拙訥

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月19日

リプレイ公開日:2005年03月20日

●オープニング

「一生に一度の機会なんです、本当に、どうにか、どうにか助けて頂けるよう、お願い致しますっ」
 そう言って頭を下げ続けているのは腰の低そうな中年侍です。
 この中年侍がギルドへとやって来たのは、巷でとある旗本が資金援助をしている道場の師範を決める試合の迫った、とある日の夕刻でした。
「実は、最近私の所を道場では、師範も老齢故、隠居したい、ついては試合をして実力を持った者が、と言われていたのですが‥‥その、試合に参加する機会自体を奪われてしまいそうなのです」
 くくく、と悔し泣きに咽ぶ中年侍。実は、その試合の参加者は6名だったのですが、既に2名が療養所送りにされているそうで、その疑いがこの中年侍にかかってしまっているそうなのです。
「わ、私はその、口下手、と言いますか‥‥自分で上手く釈明できぬままにあれよあれよという間に、私の所為になってしまいまして‥‥」
 どうやらこの中年侍、腕は立つのに機会に恵まれず、今日まで暮らしていたそうなのですが、この度、師範の指名により試合に参加できるようになっていたそうです。
 一層稽古に力の入る中、突然他の候補者に呼び出され、師範の前に突き出されて『この男が犯人です、試合の権利の剥奪を!』と訳の分からぬままに糾弾されてしまったようで、師範はまだ犯人と断言できないと止めたそうなのですが、このままでは押し切られ、場合によっては奉行所へと突き出されかねない勢いなのだそうです。
「2人も闇討ちされて怪我を負ってしまっていたなど、私は知らなかったのです。で、ですのに‥‥わ、わ、私はもう、く、悔しくて‥‥」
 その2人とだけでなく、誰と対戦しても腕に十分に自信はあったそうなので、正々堂々師範の座をと思っていただけに、落胆も大きく、そして怪我を負わされた2人のことも心配で堪らないらしいのですが、疑いが向いているため、迂闊に動けばどうなるか、と肩を落として言う中年侍。
「私自身が動けず、どうして良いのかと悩んでいたところに、知人が冒険者に頼んでみてはどうか、と勧めてくれたもので‥‥」
 そう言うと、中年侍は再びがばっと床に伏して頭を下げます。
「な、なにとぞ、なにとぞ私の疑いを晴らし、2人を怪我させた犯人、捕まえては下さらないでしょうかっ!」

●今回の参加者

 ea0404 手塚 十威(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0480 鷹翔 刀華(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6158 槙原 愛(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7803 柊 海斗(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0568 陰山 黒子(45歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb0654 レイヴァン・クロスフォード(28歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●思いは書で‥‥
『口下手で上手く釈明出来ない、と申されるならば、貴殿のこの度の選考に賭ける熱意を書にしたためて師範に読んで頂くというのはどうでやしょう? 喋らずとも心を伝える方法は幾らでもありやす。あっしがそうしているように』
 ぺらりと捲られた物に書いてある文字を読んだ依頼人は陰山黒子(eb0568)へと目を向けます。部屋にはあと手塚十威(ea0404)とレイヴァン・クロスフォード(eb0654)が居て、レイヴァンは先程から煙管を燻らし依頼人の様子をじっと観察している様です。
「書を認める、ですか、それなら私にも確かに‥‥」
「その手紙は俺が責任を持って渡します」
「‥‥忝ない、宜しくお願いします」
 手塚の言葉に何度も頭を下げて感謝を伝える依頼人ですが、続く言葉には面目なさそうな顔をします。
「師範になろうというのなら、口下手だからとも言っていられませんよ? 人に教える立場になるんですから。ね?」
「はい、その辺りの修練も必ず」
 年下の手塚の言葉にも謙虚な姿勢で真面目に聞く依頼人。やがて書き終えた文字は、美しいとは言えませんが堂々と立派な字で胸の内を切々と訴えているのでした。
 手塚はその手紙を受け取り道場を訪ね見学希望そして入ると、辺りの様子を窺ってから、師範の居る部屋へと向かいます。
「どなたですかの?」
 障子越しに聞こえる声に手塚は冒険者である事を伝えて中へと入れて貰うと、布団で身体を起こした老師範は非礼を詫びてから手塚の言葉へと耳を傾けます。
「本当に闇討ちの犯人なら、わざわざギルドに犯人探しを依頼しになど来ませんよね? 彼は怪我をしたお二人の事も本当に心配しています」
「‥‥そうであろうな‥‥」
「真犯人もきっと俺達で探し出しますから、どうかそれまで彼の処分を決めたりしないで下さい。よろしくお願いします」
 深々と頭を下げる手塚に、老師範は手をついて頭を下げると、くれぐれも宜しくお願い申す、と改めて頼むのでした。

●若侍達と武家の次男坊
「はい、呑みの帰りに突然浪人者が夜道で襲ってきまして‥‥」
「その後2人が‥‥あぁ、御家人の方と浪人の方ですね、その2人が本田さんが‥‥あなた方の依頼人の、あの方が犯人だと伝えに来て‥‥」
 話を聞きに来た柊海斗(ea7803)に、困ったように言う2人の若侍。中年侍では無いと思うと師範へと言いに行こうにも今暫く療養所を出る事もまだ許されず、釈然としないものがあったそうです。
「本田氏なら、我々は恐らく勝てません。なので、この様な事をする必要は無いと思うのですが‥‥」
「本田さん、多分あの試合で間違いなく師範になられるだろうと‥‥ただ、現師範の体調から、試合の延期はないと聞いて、嫌な予感はしてたんですよね。あの2人はあまりいい話を聞かないですし、本田さんに勝てないのも周知の事で‥‥」
「襲ってきたのは、確かに複数で浪人者なのか? そいつらじゃねぇの?」
「‥‥彼らはあまり筋が良くないと言いますか‥‥」
「彼らでしたら我々後れを取る事は有りません」
 少し言い辛そうにしている一人に変わって、もう一人がきっぱりとそう言うのでした。
「まあ〜、この人が犯人と言うのは無さそうな気がしますが〜。でも逆にこの人が闇討ちにあう可能性もありましすしね〜」
 のほほんとした様子で言う槙原愛(ea6158)。愛はエリス・スコットランド(ea6437)と先程から候補者の一人、武家の次男坊をつけていました。
 次男坊は先程から頻りにきょろきょろとしていて、途中急ぎ足で茶屋へと駆け込むと、それについて茶屋へと近付いた2人。
「‥‥女性? 先程から何をしている」
 2人の後ろから声がかけられ、振り返ると裏から出てきたのでしょう、次男坊が立っていて後を付けていたのが女性である事に少々驚いている様子です。
「失礼致しました。実はこの度の闇討ちの事について調べていまして‥‥」
「疑ったか、もしくは襲われるかと? 闇討ちの件で神経質になって居るのだ、もう少し気をつけた方が良い。疑わしければ斬っていたところだ」
 どこか不機嫌そうな口調で言うものの、エリスに詫びを入れて説明する姿にどこか上機嫌で言う次男坊。
「お伺いしたいのですが、実際に犯人とされている方、あの方は、本当にそのような事をする方なのでしょうか?」
「‥‥まぁ、境遇だけを見ていればそう思われかねんが‥‥あれは馬鹿のつくほど真面目な男。闇討ちなぞやらんだろう」
 エリスが尋ねると否定する次男坊。騒いで居るのは御家人と浪人の2人で、自分は意見も聞かれてないし、次は自分かも知れないと思っていただけだと言います。
「ふむ、私が屋敷から出なければ、標的はそちらの依頼人になるな‥‥解決したら知らせて欲しい」
 そう言うと武家の次男は自分の屋敷へと戻り、屋敷へと閉じ籠もるのでした。

●御家人と浪人
 御家人の方を張っていた鷹翔刀華(ea0480)は道場の門弟に頼んでとある噂を流して貰っていました。
「‥‥怪しい浪人者と話しているのを聞いたのだ」
 ひそひそと交わされる言葉は、唯一候補者で道場へと出てきている、師範気取り御家人の耳へ入ります。その噂は『浪人が人を使って御家人を裏切って狙っている』というものです。
 様子を窺う刀華の目にも、はっきりと御家人が不機嫌になっていく様子が分かり、挙げ句に各自修練を、と言い捨てて出かけていく御家人。
 追うのは刀華と、ずっと影から御家人をずっと見張っている影山です。
 御家人は急ぎ足で花街の方へと向かうと酒場に行き、そこにいる浪人の一人を捕まえ何やら強い口調で巾着を出して押しつける様に渡しています。
 影山は御家人達のに出来るだけ近付き耳を澄ますと、激昂しているのか御家人がまくし立てている言葉が途切れ途切れに聞こえてきます。
「‥‥いいから、口を封じろ‥‥それとも、あいつに義理立てしてっ!?」
「‥‥いえ、お代さえ頂ければ‥‥旦那とは長い付き合いになりたいですしねぇ‥‥」
 どうやら何かを頼んだ様子、用件を済ますと御家人は直ぐに出てきて自分の屋敷へと戻っていきます。
 刀華は直ぐ側の茶屋へとはいると、茶を飲みつつ御家人の屋敷を窺い、その間に影山は急ぎ他の仲間に連絡をしに行くのでした。
「許せんのう、許せん」
 一方、そうどこか暢気そうな様子で言いながら歩くのは神田雄司(ea6476)。神田は内心沸々と沸く怒りをその表情に全く見せず、飄々とした足取りで浪人の後を追っていました。
「闇討ちとはねえ‥‥刀を持つ者のすることではございませんよ」
 すれ違う者がぎょっとするような事を言いながら後を付ける神田。浪人はどうやら花街の方へと向かう様子、時折立ち止まって辺りを見回しますが、それは狙われているからと言うよりは誰にも見られていないかの確認のようです。
 暫くして先程御家人がやって来た酒場へと入っていく浪人を見届けると、神田は店の外で張り込む事にした様子。端から見るとあちこちの店を値踏みしているかのように見え、怪しむ者はいないようです。
 店を窺えば何やら男達は頻りに酒を勧めて、件の浪人を酔わせようとしているらしく、浪人はそれに気が付く様子もなく上機嫌に酒を飲み、とっぷりと日がくれた頃、自分の長屋へと帰っていくとします。
 その後をつける男達は4人。
 同じ頃、刀華は戻ってきた影山や合流した他の仲間と共に出かける御家人を追って、再び花街の方へと足を向けていました。途中人気のない道へと入っていく御家人。
 それを少し離れた場所で見張る一行の目に、鼻歌交じりの上機嫌でやってくる浪人の姿が。
「‥‥ここで消えて貰おう」
 後をついてきていた男達がいっせいに取り囲むも、まだ状況が理解出来ていないようで首を傾げますが、御家人がその前に立ちはだかり口を開くと、酔いが醒めたのか青い顔になる浪人。
「な、何を‥‥」
「裏切り者は死ねっ!」
 御家人の言葉に刀をいっせいに抜く男達。
「そこまでだ!」
 柊の言葉にいっせいに振り返る一同。そこで初めて道が塞がれている事に気が付いたようで、今まで来た道を見ればそこは神田が行く手を阻んでいます。
「卑怯なやつは嫌いなんですよ。それならまだ子鬼のほうがかわいいものです」
「貴様ら、強さとは何だと思う? ‥‥正々堂々と闘う信念だよ。‥‥私も剣士だ、正々堂々と戦ってもらおう」
 神田がそう言って太刀に手をかければ、刀華もきっと鋭い眼差しを向け刀を構えます。
「っくしょう!」
 男達の一人が斬り掛かるのを刀で受け流すと、愛はぎりぎりに太刀を繰り出し、それを避けようとした男の刀を一刀両断にします。
「はい〜、その危ない玩具は使えなくしましょうね〜。大きい子供に刃物は危険ですよ〜」
 その側では影山が浪人を投げ飛ばし、何時の間に用意したのかめくりで):『侠なら。己の体と、技と、心の全てを以って自らの道を切り拓くべし! 志を貫かんとするならば其処に多くの言葉は要らず、己を、他者を欺かんとするならば、其れは即ち心弱き故の敗北なり!』とばーんと見せつけます。
「その強さを持って何故勝とうとしないんだ、卑劣者」
 御家人と唾競り合いをする刀華は、きっと睨み付けると突き放し、峰打ちの一撃を叩き込み、他の者達は一方的な展開に戦意を失ったようで刀を降ろすのでした。

●初めての栄光
「犯人も捕まりましたし〜、疑いも晴れてよかったですね〜。これで安心して怪我されたお二人のお見舞いにも行けますね〜」
 一行に額を擦り付けんばかりに頭を下げる依頼人。師範に無理を承知で、しどろもどろながら2人お若侍が戻るまで試合を延期して貰った依頼人は、愛の言葉に嬉しそうに頷きます。
 この依頼人が試合で見事に勝利を収め、師範として跡を継いだとギルドへと伝わったのはこれより暫く後のこと。
 その知らせはお礼の書面がギルドへと届いたのでした。