取り上げられた息子
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:2 G 4 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:04月02日〜04月07日
リプレイ公開日:2005年04月10日
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●オープニング
「いやんなっちゃうなぁ‥‥ねぇ、そうは思わない?」
先程からギルドでそうくだをまくのは、どこかあだっぽい妙齢の女性。彼女がギルドをやって来たのは大分前、彼女は朝方やって来て、そろそろ昼になろうと言うこの時間まで、何やら愚痴を零しています。
いえ、依頼の説明に入ったはずなのですが、それが愚痴へと何度も何度も脱線してしまっているだけの事なのですが。
「ええっと、それで結局のところ‥‥?」
「あぁ、だからさ、あたしは息子が無事ならば良いんだよ、本当に。だけどさ、『下賤な女が産んだからと言ってもうちの血を引いている子供だ、渡して貰う』なんて言いぐさでサ」
そう言うと女性は何度も繰り返した事を再び口にし始めます。
どうやら女性は長屋で仕立てをして細々と暮らしていたらしく、転がり込んできて夫として世話して上げた元侍らしき男が流行病でぽっくり逝ってしまうまで、それはそれは良く尽くして、追われていた様子の男を庇って自身の腕で男を食わせ、子供も生まれて幸せだったそうです。
「あの人が逃げ出して家に残した許嫁サンだかに子供が当然居ないのはアタシの所為じゃないし、あの人以外にあのお家に子供がなかったから、あの人の家の、残された正当な跡継ぎはあたしの息子だって言うのも、学が無くて頭悪いアタシでも分かるわよ。でも‥‥」
そこまで言って、深々と溜息をつく女性。
「でも、アタシから息子取り上げておいて、母親が賤しいからって別邸に閉じこめて、でもって後釜狙っていた親戚にアタシの息子が狙われて、なんて‥‥馬鹿みたいよね」
そういうと、ふうっと溜息をついて困った顔をする女性。
「アタシは離れちまっているし、息子が武家様んとこの屋敷で暮らした方が、将来のためにも良いってみんな慰めてくれるし、息子のお付きに雇われた人ってのが良い人でさ、色々と現状を教えてくれるから、後はあの子が無事に育ってくれさせすれば‥‥そのためにも、何とか不安な事は取り除いてあげたいんだよ」
そう言うと女性は頭を下げます。
「その親戚の奴に襲われるっていうの、なんとかして貰えないかねぇ? 数日間なら、息子が閉じこめられている屋敷に人を入れるの、お付きの人が何とかしてくれるって言うんだよ。お願いだよ、アタシの息子を助けてやってくれよ」
女性はそう言って、何度も頭を下げ続けるのでした。
●リプレイ本文
●母の気持ち
「親子が離れて暮すは遣る瀬無きことでは御座いますが、時に抗いようのない場合があるも‥‥分からぬではないのです‥‥私も同様で御座いましたゆえ」
どこか悲しげな微笑みを浮かべて言うのは朱鷺宮朱緋(ea4530)。
朱緋と黒畑丈治(eb0160)は別宅へと向かう前に、依頼人の元へと寄っていました。朱緋は再び口を開きます。
「このままの状態が永遠に続く訳では御座いません。希ある将来の為にも若君をしかとお守り致しましょう」
「仕立てをしているそうだが、息子さんにお守り袋か巾着袋を作ってもらえないでしょうか? 武士が身に着けてもおかしくないような柄にすれば、取り上げられないかもしれません。5才で母と引き離された子供が、心の支えになるような物を渡せないかと思いまして」
朱緋の言葉にうっすらと涙ぐむ女は黒畑の言葉に目元を擦って笑うと仏壇へと向かい引き出しから小さな紺地に金糸のお守り袋を取り出して黒畑へと託します。
「うちの人の着物で作ったんだ。あの人が死んだとき、この子を守ってくれるようにって‥‥出来上がる前に連れて行かれちゃったから‥‥」
そう言うと黒畑と朱緋に深々と頭を下げる女。
「どうか、あの子を‥‥」
必ずと約束をして、朱緋と黒畑は屋敷へと向かうのでした。
●子の気持ち
「5歳くらいと言えば一番手のかかるやんちゃ盛り、その分可愛い盛りですのに‥‥家の事情も大切でしょうけど、可哀想な話です」
そう言って子供へと声をかけるのは安来葉月(ea1672)。葉月は優しく声をかけながら少年の相手をしていますが、お付きの若侍は先程クラウディア・ブレスコット(eb1161)に呼ばれその場を離れており、少年はぐずり始めています。
バスカ・テリオス(ea2369)は先程、夜の警備に集中するため奥の部屋へ下がって休んでいて、この場には他に岩峰君影(ea7675)と神田雄司(ea6476)がいます。
「子供がいる状況で夜討ちなんて避けたいわ。日が暮れて部屋に引き下がったら、皆が寝静まるのを待って隣部屋にでも移動して貰えないかしら」
「内通者、ですか?」
「その可能性が無いとは言えないし、居場所を誤魔化す為よ」
「分かりました」
打ち合わせを終え若侍が戻る頃、ちょっとしたことが起きていました。
神田が子供に構って稽古に付き合おうとしたのですが、若侍が見えないため母親と同じく引き離されたのだと思い大泣きを始めたのです。
慌てて戻ろうとした若侍を制し、昼夜動けるよう休もうとしていた岩峰が首根っこを掴んで庭へと子供を放り出します。
「泣いていても母は取り戻せんぞ」
言葉と共に庭へと降りてきて屈んで目線を合わせる岩峰に涙でぐしょぐしょになった顔を向ける子供。
「突然母から引き離され、連れて来られた先では命を狙われ可哀想な事だと思う。だがな、可哀想な所に留まっていても何も取り戻す事は出来ん。お前はこの家の主になれる。裏を返せば主になればお前のやりたい事が出来る」
岩峰の言葉を子供は小さくしゃくり上げつつ聞いています。
「その為に力を付けろ、人の心を知り、知恵を磨け。万人の認める武士となれ。一人でなら無理かもしれんが、何、きっとそいつが手を貸してくれる」
じっと目を見つめ言い聞かせるように、刻みつけるように言葉を発する岩峰。
「人に頼れ、だが決して甘えるな。生きる覚悟を決めて必死に生きろ、なれば死とて恐れるものではない」
子供ながらに必死で考えているのかも知れません。ぼたぼた涙を流しながら俯く子供に葉月が歩み寄り手拭いで涙を鼻水を拭ってやります。
岩峰は縁側の隅に戻って昼寝を再開するのでした。
「これをお母さんに作ってもらいました。お母さんだと思って大切にするのですよ」
その日の夕刻、遅れてやって来た黒畑と朱緋からお守り袋を受け取った子供は、次の日から、あぶなかしくは有りますが神田に習って素振りを始める子供。
「屋敷の中でじっとしていては体に毒ですからねえ」
そんなことを暢気そうに言いながら子供の木刀の握り方を直してやっている神田は、掃除と昼寝の合間に時間を見て相手をしてやっています。
転んで擦り剥いて血を流せば、縁側で繕い物などをしている葉月やお茶などを淹れたりしながら控えている朱緋が傷口を洗いリカバーをかけてあげたり。
若侍は、人見知りをしていた子供が一行に馴染んでいくのをほっとしたような面持ちで見守っているのでした。
●情報収集
「その男達、どんな様子だったか分かるかしら?」
「いかにもごろつきって感じで‥‥どこかの食い詰め浪人がって感じで‥‥」
辺りを窺うようにしながらエレオノール・ブラキリア(ea0221)にそう答えるのは直ぐ近所の茶屋の主。主の店は屋敷の裏口に面した辺りにあり、そこの2階からは屋敷の様子が窺えます。
「ここから屋敷の様子を探ったりしていたのですね」
「ちょっと前にやはり頻繁に使われた時期がありやしてね、うちは夜には酒も出しますので‥‥あの日も真夜中に出て行って、慌ただしく帰ってきて‥‥私は怖くて部屋で布団被っておりましたが‥‥」
そう言う主に人数や様子を確認すると、エレンはここ2、3日自身が様子を窺っていた男達と一致し確信を持ちます。
男達は6人程。男達がいなくなる昼から夕方を見計らい聞きに来ていたのですが、やはり主の話で昼から夕方にはこの辺りからいなくなるそうです。
「‥‥また、利用するというようなことを言っていたかしら?」
「へい、明日の夜に、また座敷を空けておけと‥‥」
礼を言ってエレンは男達が帰ってくる前に屋敷へと引き返すのでした。
クラウディアは若侍に子供が別邸に閉じこめられている理由を確認していました。
「正当な跡継ぎを別邸に閉じこめるなんて、扱い方に疑問を感じるわ。本当に跡継ぎにしたくて取り上げたの? 血筋が外にいるのを隠しておきたいからじゃないでしょうね」
「跡継ぎは若君以外には居られません。‥‥親戚もそうですが、若君のお父上の許嫁はご実家の方が苦しいらしく‥‥」
「立場としては許嫁であっただけで、家には入っていないのよね?」
「ええですから若君を手懐けようと。それに若君の御祖父様はご自身の為に若君を許嫁の子供と言うことにしようと‥‥若君が嫌がるのも当然。あの方がお母上になるなど、私でもぞっとします」
そう肩を竦めて溜息をつく若侍。若侍は、若君がもう暫く我慢してこちらで過ごせば、祖父は折れて許嫁を家に帰して子供を屋敷に呼び戻すだろうと言います。
若侍は、初孫にして唯一の孫なので本当は可愛くて仕方がないのですよ、と苦笑しながらクラウディアに言うのでした。
●襲撃
その夜、浪人達に脅された下男が、言われた通りにそうっと裏口の錠を外すと一目散に庭の物陰に隠れ、浪人達は中へと入ると真っ直ぐに少年の部屋へと向かいます。
「自分達の利のために、このような幼い命を奪おうとするのですか‥‥恥を知りなさい!」
葉月の怒りを含んだ声ではっと顔を上げる浪人達。そこでそれぞれ隠れていたのに気が付き、体勢を立て直すべく裏口へと向かおうとするのですが‥‥。
「‥‥逃がさんぞ!」
スピアを構えてその前に立ちはだかるバスカに舌打ちをするといっせいに刀を抜く浪人達。と、中の一人が倒れ込み、さっと浪人達の間に動揺が走ります。
血路を開こうとバスカに斬り掛かる浪人ですが、まるで子供の手を捻るかのようにバスカに打ち倒されてしまいます。
「私に出来ることぐらいはしっかりやらないと‥‥」
エレンのスリープがその男を捕らえたのでした。
「私は無益な殺生は好みません。だが、無益な殺生をする者には容赦しない!」
自棄になったかのように刀を振りまわして突進してくる男へと朱緋のコアギュレイトが決まり、黒畑は容赦なくその男を殴り伏せます。
一方岩峰と神田は、それぞれ浪人と対峙しています。この二人が今回の襲撃の主犯らしく、他の男達との腕の差は歴然。
神田と対峙した男が動くのと同時に、もう一人の浪人も岩峰に斬り掛かりますが、勝負は一瞬で片が付き、倒れ伏す男達。
その隙に屋敷内へと飛び込んだ浪人がいました。
前もって調べ上げた子供の部屋へと飛び込み、刀を向けて布団を剥ぐ男ですが、そこには折りたたんだ座布団が。
「ひっ‥‥」
襖が開け放たれるのと同時に、隣の部屋から現れたクラウディアと若侍、そして子供。 しかし、男はそれに気が付く様子もなく、刀を捨てて何かに必死で捕まるように空中で手を振りまわしているのでした。
●胸を張って
依頼を終え帰る段になって、子供は懐き始めた葉月や朱緋の側を離れ難いらしくぐずっていました。
「今はまだ難しいかも知れませんけど‥‥貴方が大きくなり、家督を継げるようになる頃には、お母様と一緒に暮らす事も出来るようになります。本当の強さがどのようなものか忘れなければ、その日が来るのはそう遠い先の事ではないはずですよ」
葉月が優しく諭し、エレンもそうっと頭を撫でながら口を開きます。
「お母さんと離れて寂しいと思うけど、いつまでも泣いていては駄目。今度会ったとき胸を張れるよう、ね?」
「母君が心配なさっていること、成長された暁に再び共に暮せる日が来ると信じていらっしゃることなどお伝え致します。未来は若君次第なのですから強くなりましょう」
朱緋の言葉にぐっと泣き出しそうなのを堪えると子供はこっくりと頷きます。
そんな子供と変わって、若侍は不思議そうな顔で首を捻っています。若侍の話では、浪人達を雇った親戚の家に乱入した腕の立つ男が、親戚の男を叩き伏せて『この者私欲により幼子を殺めんとした故成敗』と書き残したらしいというのです。
若侍は襲撃の後子供にかかりきりだったので岩峰が抜け出したのを知らない様子。
岩峰は素知らぬ顔をして、皆と一緒に別宅を後にするのでした。