仏師達の鬱屈
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:2〜6lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月13日〜02月18日
リプレイ公開日:2005年02月22日
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●オープニング
『菩薩から明王まで、安心確実、最高品質! 安価引き受けいたします!』
こんな売り文句の仏師が、ほっそりとした男性と連れだってギルドに訪ねてきたのは、冬の合間に訪れた晴れ間の、とある暖かい日の午後でした。
「実は、なんだかうちがとった弟子と、弟弟子がとった弟子が喧嘩というか仲違いというか‥‥」
説明し辛いらしく頭を掻く仏師に変わり、弟弟子のその男性は困ったように微笑んで口を開きます。
「私は妙尚、こちらは兄弟子の建尚。どちらも同じ師から学び、同じ時期に新しい弟子をとりました。といっても、建尚兄さんはすでに他にもお弟子さんがいらっしゃいましたけれど‥‥」
「まぁなんだ、つまり妙尚が東北の方からとった弟子と、うちの馬鹿弟子が合わないというか‥‥ぶっちゃけ、妙尚の弟子が何かを諫め、うちの不肖の弟子がそれに偉い剣幕で食ってかかると‥‥」
「2人に聞いてもどちらも何でもないと誤魔化すばかり‥‥うちの子が来たばかりの頃は、おっとりしたうちの子に、口数少なく無愛想でも決して冷たいわけではない建尚兄さんのお弟子さんはとても仲が良かったんですけど‥‥」
そう言うと溜息をつく妙尚。二人して悩んだ末、心当たりがあるとすれば、建尚の所の弟子に怪しい男達が付きまとっているということだそうです。
「うちの弟子は曲がったことが嫌いだが、それ以上に貧しい出の為、家族のことを何より大切にしている。取り分け良く問題を引き起こすと話す弟のことを」
「きっと弟さんのことで、何かやっかいなことに巻き込まれているんじゃないかと‥‥仲の良いうちの子はそれを知っていて、何かを止めさせようとして居るんじゃないかと思います。でも、私たちがいくら聞いても2人とも話してくれないので‥‥」
そこまで言うと、2人は深々と頭を下げます。
「どうか、私たちの弟子が巻き込まれている問題を、調べて解決してはもらえないでしょうか」
●リプレイ本文
●妙尚の弟子
「師匠達に心配かけたくないと言う気持ちは分かるが、何も話してくれないと逆にひどく心配してギルドに依頼してきたぞ」
妙尚の弟子にそう言うのは三菱扶桑(ea3874)。その横で忍耐強く妙尚の弟子に目を向けているのは周防佐新(ea0235)です。
妙尚の弟子は妙連といい、建尚の弟子は連尚と言うそうです。妙連がいたのは妙尚の屋敷のすぐ近くにある小さな家で、そこでこざっぱりとした小柄な老婆と暮らしていて、訪ねていくと老婆が茶を出してもてなします。
「おらぁ‥‥だども、連尚さんさ約束したす、誰さもしゃべらねと」
そう言いながらも妙連は迷っているようで、落ち着きなげに目を膝へと落としては顔を上げて三菱と周防を見るというのを繰り返しています。
「まぁなぁ。身内の頼み事は、断り切れねぇのが心情だろう。それが嫌でもなぁ」
周防の独り言に近い言葉に、はっと弾かれたように妙連は顔を上げます。その顔に、何処まで知っているのかと窺うような様子が見受けられます。
「連尚殿の弟さんとやらは、江戸の活気の悪い部分に目を向けちまったのかもしんねぇな」
その一言に、真っ青になる妙連。三菱と周防の顔を交互に見比べているのですが、そこへの三菱の一言が決め手となりました。
「話すだけでも楽になるかもしれんし解決策も見付かるかもしれん‥‥話してみないか?」
がっくりと肩を落とす妙連ですが、暫く俯いていましたが、小さく息をつきます。
「‥‥じつは、連尚さんの弟さんさ‥‥」
そう言って話し始める妙連。平たく聞いた話では、連尚の弟さんが姿を現したのは半月前。お金の無心かと思いきや、珍しく羽振りも良さそうで、聞けば当たりに当たって懐も暖かく、いつもお金をねだっている兄に少し返してやろう、とのこと。
連尚自身は実直でお金に執着があるわけでもなくお金を返すと、家に戻ってやるか、いい加減博打から手を引けと言っていたらしいのですが、ツキがあると信じる弟は当然聞く耳を持たなかったとか。
それからも勝ち続けた弟さん、その賭場を我が物顔で歩いていたところ、なにやら見てはいけない物を見たらしく、つい一週間程前、兄の連尚へと手紙で『たすけて、かねもっていけば、みのがしてもらえる、このままだと、ころされる』とへたくそな字で書かれていたそうです。
「そん手紙さ持ってきた男がしゃべるには『お前のとこの師匠の作品も金にはなる、それで手を打ってやっても良い』だど‥‥連尚さん、そっだらこと出来ねすから、自分でなんっとかして見づけて助けねとと、ずっとあっちらこっちら探してるす」
そう言って、話してしまった安堵感と、約束を破った罪悪感とで泣き出す妙連を、老婆が背中をさすって慰めています。
「どうか、この子達を助けてやっては貰えねぇでしょうか」
そう言って老婆は、泣きじゃくる妙連の背を撫でながら頼むのでした。
●建尚の弟子とその弟
「ん〜〜‥‥何か悪いことしでかすつもりなら、止めさせられるものなら止めたいね♪」
思い詰めた顔をして裏路地を彷徨い歩く建尚の弟子・連尚の後をつけつつ、草薙北斗(ea5414)は注意深く連尚の周りに気を配っていました。
「わりぃな、どうしても心当たりが見あたらねぇ‥‥俺も探してみるが、あんたはちっとこの辺りでは目立ちすぎる、戻った方が良い」
河原で息をついて立ち止まった連尚は、遊び人風の男に声をかけていたようで、その男は心配している様子で連尚に戻るように促します。その様子を見ていた北斗は、ふと会話をしている2人をじっと見ている、風体の宜しくない男に気がつきます。
男は遊び人と別れて歩いて行く連尚を暫く追い回しますが、そのうちに歩み寄って何か囁きかけたかと思うと、連尚の顔は強張り、そのまま歩き去って行く男を見送っている様子。
北斗はそのごろつき風の男を追って行きます。
やがて辿り着いたのは、どこぞの武家屋敷ですが、そこは荒れ果てていて、またあまり雰囲気の良くない男達が出入りしています。
天井裏から中を覗くと、そこは賭場となっていて薄暗く、賭場を取り仕切っている者たちも、一癖も二癖もありそうな者達です。ふと、なにやら中にいた下っ端らしき男が、にぎりめしを皿に乗っけて奥へと入って行き、すぐに皿だけ置いて出て行きます。
北斗がそっと足音を消して床下へと移り確認すると、床に転がされている男が見えます。その男はすっかりとやせ細り、実際の年齢よりも幾分か老け込んだような、それでいて、連尚と似た面立ちから、件の弟だと予想がつきます。
「‥‥しかし、どうします、あの野郎の兄は金を用意してくるんでしょうか?」
「どっちにしろ、金目の物を受け取ったら兄弟まとめてばらせ。まったく、あの方は別の場所に移って頂いたが‥‥いらんもんを見たあの餓鬼が悪い。それに、少々奴は勝ちすぎたしな」
にたりと笑う中年の男の言葉に、耳障りな笑い声を上げるごろつき。北斗はそこまで確認すると、その場を後にしました。
がっくりと肩を落として歩いていた連尚が、途中水茶屋に立ち寄って汗を拭いますが、それまでずっと後をつけていた緒方仁三郎(eb0792)がつつと歩み寄ります。
「‥‥‥あんたは?」
「遊び人の仁さんとでも呼んでおくれやす」
「達さんのお知り合いか?」
どうやら先ほど話していた遊び人は達というらしく、その知り合いと勘違いしたようで、思ったより警戒はされません。
「そんなもんです。それより、一人で飲む酒は寂しいもんですねん。ちょっと一杯付き合ってもらえまへんか?」
そう言うと奥の席で酒を用意して貰い、連尚へとしこたま飲ませる緒方。やがて小さく肩を震わせつつ杯を干す連尚へ、緒方は口を開きます。
「ご兄弟は?」
「‥‥弟は‥‥まだ何処の賭場にいたのか分かっていなくて‥‥見つからん‥‥」
どうやら緒方の質問を取り違えているようで、酔っぱらって焦点が定まらないままに答えます。
「一度だけ、山寺に呼び出されてあわせて貰ったが、どうやら変な顔に傷のある凄みのある男を見かけただけで、何で捕まったのかがさっぱり分からないらしい‥‥金か師の仏像か、どちらかを持ってこないと殺すと‥‥だが、金は用意できず、大恩ある師の作品を盗み出すことも出来ん‥‥だが、師の作品を持ち出す以外に弟は助けられん‥‥」
突っ伏して泣く連尚をなだめすかして、緒方は一行が待つ妙連の家へと向かうのでした。
●交渉
「妙連、お前‥‥」
「申し訳ねす‥‥だども、黙ってられねかったす」
連れてこられた連尚に涙ながらに謝る連妙。
「悪いことをしようとしているのを知っているなら止める。それが家族や友達なら尚更だよ」
北斗の言葉にうなだれる連尚。
「顔に傷のあるいったら、ちょっと前に手配書だかで見たことのある、どこぞの盗賊のお頭とかじゃないかの」
年寄り連中の間ではそれぐらいしか話すことないでな、と茶を運びながら話す老婆。どうやら盗賊を匿っていた所に、勝って良い気になっていた弟が止めるのも聞かずに入っていき、今回の騒ぎになった様子です。
「聞いたところによると、もう別の場所に移ったみたいだし‥‥」
「単独や単なるグループなら相手を説得するなり脅すなりして解決する事も可能だが、組織の場合は厄介だ。親分さんと話を付けないといけないが、下手をすれば組織と揉める事になる」
北斗が言うと、考えた末、三菱が発した言葉に、連尚は縋るような目で見上げます。
「出来るだけ話し合いで解決したい」
「乗り込むなら力は貸すが荒事にゃあしたくねぇし、向こうだって騒ぎにしてお役所の世話になるなんて面白くねぇだろう。脅しをかけりゃ弟も解放されるかもしれねぇ」
三菱の言葉に続き周防もそう言って頷きます。
やがて、連尚は悩んだ末、全てを一行に任せるといって、何度も頭を下げるのでした。
一行は、連尚を伴い、北斗が突き止めていた武家屋敷へと向かいました。
そこに待ち構える親分ですが、他にぞろぞろと連れてきた一行を気に入らないような様子でじろじろと眺めています。
「‥‥で、そんな都合の良い話があるとお思いで?」
「盗賊を匿ったと分かりゃ都合が悪ぃのはお前ぇらの方だろ?」
「知っているのは俺たちだけじゃない。この男の弟も俺たちも戻らなければ、否が応でもこのことは奉行所へと伝えられる」
周防と三菱に言われる言葉に、もの凄い形相で睨み付けていた男ですが、やがてゆっくりとその頬がゆるみ、低い笑い声を、そして徐々にそれを大きくすると傍らの男に合図をします。
「お前さん方、気に入りましたよ、今回は大目に見てあげましょ」
そう言うと、下っ端に引き出され、突き飛ばされて転がる様に三菱の足下へと倒れ込む痩せた男を連尚が助け起こします。
「あたしがあんたでしたら、その弟さん、もう二度との話にはしないでしょうね」
そう、まだどこか可笑しそうに笑いながら男は煙管を取り出して燻らせるのでした。
●若き仏師達
数日後、例の武家屋敷はすでにもぬけの殻でした。
「兄ちゃん、許して、な、もう博打はしない、家の手伝いをしてまっとうに働くから、許してぇ」
金を持たせて縁を切れ、と緒方が連尚に勧めるのを見るとそう泣いて縋る弟。
「危ねぇ事に足を突っ込むと、命を落とすぞ」
「はい、はい、身に染みて‥‥もう二度とこんなことにはならないように、真っ当に生きますぅ」
そんな泣きじゃくる弟を尻目に、北斗はにこりと連尚に笑いかけます。
「一件落着〜♪」
「‥‥本当に、皆さん有り難うございます。妙連も、悪かった‥‥本当に有り難うな」
「おら、なんもできねかたす」
「そんなことない、本当に感謝している」
連尚は妙連に礼を言うと、改めて一行へ顔を向けて深々と頭を下げます。
「本当に、皆様本当に有り難うございました」
そう言って、若き仏師の卵は、心からの笑みを浮かべて笑い合うのでした。