花の名の女〜ハナノナノヒト〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月10日〜07月15日

リプレイ公開日:2004年07月20日

●オープニング

 どこぞの若旦那と言った風情の男がやってきたのは、近頃騒がせていた押し込み盗賊もなりを潜めて暫く経ち、さわやかな初夏の香り漂う、ある朝のことでした。
「ある女性を捜して欲しいのです。百合という、その名の通り清しいたおやかな物腰のその方は、私と将来を誓った方です。ただ‥‥ここ数日、忽然といなくなってしまいまして‥‥」
 男はどこか寂しそうに小さく息をつきます。
「いなくなったのを知ったのは、あの方を両親に引き合わせる筈だった日で‥‥私はてっきり、彼女に嫌われてしまい、それを告げられずにいたのだろうと思っていました」
 そう言うと、男は肩を落として続けます。
「ただ、もしかしたらやむにやまれぬ事情があったのかも知れず‥‥何かに巻き込まれたのかも知れない。ですが、私は商談で、数日江戸を離れることになっていまして、あの方を捜す事も出来ません。もし、私と夫婦になるのが嫌でならば、優しい方です、直接言えないのかも知れないと思い、お恥ずかしながらこうして頼みに来た、と言うわけです」
 そう言うと、どこか言いにくそうに男は口篭もってから、続けます。
「もしくは、あの方が探していたという、生き別れの弟さんが見つかったのかも知れませんし」
 言ってから、関係あるかは知りませんがと、男はいま分かっている事柄を話し始めます。
「あの方は働いていた茶店を休むこともなく、必ず日に一度は弟さんの無事をお参りに行き、そして帰ってからは長屋のご老人の世話を楽しそうになさる、そう言う日々を過ごしている方です。ただ、いなくなってしまう数日前、なにやら風体のわるい男達が長屋に訪ねてきた、と伺っていまして‥‥」
 そう言うと深く溜息をつき、男は続けます。 
「聞いてみても『お訊ねにならないで下さいまし。あなた様を裏切るような真似だけは致しません』と。なので私もそれ以上は聞くことが出来ず‥‥お願い致します、あの方の心が分かれば、私は身を引いても構いません。しかし、もし何かに巻き込まれたのでしたら、なにとぞ、あの花の名を持つ清しい方を助けていただけないでしょうか」

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0629 天城 烈閃(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1244 バズ・バジェット(35歳・♂・ウィザード・人間・ビザンチン帝国)
 ea1956 ニキ・ラージャンヌ(28歳・♂・僧侶・人間・インドゥーラ国)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2833 結城 夕刃(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2838 不知火 八雲(32歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3547 ユーリィ・アウスレーゼ(25歳・♂・バード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●長屋で
「オイラみんなに三味線を弾いて上げるのだ♪」
 ユーリィ・アウスレーゼ(ea3547)は百合の住んでいた長屋で、ご老人達の前でそう言いながら三味線を楽しそうに弾いています。百合さんが戻らなくなって以来暗い顔をしていた老人達に、久々に明るい表情が戻ります。
 ジャパンに興味のある様子のユーリィに、楽しそうに昔話をする老人達。ユーリィが百合さんについて聞くと、誰もが心優しくて良い娘だと口を揃えて言います。
「そう言えば百合ちゃん、いなくなるすぐ前に『弟さんのことを知っている』とか言って訪ねてきた、人相の悪い男達がいたねぇ」
 話の途中で、ふと1人のおばちゃんがそう言います。それに続いて何人かが続きます。
「何でも生き別れの弟さんが持っているはずの、親御さんの煙管を持ってきたそうじゃないか、こう、螺鈿細工の高そうなやつ」
 どうやら聞いた話を総合すると、弟さんが持っているはずの物を見せて百合さんに、何かを迫っていた、と言うことらしいです。百合さんは悩んでいた様子でしたが、きっぱりとそれを断り、長屋の人の目もあって、男達は帰っていったとのことです。
 同じ頃、ニキ・ラージャンヌ(ea1956)は若旦那に聞いて、弟さんが亡くなったときのことを知っている人というのを訪ねていました。それは細工師の師匠で、弟さんは幼い頃に悪い道へと入りかけたが、姉が探しているのを知って真っ当な生き方をしたいと弟子入りし、一人前になったら姉に胸を張って会いに行くのだと、日々精進していたそうです。
「漸く店に出せるだけの力と信用を得て、これからって時に‥‥そんなだからあいつも浮かばれねぇし、百合ちゃんも可哀想で言い出せなくてねぇ。殺されちまったんですよ。引き取って供養したなぁ俺だ。だが、そん時にゃぁ、あいつが大切にしてた親の形見の煙管が無くなってたな」
 細工師はそう言うと、がっくりと肩を落としていました。

●酒場の中
 その日、一行は酒場で落ち合って各々が調べてきた情報を話し合って確認していました。ちらちらと風体の悪い男達の様子を窺いながらです。
 凪里麟太朗(ea2406)が茶屋で聞いてきた話では、百合は前日も何時もと変わらずにお参りをしてから帰ると言って店を出たそうです。常連客も店の人間も、いなくなる少し前に、風体の悪い男達に絡まれて困っていた百合を見ているそうです。
「参拝の時にも、彼女自身には変な様子はなかった様だ‥‥もっとも、こちらでもなにやらいかがわしい男が様子を窺っていたらしい。後、百合自身について。親が腕の良い細工師で、幼い頃に人に罪擦り付けられて死んでいるらしい。そのどさくさで兄弟は離ればなれになったようだな」
 天城烈閃(ea0629)はざっと聞き込んだ内容を考える様子を見せながら言います。
「どうやら最近の押し込み盗賊、関係してきているかもしれんな。あちこちで調べてみたところ、弟っての、前の事件で関わって殺されたらしい。‥‥盗賊と鉢合わせたと言うことでな。調べてみたところ、ちょうど前に襲われた店で贔屓にして貰っていたらしい。その日、遅くなったので世話になって泊まっていたと。そう珍しいことではなかったらしい」
「僕も、少し気になって‥‥押し込み盗賊について調べてみたんです‥‥その、今までの事件、全て引き込みをしたと思われる方が、その場で亡くなっているみたいで‥‥あと、若旦那のお店、今まで狙われていた所と色々似ているみたいで‥‥僕の、気のせいなら良いのですが‥‥」
 不知火八雲(ea2838)が調べてきたことを言うと、結城夕刃(ea2833)がおずおずと続きます。盗賊は良く店の内情を調べているらしく、殺されるのは大抵盗賊が入ってくるのに居合わせてしまった人らしいのです。しかし、状況的なことから、その人達は引き込みをしたのではないかと思われているようです。
「そして、今あそこで飲んでいる人たちが『強情で使えねぇ女だ。これが片づいたらさっさと始末しちまおう』と言っていましたよ。もしかしたら、尋ね人の事かも知れませんね」
 先ほどまで可愛らしい娘さんを相手に、風体の悪い男達の側で聞き込みをしていたバズ・バジェット(ea1244)が、ふらりと近づいてきて言います。色々と声をかけて遊んでいる風を装っていたので、男達に怪しまれている様子はありません。
「仕事が終わるまで女の場所にはもう近づくなと‥‥幸い若旦那が留守にしている今を襲えばいいだろうと言っています‥‥」
 大宗院透(ea0050)が、一行の側にやってきてぼそっと伝えます。酒場で事情を話して、姪として入り込んでいるようで、給仕をしながら盗み聞きしたのでしょう。
「あと、細工物の煙管を持っている男がいました‥‥」
「ほぼ決まりですね‥‥お店の人に話をして、そちらで張った方が良いかも知れませんね‥‥」
 透が付け足すのに、結城がそう小さい声で提案しました。

●御店での夜‥‥
 お店で大旦那と女将さんに事情を話すと、若旦那から聞いたようで一行を快く迎え入れてくれます。女将さんなど、百合を非常に心配してどんな状況かをしきりに聞いてきます。
 百合は押し込み達に引き込み等の協力をするように持ちかけられてしまったのかも。それを拒んで拉致されたか、迷惑をかけないように姿を隠したかそれは分からないとニキは告げてから、托鉢の姿であやしい人間がいないか辺りに気を配るために店を出ました。
 ニキに告げられたことも、有ったとしても気にはしないと両親は答えたようです。
 他の人間は適度に休憩を取りつつ押し込みの情報に気を配っていました。
 そして、すぐにその時はやって来ました。
 夜の更け、家人が寝静まったころ、一行は寝ずの番をしていました。と、びくびくとした様子の下男が裏口へと向かうのに、結城は気が付きました。そうっと裏口を開けようとしたのを見て、他の面々に声をかけます。
 盗賊達が裏庭へと入ってくるのを見て、咄嗟に不知火が下男を引っ張り、そのぎりぎりの所をナイフが過ぎります。
「‥‥ちっ、冒険者を雇っていやがるっ! 引くぞっ」
 身を翻して裏口から出て行こうとする盗賊達。仲間が逃げ遅れた者を昏倒させている間に、不知火は素早く逃げていく者達を追います。すぐに起き出してきた家人に倒した者を預けると、他の者も追跡に掛かりました。
 屋根の上から追跡をし、追ってくる仲間をちらちらと着いてきているか確認しながらいると、とある古くてうち捨てられたような屋敷へと辿り着きます。
 仲間が駆けつけるのを確認して、そっと中を覗き込むと、ぎゃあぎゃあと喚き散らしている男達の姿と共に、奥の柱に縛り付けられている娘が見えました。
 すぐに駆けつけた仲間にその事を伝え、百合を傷つけられてからでは遅いと、すぐに踏み込む決断をしました。
 扉を蹴破って中に踏み込むと、丁度男達のうちの1人が縛られ猿ぐつわをかがされてぐったりしている女性に、ナイフを振り上げているところでした。不知火の手裏剣で、男がナイフを取り落とします。それが戦いの合図となりました。
 麟太朗・結城が中へと飛び込んで手近な男達を切り伏せ、その間にニキが中へと飛び込むと、百合の元へ走ります。
 ニキを狙う男に天城が矢を打ち込み、廃屋内は大混戦となります。
 ニキのホーリーフィールドに守られ、そこへ駆けつけた透が百合の縄を斬り生きていることを確認します。
 盗賊といえど、確実な連携に次々と倒れ、結城の一撃が頭目らしき男を斬りつけ叩き伏せると、残っていた者もナイフを捨て、がっくりと膝を付きました。
 盗賊達を突きだして、一行は百合さんを店へと運び込みました。幸い軽い怪我程度、少し衰弱をしているものの、無事のようです。
 百合に話を聞くと、親に作った螺鈿の煙管を証拠に弟が一味と言われ、それで引き込みを強要されて居たという事です。それを断っても、弟が悪人かもと思うと、怖くて周りに言い出せず、しびれを切らした盗賊に掴まり、仕事が終わり次第殺されるところだったそうです。
 一行は弟が既に亡くなっていたことを話すと、百合は辛そうに顔を歪めます。
「弟さんのことは辛いでしょうがもう居ないのです。あなたは、過去に囚われず、今の人を大切にするべきです‥‥」
 透の言葉に、百合は泣きじゃくりながらも微かに頷きました。

●花の名の花嫁
「本当に皆様、有り難うございます」
 若旦那は一行に深々と頭を下げます。百合もだいぶ元気になったようで若旦那の傍らで、同じように頭を下げています。
「私の両親も、あのような目に遭いながらも盗賊の良いなりにならず、私のことを想ってくれる娘など他には見つからない、早く祝言を挙げて、幸せにしてやりなさいと言ってくれました」
 そう言って嬉しそうに百合を見る若旦那に、頬を染めて微笑み返す百合。2人は控えめで謙虚な様子ですが、これ以上ないほどお似合いに見えます。
「元はと言えば弟が悪事に手を染めているのではと疑い、誰にも相談せずにいた私の過ちです。これからは、若旦那にきちんとお話しをして行こうと思います」
「何事も2人でやっていこう、そう、話して決めました」
 そう言う2人の様子に、ユーリィが嬉しそうに声を上げます。
「ようし、オイラお祝いになんか弾くのだ〜♪」
 楽しそうに三味線を弾くユーリィを見て、若旦那の傍らで、花の名を持つ未来の花嫁は心から幸せそうな笑みを浮かべていました。