三人の求婚者

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 3 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:03月03日〜03月08日

リプレイ公開日:2005年03月13日

●オープニング

「自分の伴侶となる男性はしっかりと見極めたいと思うところです‥‥そうは思われませぬか?」
 そう言うのは、どこかおっとりとした様子の美しい女性。女性と言っても、まだ少し幼げな面立ちの残る、振り袖をちょうど着るような、そんな年頃の娘さんです。
 この娘さんがギルドを訪ねてきたのは、暖かくなりつつある陽気の、とある昼下がりでした。
 娘さんは腰までの黒く長い髪を一つに束ね、淡い藤色の房紐で結っています。
「わたくし、いまお見合いをしておりますの。ですが、先方様、どちらの方も判を押したように同じ受け答えゆえ、どうにもはっきり分からぬのです」
 そう言うと、頬に手を当ててほう、と溜息をつきます。
 娘さんは武家の3女。上2人はすでに片づき、跡取りの兄もつい最近奥方を迎え入れ、最後に残る末の子の娘さんにも良い縁談を、と兄弟揃ってあちこちから魅力的な縁談相手と、それぞれ人を連れてきたようです。
「かといえど、わたくしがどうこう言うて彼らを試すも気が引けまする。それに‥‥」
 そう言うと、娘さんは少し困ったように口元に手をやり、眉を寄せます。
「わたくしなりに調べますと、どなたも悪い噂があるよう‥‥でも、どれもこれも信憑性が無く、ただの中傷という場合も考え得ますの」
 そう言うと、娘さんは軽く首を傾げます。
「もし宜しければ、彼ら3人を調べ、この人ならと思う方がいますればその旨を報告していただけませんこと? とりあえずお付き合いをしてみましょうかと思いますの」
 そう言って、娘さんはにっこりと笑うのでした。

●今回の参加者

 ea0380 リゼル・メイアー(18歳・♀・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 ea0574 天 涼春(35歳・♂・僧侶・人間・華仙教大国)
 ea5299 シィリス・アステア(25歳・♂・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9704 狩野 天青(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9885 レイナス・フォルスティン(34歳・♂・侍・人間・エジプト)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1161 クラウディア・ブレスコット(29歳・♀・バード・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

天鳥 都(ea5027

●リプレイ本文

●依頼人の気持ち
「独身だし、恋愛に関して未熟者だけど‥‥俺なりの恋愛感っての語っちゃうぞ?」
 そう言って傍らの女性、天鳥都をちらりと見つつ言うのは狩野天青(ea9704)。依頼人の屋敷で茶を振る舞われながら聞いてみると、依頼人は異性の恋愛観というのをあまり聞いたことが無いのでしょう、興味深げに2人の様子を見ています。
「困ったわね。初めての結婚なんでしょう? 話だけ聞くと、三人とも魅力的な内容とは思えないわ」
 クラウディア・ブレスコット(eb1161)の初めての結婚という言葉に頷く依頼人。クラウディアは先に続けます。
「その前に質問よ、貴女に。まず妻と死別してる彼だけど、子供がいる事をどう考えているのかしら。結婚すれば子供ができるわ。長い目で見た時に、前妻の子供と自分の子供を比べたりしないのかしら?」
 そう言って依頼人の様子を窺うクラウディア。クラウディアは続けます。
「次に、生活苦で窃盗を働いていたと言う彼ね。生きる為には仕方がないと、あなたは割り切れて? 最後の次男坊だけど、男は見た目よりも心根よ。何人もの女を同時に愛せることは美徳ではないわ。女は愛されてなんぼなの」
「子供は可愛いものゆえ、そのお子がわたくしを気に入れば‥‥また、窃盗はいけないことですが、飢えに苦しんでの場合、わたくしが責めることは出来ませぬ。最後の方は‥‥わたくしもそう思いまする」
 最後のみ僅かに眉を潜めて言う依頼人。
「判を押した様に同じ受け答えなら、贈り物‥‥物で証明して貰うってのはどう?」
「‥‥もの、ですか?」
 続いて天青が聞く言葉に首を傾げますと、天青はそう、と頷いて続けます。
「貴女に似合う、又は是非贈りたい一番の物を、各々求婚者に聞いて貰うよう皆に話しておくよ」
「なるほど、それでそれぞれの方の人柄を‥‥分かりました」
 天青の言葉に頷くと、依頼人はなにとぞ宜しくお願い致します、と頭を下げるのでした。

●気弱な青年
 レイナス・フォルスティン(ea9885)は長姉の連れてきた青年について辺りを聞いてまわっていました。噂はあちこちで立てられ、農家での幾つかはせせら笑いながらうちの畑から野菜を取っていった、侍のくせに情けない、などと言っています。
「噂は本当なのだろうか‥‥?」
 そう言って悩みつつ歩いていると、ふと一人の乞食老婆と出くわします。先程からレイナスの様子を見ていたのでしょう、にまっと笑うと口を開きます。
「実はの、お若いの、あそこら辺りの百姓は、自分たちより身分としては上の侍が自分たちより貧しさで苦しんで居るのを、ざまぁみろとでも思って見ているんじゃよ」
 泥水ぐらいは啜ったことはあるだろうが、頼み込んで食べ物を一時借りたことも、何とかそれを今になって返したことも話すと、老婆は笑います。
「ま、侍でそれをやったというのも恥ずかしいと思う話なんじゃろうが、百姓共に何かを言い立てられても直接言われているわけじゃなし、きっと本人に言ったら食って掛かるんじゃないかぇ」
 儂も冷やかして命からがら逃げ出したことがあるからの、と笑いながら去っていく老婆を、レイナスは見送ると、シィリス・アステア(ea5299)が先に向かっているであろう青年の元へと向かうのでした。
「娘さんに似合う一番の贈り物はなんだと思われますか?」
「‥‥‥花、ですね」
 そう言って僅かに頬を染めて目を細める青年。その様子は本心からそう思っているようなのですが、直ぐにやってきたレイナスが、念のため、と注釈を入れた上で噂を確認すると、途端にさっと顔色を変えて掴み掛からんばかりの様子で怒り出します。
「だっ、誰がそんないい加減なことをっ! ま、ま、貧しいってあんた人を馬鹿にしているのかっ!」
「落ち着いて下さい」
 がっと立ち上がって詰め寄る青年に、シィリスがスリープを唱えて眠りへと誘い、卓袱台を掴みかけていた青年は糸が切れたかのようにすとんと眠りへと落ちます。
「この方を薦めた依頼人のお姉様は知人で見合いの話が出たのだと言った時に、何とか自分を候補に入れて欲しいと頼み込まれたらしいのですが‥‥」
 そういうと、シィリスは溜息をつくのでした。

●壮年男性と娘
「しばらくの間家の手伝いをしてもよろしいであろうか? 男手一つで育児をするのは大変な事であろう。自分は子供の頃から幼い弟妹達の世話をして家事を任されたのである」
「忝ない‥‥お心遣い、感謝致す」
 天涼春(ea0574)が依頼人の兄に紹介を受けて対面した壮年男性へというと、男性は深々と頭を下げます。
「おぼうさま、おうちに来るの?」
「ああ、お美名、きちんと挨拶をなさい」
「はじめまして」
 ぺこりと頭を下げると、はにかんだように父親の陰に隠れる7つ程の美名に、思わず涼春も小さく笑みを零します。
「お父様のどんな所が好きなのかな?」
「やさしくて、おいそがしいのに帰ってくるとお話してくれるの」
「このお嬢さんは愛情豊かに育てられたのであるな‥‥」
 暫くして直ぐに涼春に懐いた美名は、聞かれることにも素直に答えると、父親のことを話すのですが、その様子がまた、なんとも幸せそうです。小さく呟いた涼春は、娘さんに壮年男性の好物を聞いてその食事の支度を始めると、美名はちょこちょことついて回ってお手伝いをしてくれます。
 そんな風に、涼春は数日美名の世話をしながら壮年男性の人柄に触れ、誠実で長年の苦労から良く出来た人になっているのを実感するのでした。
「立派な方よぉ、昔、家を飛び出してた頃は、所でも有名な暴れ者だったけど‥‥喧嘩も酒も、博奕も強い、そりゃあ辺りの半端なごろつき達はそりゃぁもう、兄貴としたってねぇ」
 サラ・ヴォルケイトス(eb0993)が聞いた言葉ににこにこと笑いながら話すのは酒場の女将さんです。先程から聞き込みを続けていても、どこに行っても同じ事を言われている壮年男性。
「実際に当時、付き合いがあった人とかは?」
「この辺は大抵知っているわよ。といっても、20年も前のことだけどね。あたしはまだ15の小娘で、よっく家に飲みに来たときは飴玉を貰ったりいろいろ可愛がって貰ったわぁ」
 懐かしそうに目を細める女将さん。女将さんは決して弱い者苛めはしない、素人女には手を出さないとしていた壮年男性を、潔い人と言い、なかなかに色々なことはしていたものの、盗みなどといったことはせず、家に呼び戻されて跡目をついでからは、庶民の暮らしを良く理解した、情け深い人になったとか。
 それを確認してから、リーゼは壮年男性の家へと向かいます。
「‥‥贈るなら花であろうな‥‥」
 問いかけにそう答えた男性は、ふと何かを思い浮かべたように窓へと目を向けます。
「貴方は何で今回の縁談を受けましたか?」
 サラの言葉に壮年男性は目を瞑ると、何かを思い出したように低く笑います。
「はは、始めにあのお嬢さんに会ったのはわしではなく美名でな。花見で美名を見失ったとき、共の者が見つけるまでずっと美名と遊んでくれたらしく。後日、先方へ礼を言いに来たところ、そちらの家の庭先で、桜の下に立つ姿が‥‥」
 年甲斐もなく心が騒いだのだ、とどこか照れくさそうに、男性は笑うのでした。

●旗本の次男坊
「自分に自信があるっていいことだと思うけど、どうして自分が選ばれると思ってるのかな〜?」
 そう不思議そうに口を開くリゼル・メイアー(ea0380)。リゼルは陸堂明士郎(eb0712)と天青、この2人と共にやってきていたのですが、先程から旗本の次男はじろじろとリゼルに不躾な視線を投げ続けています。
「他の2人にろくな魅力など有るまい。一人は貧乏人、一人は年寄り。私が選ばれるのは至極当然だろう?」
 そう話す旗本に、陸堂は今まで調査して数々の醜聞をまき散らしているらしいこの人物に対して苦々しい思いを抑えられない様子。どことなく不機嫌に座っているのですが、旗本は目の前にいるリゼルにいたく興味を引かれたようです。
「俺も好きな人が居るんですけどね、やはり高価な着物とかが良いものなのかな?」
「はぁ? 女なんざ商売女やら町人は簪や着物、武家の女なら花なんかを贈ったほうが良いんじゃないのか? そんなくだらないものに金をかけるだけ馬鹿馬鹿しいがな」
「‥‥‥」
 それまでじっと旗本の言いたい放題な言葉を聞いていた陸堂ですが、最後の言葉に腹に据えかねたのでしょう、がたっと立ち上がると、その形相に旗本は流石に気圧されたように立ち上がってそそくさと部屋を出て行こうとするのですが。
「物事に対して覚悟の無い上っ面な、お前のような者は漢として認める訳にはいかない!」
 スタンアタックを叩き込み、逃げる間を与えずに倒した陸堂。
 陸堂達が調べた限り、これ以上ないほどにがめつい両親は家柄の良い娘さんとの依頼を何としてでも纏めるつもりとか。
 本人もあちこちの娘さんに見境無く手を出していたり。
 次姉が連れてきたのも、亭主の上司伝手で話が来て紹介したらしいと言うことが分かっています。
 怒った様子で立ち去る陸堂についてリゼルと天青も席を立ちますが、リゼルはどこか不思議そうな顔をして首を傾げていたのでした。

●それぞれの贈り物
 依頼人の前にそれぞれが持ってきた贈り物は、青年は質素な花束で、今はそれが精一杯なので頑張って摘んできたよう。男性は一通の手紙を認め、旗本は桃の花の枝を差し出します。
 依頼人が確認させて貰った手紙には『貴女に似合いの沈丁花が庭に咲き誇り、これを贈ろうと思います。ですが、手折るはあまりに無粋、宜しくば当家にて‥‥』
 と言った内容。
 依頼人は天青と都に貰った梅枝を生けた花瓶に目を向け、それぞれの報告を思い起こし、微笑んで3人へと向き直ります。
 後日、ギルドに結納を済ませ、今は幸せに祝言を待っている依頼人と壮年男性からの礼状が届いたのでした。