「このような感じの女性が、ですか?」
レテは思わす聞き返します。お多加が売り出したことについて問うと、とある大きなお店の裏手にある離れを借りて住んでいるらしいことが分かります。
その店の用心棒に小遣いをやって遊んでいるようで、どうにも物騒で困っていると、その店の女主人がぼやいていたそうです。
「その、その女性が、花街にご家族がいるとか、そう言うことはないのでしょうか?」
レテが一番気になっていたのは、何か事情があったのではないかということ。それをおばさんへと尋ねるのですが、そんな話は聞いていないよ、とおばさんは済まなそうにいて謝ります。
咲夜とレテが礼を言うと、おばさんは仕事へと戻るのでした。
●櫛の行方
「故郷の女へのみやげ物を探しているのだが、何か良いものは無いだろうか。できれば越後屋にあるようなものでなく、女が喜びそうな一品ものを探しているんだが」
花街の少し奥まったところにある酒場で、デュランダル・アウローラ(ea8820)は遊び人風の男と相席になり、それとなく話を振ってみますと、遊び人の男、何か気になるように首をかしげつつ口を開きます。
「それだったら、『狗倉』っていう質に行ってみたらどうだ? あそこなら良いものがあるんじゃないかと思うが」
何せ遊ぶ金の為にいろんなものを売りに来るのがいるから、と笑いながら付け足す遊び人に、デュランダルは礼を言うと、怪しまれないうちに話を打ち切ろうとします。しかし、何かを思い出した様子で話す遊び人の言葉にぴくりと眉を寄せます。
「そう言えば、つい前日偉く業物の細工物を買い取ってしまって、何かとくに足がついてまず慰問じゃないかと心配していたようだな」
「‥‥業物、か‥‥」
小さく呟くデュランダル呟くのを見つつ、遊び人は杯を傾けるのでした。
リュミエール・ヴィラ(ea3115)は、一緒に情報収集をしているデュランダルを尻目に酒を飲んで他の客に迷惑をかけていたようで、帰って行く様子にあからさまにほっとした客がいたようでした。
「姉さんにプレゼントしたいから良い櫛をさがしているんだけど、売っているところ知らない?」
デュランダルが聞いてきた質屋に向かうハロウの言葉に少し考え込む様子を見せた店主は、櫛はこの辺りです、と商品を見せてくれます。ただ、一つだけあからさまに業物も並べてから、この櫛には関わらない方が良い、十中八九盗まれたものだ、と告げるのでした。
「もし盗まれた物だったら、面倒なことになるからねぇ」
そう言う店主。
櫛は螺鈿細工の黒い櫛で、確かに柄も福寿草と兎。細工も細かく、裏の隅に細工師の名が彫りつけられていて、確かに依頼人が探していた櫛だと分かります。
「これ、おいくらぐらいになりますか?」
「怪しいって言うんで買い叩いたからね。持ち主へと戻すって言うんだったら、さらに値引きして、これぐらいでどうだい?」
考えていたよりもずっと安い金額に、ハロウはお金を払って櫛を引き取るのでした。
●捕り物の行方
櫛を取り返すことが出来た一行は、念のため取られた物が他のお多加の元へといくことになります。
レテが受け取った手紙をお女将さんに渡したので、その時点では女は酔いつぶれている可能性があること、また、店で雇っていた用心棒が3人ほど、小遣いを貰ってお多加の方へと鞍替えしていたことなどを聞かされるのでした。
離れにある小さめの、竹柵に囲まれた離れへと一行が集まったのは、そろそろひも落ちかけた夕方のことでした。やはり離れを見れば女が男達の世話して遊ばせているのがよく見られました。
『‥‥当たり、か』
ウィルマが小さく呟いて離れを張っていますと、女将さんの許可を得てきた一行と合流することが出来ました。
逃がさないように二手に分かれて裏口と入り口から踏み込んだ一行は、すぐに酔った足取りの浪人が立ち上がりますが、あっという間にデュランダルに捕縛されてしまいます。
表から押し入ったのはでり子でした。
「畜生っ! 捕まってたまるかよっ!」
そう言って斬りつける男の刀をひらりと避けると鬼の小柄で応戦し、これをねじ伏せます。
レテは窓から抜け出して逃げようとするお多加を見つけると、シャドウバインディングでその場へととどめ、最後の浪人も、逃げることを想定して弓を用意していたウィルマに足を打ち抜かれ、悶絶しながら捕らえられたのです。
前もって手紙で女を酔いつぶしておいて貰ったための作戦勝ちでした。
捕らえられ、正気に戻された女はぎっと一行を睨みつけます。
「盗みで身が立つ道理はありません。何年も真面目に働くことが出来るのなら、初めからそうすべきだったのです」
咲夜が諭すようにそう話しかけますが、ぎりぎりと睨んだ女の表情に変化はありません。
「信頼を一から作るには100の努力が必要や。でもな、信頼を失うのは1の失敗で出来る」
そう言うのはでり子。
「‥‥アンタは信頼される為に100の努力したはずや。なんでその努力を無駄にするような事すんねん。アンタやったら十分まともな生活送れる。‥‥依頼人さんに誠意で償えよ」
その言葉にも、捕らえられてすぐのお多加には伝わらない様子。でり子はお多加に鉄拳制裁をしたもようでした。
●依頼人の怒りの行方
依頼人へと犯人のお多加とお多加に共謀していたと見られる浪人達を捕まえて突き出したとき、とある問題が起きました。
櫛の他に主人の持ち物で、同じ時に一緒に盗まれていた見事な細工の根付けを見かけたリュミエール。それ自身の懐へと入れてしまったのが問題となったのでした。
お多加と一緒に捕まった浪人が、その根付けをねだって貰ったらしく、捕まったからには少しでも罪を軽くしようと、『根付けは確かに持っていたが、そこのシフールが懐に入れた』といって、問題が発覚したようでした。
お金は使い込んでもだいぶ残っていた物の、盗まれたとあからさまに分かるものをちょろまかそうとしたリュミエールに、依頼人である番頭は不快感をあらわにします。
「‥‥‥皆様にはお世話になって、本当にありがとうございました」
ぺこりと頭を下げる番頭ですが、その一行の中にリュミエールの姿はありません。リュミエールは依頼人の手で、番所に連れて行かれこってりと油を絞られ、根付けを返して貰うことになっているそうですが、リュミエールがこれで懲りるかというと、そうは思えませんが。
数日後、休みを貰い、心おきなく娘の元へと櫛を持って向かう依頼人の姿がありました。
櫛を取り返す際にかかった費用も、だいぶお金や高価な根付けが戻ってきたことによって余裕も出来たらしく、返して貰うことが出来ました。
「娘の祝言まではまだ日がありますが、早くこの櫛を娘に持って行ってやりたいんですよ。皆さん、本当に、本当にありがとうございました」
そう言って番頭は、何度も頭を下げてから江戸を旅立っていったのでした。