●リプレイ本文
●穏やかな道中
「元気だったかな、また会えて嬉しいよ」
「うん、みな、げんきにしてたの」
そう言って軽く屈んで美名の頭を撫でた南天輝(ea2557)は、撫でられて嬉しそうに笑う美名の隣の奥方へと顔を向けると口を開きます。
「これだけの面子が揃ったんだ護衛の方は安心してもいい」
「お二人ともお久しぶりです‥‥新しい生活は楽しいですか‥‥」
そう声をかける大宗院透(ea0050)へ奥方はにっこりと笑って頷きます。
「有難うございます、南天様も大宗院様もお変わりなく」
過去に祝言を祝ってくれた人間が見られるのに心なしか嬉しそうな様子が窺え、美名もにこにこと笑って嬉しそうに笑っています。
「美名さん、よろしくね。何かあったら、お姉ちゃんが、守ってあげるからね」
ちょっとお姉さんぶった様子で大宗院鳴(ea1569)が美名に言うと、一人っ子の美名なんだか少しはにかんでだ様子でこっくりと頷きました。
一同が集まって出発すると、武家屋敷の通りを抜け店の建ち並ぶ通りを抜けて行くと、間もなく街道へと出ます。
六角棒を携え先頭を文字通り闊歩するのは阿武隈森(ea2657)。その直ぐ後ろを輝と北天満(eb2004)が何やら話ながら続き、直ぐ後ろには鳴と透が並んで端から見ている限りは仲が良さそうに話しています。
「お兄様、並木の花が見えてきましたわ」
そんな風に話す様子を見ながら、美名は瓜生勇(eb0406)の隣でとことこと大人数での『おでかけ』が嬉しい様子で振り返ると、その視線の先には奥方と奥方から荷を預かると申し出て受け取る貴藤緋狩(ea2319)の姿が。
「まあ、一応気をつけるべきでしょうね。たいしたことはなさそうですけど、道中の警備はしておかないと‥‥」
そう呟いて辺りを確認しながらしんがりを行くのは神楽聖歌(ea5062)。
途中通りかかる茶屋の辺りで少々人相の悪い男などにじろりと見られるのですが、明らかに腕利き揃いの一行を見ると僅かに唇を歪めて諦めることにした様子でした。
●春のみちゆき
並木の街道はそろそろ花の間に萌葱色がちらほらと見え、はらりと風が吹けば花びらが舞い、日差しは暖かく長閑な道行きです。
「美名さんは何か好きなものはありますか? たとえはお唄やお絵かきとか‥‥」
「みな、本がすき。お父さまのものがたりの本、むつかしいからすこしずつよんでいっているの、お母さまにおそわって」
広い街道へと移ると、透と鳴と並ぶように横へと出て美名の手を引いた勇がそう問いかけると美名はにっこり笑って答えます。
「あたしは美名さん位の時には夏に蛍を見るのが好きだったんですよ」
「ほたる?」
「あたしのいた場所は島だったんですが、夏の夜空に舞う蛍が綺麗でついつい遅くまで見ていてしまって、兄代わりの人が迎えにきてくれたんです。血は繋がってなくて滅多に会えませんでしたが兄代わりの人とは本当の兄弟のように慕っていたんですよ」
懐かしむように微笑んで言う勇に美名も釣られてにこりと微笑み返します。
「家を飛び出してるそうですね? 次期頭首が何をしてるんです、まったく。早く家に帰るべきだと思いますよ」
長閑な美名達と違いその前を歩きながら満が流れるように言う言葉に、輝は少しばかりたじたじとなりながら適当に受け流している様子なのですが、満の勢いは止まらない様子。
「相変わらずおきらくにやってるんですね、気に入らないからと父親の上役の子をいじめたり‥‥はぁ‥‥親の苦労が目に見えますね」
輝にとっては長い道行きになりそうです。
「美紗さん、実は私は私もよく知らない妾の子ですが、そこにいる鳴さんの母親には、鳴さんと同様に接して頂いています‥‥」
いつの間にか位置が入れ替わったのでしょう、透は美名や勇と楽しげに話す鳴へと目を向けてから奥方へと話しかけます。
「例え、血がつながっていなくても子供は母親がいることは幸せなことだと思います‥‥」
「‥‥子に母がいるのが幸せなのと同じように、母親にとっても子がいるのは幸せなこと。きっと、貴方の御母様方も同じなのではありませぬか?」
そう奥方は柔らかな笑みを浮かべるのでした。
貴藤が預かっていた荷を満から逃れた輝が交代して運ぶと、手が空いた貴藤はふと勇や鳴と話している美名が少し大変そうに足を運んでいるのに気が付き側によって声をかけます。
「美名、もし良かったら俺の目よりもっと高い所から、遠くにどんな色の花が咲いているか見てくれないか?」
疲れただろうと言っても我慢してしまいそうな様子を美名から見て取ったのでしょう、そう頼むという形で言う貴藤に頷くと、美名は肩車をしてもらい、ぎゅうっと貴藤の頭に掴まります。
「わぁ‥‥きれ〜」
始めは怖々掴まって見ていたのですが、直ぐに暖かな風と並木の向こうに見える田畑や、その向こう側に見える野原に見える白や黄色、薄桃色の花に歓声を上げて、そちらへ指し示しながら貴藤へと嬉しそうに伝えているのでした。
そんな春の街道を行き辿り着いた先は大百姓の立派な構えをした屋敷で、主は旦那様の従兄弟とか。前もって連絡が行っていたので、夕餉の支度をしながら待っていて、美名は御飯が終わり湯に入った後直ぐにぐっすり寝入ってしまったようでした。
●のんびり花見を
屋敷で迎えた朝。
美名はその屋敷の主で父の従兄弟である男性が目に入れても痛くないような可愛がりよう。とにかく人が好きな御仁のようで、客が沢山なことにとても喜んで精一杯持てなしをしてくれます。
「古いものに囲まれてるなんて幸せ」
そうしみじみ言いながら引っ張り出されていた長持からごそごそと書き付けや物語、本などを引っ張り出す満。紙で作られた高価な本か木簡など、そう言う物に混じって幾つかの古い絵や玩具が転がり出てきてとても面白い様子。
「しかし、あいかわず小さいな。美名とかわらないぞ」
屋敷でゆったりと時間を過ごしていた輝が満に気が付くと、話をする気になったのでしょう、そう言って笑います。
「で、どうなんだ? 歌のほうは少しは歌えるようになったのか?俺の妹の桃までは無理としても、何だ練習がてら俺がお前に合わせて楽を鳴らしてやるから気楽に歌わないか」
「歌、妹さんの桃ちゃんは綺麗な歌声でしたからね。羨ましい」
そう言いながらも輝が練習に付き合うというのに一時本を引っ張り出すのは中断し、縁側に出て輝の横笛に合わせて歌い出す満。一時2人はのんびりとした陽気の中で歌を楽しむのでした。
聞こえてくる曲に耳を澄ませながらのんびりと茶を頂いているのは聖歌。先程賑やかな様子で出かけていった花見組を見送ると、たまのゆったりした時間をのんびりと楽しんでいる様子。
花見組はと言うと、阿武隈と貴藤が酒や水筒に入った茶、屋敷の者が用意してくれたお重に一杯のお弁当を持って、勇と共に年少者達を引率していました。
主に勧められた村の中でも穴場という河原に向かうと、川沿いに遅咲きの桜が満開になっていて、敷物を引いて腰を下ろすとさやさやと揺れる薄紅が何とも言えない心地よさを与えてくれます。
「兄弟姉妹がいると楽しいですよ。そうですわ、弟か妹がほしいとお母様にお願いしてみてはどうでしょうか」
「鳴さん、美名さんにはちょっと‥‥」
「あら、どうしてですか? お兄様」
きょとんとした様子で止める透へと首を傾げて聞く鳴と、笑いながら何事もなかったかのように話を逸らす貴藤。
桜へと目を向けながら盃を手にする阿武隈は、くっと盃を干すと、ちょこんと隣に腰を下ろして徳利を手に取る美名に気が付きます。
「はい、どうぞ♪」
「あぁ、すまねぇな」
にこにこしながらそう言って空いた盃にお酒を注ぎ入れる美名は、にこにこして続けます。
「おさけのむ人に、てじゃくさせちゃいけないってお父さまが言ってたの。だから、みながおさけつぐの」
そう言って貴藤にもお酒を注ぐ美名。きっと母親が父親に嫁いでくるまでこうしてお酒を注ぐのは美名のお仕事の一つだったのかも知れません。
「なんだか悪ぃな。特に何もしなかったのに、こんな豪勢なメシまで用意してもらってよ」
「おじさんはおきゃくさまがだいすきなの。おもてなしがだいすきなんだって」
屋敷で出る食事も重箱のお弁当も立派でまた手の込んだ美味しい物ばかりが並び、そう言う阿武隈へと美名がそう説明をします。
「このお餅、美味しいですよ。美名さんも食べましょう」
そう言って勇が取り皿にあんころ餅を取って美名へと渡すと、ぱくりと口にした美名が、素早く沢山食べる鳴に気が付きちょっと驚いた様子。
「美名さんもいっぱい食べないと大きくなれませんよ」
「が、がんばるの‥‥」
むぐむぐとお餅を食べる美名に勇がお茶を注いで美名へと渡します。
のんびりとした時間、透と鳴は兄妹揃ってのんびりと話をしていて、美名は貴藤や勇と楽しくおしゃべりを続け、阿武隈はそんな様子を眺めて口元に小さく笑みを浮かべるのでした。
●だいすきなぼうけんしゃさん
「小『旅行』するのに天気は『良好』です‥‥」
屋敷の前で帰り支度を済ませた透はそう呟くと、直ぐに鳴も準備を終えて兄の元へと歩み寄ります。
「あぁ、欲しかった茶碗だったので、有難うと、あと大切にすると伝えて下さい。ご亭主に宜しく‥‥」
そう言って奥方へと幾つかお土産を持たせる屋敷の主。一行へ帰りも宜しくお願い致します、と頭を下げると入口まで見送りに出る主。
「さてと、んじゃ帰るか嬢ちゃん」
「うんっ♪」
阿武隈の言葉に嬉しそうに笑って歩き出す美名。
途中嫌な雰囲気の男達を見かけますが、やはり一行の様子を何度も窺うのですが、聖歌と目があうと、これは駄目だと見てそそくさと立ち去っていきます。
帰りの道行きは輝や阿武隈にも肩車をして貰ったりして、美名はますます冒険者が大好きになったようなのでした。