●リプレイ本文
●刃が立たない相手
「ホントは増長して騒ぎの一つ二つ起こしてくれた方がボク的には楽しいんだけどねー♪ ま、これもお仕事お仕事♪」
そうどこか物騒なことを楽しげに言うのは彼岸ころり(ea5388)。ころりは皆と打ち合わせた後、良く若侍がいるという参拝道へ向かいます。
途中までバーク・ダンロック(ea7871)と一緒でしたが、参拝道に入る辺りで別れ、小太刀をそっと潜ませると1人でぶらぶらと歩き始めます。
直ぐに見つかった3人は、少しがっしりとした様子の若侍が先に立って歩いていて、その後ろに2人、細身の若侍がついて歩いています。若侍は見た目もそこそこ良く、後十年すれば風格も出て来るかも知れません。
「ねーねー、そこのお兄さん達♪ 良かったらボクと一緒に遊ばない? やっぱり男の子が一緒じゃないと楽しくないんだー」
他の者が避けて関わらないようにしている中、ころりが近付いてくるのに目を向けますが、見る限り可愛らしい妙齢の女性から声をかけられた事に悪い気はしないよう。どこか慇懃に頷くと、着いてこいとでも言うように顎をしゃくるのでした。
「危ないカラ‥‥ココ、空けるノ‥‥」
そうたどたどしい口調で参拝道の寺の前で人をどかせているのは宗祇祈玖(ea8876)。小柄な身体でちょこちょこと言って回る姿はなかなかに愛らしく、屋台を出している者も微笑ましげに眺め、少し下がって場所を空けます。
ちょうど寺の真ん前に必要な程度の広さ場所が空くと、側にいたバーグが歩いてくる4人に気が付きオーラボディを唱えて準備を調えます。
若侍が機嫌良さげにころりへと目を向けたまま歩いてくるのに歩み寄ったバークは、よそ見をしていた若侍にわざと肩をぶつけてから、若侍を睨み付けて口を開きます。
「こら! 人様にぶつかっといて、侘びの一つもねぇとは、どういうこった」
「んだとぉ〜?」
バーグの言葉に色めき立つ取り巻き2人。若侍は値踏みするかのような視線を向けますが、そこへころりが煽り立てます。
「何このオジサン、感じ悪ーい! ねぇお兄さん、こんなのけちょんけちょんにしちゃってよー!」
ころりの言葉に良いところを見せようと思ったのでしょう、刀に手をかけるとすらりとそれを抜き放ちます。ちゃ、と刀を持ち直して、どうやら峰打ちにするよう。
「はっ!」
短い気合いと共に素早く繰り出される刀ですが‥‥。
「その程度じゃきかねぇな。3人まとめて真剣で来な。俺も少し本気を出してやるからよ」
「なにおぉ‥‥」
素早く刀を持ち直す若侍に、ざっと刀を抜きはなって構える取り巻き。
「見物の奴らはもっと下がってな。巻き込まれてもしらねぇぜ」
バークの言葉で僅かに下がる通行人達が固唾を呑んで見守る中、いっせいに3人が斬り掛かったのですが、バークは避ける素振りも見せません。
「‥‥‥うそ、だろ‥‥?」
「ば‥‥化け物‥‥」
「効かねぇなぁ。おめぇら、稽古不足だぜ」
その言葉通り、バークにろくに傷を付けることが出来ません。軽く腕を鳴らしながら一歩、若侍達に近付きます。
「おら、今度はこっちからお見舞いするぜ」
爆発的にバークの周りに放出されるオーラに、若侍達は刀を納めて怪我を負わされる前に一目散に逃げ出します。
後に残されたバークがオ−ラアルファ−を収めると、辺りの見物人からわっと歓声が上がります。
祈玖は、若侍ところりの去った方へちょこちょことついていくのでした。
●ちょっと痛い目
「くそ、なんだったんだ‥‥」
参拝道を進んで、花街へと向かう通りで、人が場所を空けていたため少し広めになっている辺りで漸く息を付いた時、取り巻きの一人がそう呟きました。
「刀が通らないなんて、あのオッサンがつよ‥‥」
「仕方ないよー あのオジサン強そうだったし」
「べつに、今日は調子が‥‥」
「きっと調子がわるかったんだねー」
「‥‥‥」
発する言葉をいちいち先回りされてむっとしたように黙り込む若侍の耳に、何やらわっと盛り上がる声が聞こえます。見てみると、ディーネ・ノート(ea1542)と無姓しぐれ(eb0368)が場所を空けさせたところで、ロサ・アルバラード(eb1174)が踊りを披露しているところでした。
故郷イスパニアの踊りを完璧に踊って除ける姿は、若侍達には神秘的に見えたのでしょうか、踊っているのが妙齢の女性とあって余計に興味が沸いたのかも知れません。
「おいちょっと付き合えよ」
「いやよっ。助けて!」
若侍が絡もうと、そう言いながら見物人の輪を割って入ろうとしますと、ロサが声を上げて踊りをやめて、見物人の女性達の方へと逃れようとします。
と、とんと輪から離れようとした調理器具の商人らしき男と肩が当たりますが、そのまま気が付かない様子で離れようとする男に、若侍は怒鳴りつけます。
「どけよっ‥‥っと、お前、人にぶつかってきてどういうつもりだっ」
「あわわ、お侍様申し訳ありません! ‥‥あれ? もしや高村様のお屋敷のご子息で?」
慌てた様子で振り返ったのは狩野琥珀(ea9805)。ぺこぺこと頭を下げるものの、ふと気が付いたかのように若侍の顔をまじまじと見てそう言う狩野。その間に、若侍達の注意が逸れているのを確認してディーネとしぐれ・ロサに、それに追いついてきた祈玖が見物人を下がらせて場所を確保します。
「嫡男の修悟だっ。何か文句でもあるのかっ」
「これは失礼しました‥‥ですがちょっとお言葉が悪う御座いますなあ」
「なにぃ?」
にやりと人の悪い笑みを浮かべる狩野にぴくっと眉を上げる若侍達。
「貴様‥‥」
手を伸ばして掴み掛かろうとするのをひょいと避ける狩野に、睨み付ける若侍と、先程のこともあってか刀を抜く取り巻きですが、そこへディーネが忍び足で歩み寄ると、一人の膝に自身の膝を当ててかくっと体勢を崩させます。
「っ、手前ぇっ、なんの真似だっ!」
体勢を立て直す前にしぐれがずいと前に出て口を開くのに、一瞬気圧される3人。
「天狗様の、おな〜りぃ〜!」
「なんだとっ!」
「‥‥あンたら、世間様の苦笑の声が聞こえねえのかい? 腰にぶら下げた刀が泣いてるよ‥‥」
仕込み杖を構えて言うしぐれに、取り巻きの一人が斬り掛かりますが、それを簡単に受け流されて倒れ込みます。
すぐにしぐれは刀を抜く間を若侍へ与えぬうちに、目にも見えない早さで抜き放った刃で利き腕を浅く切り裂きます。
「この女ぁっ」
もう一人の男が斬りつけようと向き直ったところを、背後から祈玖が放ったブラックホーリーの直撃を受けて前のめりに倒れ込みます。
「畜生、変な事ばかりやりやがって‥‥」
「言い訳だけは上手いわね。その頭を少し剣術に向けてみる事はできないの? 観た所、実力はあるんだから伸びると思うけど。頑張りなさいよ♪ はい、そこの2人もよ」
びしっと倒れ込んでいる男達に指さして言うディーネ。
命に別状はないようですが、思った以上の出血に倒れ込む若侍に、ころりが隠し持っていた小太刀を首筋へと突きつけて、どこか呆れたように口を開きます。
「お兄さんって雑魚だよねー。ボク、ずーっとお兄さんの喉笛掻っ捌く機会狙ってたんだけど、あんまり隙だらけすぎて殺る気失せちゃったよ」
そこまで言ってにっこりと笑いながら言葉を続けるころり。
「ま、今度会う時までに隙のないヒトになっててね♪」
そう言われて霞む意識の中で悔しそうにころりへと目を向けていた若侍ですが、仲間が駆けつけたバークや狩野に取り押さえられている中、視界に入った小柄な影に目を向けると、そこにちょこんと屈み込む祈玖の姿が。
「頑張って、修行するノ‥‥。ワタシも、まだまだダケド‥‥」
その言葉と撫でられる頭の感触を最後に、若侍の意識は途切れたのでした。
●ちょっとやりすぎ?
若侍達が目が覚めたときには縄で縛られていて、そこは普段彼らが通っている道場、側にいるのはトマス・ウェスト(ea8714)ただ一人でした。
「けひゃひゃひゃ。生きのいい検体が手に入ったね〜」
「‥‥け、検体‥‥?」
「調査、対象のために使う物体のことだよ〜」
言われる言葉にぎょっとする若侍達。若侍の利き腕の怪我に傷薬を塗り込んでいきます。
「何? 我が輩のことを知らんのかね〜?」
そう言って不気味に笑う姿に、はっと、若侍の脳裏につい先日のお祭り騒ぎが過ぎります。
「た、たしか‥‥トマス・ウェスト‥‥又の名を、マッド・ドクター‥‥」
「けひゃひゃひゃ。我が輩のことは『ドクター』と呼びたまえ〜」
そう言って怪しげな液体を手に、妖しげな笑いを浮かべるドクターに3人とも血の気を引かせて見ていますと、ふいに道場の戸が開き、依頼人が現れます。
「はは‥‥もうそのくらいで勘弁してやってくれんか」
依頼人の後ろから他の面々も入ってくると、トマスもけひゃひゃと笑って薬を手に下がります。
「真の強さは腕じゃねえ! 心根だ!」
「本物の男は、自分の力はひけらかさないわよ。むしろ隠すわ。別に目立たなくたっていいじゃない? 自分の実力は、自分が一番よく知っているはずよ」
そう言いながら縄を解く狩野に、男性陣に触れないように下がっているロサも続けて言います。
「あんたら、いったい‥‥」
「あたしは無姓しぐれ、でさぁ。無姓、つまり姓は無ェから『しぐれ』と呼んでくださいな」
呆然として見る若侍達ににと笑いながら言うしぐれ。それに、まだぴんと来ていない様子を見て取ると、笑いながら続けます。
「つまり、依頼だったんですよ、兄さんの父上からのねい」
「目標になる人がいるじゃないの? その人に追いつくなら、努力は惜しまない事ね。しっかりしなさいよ! 男でしょ!!」
しぐれの言葉に非難めいた目を父親に向ける若侍にぴしっというディーネと、肩を落とす若侍。
それを見て、依頼人は良い経験だったろうと愉快そうに笑いながら煙管を燻らすのでした。