道場での籠城戦

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月13日〜02月18日

リプレイ公開日:2005年02月21日

●オープニング

 12、3ばかりの気が強そうな娘さんとすらりとした若侍が連れ立ってギルドへとやって来たのは、薄暗く寒い、とある冬の日でした。
「撃退ですっ! うちの道場へ喧嘩を売ってくるような人なんて、こてんぱんにのして撃退してさし上げるのですっ!」
「もう、ぐぅの音も出ないようにするためにも、手を貸して頂きたいのですっ!」
 2人して同じ勢いで掴みかからんばかりにいうのに、ギルドの人間は目を白黒させています。
「あー‥‥こほん、つまり、まぁ、わたくしはとある武家の3男坊で、この度、長兄次兄に掠め取られたものを取り返し、両親に暇乞いをして独り立ちしたわけで‥‥」
「そして私の父に師事し、すぐ近くの長屋に住み始めたのです、この人」
 一度は深呼吸して落ち着いた若侍ですが、娘さんの言葉を聞いて、再び怒りがわいてきたのかわなわなと肩を震わせ怒りを抑えます。
「そうして新生活を始めたところ、長兄が『家の恥』として連れ戻そうとしてきたわけです。そのときわたくしは師範に言われて使いに出ておりまして、代わりに師範が丁重にお帰り願ったそうですが、今度は師範が兄弟子2人と上方に用ができて出かけた留守を狙ってやってきたのですっ!」
「これは我が道場に対する挑戦ですっ! ここは父の不在中にしっかり道場を守らないとと思っていたのですが、多勢に無勢!」
「しかも、師範が普段見てらっしゃる子供たちの手習いを、留守の間わたくしが代わりに引き受けているのですが、その子供たちを人質に取ろうとされたことがありまして‥‥未然に防いだのですが‥‥」
 そこまで言うとがばっと頭を下げる若侍と、ギルドの人間の胸ぐらをぐっとつかむ娘さん。
「奴らが師範が帰る前に道場にいるわたくしを、実家の人間を使って襲いかかるは明白っ! ならばこちらもあの手この手で迎え撃つが礼儀っ!」
「この際、道場の間取りさえ変えなければどんな手を使うもどんな手を加えるのもかまいませんっ! 全力で籠城して叩き潰すのみ!」
2人は声をそろえてこういうのでした。
「この籠城戦、どうか助っ人をお願いいたします!」

●今回の参加者

 ea0221 エレオノール・ブラキリア(22歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea0480 鷹翔 刀華(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2984 緋霞 深識(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8685 流道 凛(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8904 藍 月花(26歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0654 レイヴァン・クロスフォード(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

鷹波 穂狼(ea4141)/ 春夏秋冬 志緒(eb0808

●リプレイ本文

●下準備
「間取りを変えなければ何をやっても良いという事は庭を多少迎撃用に改造しても構いませんでしょうか?」
「はいっ、もう、撃退する為でしたらいくらでも、がんがん手を加えてしまってくださいっ!」
 藍月花(ea8904)がそう確認するのに、娘さんは大きく頷きます。どこかきっぱり言う娘さんの言葉を聞いて、一行は迎撃準備を始めるのでした。
 月花は流道凛(ea8685)と共に取り壊された家などの廃材を伝手を頼って調達しに出かけて行き、天風誠志郎(ea8191)は問屋へと馬を引いて出かけて行きました。
 荷を運ぶ為に誠志郎の知人が手を貸して材木を取りに行く間に、月花の友人や『子供を人質に取るようなやつには天罰を』と緋霞深識(ea2984)、それにレイヴァン・クロスフォード(eb0654)が庭にザックザックと穴を掘り始めます。それを見て一緒になって指示を受けつつ穴を掘る若侍。
 一日目に幾度か往復したお陰で材木はすっかり揃い、穴も良い感じにしっかりと掘り進められた様子です。
「久々だな依頼受けるのも‥‥皆の足引っ張らなきゃ良いけど‥‥」
 そう言うのは秋月雨雀(ea2517)。
 秋月はエレオノール・ブラキリア(ea0221)と町の中を徘徊して情報収集をしていました。先ほどから若侍の実家の様子を窺っていると、人の出入りはせわしなく、時折『明後日の夕刻に』『連れ戻さなければ』などと話しながら歩く家人を見かけることも出来ますが、表だってそのことを話題にしている人はあまりいないようです。
「どうやら明後日の夜に襲撃を受けることはたしかね」
 エレンの言葉に頷く秋月。2人はそこから付近の酒場へと向かいます。
「道場が冒険者を雇ったが大した数じゃないしごろつきのような奴らばかりだそうですね」
「雇った用心棒も駆け出しらしいわ」
 酒場で食事と少々の酒を口にしながら、あくまで談笑を装っての会話ですが、その会話に聞き耳を立てている人間の存在を確認してのことです。
 エレンと秋月が戻って来た頃には、庭の様子はすっかりと様変わりしていました。
「その上に土を軽くかけて‥‥ん、多分完璧。‥‥あ、そこ、危ないぞ」
 そう言いながら布を張った上に土を軽く振りかけていた緋霞が顔を上げます。道場の縁台には見取り図に落とし穴の位置を記したものが置かれています。
「この辺りの柵を‥‥ええ、ここが少し薄くなってしまったので、補強を‥‥」
「あと少しで形になりますし、夜のうちにやってしまって、明日はちゃんと休みましょうね」
 月花が言う言葉に頷いて、凛が板を抱えて立ち上がります。日が暮れた頃に手を貸してくれていた人たちも茶を頂いて帰って行ったようですが、その手伝いの甲斐もあって、思った以上に作業ははかどっていた様子です。
「見晴らしが良いわね。これなら‥‥」
「物見台として申し分ない」
 月花が屋根の上を確認しに来たところ、すでに物見の鷹翔刀華(ea0480)は上から2つの門を確認していたところでした。夜目の利く刀華は物見に打って付けです。屋根にもいくつか板を使って物見台を作り据え付けると、屋根の上でも安定した体制で見張りをすることが出来ます。
 このように、二日目の昼頃には迎撃体制は整っていたのでした。

●迎え撃ち
 3日目の夜‥‥一同は迎え撃つために配置へと着いていました。
「篭城かぁ‥‥上手く行くかしら」
 寄せ手の数が多いこともあり、どこか不安の残る声で呟くエレン。休息時に精神的な疲労を癒す為のメロディーを唱え、一同の準備は万端です。
 若侍には娘さんを守って中で大人しくして貰っています。実力から言っても娘さんの護衛は若侍で十分のようです。
 やがて、物見の刀華の目に、薄暗い明かりを手にした一段が滑るようにやってくるのを目に留め、それを一同へと伝えます。
 板塀の向こう泡から感じられる人の気配に一同は僅かに緊張した面持ちで待ち構えると、戸のこちら側へ、先が鉤になっている紐を上から投げ込んで戸の掛けがねを引っかけて開けます。
 スと小さな音がして、玄関側からの侵入者が足を踏み入れたときでした。
「いらっしゃい、んでもって‥‥さいなら」
 レイヴァンは一歩板塀より前に足を踏み出すと、入ってこようとした者をソードボンバーで薙ぎ払います。小さな悲鳴に似た音を漏らしつつ倒れる男達を、後ろで何とか甲斐を逃れた者の数人が引っ張って外へと逃れ、入れ替わりに入った者へは緋霞のソニックブームが直撃。それに逆上した他の者が悪態をつきながら板塀へと駆け寄ります。
「あらあら団体さんですか、これだけ多いとちょっと困りますねぇ」
「くっ! 小癪なっ!」
 凛がそうおっとりとした様子で言いながら、なぎ倒された人間に屈み込んでいる男性へと軽やかな足取りで落とし穴を避けつつ接近するのに、咄嗟に屈み込んだ男は体を捩ろうとしますが、凛の一撃を交わすことは出来ません。
「このアマっ!」
 凛を捕らえようと手を伸ばした男は、それをすり抜けて板柵まで戻ってくる凛を追って足を踏み出しますが、鈍い音と土埃が立ったかと思うと、落とし穴に足を取られ、しかも勢いづいて踏み出したためか鈍い音と共に倒れ込んでのたうち回ることになります。
 その脇では、躓いたためか直ぐ隣の落とし穴に顔から突っ込み、そこに溜めてあった泥に顔を塞がれ死にものぐるいで藻掻いて身体を起こす者があったり。
 玄関側は少なく見積もっても7人はこれで脱落した様子です。
 裏口の小さな戸から侵入してきた男達は、どこか慎重な様子で足を踏み入れます。板柵に気を取られた様子の男達に、秋月のはっきりした声が聞こえてきます。
「とりあえず怪我したくない人は回れ右を推奨します」
「何ぃっ!」
 門の所にぴったりと張り付くようにして男達をやり過ごしている誠志郎から目をそらすには十分の効果で、じりっじりっと足下を注視しつつ落とし穴のど真ん中へと男達が辿り着いたときでした、秋月が再び口を開きます。
「エレン、どかんとでかいのやっちゃって!」
「任せておいて。‥‥ここを通させはしないわよ」
 そう言ってエレンが打ち込んだ魔法はシャドゥフィールド。一瞬にして男達は視界を暗闇へと落とし込まれ、あちこちから悲鳴が上がります。
「鬼道衆が一人、天風‥‥。参る‥‥!」
 よたよたと暗闇の中から何とか這い出てきた男が目の前にいる誠志郎に慌てて獲物を握り直すのですが、すぐに誠志郎の一撃により倒れ込み、またある男は建物の方へと這い出て、エレンのチャームにより怪我人を引っ張って穏便にお引き取り頂いたりしていました。
 裏口側の脱落者は8人程でした。

●板の間で対峙
 板の間に何とか乗り込んできたのは5人。ですがどれもこれも泥だらけであったり、なぜかよれよれになっています。
「き‥‥貴様らぁ!」
 そう絶叫する男達と対照的に、年長者らしい頭巾で顔を隠している武士はちらりと一行の戦力を推し量っている様子でした。
 刀を手に突っ込んでくる男に軽く歩を踏んでそれを避ける緋霞。避けられて逆上する様子の男に、物見台から下へと降りてきた刀華がスタンで黙らせます。
 エレンへと向かう男達へは秋月と誠志郎が立ちはだかり、レイヴァンの右腕の煙管がそのうちの一人である男を倒すとさすがに侵入者の顔から怒りよりも焦りが浮かび始めました。
 凛へと手近な男が斬りつけるのに、凛はそれを受け流すと、男は体勢を立て直して目の前にいる月花と睨み合う形となります。
「これが世間に公になったら問題になると思いますけどねぇ。町道場を武家の家人が襲撃、なんて」
 秋月がそう言葉を発したのが止めとなったのでしょう、舌打ちをして刀へと手を伸ばす男へ、頭巾の男が手で制すと昏倒している男を引きずるようにして部屋を出て行き庭へと足を向けます。それを見て、月花と先ほどから睨み合っていた男も、じりじりと後退を始め、道場の縁まで来ると回れ右をして庭へと逃げ出します。
 男が逃げた後に、庭で何かが落とし穴に落ちた音がしたも、きっと気のせいでしょう。
 刀華が屋根の物見台へと戻り辺りを見ると、散り散りに逃げて行く男達の他に道へは人影もなく、道場内の騒ぎに近隣の者が道場を窺っている様子が見えるだけでした。

●祭りの後
「ありがとうございました、すっきりしました♪」
 そう嬉しそうに言う娘さん。だいぶ頑張って庭を直したのですが、完全にとは行かなかったようです。ですが、娘さんは気にしていない様子。
「これに懲りて、兄上達も自分たちの名誉は大事でしょうから、そうそう何かやるとも思えません。ます当分は何もしてこないと思います。本当にありがとうございました、庭の方はわたくしが必ず片づけておきます」
 そう若侍が礼を言うと力強く頷いて約束したときでした。壮年の少しだらしない様子をした男性が、若い2人の弟子らしき男性2人を連れてやって来て、冒険者一行に不思議そうな顔をしながら会釈をします。
「えぇっと‥‥何かあったのか?」
「何もなかったわ!」
 きっぱりという娘さんに不思議そうな顔をした道場の主は、弟子が荷を持って中へ入ろうとして落とし穴に嵌って呆然としているのを見て、目が点になっています。
「‥‥本当に、何も?」
「ええ、何もないわ。皆さん、本当にありがとうございました♪」
 娘さんは父親にそうきっぱりと言い放つと、一行をにこにこと笑って送り出すのでした。