膠漆

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月10日〜04月15日

リプレイ公開日:2005年04月18日

●オープニング

「なぁ、かかぁに気持ち悪いまで言われちまったんだがよぅ、幼馴染みのことを心配するって、おかしかないよなぁ?」
 そう言うのは純朴という言葉がぴったり来そうな江戸近郊に住む農家のご亭主。年の頃はそろそろ三十路に入りそうな辺りで心配そうな顔でそう言う様は、本当に可哀相なぐらいに哀れっぽいものです。
「実はよぅ、江戸の町でとある武家に勤めることが決まったと言って、喜んで出て行ったおいらの幼馴染みが、それ以来ぱったりと姿を見せねぇでよ、おいら心配で心配で‥‥」
 詳しく話を聞いてみると、その幼馴染みはまだ幼いときに父親が浪人となり、依頼人の隣の空き家へと父子で移り住んできて以来の付き合いだとか。
 幼馴染みの父親は怖かったものの、2人はその目を盗んでは一緒に遊び、まるで兄弟のように仲が良く、それは今でも変わりがありません。
「一度向こうに行って、荷物などはまた直ぐに取りに来るし、遊びにも来るから家のこととか頼まれたけんど‥‥でも、一度行ってから直ぐに戻ってくるって言う話だったのに、荷物も取りに来てないのに、帰ってこなくなっただよぅ‥‥」
 余程心配なのかそう不安げに言う依頼人。
「なんか、悪いことに巻き込まれちゃ居ないか、どこにいっちまったか、何とか、捜してほしいだよぅ‥‥」
 そう言うと、どこか縋るように依頼人は頭を下げ続けるのでした。

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea2369 バスカ・テリオス(29歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2406 凪里 麟太朗(13歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6195 南天 桃(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea6321 竜 太猛(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●サポート参加者

リノルディア・カインハーツ(eb0862

●リプレイ本文

●幼馴染み
「既に十日行方知れずとなると‥‥いや、探さぬうちに言うのは早いな」
 言いかけた言葉に頭を振るのは天風誠志郎(ea8191)。
「子供の時ですから覚えてないかもしれませんけど〜父親はどの藩から脱藩して浪人になったんですか〜?」
 南天桃(ea6195)の言葉に思い出そうというように考え込む依頼人ですが、江戸より離れたところだった、と言うことぐらいしか思い出せないそうで、脱藩したことによる揉め事や家宝の茶碗など、そう言う物とは無縁だった様子。
「何か面倒に巻き込まれておる可能性は高いじゃろな。すまんが、少々日が経ちすぎておる、覚悟は一応決めておいて欲しいのじゃ」
「‥‥うう、わかったでよ‥‥」
 竜太猛(ea6321)の言葉に涙ながらに頷く依頼人。
「幼馴染の父上は雇った武家と何かしらの縁を持っているのだろうか?」
「いんや、そう言う繋がりないはずだ、おいら聞いたことねぇし」
 凪里麟太朗(ea2406)の問には頭を振って答える依頼人。本当に聞いたこともないし、幼馴染みも、もし縁が有ればもっと前に雇い入れて貰っているはずとのこと。
 依頼内容を改めて整理している神田雄司(ea6476)が、頻りに頷きながらぶつぶつ呟いています。
「‥‥なるほどねえ、‥‥ん?」
 それまで頷きながら何事か呟いていた神田は、ふと何か気が付いたように首を傾げるとぼそっと小さく続けます。
「道中で何かがあったかもしれませんねえ‥‥」
 先程まで屋敷で何かあったのではと考えていた様子でしたが、引っかかったものがあったようで、考えを改めたようです。
「幼馴染の動向と屋敷の状況など、可能な限り怪しいと思われる点を洗い出さないとならないな」
 そう言うと誠志郎は小さく溜息をつきます。
「どうやら、屋敷の人間は何か高価そうな茶器を親族から預かっているようであるし、それに関連した事件に巻き込まれたという見方をするのが妥当だろうが‥‥現状では何も分からんな‥‥」
 まずは何はともあれ情報を集めることで合意すると、依頼人から行方不明の幼馴染みについて聞いて一行は出て行くのでした。

●武家屋敷
 念の為ともどんな些細な手がかりでもとも言いますか、闇目幻十郎(ea0548)はリノルディア・カインハーツが警備の薄いところを上空から確認したのを聞いて、奉公の決まっていた武家に潜入していました。
「‥‥‥ふむ、可笑しいな‥‥」
「ふんっ、貴様の目が曇っておったのだろう、大方茶碗を狙って内部の様子を調べに来たに違いない」
 何やら奥まった部屋のところで聞こえる声に耳を澄ますと、何やら男性2人が話している声が聞こえます。片方は激昂して怒鳴りつけ、それを片方はさらりとかわしている、そんな印象を受ける話し方です。
「まぁ、茶碗が突然移されてきたのを前もって知る術が有ればそうなのだろうが、そうではないだろうに」
 少し年若い方の男が言うのに忌々しげに舌打ちをするもう一人の男。
「だが、そのまま戻ってこないというのも気にはなる‥‥」
 そう言う男に荒い足音を立てて年かさの方の男は部屋を出て行きます。闇目は暫く屋敷を探りますが、幼馴染みに対しての情報はそれ以外殆ど入ってこないのでした。
 幼馴染みの家は、質素と言うよりは貧しいため、学問のための書物以外にろくに物は見あたりません。念のため書物の中に何か書き付けがないかどうかと言うのを調べていた桃ですが、困ったように溜息をつきます。
 太猛と神田、それに誠志郎は武家の屋敷から依頼人の村までの間で、幼馴染みの風体を元に聞き込みを行っていました。
「いんや、村に入ってきたところは見てねぇなぁ」
 誠志郎が途中で畑仕事をしている老婆へと尋ねると、毎日この辺りにいるそうで、一切見ていないとのこと。
 一方神田はのんびりと武家屋敷一帯で聞いてまわっていると、確かに嬉しそうな表情で急ぎ足、その風体の男が村の方へ向けて歩き去っていたと答えます。
 太猛は聞き込みをしていると、参拝道手前でぱったりと人気が無くなる辺りを見つけます。確かにその辺りへ差し掛かる迄はちらほらと見かけられていた幼馴染み。
「済みません、こういう風体の人を捜しているのですが‥‥」
 参拝道側を聞き込んでいた娘さんに瀬戸喪(ea0443)はそう尋ねますが、どうやらその娘さんは見かけていないそう。
「あ、でも、10日程前なら‥‥うん、なんだか雰囲気の怖い浪人さんが3人程、この通りを行ったのを覚えているわ。うん、うちのお客さんとぶつかって、無礼者とか何とか怒鳴りつけて怖かったから良く覚えてる。‥‥えっと、あの道は武家屋敷に続く方ね」
 そう娘さんは言うと何か役に立つかしら? と小さく首を傾げていました。
 手がかりを掴むも今一つ進展しているか分からない現状に、太猛は直接武家屋敷を訪ねます。ギルドの紹介状と聞いても当主は現れず、代わりに少しきつい印象を与える当主の弟が対応をしました。
「依頼を受け捜している人間が、こちらで奉公していると聞いて伺った」
「確かにそのような男を雇い入れ、荷を取りに戻ったが戻らず訝しげに思っていた。行方不明になっていた、と‥‥」
 興味深げに話を聞く武家。雇い入れた理由は金銭的な物を任すため、学に秀でた様子、身元もしっかりしていたという理由を挙げます。
「行方知れずになっていて、そのものに怪しいところがないならば、当家としても無事に戻ってくるのを祈るのみだな」
 そう溜息をついて言う武家は、屋敷の者に話を聞くのは自由にと言いますが、当主は少々気が荒いのでやめておいた方が良いと助言をして席を立つのでした。
 結局分かったことと言えば、武家が捕らえたわけではなく途中人気のないところで姿を消していると言うこと、屋敷の者は高価な茶碗を狙って怪しい男達がうろついているようなのでそちらのことにばかり気を取られていたことぐらいなのでした。

●捕まっていた男性
 茶碗を中心に色々と聞き込んでいた桃と麟太朗は、とある商人の話を耳にします。
「なんでも茶碗を手に入れるために陥れられた商家もあるとか?」
「大きな声では言えませんが、そう言われています」
 その店の主はそう言うと、うちも一度ごろつき浪人に倉を荒らされそうになったことがありまして、など苦笑混じりに言います。
「由緒あるお茶碗で、その親類様が出かけられる間、どこに預ければと懇意にしていただいていたために相談を受けまして‥‥ええ、なのであちらは如何かと‥‥」
 留守の間親類筋の武家へと茶碗を預ける相談に乗っていたそうで、恐らく茶碗を運び込むところを見つかってしまったのだろうと店主は言います。
「つまり、とんだとばっちりですか〜?」
「そうなりますね、恐らくあそこの家人と間違えられたんじゃないですか? 茶碗をどこに置いたかを聞き出して、屋敷を襲うつもりかも知れないですね」
 やりかねませんというと、店主は雇われた櫓運が良くいると噂されるところの心当たりを教えてくれるのでした。
 神田は、一行と合流する前に酒場で顔馴染みに話を聞いていました。
「あぁ、確かにそう言うのに雇われた奴もいるらしいが、あんまし大きな声で言わない方が良いぜ? あいつら押し込みだってやりかねぇえからな。やっかい事にかかわらん方が利口だって」
 そう声を潜めて言うと肩を竦める浪人。
「ここにも来るんだよ‥‥ここ数日はいっつも1人か2人足りなかったが昨日には全員揃ってやって来てて‥‥5人程で連んでるから、因縁つけられると堪ったもんじゃない」
 そう言って、神田にも注意するようにと忠告する浪人に礼を言って、神田は一行に行流するのでした。
 心当たりのある辺りを聞いて調べてみると、人の出入りがある廃寺を見つけ、一行は合流すると、幼馴染みのことも考えて、いち早くと現場へと向かいます。
 闇目がそっと辺りを窺い先行するのについて、一行はそっとその廃寺の裏へと近付いていました。辺りはすっかり日も落ち、廃寺の裏手にある入口を見つけるとそっと地下へ降りていく闇目。
 安全を確認すると一行は後に続いて降りていきました。
 そこにあった木枠の牢には、ぐったりとした様子の男性月釣られ猿ぐつわをかがされて転がっていますが、よく目を凝らして見るとまだ息をしているようです。
 バスカ・テリオス(ea2369)がちゃちな鍵を壊して戸を開けると、歩み寄る一行。男性は確かに捜す人間です。
 一行は男性を連れて注意深く辺りを窺いそこを出ると、直ぐに養生所へと向かうのでした。

●後ほど‥‥
 養生所で少しずつ食べ物や水を与えられた男性は、依頼人に感謝を述べつつ何があったかをぽつりぽつりと話しました。
 やはり参拝道手前で捕まった男性は、どうやら家人と間違えられて茶碗の場所や警備の様子、屋敷の間取りなどをしつこく聞いていたそうなのですが、男性は何せその屋敷に入ったのはたった2度かそこら。
 分からないと言えばきっと殺されるし、何かを言っても殺されると思ったらしくずっと口を閉ざしていたため、執拗に痛めつけられはしたものの僅かな食べ物と水は与えられ、何とか生き延びていたそうです。
「何となく、助かる気がしておりました‥‥これも依頼をしてくれた幼馴染みのお陰ですね」
 弱々しく笑う男性は、見張りがいなかったのは既に逃げる気力も体力もなかったため安全と思われたためで、昼間だったら痛めつけられている最中か、誰かが見張りで残っていたかどちらかだと思うと話します。
 男性を雇った武家は乗り気でない当主を説き伏せて、ギルドに茶碗を守る意味も込めて依頼をすると息巻いていたそうで、男性は体力が戻り次第、改めて武家に方向に上がることを許されたそうです。
「おいら、ほんとに心配しただよ」
「ああ、本当に有難うな」
 そういって2人は仲の良い兄妹のように互いに涙を浮かべ笑いあうのでした。