捕り物・剣術浪人

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月16日〜04月23日

リプレイ公開日:2005年04月27日

●オープニング

 その日、すっかりギルドの顔馴染みとなった与力がどこか悲痛な表情でギルドに現れたのは、とある旗本夫婦を殺して逃げた浪人がどこかに潜伏しているという、物騒な話題で持ちきりの頃でした。
「実は‥‥とある男を捕らえて欲しいんだが‥‥」
 そう言う与力の顔は暗く沈んでいます。その様子ではあまりその依頼で言う、捕らえて欲しいという言葉は本心からではない様子。
 ギルドの人間に、これは受ける人間とお前だけの心に留めてくれ、と付け足して言うと、与力は他の者に聞こえない位置へと席を移して貰ってから話を続けます。
「‥‥捕らえて欲しい男は剣術家だ。‥‥‥とある旗本とその奥方を斬り殺し、逃走する際に取り押さえようとした屋敷の物を8人、途中で立ちはだかり腕を売ろうとした男を2人斬っている」
 そう言うと、何か後悔でもするかのように額に手を当てて顔を歪める与力。
「あと、故意ではないにしろ道を塞いだ町人3人が怪我をさせられている‥‥が、武家の間で起きた問題故、ととある筋から色々と言われ、奉行所でいまその男を捜して動いているのは僅かな者だけ。だが、何としてもその男を武家の者達の手に渡してむざむざなぶり殺しにされるのを見たくはない」
 そう言うと与力は困ったような顔をして小さく息を付きます。
 与力の話では、調べたところ浪人はその旗本のところで半分飼い殺しに近い状態になっていたようです。
 与力はその浪人とは面識があるよう。近頃は荒れていたものの、それを諫めて少々手荒に止め、詳しいことは聞かないで住み込みで受け入れてくれるような道場を紹介するつもりで、浪人もそれを聞いて旗本の元へ暇乞いに戻ったそうなのです。
「その次の日の朝に儂の屋敷へと来て、暫く屋敷に留まるはずだった。その間に伝手で江戸内でも良いし、江戸から少し離れたところでも良いから、幾つか心当たりのある道場へと紹介するはずだった。‥‥儂は出来ることなら、望み通り剣の道へ励ませてやりたかったのだ‥‥」
 暇乞いをしに行くという浪人を旗本の元へと戻したことを悔やむ与力。
「このままではあの浪人は逃げ続けることとなる‥‥そこで、武家の手に渡るぐらいならと思い、ここへとやって来た。捕らえることが出来れば捕らえ、それが出来なくば、仕方がない、剣術家として誇り有る死を迎えさせてやりたい‥‥」
 そう言うと与力は深々と頭を下げます。
「頼む、何とか、武家の者達の手に落ちる前に‥‥あの男を捕らえてはもらえんだろうか」

●今回の参加者

 ea0204 鷹見 仁(31歳・♂・パラディン・人間・ジャパン)
 ea1891 三宝重 桐伏(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2831 超 美人(30歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4183 空漸司 影華(31歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea7123 安積 直衡(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9191 ステラ・シアフィールド(27歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb0712 陸堂 明士郎(37歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb1174 ロサ・アルバラード(27歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

湯田 鎖雷(ea0109)/ バルバロッサ・シュタインベルグ(ea4857

●リプレイ本文

●探索
「人を斬る‥‥斬らなきゃ‥‥いけないなんて」
 青ざめた顔でそう呟くのは空漸司影華(ea4183)。
「どちらにしろ、手分けして捜すのが先だ」
 鷹見仁(ea0204)の言葉にはっとしたように顔を上げると、悲痛そうに眉を寄せながらも頷く影華。死を与えると言うことに抵抗を感じているのは影華だけではありません。
「つくづく運の無い男か。何とかしてやりたいが‥‥」
「私は死を与えるのは容認できません‥‥説得を行い与力様に託したいと思っています‥‥」
 超美人(ea2831)がどこか諦めるように呟くのに、ステラ・シアフィールド(ea9191)は小さくも決意のように言葉を漏らします。
「奴さんは剣の腕が立ち、相手の刀ごと断ち切るほどの重い一撃を放つ、か‥‥いいねぇ、殺り合って見てぇもんだぜ」
 剣を握る者としてはそう感じる者がいるのも当然のこと、世間に埋もれて名を見いだされなかった凄腕の剣客となれば血が騒ぐというものでしょう。
 三宝重桐伏(ea1891)はそれでも仲間の様子を見て小さく肩を竦め呟きます。
「まぁ、こっちから喧嘩吹っかけるわけにゃあいかんし、他の奴らは何とか助けようって方向だしな‥‥仕方ねぇ、我慢すっか」
 各々が思いを抱えつつ、手分けして浪人を捜すことにしたのでした。
 ロサ・アルバラード(eb1174)は花街で舞を見せて人を集めていました。
「武兵衛が心配しているのよね、最近話題になっている浪人さんのこと」
 舞を一通り終えて休憩になると、与力の、もしくは名字の津村を出せば立場が危うくなる可能性、それにくわえて異国人であるロサは与力の名を出して、見物客にそう言います。
「‥‥最近のってアノ‥‥」
 ひそひそと小さく交わされる囁き。微かに聞き取ることが出来るのは、浪人に対しての同情とはっきりとは言わないものの旗本の悪い話、あたりの者へどれほど嫌な思いをさせているかと言ったものばかり。
「でも、異国のお嬢ちゃん、ここいらであんましそう言う話しはしない方が良いよぉ。そのおこぼれに預かっていた連中も結構いたからねぇ‥‥」
 そう心配そうに声を潜めて言う近くの酒場の女将。この辺りにいる浪人は質が悪いのが多いから気をつけな、と心配そうに言う女将にロサは礼を言うのでした。
 廃寺方面を鷹見や三宝重、それに影華は手分けして捜し、あちこちの賭場で与力の名を出して話を聞くも、近頃は見ていない、旗本の所に飼い殺しにされてからは、短い時間酒場に出て来るのがやっとだったそうだと言うことを話します。
 役人に義理はないからと言わなかったそうですが、旗本の後ろ暗い仕事に手を貸していた浪人達も良く出入りしていたそうなのですが、件の浪人はその事を本気で知らず『恩人を世話するのは‥‥』等と言われ無下に出ても来られないと零していたことを聞いたことがあるそうです。
「その、後ろ暗い事ってぇのは?」
「か、勘弁してくれよ、俺だって命は惜しい‥‥」
 喋りすぎた、と思ったのか、男はそれきり何を言っても小金をちらつかせてみても口を開くことはありませんでした。
 河原の廃屋が並ぶ辺りを、ステラは急ぎ足で進みます。
 何とか説得をすればきっと他に道は見つかる、浪人を助けられるかも知れない、そう言う気持ちがステラを突き動かしていたのでしょう。
 なかなかたどり着けませんが、やがて一件の廃屋の前でステラは立ち止まります。そこに浪人らしき男がいたと他の廃屋に住み着いた薄汚れた男が教えてくれたからです。
 男は浪人が住み着いたとき、逃げているのに気が付き足元を見て食料を高値でふっかけたそうなのですが、男は酒と僅かな食料を頼むと、当座を凌げるに十分な金額を入れた財布をそのまま男に渡してもう無用の物だから、とそのままくれたというのです。
「本来だったら話すつもりはなかったが、あんたぁ、事情がありなさるようだし、あのお人に悪いこたしねえだろうと思ってなぁ‥‥」
 心の整理に時間は余りいらないとそう零したのを聞いていた男は浪人から感じる物があったのでしょう、そうしんみりと言っていました。
「ただ逃げるだけではなく、困難と向き合うの一つの手ではないでしょうか、それにあなた様を心配してくれるお方もいますどうか一度その方のもとにお戻り頂けないでしょうか」
「武兵衛殿‥‥」
 ステラが声をかけるのに僅かに顔を覗かせた浪人。それを確認して言うステラに小さく息を付く浪人は微かに頭を振ったように思えます。
「今出れば役人ではなく武家に捕らえられる恐れの方が強い‥‥」
 何度も言葉を尽くすステラに『もう良いのだ』と呟くように言う浪人。浪人は武家の手にではなく、役人が呼びに来るのを、武兵衛自身が掴まえに来るのでなければ内々に処理されてしまうと思っている様子。
 説得するステラの元に鷹見らがやって来たのはそんなときでした。
「旗本とその奥方を斬ったのは‥‥何か訳が?」
「もう、どうでも良いことだ‥‥」
 影華の問いかけに諦めたように小さく笑う浪人。
「我々と共に来てはくれないだろうか。 与力殿もそれを望んでいる」
「‥‥武兵衛殿が、剣術家としての最後を与えて下さった、と‥‥」
 鷹見らの話を聞き、美人の言葉に戸を開けて深く頭を下げる浪人。
「ならばせめて立会を‥‥武兵衛殿本人に立ち会って頂きたく‥‥それだけが望み」
「死を選ぶよりも、生きて証を残すことをお考えください、どうか御自愛をそしてもう一度ご再考を!」
 ステラの言葉にどこか寂しそうに笑うと浪人はただ一言『感謝致す』と言って鷹見達と同行します。
 ステラはこれからのことを思うと、顔を伏せて小さく肩を震わせてその場を後にするのでした。

●裏面
 陸堂明士郎(eb0712)は武家の周囲を探ってみていました。殺されたという男達の中にごろつき風の者達がいたのが解せないようで、もし冤罪ならば有利に事が動くのではと思ったようです。
 武家の家では親類が数人集まって今後のこと、家督を継ぐのは誰と醜い争いをしているようで、裏口からは風体の良くない男が何度か出入りしているのを見かけます。与力にそれとなく足止めになりそうな話を同僚にして貰っている上、与力と探索を続けているのは数人、しかも圧力がかかっているとなれば積極的に捕らえようと言うのは少ないでしょう。
 そして、浪人を捜して街中を威張り腐った侍達がうろつき回り、浪人について話をしない者を無礼と言って痛めつけるなどと言うことが多々起きているそうで目に余りますが、奉行所の役人へと訴えても手を出すことが出来ず与力は歯噛みしているようです。
 殺されたという旗本のことを調べる者達がいました。湯田鎖雷とバルバロッサ・シュタインベルグは『武家側に不審な動き等は無いか』『逃走中の犯人である浪人と事件自体の噂』を聞き込めるだけ聞き込むと陸堂伝手で一行へと伝えます。
 1日で分かることなどと馬鹿には出来ません。その旗本が過去にあくどい事をしていたと言う同じ旗本で部下であった男を『成敗』したという噂です。
 しかし、成敗された男と殺された旗本では腕が違いすぎ、御上に背きあくどい事をしていたのは旗本ではなかったかという噂もあったそう。
 そして、浪人はその頃から旗本の屋敷の隅にある粗末な小屋で飼い殺しにされていたという話です。
「例の浪人の居場所が知りたければ、俺についてきな。但し頂く物は頂くがな」
 そう言って出入りしていた怪しい男を誘き寄せて痛めつけますが、制裁を恐れて口を噤む男。
「し、死んだ方がましな思いをさせられる‥‥」
 青い顔をしてそう震える男。陸堂は尚も問いつめますがその男から、それ以上話を聞き出すことは出来ない様子でした。
「男が惚れ込み本懐を遂げさせるべく尽力するほどの人物‥‥それがただ一時の癇癪だけで人を害するような莫迦げた真似をする人物であるとは到底思いたくない」
 そう思って根気よく調べ続けていたのは安積直衡(ea7123)。安積はごろつき浪人を相手に噂を聞いて回り、その旗本が何かで大金を手に入れる為悪事を働いていた、と言うところまで何とか聞き出します。盗賊とも関わっていたらしいと聞くのですが、確たる証拠が手に入らないもどかしさに苛立ちを覚えていたのですが、一人の遊び人風の男が折れて重い口を開きます。
「あの浪人、旗本が族と通じているところに、居合わせ消されそうになって逃げたって、そう言っていた奴が居たのを覚えている‥‥彼奴も殺されちまったがな、浪人捜している武家の奴らに‥‥」
 その男が殺されたのを目の当たりにした言って、奉行所が保護してくれるならと証言の約束を請け負う男を伴って急ぎ戻る安積は、既に手遅れになっていることを、知る由はないのでした。

●死合
 与力の前にやって来た一行は深々と頭を下げると立会を願い出、それを悲痛な表情ながらも受ける与力。
「残す言葉は‥‥?」
「ただ、ただただ無念でしたが、このお心遣い‥‥これで思い残すことは無く、ただ、申し訳なさが残るのみ」
 そう言うと袋に収められた刀と幾つか物の入った袋を与力へ託すと、浪人は死合う相手に三宝重に頭を下げ自らの長い刀をそっと撫でます。
「手前の望んだこった、後悔すんなよ‥‥全力で行くぜ」
「無論‥‥望むところ‥‥」
 互いに構える刀、一瞬にして辺りを覆う空気は代わり、辺りに張り詰めた緊張感は息をを付くことさえ許されない雰囲気があります。
 三宝重はじっとりと汗をかいている自分に気が付きます。
 実際に向かい合うまで気が付かなかった実力差が、そこにはありました。
(「‥‥殺られる‥‥っ!?」)
 腕も、その威圧感も上の浪人に圧倒されていることに気が付くと、一瞬過ぎる恐怖と共に、剣を握る者が高みを目指す時に覚える独特の血が沸き立つ感覚、それを感じている自分に我知らず口元に笑みが浮かびます。
 勝負は三宝重が考えていた斬り合いではなく、一瞬で決しました。
 叩き折られる野太刀。浪人の斬馬刀が刀を叩き折った時点で勝負は決していました。
「‥‥次、お願い出来るだろうか」
 浪人がそう言ったのは鷹見。
「二天一流、鷹見仁」
「陸奥‥‥荻野破源‥‥」
 対峙した鷹見は刀を構え、浪人も斬馬刀を向けるとじりっと間合いを詰めます。
「ーっ!!」
 浪人の早い一撃を身体で受け、そして斬り返す鷹見は、身体に受けたのが刃ではなく直前に峰を返した物だと気が付いたのは、激痛にがっくりと膝をついたその一瞬でした。
 そのまま倒れ臥す浪人に、悲痛そうに目を逸らす影華。
「俺はお前のことを何も知らない。だが今の一太刀、生涯忘れまい‥‥」
 苦痛を押しやり何とか身体を起こして浪人へと歩み寄る鷹見。
「素晴らしい一撃だった‥‥お前がこれまで磨き上げてきた剣の技はけしてムダなどではなかった‥‥」
「‥‥‥礼を‥‥言う‥‥」
 鷹見の言葉に微かに笑みを浮かべてそのまま二度と言葉を発することが無くなった浪人に背を向ける鷹見。
「結局‥‥私は‥‥この人の命‥‥救えなかった‥‥」
 唇を噛んで手で顔を覆い泣き出す影華。
 与力は浪人に歩み寄るとそっとその目を閉じさせ、熱い物が込み上げてくるのを静めるかのように目を閉じるのでした。

●鎮魂
 与力・津村武兵衛の好意により怪我と失った武装は補償され、浪人・萩野破源の残した物の整理を手伝った一同。
 墓の前には安積に陸堂それに鎮魂の舞を舞うロサ、そして、破源の遺体を引き取り自らの菩提寺へと納めた与力の姿がありました。
 全てが終わった所に戻った安積は無力感を噛みしめたようですが、安積が調べ上げてきた事と証人の存在に、奉行所は動かざるをえなくなり、結果、旗本の家は親類からの跡継ぎを認められることは永久に無く、その家名は消えたそうです。
「‥‥きっと、荻野も満足しているだろう‥‥咎人としてではなく、剣術家として‥‥剣客として‥‥」
 荻野が斬った者の中には何も知らず主君の命を受けて刀を向けた者も、ただ生きるために職を求めて立ちはだかった者もいました。それは荻野自身に罪は無いにしろ、きっとずっと胸に残った傷になっただろう、と言う武兵衛。
「それに、お陰で荻野を引き取ってやることも出来た‥‥」
 そう言って手を合わせる武兵衛と破源の墓を見て、陸堂は小さく溜息をつきます。
「実直‥‥愚直なまでに不器用‥‥人事とは思えんな‥‥」
「桜が散る頃に逝く人‥‥か‥‥」
 せめて、冥福を、そう願いを込め、最後となりつつある桜の花びらの舞い散る中、ロサは鎮魂の舞を舞うのでした。