太鼓女郎

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 40 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月25日〜04月30日

リプレイ公開日:2005年05月03日

●オープニング

 しゃんと背筋を伸ばして堂々とした様子のその女性が、一人の下男を連れてギルドへとやって来たのはとある晴れた日の夕方でした。
「異国の方が皆そうであるとは思いませんが、偉く難儀しましてね。異国の方も多く集まるこういう場所なら対処法も考えてくれるんじゃないかと思いまして」
 そう煙管を燻らしつつ、ふうと物憂げに溜息をつく女性。
 女性は太鼓女郎、芸の出来ない遊女に代わりお座敷を盛り上げる芸者さんです。
 遊女は身を売り芸者は芸を売り物とするので、その辺りの区切りははっきりついているものなのですが、近頃、月道で海を越えてやって来た異国人が遊女を呼んでみたお座敷に呼ばれ、場を盛り上げたときに、その相手、遊女よりもこの芸者さんが気に入ったらしくちょっかいをかけたとのこと。
「その時、相手はお酒に酔っていましたし、掴み掛かられたのでちょいと避けてかるうく転ばせてみたのですが、今度はそれを偉く怒られたようで、最近は本当にろくにお仕事にも行けない有様」
 恥をかかされたと思ったその異国人、その時に一緒に座敷で遊んでいた仲間と共に付きまとうわ嫌がらせをするわで、この芸者さんはお座敷に上がれなくなってしまったようです。
「掴みかかられれば抵抗もします。遊女も芸者も立派に自分の力でお金を稼いでいるという自負があります。その辺りをもう少し分かっていただきたいのですが、お座敷に出る者は皆、身体を売るものと勘違いされているよう‥‥」
 はぁ、ともう一度深い溜息をつくと、女性は煙管の灰を落としてギルドの人間に向き直ります。
「このままでは今は良くともおまんまの食い上げですし、相手も今でもお座敷に迷惑かけたりしているのは十分迷惑ですが、もっと過激な手を使ってこないとも限らないですし、少し反省して貰うようにしては貰えないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea0264 田崎 蘭(44歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3513 秋村 朱漸(37歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7803 柊 海斗(29歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea7901 氷雨 雹刃(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●根回し
「じゃあ贔屓の得意先に話をつけてくら」
 方針が決まってそう言い立ち上がるのは秋村朱漸(ea3513)。それに無言で氷雨雹刃(ea7901)も寄りかかった柱から背を離して立つのに軽く眉を上げる秋村。
「アラ? なんでぇ? 兄ぃも来んのかい? ‥‥ってなんだァその目は‥‥」
 どうやら氷雨は秋村を一人で行かせるのに少々不安があるらしく無言でじろりと睨め付けると秋村も肩を竦めて店へと向かいます。
「‥‥ってな訳よ。だが由緒正しき芸者さんを表で踊らせる訳にゃあいかねぇ‥‥で、おたくの座敷を借りらんねぇかって話なのさ」
「しかし、ですな、あの異国人達の行動は私どもには‥‥そりゃぁ、姐さんが難儀しているのは分かりますが‥‥」
 事情を話して協力して貰おうとする秋村の言葉に、頭の中でそろばんを弾いてから返事を渋る商人。うっかり怪我人が出た場合などを懸念している様子ですが、その返事に氷雨が眉を上げます。
「もう分かってるだろうが‥‥連中は此方の常識が通じん分、そんじょそこらのごろつきよりタチが悪い‥‥」
 そう言ってちらりと秋村を見て言う氷雨。
「放っておけばどうなるものか‥‥そうなってからでは遅過ぎる。現に目を付けられてるんだからな、この店は‥‥」
「ま、まま‥‥ダンナダンナ‥‥此処でよ、ちいと良いとこ見せてみねぇ。ダンナの男が上がるってモンだぜ?」
 氷雨の言葉に悩む様子の商人にひそひそ耳打ちの秋村。氷雨にはそのまま聞こえているようで冷たい視線で見られていますが、『惚れ直すぜ?』と言われると思わず目尻を下げる商人。
「オイ‥‥安く付きそうか? 襖の一枚や二枚‥‥とは言え加減はしっかり付ける。それ程にはなるまい」
 そう言って壊されても困る物は当日は置かないよう言うと店を後にする氷雨とそれについて秋村も店を出るのでした。
 同じ頃、依頼人の長屋周辺を調べているのは御神村茉織(ea4653)。
 御神村は周囲を探りつつ見ていると、当然と言えば当然ですが物陰で様子を窺っている異国人が2人。暫く観察していると、適当な時間で一人がやってきては片方と交代し、2人がかりで見張っている様子。
 顔色の悪い男が一人いるのが気になるのと、恥をかかされたという本人は張り込みに来ていないと言うこと、それ以外にいる男は4人、しかしそれぞれたいした腕ではなさそうだと言うことが分かります。
 きっと取り巻きの人達なのでしょう。
 それを確認してから、御神村は長屋に先に行っている人達と合流するのでした。

●護衛
「護衛と無粋な異人へのキツーイお仕置きかい。ちょいと楽しいことになりそうだネェ‥‥」
 にやりと邪悪とも取れる笑みを浮かべながら、田崎蘭(ea0264)は瀬戸喪(ea0443)と芸者が舞の打ち合わせ稽古をしているのを眺めていました。
「どうも、その外人見苦しいとしかいいようがないな」
 呆れたように息を付いて言うのは山下剣清(ea6764)。
「理解もしないで嫌がらせ、しかも限度を知らんのかという感じだな」
 あまりの愚かさにそう言って肩を竦めます。
 と、打ち合わせを終えて手配された座敷について連絡をしに来た堀田左之介(ea5973)が顔を見せます。
「なに、難しい事じゃねぇ、いつもの通り座敷で演って貰うだけだ。無論妨害は来ると思うが黙って俺達を信じてくんな、悪いようにはさせねぇよ」
 にかっと笑う堀田に微笑を浮かべる依頼人。
「宜しくお願い致します」
 つと頭を下げて言う依頼人に任せておけ、とばかりに軽く胸を叩く堀田。
「僕も冒険者になる前は猿楽で生活していましたし、今でも冒険期間以外はやってるので芸者としての誇りというのはわかりますしね」
 瀬戸の言葉に依頼人はどこか嬉しそうに目を細めて頷きます。
「そろそろだな」
 僅かに日が落ちてきた頃、山下が言うのにそうですね、と微笑みつつ頷いて身支度をして出かける準備を始める依頼人と瀬戸。依頼人の準備に蘭が手を貸し長屋を出ます。
 入口で待っていた秋村と合流して店へと向かうと、その少し後を氷雨が提灯を手について行きます。襲われたときのためのようです。
 御神村はその様子を確認すると、見張りの1人が目配せをしてから何処かへと姿を消し、顔色の悪い男が後を付けるかのように歩き出し、呪文を唱えようとする様子に春花の術を使い眠りへと誘うと、声もなくぱったりと倒れる男。
 御神村はその男を捕まえくくると魔法の印を結ばれないように手を縛って置いてから、御神村はその男を引っ立てて連れて行くのでした。

●お座敷
 お座敷に席を用意した商人は、上機嫌に人数分の膳を用意し、他にも仕事仲間の芸者さんを演奏のために呼んでおり、霧が出ることもなく無事に店へと入った一行を迎え入れてくれます。
「さぁさ、無事で何よりです。どうぞどうぞ」
 そう言って席を勧める商人。広々とした座敷は二間続きで、一間で料理が並べられ、隣の間との襖は外され、そちらで馴染みらしい芸者が三味線を鳴らすのに合わせて依頼人と瀬戸の2人が扇を手に舞を見せます。
 その後ろに蘭は控えていざというときのためにと警戒しつつ、お膳にのった酒を頂いているよう。
 一つ一つの動作が絵になる依頼人の舞と、楚々と若さを匂い立たせるかのような瀬戸の舞は見事の一言。
 芸の出来ない遊女達の手助けをその舞で手助けをし、自己の技に絶対の自信を持っているその様は凛々しく、山下や出来るだけ依頼人に近い席でそれを見ている堀田など、ほうと思わず息を付く出来映えでした。
 不意に入口付近が騒がしくなり、直ぐにどたどたと荒々しい足音が近付いてきたかと思うといきなり蹴破られる襖。
 そこに立っていたのは剣を持った西洋人で、その顔に浮かべるのは依頼人への嫌がらせににやにやと笑みを浮かべて楽しんでいる様子の、傲慢そうな顔をした若い男でした。
 ちらりともそちらへ目を向けずに舞を見続ける堀田と、ちらりと見て魔法を唱えそうな奴が居ないかを確認する山下。そして依頼人達へと危害がないように様子を窺いつついつでも守れるようにと刀を改めて握り直す蘭。
 しかし、一瞬若い男が意外そうな表情を浮かべて部屋の中をさっと見回します。と、何か激昂したかのように何かを喚き散らすのですが‥‥‥。
「‥‥‥」
 激昂する異国人達ですが、彼らが何を言っているのかが分かる人間がいないよう。膳をひっくり返す取り巻き一人にすらぴくりとも反応しない堀田。
 それは舞を続ける依頼人と瀬戸も同じです。
 三味線を弾く芸者がびくっと萎縮して思わず演奏が途切れますが、それも意に介さないように舞を続ける依頼人。
 手近な商人に掴み掛かろうとしたごろつきはそのまま山下に叩き伏せられ、芸者達へと向かう男も隣の間に控えていた氷雨が素早く入ってくると十手の一撃で昏倒させます。
「!!!!」
 何を言っているかも分からないファイターが剣を握り一歩踏み出すのですが秋村に胸ぐらを掴まれ投げて叩き付けられると、収めた刀のままに打ち込まれる一撃で意識を手放したよう。
「‥‥オイ。起きろ‥‥」
 氷雨に引っ括られてから息を吹き返すと、そこに御神村が痩せた男を縛ってつれてきます。
「江戸の芸者が粋なモンを見せてくれてんだ、ちったぁ大人しくできねぇかよ。そういう無粋な奴は隅田川に簀巻きで放り込むぜ?」
 全てを捕まえて押さえたのを確認して立ち上がった堀田は、そくっとする程の凄味を利かせてゆっくりと、良く理解出来るようにそう言います。
 どうやら言葉は相手側には通じるようで、かっと怒りに顔を赤くする若い男。
「ザマァねぇなぁ‥‥オイ。みっともなくねぇか? オメェら? ‥‥見てみろ、姐さんをよぉ‥‥」
 秋村がぐいと頭を掴むように依頼人へと顔を向けさせます。
 視線の先には何事もなかったかのように舞を踊り終える依頼人の姿が。
「恥をかかされたからって何も。付きまとったり嫌がらせしたり、今やってる行為の方がよっぽど恥ずかしいと思うがね。そんな男は嫌われるぜ。なぁ? 姉さん方や」
 御神村がそう言って同意を求めるのに三味線を抱いた芸者は頷きます。
「やり方が見苦しいな‥‥理解もしないで嫌がらせ、恥がないのか」
「次に馬鹿な真似してみろや。只じゃおかねぇかんな‥‥ジャパニーズゲイシャを舐めんなよ? コラ?」
 軽蔑したように言葉を投げる山下に、ぎろっと睨み付ける秋村。氷雨は冷たい目でじろりと押さえつけてある異国人達へと目を落とします。
 一通りのことを言い終えた頃合いを見て、男達の前に蘭がずいと出て上から見下ろします。
「‥‥さて、言いたいことも言ったもんだし、ちょいと痛い目を見てもらおうか」
 そう言う言葉と浮かべる笑みに、それまで騒いでいた異国人達は何か感じるものがあったのかさっと顔色を変えて蘭を見上げます。
「‥‥‥無理やり言い寄られる苦しみと恐怖、味わってもらうかね」
 そう言う蘭の目が、不気味に光っていたとか。
 引っ立てられる男達がどこに連れて行かれるのか予想も付かない依頼人は小さく首を傾げますが、そんな依頼人ににっと笑いかける堀田。
「姐さん、いいモンありがとな」
 堀田の言葉に依頼人は、誇らしそうな、そして少し嬉しそうな様子で頬を染めてにっこりと笑うのでした。

●お仕置き
 異国人達がどこに連れて行かれたのか、知っているのは蘭と引き立てるのを手伝った者達だけでしょう。
 江戸には魔窟が幾つかあるそう‥‥そして、異国人達はそのうちの一つ、漢らしい男達が集まるとまことしやかに囁かれているの銭湯に連れて行かれたという噂があります。
 真相は分かりませんが、数日後、花街の真ん中で半狂乱になりながら暴れる異国人が保護されたとか、それもきっと別のお話でしょう。
 あれから依頼人は無事仕事に戻り、今日も誇り高く、遊女達の代わりにお座敷で芸の数々を披露しているのでした。