ぼくの兄上
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月07日〜07月12日
リプレイ公開日:2004年07月15日
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●オープニング
場違い‥‥冒険者ギルドに、身なりの良い、大店のお坊ちゃん然とした十満たない少年が入ってきた時には、きっと誰もがそう思ったに違いないでしょう。
少年は入口から何度も何度もギルドであることを確認して、中を覗き込んでは怖じ気づいたように戻りかけて、と言うことを繰り返してから、意を決したように中へと入ってきます。
その少年はきょろきょろと不安げにお店の中を見渡しながら、とてとてと聞こえてきそうな足取りでギルドの人間へと近づくと、軽く首を傾げました。
「ここで、おしごとをたのめるって、本当ですか?」
こきゅ、とでも聞こえてきそうな様子で首を傾げて聞く様子を、中にはクスクス笑ってみている人たちもいます。
幾らなんでも、子供の持つお金など、たかが知れているからです。
それでも、一度声をかけて決心が付いたのか、少年は必死で頭を下げて話を聞いて貰おうとしています。
「おねがいです、ぼくの兄上をこらしめてください。ぼく、おこづかいをがんばってためて、お金、持ってきました。兄上、悪いおとなになっちゃいそうなんです、こらしめて、元のやさしかった兄上に、もどしてください」
そう言う少年の手には、小銭を貯めて用意したであろうお金の入った巾着が握られています。
巾着を開いてみせる少年ですが、やはり仕事を頼めるような程は入っていません。せいぜい、人の良い冒険者が自分の腕を叩き売っても1人が精一杯。それを、何人も雇うなど、不可能に決まっています。
報酬にならないなと興味を無くす者や、同じ理由でばつが悪そうに目を逸らす者の様子に少年の顔にみるみる落胆の色が浮かびます。
「兄上、わるい人たちとあそびに出かけるようになって、急にこわくなりました。父上も、母上も、兄上がおこるとこわいから、なにも言えません」
どうやら博打や喧嘩と、少年の兄は荒れるだけ荒れてしまっているようで、近頃町で風体の良くない男達と一緒に暴れ回っているようです。
話を聞いている様子では、一度父親が諫めて、大怪我をさせられて大変になったことがあるようで、それ以来、家族はじっと耐えている様子でした。
「‥‥ぼく、ぼく‥‥おかしもがまんして、おもちゃもがまんして‥‥ひっく‥‥いっしょうけんめい、お金、ためました。おねがい‥‥兄上を‥‥ぐす‥‥兄上を、こらしめて、あげてください‥‥」
少年は泣きながら、再びギルドの人間に頭を下げ続けていました。
●リプレイ本文
●やさしいぼうけんしゃさんたち
少年は冒険者の皆さんの前で、少し緊張しているようでした。少年にしてみれば強かったりいろんな事を知っていたりと、有る意味あこがれの対象でもある見たいです。
「あの、みなさん、よろしくおねがいしますっ!」
ぴょこんと頭を下げる少年に、エステラ・ナルセス(ea2387)は優しい目をして頭を撫でています。そんな2人の横で、鬼頭烈(ea1001)が中心となってジャパン語の分からないエステラへ意志を伝える為の方法を他の面々に確認しています。
「僕はナルセルさんの護衛という風に装って鬼頭さんと一緒の行動ですね?」
「俺はごろつき共を煽てて情報聞き出しとくぜ。しかしなんだ、弟ってのもいいもんだね」
手塚十威(ea0404)の言葉に鬼頭が頷くと、羽雪嶺(ea2478)もそう言って、エステラに撫でられて顔を赤くしている少年へと目を向けていました。
「いたいけな少年が泣いてるのを見過ごすわけにゃいかぬ。つー事で、改心してもらうのじゃ‥‥見とれよ兄貴!」
枡楓(ea0696)はなにやらあやしい笑いを浮かべながらそう言い切りました。
●聞きこみはたいへん
兄に関わるごろつき達が徘徊していると聞いた界隈。鎮樹千紗兎(ea0660)は遊び人を装って歩いています。先ほどこの辺りの賭場を聞いた千紗兎は、教えられた武家屋敷風の建物へと入ります。
「にぃさん、なかなか羽振りが良さそうじゃござぁせんか」
暫くして隣へと座りながら小柄な男が言うのに目を向けると、どうやら今来たばかりのその男は、どこか場違いな青年を連れてきているようで、少し離れたところでいそいそと参加する様子に、千紗兎はこっそりと隣の小男に聞いてみます。
「何であんなお坊ちゃんがこんな所にいるんです?」
「場違いって言うならあんたも同じだと思いやすがねぇ。ま、いわゆる金ヅルでっていいやすか‥‥あいつ煽てりゃあ、幾らでも金ぇもってきやすからね」
「ふぅん、んじゃ。是非たかりませんと」
にたりと笑いながら言う小男に、感心した振りをしながら千紗兎は兄を見ていました。
「ここいらで一番有名なんだろ、凄いなー♪ 俺も仲間に入れてよ」
雪嶺はそう言って拳を握ってにっと笑います。運良くごろつき達がつるんでいる所に遭遇したようです。彼らの仲間に入り込んで、上手く誘導しようという考えのです。実際、そう言われたごろつき達は上機嫌で雪嶺を迎え入れています。少しの間、雪嶺は彼らに混じって行動するようで、上手くごろつきを煽てて仲間に入り込みました。
一方その頃、紫上久遠(ea2841)は旅籠の並ぶ通りを聞き込んでいますと、辺りの人たちに煙たがられているのか、なかなか関わりたくないからと話して貰えませんでした。根気よく聞き込みを続けると、酒場の親父がすぐ向かいの旅籠を指して溜息をつきます。
どうやらこの店ごろつき達が毎晩来ては他の客に迷惑をかけて困っていたそうで、もしやと思って紫上が協力を臭わせることを言うと、むしろ彼らを排除して欲しいと頼まれます。主人の話で、旅籠の方でも同じで、人を雇う相談していたそうで、もし排除してくれれば報酬を払うと約束してくれます。
エステラ・鬼頭・手塚がこの酒場でごろつき達と接触したのは、まだ日の高い時間でした。中には、千紗兎から聞いていた青年の姿もあります。青年はなにやら彼らに良いように煽てられ、これから家に金を取りに行くのか他の者達が旅籠へと向かうの、酒を飲みながら見送っています。
「おい、お前、この辺りは詳しいか?」
「俺たち、この方の護衛兼通訳なんですよ。宜しければ、この辺りの案内などをお願いしようと思いまして‥‥もちろん、十分お礼はさせていただきます」
鬼頭が青年1人になったところを見計らって声をかけます。吃驚したように鬼頭を見る青年に、手塚が穏やかな様子で続けます。青年は手塚の言葉にエステラへと目を向けて、見せられる金子に一瞬息を呑み、すぐに笑って頷きます。
「いいだろう、これからすぐかい?」
鬼頭が青年の言葉を伝えると、エステラは微笑み同意しながら手で○と作ります。そのやりとりを見て、信用したのでしょう、青年は、依頼人の少年と良く似た顔でにっと笑いながら立ち上がりました。
●わるい人たちをやっつける
江戸の町の庶民の生活を、兄は良く知っていました。案内しているうちに、エステラ達は青年がどちらかと言えば素直で騙されやすい性格である事に気がつきます。
少し離れたところを、楓がついて辺りに気を配っています。
だいぶ長い時間を案内されると、エステラ達に誘導されて、再び酒場へと戻ってきます。主人の協力で、すぐに2階へと案内されて中へはいる4人。下の声は丸々聞こえてきます。
それを確認して、楓は各々に酒場へ集まるように連絡を取ります。
すぐに酒場では雪嶺に良いように煽てられて気を良くしたごろつき達が呑みにやって来ました。中には、少し偉そうにしている侍が混じっています。前もって酒場で待機していた紫上も酒を片手に声をかけ、酒を注ぎながらごろつきの輪に入り込み、気さくな様子で話しかけています。
「兄貴達は羽振りがいいよな」
「羨ましい限りだ。俺もあやかりたい。全く‥‥、どっかに金でも落ちてねえもんかな。金のなる木でも生えてねえか」
雪嶺の言葉にそう紫上が言うのに、ごろつきの1人がにんまりとして言います。
「金のなる木ってなぁ実際あるぜ? ま、使いきっちまったらそれまでだがな」
「ちょいと仲間の顔してりゃあいそいそと家の金持ってくるんだからな」
下卑た笑いを浮かべて言うごろつき達。ふと鋭い視線で侍が睨むと、ごろつき達は慌てたように口を閉じます。
「今の奴らの話、どう思う?」
鬼頭が兄へと声をかけます。兄はぎゅっと唇を噛んで膝で手を握りしめています。いつの間にか指が真っ白になるぐらいに力が籠もり今にも下に怒鳴り込んでいきそうな様子です。
「今の彼らの話は本当です。賭場でも同じように良い金づると話していました」
そっと2階へと上がってきた千紗兎が言います。
「俺たちはお前の弟さんに頼まれて来た。弟さんは自分の小遣い握りしめて、1人でギルドに来たんだぞ?」
鬼頭の言葉に、はっとしたように顔を上げる兄。
「この意味、分かりますよね? 私も10人兄弟の末っ子。弟さんの気持ちは良く分かります。弟さんは、元の優しいお兄さんへと戻って欲しいと、そう言っていましたよ」
手塚の言葉に唇を噛みしめたままボロボロと泣き出す兄。その様子を見て、千紗兎はそっと階段から雪嶺に合図を送ります。
「僕お前らとつるむの止めたよ、有名だから魅力があるのかと思ってたのに雑魚なんだよお前等」
突然雪嶺が立ち上がるのに、ぽかんとするごろつき達。侍だけが予想していたかのように雪嶺を見据えます。
「やはりな、胡散臭いとは思っていたが‥‥」
そう言う侍の言葉に徐々に理解出来たのかごろつき達はすぐに怒りを露わにして立ち上がります。ちらり、侍が酒場の中へと目を向けて広さを確認すると、小さく舌打ちをして酒場の入り口へと歩き戸を開けます。
「どうせはじめからやる気なのだろう‥‥お互いやりやすいところで勝負しようじゃないか」
「どうせなら側の河原とかにしとこうぜ。広いからな」
よかろう、と言う侍の口調はどこか楽しげです。一同はぞろぞろと席を立って表へと出ると、微妙な睨み合いをしながら河原へと足を向けます。その後を、そっと兄を守りながらエステラ達が少し離れて移動します。
河原では山本建一(ea3891)が待ち構えていました。
河原に着くなり、一斉に刀やナイフを抜き放つ音が上がります。襲いかかるごろつきを、山本は容赦なく切り伏せ、ゆっくりと侍へと足を向けます。その様子を見て怖じ気づいた何人かが逃げようとして、紫上が立ちはだかっているのに気が付き血の気を引かせます。
「正義の味方参上♪ って事でみんなまとめて倒してやるから覚悟しなっ」
「ここで兄貴とこいつらの禍根を断つんじゃっ」
紫上と楓に良いように蹂躙されるごろつき達。そのすぐ側で侍は雪嶺・山本と対峙しています。
雪嶺が打ち掛かるのに、侍は無駄のない動きで交わし、侍の刀をギリギリで転がり避けます。山本が斬りかかるのに刀で受けて、侍は後ろへと交わすように身体を捻ります。そんなやりとりの中、侍はとても楽しげに刀を向け、雪嶺は改めて構え直します。
激しい回避戦となります。誰も引くことなく常にぎりぎりの戦い。2人を相手にしている侍の方に、徐々に疲れの色が見え始めます。
何度目かの山本の攻撃を回避したときでした。
一瞬体勢を崩した侍に、咄嗟にオーラソードで斬り掛かるのを侍はかわすことが出来ず、そのまま渾身の一撃は、侍の腕に打ち込まれました。刀を取り落とし腕を押さえて膝を付く侍に、山本がすかさず刀を突きつけます。侍はどこか満足そうな様子で息を付きました。
エステラ達に守られながら、自身もあそこにいたはずだったと感じたのでしょう、兄は悲痛な表情で、その様子を見つめていました。
●ぼくの大すきな兄上
一行は兄上を連れて店の前へとやって来ていました。千紗兎に家族をもう泣かせないと誓い、意を決して戻ったのですが、やはり足を踏み入れられないでいたようです。そんな様子を見ていたエステラは店内へと入り、兄が戻るのを心待ちにしている少年へと微笑みかけて、店の外へと促すように背を軽く押します。
少年が出て来たのに、兄の表情が強張ります。後悔が押し寄せてきたのか、ぽたぽた涙を零しながら、恐る恐る弟へと手を伸ばします。
「兄上?」
少年の声に弾かれたように、膝を付いて弟のぎゅっと抱きしめて泣き出す兄。少年の目にもみるみる涙が溜まり、ぎゅうっと抱きしめ返して泣き出します。
「大すきな兄上が帰ってきた」
と。