●リプレイ本文
●まずは準備
「困りました、私は結婚していますが、面目上だけです‥‥」
大宗院透(ea0050)が困ったように言うのに少し心配そうな表情の美名ですが、その頭を撫でながら穏やかな微笑みで松浦誉(ea5908)は口を開きます。
「父君と新しい母君の為に御祝いをしたいとは、美名さんは良い子ですね」
松浦の言葉に不安そうだった美名ははにかみながら松浦を見上げると、そこは子を持つ父親、何か思うところがあるのでしょうか、安心させるかのように力強く頷きます。
「‥‥その願い叶えずにいられましょうかっ! どーんとおじさん達にお任せなさい」
「よろしくおねがいします」
美名はそう言いながら、ぺこりと頭を下げるのでした。
そろそろ桜の花がぽつぽつ開き始めた河原辺りを松浦と南天輝(ea2557)は、祝言を行うのに良さそうな場所を探して歩きます。
桜だけでなく桃や梅なども見られる辺りを行くと、やはり花見は江戸の娯楽、良い場所には既に小紋を吊して並べている花見客の姿が見えます。
「この場で俺達の知合いが再婚をするのに祝いたいと思っている。気が向いたらでいい一緒に祝ってくれるとありがたい。少ないが酒なら少しは出せるだろう」
2人で手分けして捜し、何とか祝言を開くのに良さそうな場所を小さい範囲ですが見つけると、辺りで楽しげに酒をかわし、吊して掛けた小紋を競い合っていたあたりの者へと輝が声をかけます。
と、祝いの席と聞いて興味を持つ一同。
「兄さん、その祝いは結構大きな祝いなのかい?」
大工らしき男が興味津々に聞いてきます。男は花が一番見える良い場所を前々から確保しているようで、何人もの弟子や身内と騒いでいたのですが、特にその話に興味を持ったよう。
「ああ、出来れば沢山の人間に祝って貰いたいと思っている」
「ならおいらん所つかってくだせぇ。それを聞いてもけちけち場所を抱え込んでちゃ男が廃る、遠慮無しに、他にもなんでも言っておくんなせぇ」
「有りがたい、感謝する」
南天はその男に場所の確保を頼み松浦に合流しようとして、ふと振り返り口を開きます。
「驚かせたいんでな、祝いの曲が出るまでは秘密にしていてくれよ」
合点だ、と笑いながら請け負う花見客達。ですが、既に彼らは祝言の宴の話で盛り上がりを見せ始めていました。
●祝言への想い
「ほう、では内々ではなく、皆様に祝いをして頂ける、と‥‥?」
そう嬉しそうに言う武家の男性。その前で頷きながら事情を説明しているのは氷川玲(ea2988)です。
「本当はサラの奴が来たがっていたんだが‥‥」
そう言って苦笑にも似た笑みを浮かべると、直ぐに本題を切り出す氷川。氷川は祝言の時の花嫁衣装ともう一つ、お願いをしに来ていたのでした。
「うむ、衣装の方はうちのが大分前から用意していたのだが、内々にといわれては‥‥あれを使って頂ければ家内も喜ぶ。実は、妹にアレを着せるのは家内が偉く楽しみにしていたので」
そう言い、もう一つの頼み事にも感慨深げに頷くと明日までにどちらも用意しておこう、と約束をしてくれるのでした。
「じゃあ、依頼を張り出したギルドの人間が用意したのかい?」
「はい、よけいなしんぱいしなくていいんだよって、もう一つおまんじゅうをくださって、そう言ってました」
祝いの料理の準備をしながら聞く田崎蘭(ea0264)に、水を汲んできた美名が頷いて答えます。
その脇で色々と必要な物を確認しているのはシェーンハイト・シュメッター(eb0891)。新婦の兄からロープや提灯など必要な物と、見事な花嫁衣装、そして一通の手紙がその奥方によって届けられたのはつい先程で、後は朝早くに出かけていった松浦が鯛を釣り上げてくれば必要な物は全て揃うようです。
透が何やらお重の一つに手を加えたりしている間に、蘭も美名も手が空いたのを見て、シェーンハイトは神山明人(ea5209)に荷を運んで貰うのを手伝って貰い、そこへ行くのに美名も誘って出かけていきます。
それから少しして、見事に一匹の鯛を釣り上げて上機嫌で戻ってきた松浦。
「すごく豪華です‥‥」
その鯛を見て透は驚いたように眺め、事実、立派な鯛を頑張って釣り上げてきた松浦も位置で仕入れずに済んでほっとした様子でした。
「‥‥あした、うまくいくといいな‥‥」
「きっと大丈夫ですよ」
「心配ない、俺たちできちんと祝ってやるからな」
口々にそう言うシェーンハイトと神山に、美名は嬉しそうに笑って頷きます。
設置しに行ったところでは、既に場所もしっかり準備されていて、輝から話を聞いていた件の大工達は道具を受け取ると、流石と言える手際の良さで準備を仕上げてしまいます。
時間に余裕が出来たのを確認すると、シェーンハイトは神山に後の準備を任せて、美名を連れて少し離れた野原へと足を運びます。
男親の為か花で遊んだ覚えのない美名ですが、シェーンハイトに教わって花冠を一生懸命に作り、漸く出来た花冠を嬉しそうに掲げてみせるのでした。
●花の中で祝言
「‥‥美名のお友達かな?」
そう言いながら美名が連れてきた凪里麟太朗(ea2406)を迎えた父親と女性は、ピッと胸を張って、祝言の日ではあるが外へ誘いに来た、と伝えます。
「祝いの日に桜を見にとは、綺麗な花が直ぐに散ってしまう故、縁起が悪そうに感じるかもしれないが。花が散るのは、夏の茂りの前兆、秋の実りの約束、冬に耐えながら再生の力を貯めるという証だ」
そう言う麟太朗の言葉にどこか不思議そうにしながらも、お誘いとあらば、と手早く出かける支度をして麟太朗と美名に連れられて河原の花見場所へと足を運んだ2人。
歳が少し近い麟太朗と美名は何やらこの後のことが楽しみのように話しており、見たところは微笑ましい兄妹に見えなくもありません。
「この桜の樹の成長と共に、3人がこれからの喜怒哀楽を超えて行き、ここで再び咲き誇るのだ」
とある所まで来てそう言う麟太朗に2人は首を傾げると、そこに用意された花見の席に目を瞬かせます。
「さ、こちらへ‥‥」
シェーンハイトが女性を直ぐ近くに用意されたテントへと連れて行くと、そこには兄嫁が嬉しそうに花嫁衣装を用意して待っていて、輝が曲を奏で始めると漸く2人は何が起きたのかに気が付くと笑みを浮かべるのでした。
「ほら、あんたも共犯なんだ、直ぐに帰るこたぁねぇだろう」
そう言って秘蔵の酒やら途中の酒屋で買ってきた酒を届けてそそくさと帰ろうとするギルドの人間をひっ掴まえて祝いの席へと放り込む蘭。
花嫁が白地に金糸銀糸で縫いつけられた美しい衣装を身に纏って洗われたのを見て、辺りから溜息が漏れます。
「まったく、しょうのない‥‥」
そう言って笑う壮年男性ですが、その表情はとても嬉しそうで、心底この席を喜んでいるのが分かります。
松浦が自身の記憶を頼りに祝いを執り行うと、無事に杯を交わした頃にはすっかり宴会へと雪崩れ込んでいるのでした。
風がちらほら花びらを散らすのも賑やかに酒を酌み交わしながら蘭が透に手伝って貰い用意したお弁当の料理の争奪戦が始まったり、透が仕掛けた箱を開けた為に煙で吃驚する者が出たり、そんな楽しい宴席の中、氷川は新郎新婦の前に行くと、二通の手紙を2人に渡します。
一通は新婦の兄から、氷川が頼んで書いて貰った物で、兄として親代わりとしての日々を懐かしみ、そしてこの日を心から祝っている想いが書き連ねられている物。
そしてもう一通は、この祝いに来ることが出来なかった、氷川の友人、サラから、まだつたないと言える字ながら、祝いの言葉を素直に述べ、喜んでいる様がありありとうかがい知ることができます。
2人は互いに目を見合わせると微笑んで、氷川へと礼を言うのでした。
●幸せな家族
神山が包んで出したご祝儀は、いつの間にか追加の酒に変わったようで、灯りを点しながら、宴の席は続いています。
「『お祝い』は『わいわい』するがいいです‥‥」
そう透が言う言葉に、同意した者は多数いたとか。
「きっといい家族になれるよ美名を見ればわかる。おめでとう」
そう輝に言われて新郎新婦は嬉しそうに頷くと、輝は傍らにいる美名に笑いかけてそっとその頭に手を置きます。
「よかったかな、こんな感じで。‥‥俺は君の心で受けたんだ報酬は俺の分は1Cでいい」
「はい、ほんとにほんとにありがとうございますっ」
輝の言葉にぺこりと頭を下げてそう言う美名。
「さ、美名‥‥」
そんな2人に歩み寄るシェーンハイトと麟太朗は、そう言って美名を促し、美名は花冠を手におずおずと新郎新婦の前に足を進めると、顔を赤らめながらそっと新婦に花冠を載せて、小さな声で『お母さま』と呼ぶと、驚いたような表情を浮かべた新婦は、目元を潤ませてぎゅうっと美名を抱きしめ何度も有難うと繰り返しています。
「‥‥しっかし再婚かい‥‥。あー‥‥。アレから‥‥年か‥‥私も‥‥っと、湿っぽくなっちゃ不味いな」
そう感慨深げに呟いて苦笑すると、ギルドの人間に付き合わせて呑んでいた杯をぐっと呷る蘭に、郷里の妻子を思い出してか、くっと別の意味で感慨深げにいる松浦。
月が綺麗な晩ですが、幾つも用意された提灯の明かりで月の光を見ることもなく、シェーンハイドは、花嫁から解放されてにっこりと花冠を教えて貰ったのだとシェーンハイトの方へと笑みを向ける美名達新しい家族に、微かに寂しげな笑みを浮かべます。
「‥‥私が冒険に出た理由なんて些細なこと‥‥今だって決して大義と呼べる理由があるわけじゃない‥‥」
小さく呟くと、嬉しそうに手を振る美名に小さく手を振り返すシェーンハイト。
「‥‥でも、こんな風に、誰かが幸せになるためのお手伝いができるなら‥‥理由なんて、なくて構わないのかもしれない‥‥」
シェーンハイトはそう呟いて、いつまでもその宴を眺めていたのでした。