≪おいでませ♪≫人手不足の白華亭

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月19日〜02月24日

リプレイ公開日:2005年02月28日

●オープニング

「大変申し訳ないのですが‥‥どなたかお手すきでしたら助けていただきたいのですが‥‥」
 そう申し訳なさそうに言うのは20代後半のほっそりと年増痩せした物腰の柔らかい宿の女将さん。彼女は江戸から少し行ったところにある、小さな温泉宿『白華亭』の名物女将です。
「申し訳ございませんが、どなたかに宴のお手伝いをしていただきたいと思いまして‥‥実は従業員のお里で用事ができてしまい、いつもよく働いてくれますのでお休みを渡しましたのですが‥‥実はちょうどその時期と重なるときにと、とある若いお客様から、何やら喧嘩屋様の歓迎会の為の貸し切り予約を承りまして‥‥」
 そういうとほうっと頬に手を当ててため息をつきます。
「普段は冒険者の方々にもいらしてもらえるように心がけているのですが、なんと言いますか‥‥そう言う方々の歓迎会というのは初めてですので、できましたら勝手が分かる方々にお力をお借りしたいと思いましたもので‥‥口入れ屋ではなくこちらへ伺わせて頂きました」
 そういうと女将は頭を下げてから口を開くのでした。
「大変申し訳ありませんが‥‥少しの間だけで構いません、宿の仕事を手伝っていただけないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea1883 橘 由良(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea2517 秋月 雨雀(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea8703 霧島 小夜(33歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1148 シャーリー・ザイオン(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●助かります♪ のお手伝い
 一行が宿へと着いたのは、その日の昼下がり。急いだ為、お客さんより早く付いたものの早速準備に取りかかります。
「俺ってどっちかっていうと目立たない仕事の方が得意なんですよね‥‥」
 秋月雨雀(ea2517)はそう言うと荷物を用意されていた部屋へおろします。
「もう少し腕をあげろ‥‥」
「こう、か?」
「そう、そのまま‥‥」
 荷をおいた後、秋月は霧島小夜(ea8703)に仲居さんが着る淡い藤色の着物を着付けて貰います。
 言われた通りに腕を上げる秋月に、手際良く帯を締めると今度は化粧に取りかかります。
「凄いね、どこからどう見ても女性に見える」
 次に小夜に着付けをして貰う予定のサラ・ヴォルケイトス(eb0993)がそう言って驚いたように目を瞬かせるのも当然のこと、そこには見事な女装美人仲居ができあがっていました。
 『喧嘩屋様大歓迎!』という垂れ幕を、玄関上の窓から垂らし、いそいそと部屋の準備に移動するのは所所楽石榴(eb1098)。
 石榴はどこか機嫌が良さそうに部屋の襖を外すと、それを嵐山虎彦(ea3269)に渡していき、その近くではシャーリー・ザイオン(eb1148)がせっせと箒で部屋を掃いており、なかなかに広い客間は瞬く間に綺麗に準備が整って行くのでした。
「お客様はご予約者様に喧嘩屋様、それに冒険者の方が8人です、大変でしょうが緒よろしくお願いいたしますね」
 そう言って女将は部屋を整える面々へと頭を下げるのでした。
 厨房では、橘由良(ea1883)と天風誠志郎(ea8191)が板前さんに指示をして貰って準備を手伝っていました。
「喧嘩屋さんって有名ですよね。物騒なのはあんまり好きじゃないですけど、逞しいのは羨ましいです‥‥俺も少しくらい彼みたいに筋肉付けばいいのになぁ」
 橘が溜息混じりにそうこぼして自身の二の腕を掴むと、むにゅっとした感触がします。その横で誠志郎は板前と顔をつきあわせて献立の確認をしています。
「鍋物が良さそうとしゃーりー殿が案を出していた。それを取り入れ、牡丹鍋、鹿鍋、海鮮鍋等にしてはいかがだろうか」
「牡丹に紅葉、か‥‥今はぎりぎり牡丹鍋に良い頃だ。海鮮は、刺身に良い、脂ののったものが入ったからな‥‥それにさっぱりした吸い物と‥‥そろそろお客が来る頃だ、磯がねぇとな」
「あ、じゃあ俺、燗の準備しますね」
 そう言っていそいそと湯を用意する橘。
 そこへ客室が一段落付いた石榴と嵐山が戻り、嵐山は早速庭で薪の用意を始めます。
「宴会なら、何はなくともお酒は大量に必要ですよね」
 橘の言葉を聞きつつ、誠志郎も板前を手伝って鍋の具を丁寧に洗い始めるのでした。

●おいでませ♪ の白華亭
 白華亭の前に喧嘩屋・結城左之と予約をした青年がやって来たのは準備を何とか終えた頃でした。
 静かで洒落た佇まいの白華亭ですが、玄関の上にばんと表示された垂れ幕に、なぜか唖然とした様子です。
 暫し沈黙の後、頬掻いて苦笑する左之。
「悪かァねェンだけどなァ‥‥泊まるぐらいでここまでされるってのもよ‥‥」
 そう言いつ旅館へと入っていくと、玄関に強手をついて迎え入れる姿が。手をきちんとついて女将と名乗る女性のすぐ後ろに控えて同じように頭を下げる仲居さん。
「白華亭へようこそ。仲居の秋と申します‥‥お荷物、お持ちしますね」
 そう言って左之から荷物を受け取り女将に習った通り案内する楚々とした姿、部屋へと案内され、すでに用意された酒を酌されると、左之も上機嫌の様子で杯を手に取るのでした。
 部屋の床の間には石榴の用意した竹の花瓶に椿の花が生けてあり、それが部屋の雰囲気を引き締まったものにしている様子で、石榴が言うには花言葉は『私の運命はあなたの手に』で、喧嘩屋の左之にぴったりというのは頷けます。
 冒険者達がまだ到着していない間、予約をした青年はそわそわ玄関の辺りを歩き回っていますが、その間、秋月とサラがつまみやお酒などを運び、お酌や左之の活躍を聞いたりとしていたようでした。
 入り口付近で賑やかに聞こえてくる声に、仲居の姿になった小夜が迎えにでると、冒険者達が到着したようで、どうにも見覚えのある姿がちらほら‥‥。
「あ〜っ、小夜さんだ〜っ」
 冒険者達の中にいるシフールが声を上げますが、小夜は何事もなかったかのように、全く知らないかのように装って『いらっしゃいませ、ごゆっくり』と礼をして迎え入れたりしています。
 青年が途中で女将に部屋の案内を任せると、部屋に入る前にちょうど秋月が空になったお銚子を手に出てくるところです。
「これは‥‥その‥‥出来心いや不可抗力ですよ、ええ」
 仲居の姿をしている秋月は、知人が冒険者一行に混じっているのに気が付くと、誤魔化すようにそう言って笑いつつ、そそくさとその場を立ち去るのでした。

●頑張ります♪ の裏方作業
「酒樽を運んだりするのは俺の仕事か・・・・ちっとぐらい減っててもだれもきづかねぇよなぁ・・・・」
 酒樽がどんと置かれていて、次々燗をされていくので、新しく樽を厨房に運び入れてから、嵐山は思わずきょろきょろとしてから一杯掬ってくっと飲み干します。お酒は爽やかな味わいで、嵐山ならいくらでも飲めそうな感覚を覚えます。
「料理も豪華なのが出るかねぇ? ・・・・宴会料理余ったらちっともらいたいもんだ」
 料理も覗き込んだりしてみますが、つまみ食いする間もなく、仲居さん方に渡す為に目の前のお膳を誠志郎が取りに来るのに慌てて手を引っ込めます。
「料理と、特にお酒を補充するのが忙しいですね」
 決してお燗だけをしているわけではないのですが、とにかくお酒の減りが早い宴席のようで、気が付けば橘はお燗の係りに近くなってしまっています。
『おーい、手伝いさん! お酒足りてないからお願いー!』
 そんな声に弾かれたようにシャーリーは立ち上がると、橘から燗をしたお銚子がたくさんのっているお膳を受け取って、いそいそと客室へと向かいます。
 危険を察知してか、だんだんと賑やかになってきた辺りから秋月は控えでの細々としたことを手伝って客室の方から避難している様子です。
「それにしても、大騒ぎをして食べている暇がないはずなのに、思いの外料理の消費が激しいな」
 そう言う誠志郎。誠志郎はその料理をたった2人が、しかもそのうちの1人は知り合いなのですが、それだけでほとんど料理を平らげているなど思いもよらないでしょう。お酒は交代交代でお燗にして運んでいるものの、料理などを運ぶのは一段落したようでのんびりと賄いを頂いたりする余裕は出来てきたようです。
 不意に、客室の方から、何か木製の物が割れるといいますか、とにかく大きな音に小夜が急いで駆けつけますと、どうやら冒険者が持ち込んだちゃぶ台が壊れただけの様子、ひとまずほっと一息ついたのでした。
 そんなこんなで宴席が終わると、一行は働き疲れで泥のように眠り込み、休んだりするのは次の日に持ち込まれたようです。

●お疲れ様♪ の冒険者達
 冒険者一行を笑顔で送り出した女将や温泉宿の面々は、一行に礼を告げるとそれぞれに客間を勧め、板前も手伝って貰えてとても助かったといって牡丹鍋を再び作って用意しておいてくれました。
「大変でしたでしょう? 皆様、温泉にでも浸かってゆっくり疲れを癒してくださいね」
「報酬貰った上に楽しい時間を過ごさせて貰えるんじゃ、俺の気が落ち付きませんよ‥‥」
 橘がそう言うのに、女将はゆっくりと首を振ると柔らかな笑みを浮かべて口を開きます。
「いつもよりずっと、昨日は本当に忙しかったんですよ。これでも足りないぐらいです」
 女将は心から感謝をしているようで、期間一杯、ゆっくりと休まれていってくださいね、と笑って言うのでした。
 まだ雪が残る森を見ることが出来る露天風呂にて男性陣も女性陣も、それぞれの湯で温泉を堪能していました。
 日もすっかり落ち、空にはぽっかりとお月様が浮かんでいます。それを見ながらの温泉は、なかなかに風流です。
「熱いお風呂は苦手なんですが温泉は大好きで‥‥次はきちんとお客として遊びに来たいなと‥‥」
 そう言いながら湯を掬って肩にかけるようにし、そこから腕をさっと撫ぜるように手を伸ばすのは橘。その側で秋月と誠志郎は互いに酌をし合い、のんびりと月見酒と洒落こんでいるよう。
「漸く一息つけたな‥‥」
「ほんとに、忙しかったですねぇ」
 そんな話をしては笑う2人に、どっかりと湯に浸かりながらもどこか華やいだ笑い声が聞こえてくるのに気になるかのようにそわそわとする嵐山。そうっと声の方へと向かうのを見送る3人の顔には、止せばいいのにという文字が浮かんで見えたとか。
「甘いぞ、虎彦っ!」
 案の定すかーんと顔のど真ん中に桶を受けて雪の上に着地、その冷たさに悶絶する嵐山。その騒がしい音を聞きつつふん、とばかりに湯に浸かり直す小夜。
「ジャパンには『覗き』という風習があると聞きましたけど‥‥」
 本当だったんですね、というシャーリーに風習と違うという代わりに全力で撃退するのだと教えてみたり、サラの髪をいじったりとなかなか楽しそうな様子の小夜。
「たまにはこういう依頼も良いものだよね」
 心地良さそう露天風呂の中でのびをする石榴。
 そんなそれぞれの寛ぐ姿を、月だけが静かに見守っているのでした。