横恋慕

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:03月24日〜03月29日

リプレイ公開日:2005年04月01日

●オープニング

 困った様子の、どこぞの番頭らしき姿の若者がギルドへと急ぎ足でやって来たのは、とある寒い雨の日の朝でした。
「お願いします、どうか、護衛の仕事、請け負っちゃ貰えないでしょうか?」
 そう言う若者は困ったように濡れた顔を手拭いで拭いつつ言いますと、かちかちと歯をならしながらギルドで出された茶を飲んでから、何とか落ち着こうと息を付きます。
「護衛して頂きたいのはあたしの幼なじみに当たる、ちょっと評判の小町娘で‥‥家の若旦那と結納を交わしたばかりなんですがね、ちょっとだけ取引のある商人がたまたま若旦那と一緒にいるお美代‥‥その、幼なじみなんですがね、あれに目を留めたらしくてしつこく言い寄っているとか‥‥」
 そう言うとぐっとお茶を飲み干して、けほけほと咳き込む若者。若者はその若旦那に引き上げられて番頭になったそうで、恩義もあり何より歳も近くて仲が良いため、幼なじみのお美代を引き合わせて、2人が幸せになるのが楽しみだったとか。
「酷いんですよ、本当に。お美代はとある茶屋で働いていたんですが、勿論、客を取ったりはしていませんが‥‥その帰りに無理矢理、金で雇われた男達に空き家へと連れ込まれそうになった事もあったり‥‥その時は騒いだため通りすがりの浪人様に助けて頂いたそうですが、なんとも‥‥」
 そう言う声に僅かに怒気が含まれています。
「そう言うことがあって、あたしがお美代について、祝言まで守ろうと、こうなったのですが‥‥しかし、商売のこともありまして、ずっとお美代についているわけにも行かず、御店ではまだ受け入れる準備が出来ていないため、あと数日かかってしまいます」
 そう言うと、若者はがばっと頭を下げてギルドの人間へと頼み込むのでした。
「お願いしますっ! お美代を御店で受け入れる準備が出来るまで守るか、もしくは何とかあの脂ぎったおやじを‥‥いえ、あの商人を懲らしめて思い知らせてくれるのでも良いんです。なんとか、お願いします!」

●今回の参加者

 ea0028 巽 弥生(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea6228 雪切 刀也(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8212 風月 明日菜(23歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea9128 ミィナ・コヅツミ(24歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0334 太 丹(30歳・♂・武道家・ジャイアント・華仙教大国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

龍深城 我斬(ea0031)/ 暮空 銅鑼衛門(ea1467)/ 天笠 明泉(eb0969)/ 薬師寺 鴻哉(eb1545)/ 神木 祥風(eb1630

●リプレイ本文


●流された噂
 龍深城我斬が聞き込んできた商人の評判はあまり宜しくないらしく、足元を見る事が多いのですが、なにぶん上方からの珍しい装身具など色々と良い物を持ってくるらしく、依頼人の御店でも邪険には出来なかった様子。
 また、天笠明泉が手に入れてきた情報では働いている水茶屋からの帰り道、夕刻に川沿いの裏路地へ引き込まれて襲われかけたと言う事、その通り以外にお美代を待ち伏せ出来る場所はあまり見あたらない事を確認して報告していました。
 薬師寺鴻哉がお美代の働く水茶屋で事情を説明すると快く休みをくれたようで、お美代の長屋へとその報告をすると、何やら商人に対する噂を広めに再び出て行きます。
「お美代さんは僕達が護ってみせるから心配しないでねー♪」
 壬生天矢(ea0841)はお美代の護衛につき、不安そうにしているお美代に風月明日菜(ea8212)はそう言ってにっこりと笑いかけるのに、お美代も緊張を僅かに和らげたとか。
 雪切刀也(ea6228)は神木祥風から旅人達が良く泊まる宿でそれらしいものを何軒かに絞り込んだという報告を受けていました。神木が再び今度は商人の悪い噂を流しに出かけていくのをみて、雪切は依頼人の御店へと向かい、忙しく動いてまわる依頼人の番頭に少々噂を流すと伝えますが、それが客で混み合っていて対応に追われていた番頭にきちんと伝わったかは微妙なところです。
『最近、お美代が家に篭もる様になったが、夜も暗い時間帯には出歩いていた』
 商人や雇われた者達を誘き出すための噂のようですが、お美代は小町娘で所でも有名。冒険者達のように名は知られていても顔自体を知られているのと違い、その容姿で人気のお美代は、当然絵師達がその名を使って絵を描く事もあるぐらいの為、瞬く間に辺りにその噂は広まってしまっていきます。
 当然、商人の悪い噂もそれなりに広がりはするものの、やはり関心は『小町娘の夜遊び』となるのは必然。その結果がどうなるか、まだ一行は想像も付いていないのでした‥‥。

●囮?
「どっちの方が良いかのう?」
 巽弥生(ea0028)はそう言って溜息混じりにお美代の着物を合わせていたミィナ・コヅツミ(ea9128)と自分を見比べます。
 肝心のお美代は弥生ほど小柄でもなく、かといってミィナ程の身長はありません。また、髪を染めてもミィナの耳は隠せるはずもなく、暗闇では分からないと言っても、今度は体つきが細身のお美代とは明らかに違うのが分かってしまいます。
「どちらかと言えば、巽さんの方でしょうね」
 少し背がお美代より低いものの、体系的には弥生の方が違和感がなさそうなため、とりあえずお美代の着物をきちんと着付けて貰い、髪もきちんと結い上げて貰う弥生。
 囮とその護衛をする人間は、辺りが暗くなるまで時間を潰すのでした。
 一方、太丹(eb0334)は、雪切が聞き込んで商人が雇った男達と居るらしい宿へとやってくると裏口へとまわります。
「お、お腹すいたっす〜。あ、だんなさん、何でもやるから、なんか食わせてくれっす〜」
 出入りを裏口からにして動いていた商人を見つけ、そうどこか情けなさそうに言う太ですが、じろりと見やる商人、どこか機嫌が悪そうで素通りされてしまいそうになります。
「あ、ちょ、見てくれっす、役に立つっすよ〜」
 慌てて宿の壁を牛角拳でぶち割る太に、ちらりと眉を上げる商人。傍らにいた浪人者がひそひそと耳元で何か囁くと頷き、一転して脂ぎった顔に笑みを浮かべて『ついてきなさい』と言う商人。
 ひょこひょこついていく太に豪勢な食事を出し、暫くまっていなさいと出て行く商人を、料理をぱく付きながら見送りますが、気が付いたときには数人の浪人者に囲まれてしまっています。
「まぁ、本当に行き倒れていたんだったら怪しまずに恩を売りつけたんですがねぇ‥‥悪い噂が流れたり、神経質なときに来たんだ、他意はなくとも悪く思わんで下され」
 抵抗するも他の浪人は同じ程の腕ですが、一人抜きんでていた浪人に為す術もなく叩き付せられ、商人の嫌らしい声を聞きながら意識を手放したのでした。
 そして日が落ちて辺りがすっかり暗くなった頃、囮の弥生にそれを離れたところから護衛としてついていく鋼蒼牙(ea3167)と陸堂明士郎(eb0712)。もう少し離れたところには他の仲間もおり、お美代へとついているのは壬生だけのよう。
「やれやれ‥‥我欲中心で相手の事を考えない者ね‥‥よくそれで商売ができるものだ‥‥いや、だからか?」
 呆れたように言う蒼牙に陸堂も頷きます。
 小町娘が夜遊びをしているという噂の所為でしょうか、暗い道でぼんやりと提灯の明かりだけで歩く弥生はちらちら野次馬やら、下卑た視線を投げかける男達に気が付きますが、どれが肝心の男か分からず内心溜息をつきます。
 2日間、同じような状態が続き、3日目の夜です。
 ざっと浪人者が5人程、弥生を取り囲むように野次馬だった大工を押しのけて出て来るのを見て、弥生の護衛についていた蒼牙に陸堂、そして離れたところにいた雪切と明日菜も距離を詰めて飛び出してくると浪人達と対峙します。
 勝負はあっという間に終わりました。それこそ、異様なまでにあっさりと。
「嫌が応にも‥‥大人しくしてもらうッ!」
「さて‥‥きりきり吐いてもらおうか。あぁ‥‥暖かくなったとはいえ、まだ夜は冷えるだろうなぁ‥‥」
 雪切がごろつき達を縛り上げ、蒼牙の言葉に流石に表情を強張らせる浪人達。その浪人の一人に無表情のまま刀を突きつける陸堂。
「さぁ、誰に頼まれたか、吐いて貰おうか」
「‥‥へ、へへっ‥‥残念だったなあんたら、今頃お美代は兄貴に攫われて、商人の旦那に江戸を出る辺りで引き渡されているだろうよ」
 その言葉に、一行はさっと顔色を変えるのでした。

●返り討ち
「‥‥皆さん、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だろう、それなりに腕の立つ人間が揃っているからな」
 不安そうにお美代がそう言うのに遅い夕食を一緒に頂きながら、壬生は平気だろうとばかりに頷きます。
 お美代の家族はそれぞれが住み込みで働いているため、長屋にいるのは奥の部屋で大人しくしているお美代とその護衛の壬生。それに縁側でぶらぶらしているミィナぐらいです。
 食後のお茶を飲みつつお美代と他愛ない話をして時間を過ごしていた壬生ですが、表から何か聞こえた気がしてお美代を制して部屋を出、襖を閉めると音のした方へと目を向けます。
 ミィナも音に気が付いたのかそちらを見ると、閉じられた戸を蹴破り、冷たい目つきの浪人が押し入ってきました。
「‥‥やはり少しは残していたか‥‥娘を渡して貰おう‥‥」
「人がいるのを分かってきているんだ、腕の1、2本‥‥覚悟出来てるんだろうな?」
 太刀に手をかける壬生。ミィナはお美代のいる部屋の襖を守るかのようにぴったり張り付きます。
 じりっと睨み合う両者。壬生と浪人の額にじっとりと汗が浮かびます。
 腕としては両者はほぼ互角。
 永遠とも思える時間に耐えきれず先に動いたのは浪人の方でした。
 ぎりぎりでその一撃を受けきると浪人を刀ごと押し返し、スマッシュを放つ壬生。
 それをかわしきろうとした浪人ですが、先に耐えられずに動いてしまったときに、勝負は決していました。
 ばったりと倒れ込む浪人。
 致命傷とまでは行かなかったようですが、その傷口から流れる血はおびただしい物。
 縛り付けてミィナがリカバーをかけ、浪人を捕らえる事が出来たのでした。

●仕置き
 浪人達が手遅れだなんだとせせら笑うのから無理矢理商人がお美代を攫ってくる浪人と落ち合う場所を聞き出し、あたりの者に番所へ浪人を突き出して貰うように任せてから、一行は急いで 聞き出した船宿へと向かいます。
 宿の女将と客の事は教えられないという押し問答があったものの商人の部屋へと押し入ると、商人は浪人が娘を連れてくるのを今か今かと酒を飲みつつ待ちわびていました。
「人の恋路を邪魔する奴は、馬ならぬ自分が‥‥」
 怒りの形相で低く言う陸堂に明日菜も刀を構えて睨み付けます。
「国元へ無理矢理連れて行こうとしても、そうはさせないよー!」
 明日菜の言葉に顔を引きつらせる商人。そこへ雪切の一言が。
「さあ、お仕置きの時間だ‥‥」
 次の日の朝、褌一丁で橋の上に転がされている商人を、起き出してきた人達が見かけて笑ったそうで、でっぷりとした腹には『女の敵』、そして背中に大きく『変態親父』と書かれていたそうで、やがて浪人達の話からこの商人はこの姿のまま引っ立てられ、滞在していた宿の長持ちの中に押し込められてぐったりとした太も無事に発見されたようでした。

●さよなら‥‥
 数日後、お美代は江戸から少し離れた街道を、家族‥‥両親と幼い弟と共に歩いていました。
 水茶屋の小町娘は、夜にふらふら遊び歩く恥知らずな娘と嘲られ、水茶屋でも休んでいる間に出歩いて店の評判を落とした、などと言う理由で暇を出され、家族もそれぞれの御店から暇を出されてしまい、江戸にいられなくなってしまったのです。
 依頼人は泣いて悔しがりましたが、後の祭り、人の噂もと言っても、若旦那の親戚達全てに反対され、幾ら若旦那がお美代を信じていると言っても、やはり御店の名に傷が付くと、とうとうこの話を白紙にされてしまったそうです。
 『親戚を説得するまで何とか待ってくれ』と依頼人も若旦那も頼みましたが、それ以上に世間の目に耐えかね、一家は身の回りの誰にも何も言わず立ち去ったようで、若旦那が幾ら半狂乱になって探してもどうしようもなかったのでした。
「確かにお美代は無事でした‥‥そう言う約束です、報酬はお払い致します‥‥」
 そう言って報酬を無理矢理押しつけるように渡すと、依頼人はもう顔も見たくないとでも言うかのように、怒りに震えながら立ち去るのでした。