●リプレイ本文
●船宿でまったり
「春だし暖かいし、河岸の景色も咲きかけの桜も最高♪」
うっとりした様子で船から河原沿いの咲き始めの桜を見ながら嬉しそうに声を上げるのは翠琥香(ea0471)。
「人を雇うと言うのは大変な事だ、女将さんに同情。‥‥でも、お蔭で宴会出来るんだから、俺にとっては不幸中の幸い♪」
一條北嵩(eb1415)がのんびりと船に揺られてそう言うのに、お茶を飲みながら琴宮茜(ea2722)もそうですね、と微笑んでお茶を口にします。
「宴会かー楽しみだなー♪ あっ、俺は料理班ね! 自前の包丁握りしめーーぇええ♪」
少し長しっぱずれの節でそう歌いながら、とても楽しみにしている様子の田原右之助(ea6144)に、田原と同じく自前の調理器具を抱えてにこにことしているのはケイン・クロード(eb0062)。
「ご主人と荘吉君にはまたお世話になりますね〜。目指すは師走まで完食♪」
どうやら依頼人とはすっかり顔馴染み。とても楽しそうにそう言うと、船から外を眺めるケインに、リノルディア・カインハーツ(eb0862)も楽しそうにのんびりとした時間を味わっている様子。
「船宿って初めてだけど良いものアルねー♪」
嬉しそうに琥香が言うと、船頭が嬉しそうに笑いながら、そこまで言われちゃ、といって船を漕ぎつつゆっくりと景色が良いところへと案内していました。
その頃、商人は丁稚の少年と菊川響(ea0639)と共に仕入れへと出ていました。
山菜も鰹も明日の朝一に届くようで、他に必要な物を仕入れる為にとある長屋へと尋ねていっていました。
「ここで仕入れるのか?」
一軒の長屋の前で立ち止まる商人に驚いたような表情で聞く菊川ですが、直ぐに10程の男の子が出てきて、二言三言話をする様子を眺めています。
「じゃあ、明日船宿の女将さんとこに、おっちゃんの名前出して持って行けば良いんだな?」
「ええ、頼みましたよ〜 あ、お父さんお母さんに宜しく伝えて置いて下さいね」
「あぁ、弟と一緒に上手いのいっぱい仕入れておいてやるからな」
そう言って見送る少年を後にして、菊川と共にぶらぶらと他の材料や酒などを仕入れて歩く依頼人。
「あの子達に任せれば、まず美味しい貝を沢山用意してきてくれますよ」
私はお得意様ですから、と笑って言う商人。
買い物を済ませると、菊川達はのんびりした足取りで船宿へと戻っていくのでした。
●いざ料理!
「さて何を作るかな? 皆の注文を聞いて‥‥」
目の前に並ぶ籠一杯の山菜と、漁村から運び込まれたばかりの鰹を前に、どこか浮かれ気味な田原は自前の包丁を手に、目の前に並ぶ食材に思わずにんまりとしながらそう言いました。
「えっと‥‥琴宮様は筍のお刺身などが良いそうでしたね。あとは‥‥」
「一條さんは菜の花尽くしです。あはは、楽しみですね〜」
田原と同じく自前の包丁持参のケインはそう言って見習いににっこり笑います。
「んーと、なにかお手伝い出来るかな。特別な事は出来ない腕前だけど、私達に教えながら楽しんで板場に慣れるアルよ!」
「は、はいっ、頑張りますっ!」
それまでこれからは自分が板場を切り盛りしなければいけないという意識で緊張していたのでしょうが、琥香にそう言われると嬉しそうに笑って頷く見習い。
「鰹は先ずはタタキ、角煮、すり身団子にして吸い物。くっ‥‥涎出そう」
「あと兜焼きなども美味しいですよね」
田原がそう言って鰹に向かうとリノルディアもそう言って鰹を捌く準備を始めます。
手分けして作業を始めると、菊川に連れられて入ってくる子供が。
「はい、注文の浅蜊と蛤。今朝仕入れたての新鮮な奴だから。商人のおっちゃんに宜しくな」
そう言って笊に乗せた貝を渡して歩き去っていく少年。
「蛤だと、ご期待に添えるかも知れませんね」
「これはお吸い物ですかね」
「鰹の擂り身団子のと蜆ので二種類作れそーだな」
笑いながら見習いが琥香に笑ってそう言うと嬉しそうな様子を見て目を細め、その隣ではケインと田原が蜆を見てとても楽しそうにしています。
「じゃあまず、これを少し煮詰めて味を濃くして‥‥じゃあこれをやっている間に筍のお刺身をやりましょうか」
「私が切ったもの、少し繋がってるけど気にしない気にしない。皆、初めはこうだものねっ、ねっ?」
「そうですね、そこまで急がないで良いですよ、ゆっくり確実にやりましょう、こういうものは慣れです」
照れて笑う琥香に丁寧に料理のこつを教える見習いの隣では、リノルディアが田原の指示に従っておひたしを作る用意をしたり、ケインが貝に砂を吐かせていたり、炊事場は瞬く間に賑やかになりました。
「あはは、良い味になりましたね、これは美味しそうだ♪」
「あ、もうそろそろ蛤は出して良いですよ」
一煮立ちさせた汁に戻した蛤を弱火で煮詰めていますと、見習いがそう言って火を止めさせますと、そこには綺麗に色付いた蛤の佃煮が。
ひょいっと味見に一つ摘むケインは、その出来に満足したように笑うとお皿へと盛りつけておいておきます。
その匂いに釣られてやって来た嵐山虎彦(ea3269)と、包丁裁きを楽しみながら眺めていた一條は数あるのだから、とひょいとばかりに手を伸ばして一つずつ摘みますが‥‥。
「つまみ食いの気配‥‥そこです!」
「うおおっ! ほ、本気で当てるかっ!? ‥‥ったく、リカバー」
リノルディアの声と共に投げられる包丁は、さっくりと嵐山の手に刺さり、慌ててリカバーで自身を直す嵐山。その間に一條は、ちゃっかりとつまみ食いに成功していたとか。
「いやもうなんでもイイ! 何でも作って食いたい! 食わせたい! 俺の料理を食え!!」
血抜きをして骨を取り除いた鰹を切り分けていた田原は、ケインから要望を聞いているも、何やら我慢出来ないとばかりにそう言って、手際良く、そしてやたらめったら上機嫌に料理を作っていくのでした。
●宴会だ!
「旬の食材は綺麗ですよね」
「鰹も山菜もたくさんで感激アル。ちょっとお土産に貰って帰れないかなぁ。友達にも食べさせてあげたいアル」
そう言ってほのぼのと華やかな空間を作り上げているのは茜と琥香。お互いに蛤のお吸い物と佃煮を口にし、目の前にある山菜のちらし寿司を眺めると箸を取って小皿へととりわけ、その味に目を細めます。
「何でしたら、お土産用に包みましょうか? まだ材料も有りますから、お帰りに持って行けるように」
「ほんとアルか!? あ、そうだ、料理人さに前掛け作って来たアルよ。これからも頑張ってねー♪」
見習いがお持ち帰りしたいという言葉を聞いてそう言うと、嬉しそうに言った琥香は、ふと持ってきていた包みを見習いへと渡し、見習いは照れたようにそれを受け取ると大事にしますね、と笑います。
「まあ一献♪」
そう言って依頼人へと酒を注いでいるのは一條です。宿自慢の屋形船を出して貰ってのんびりと景色を楽しみながらの宴会‥‥なのですが、気が付けばぱーっと盛り上がった賑やかな宴会へと切り替わっていました。
「銀皮造り‥‥この時期のさっぱりした鰹の味に新鮮な身で‥‥」
田原が切り分けて用意した銀皮造りに幸せそうな様子で舌鼓を打つケインに、自身で作ったタタキに満足げな田原。
「さーて、虎ちゃん、そろそろ‥‥ほい」
そう言って料理と酒が一区切りと思った頃、菊川が紙風船を膨らませて嵐山に渡します。
まずは菊川がオーラを纏って割り箸ですちゃすちゃっと二つの紙風船を射抜くと、わっと盛り上がります。
「よし、じゃあ次は俺で‥‥こういう形は上昇するからやや下を狙うが必勝! ていっ!」
「うぎゃっ! 痛てぇっ!」
一條が空のお猪口を投げたは良いのですが、どうにもお酒が多分に入ったためか手元がうっかり狂ったか、見事に頭の上の紙風船を避けて額の真ん中に当たるお猪口。
笑って誤魔化す一條の側では、しっかり料理をお腹一杯食べて、何時のまにやら勧められたお酒を口にして赤い顔のケインがよろりと立ち上がります。
「あはは、私の拳が光って唸る〜♪」
そう言ってぐっと拳を握ると、ソニックブームを撃とうとしますが、ふにゃ、とそのまま前のめりに倒れ込むと幸せそうな寝息が。
リノルディアに手伝って貰って、荘吉が隅っこにお布団を用意して寝かせると、手当をするリノルディア。
「他に簡単にやれる芸っていうと‥‥あ、二人羽織とかならどうだ?」
そんな一言で、嵐山がジャイアント用の羽織を借りて被ると菊川の後ろに座って、羽織の袖からにょっきりと手を出すと何か食べ物を、と手を伸ばします。
「うん、じゃあそこの‥‥違う違う、汁物はやめようね、勿体ないから」
鰹の擂り身団子入りのお吸い物を出されてそう慌てて止める菊川は、ひょいと出された湯飲みを嵐山の手に持たせるのに気が付き頷きかけてはっとします。
「お茶ならまぁいいか‥‥って熱いから熱いからっ」
わたわた逃げようとする菊川にその様子を田原や一條が笑いながら見ています。
一條が荘吉を呼んでぐっと空けさせると意外といける口でぐいぐい呑んでしまって、ケインの横で唸ることになったり、たらの芽やふきのとうの天麩羅・筍のお刺身などを食べながら賑やかな騒ぎから外れて、のんびりと船からの景色を眺めてお茶を堪能する茜。
「平和ですねぇ‥‥世界中こうならいいのに‥‥」
リノルディアはそんな様子を眺めながら、しみじみ呟きます。
宴の席は、その日の夜遅くまで続くのでした。
●目指せ制覇!
「いやいや、本当に有難うございました」
上機嫌で言うのは商人。次の日、お昼を頂いてから一行は見習いにお土産の包みを渡され、船宿の前で宿の一同、それに商人と丁稚の荘吉に見送られていました。
「この調子でまた旬の食べ物を堪能したい物ですねぇ」
「目指すは師走まで完食ですね」
「はは、まったくです」
ケインの言葉に楽しそうに商人は笑うのでした。