旬の食材〜卯月〜

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 52 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:04月26日〜05月01日

リプレイ公開日:2005年05月06日

●オープニング

 その日、一人の少年がギルドへと訪れたのは、日差しが暖かい春の日の朝方でした。
「あのう、依頼、したいんですけれど‥‥」
 一人でギルドへと入ってきて胡散臭げに見られていて、普段しっかり者の少年も少し戸惑い気味のよう。
 少年は商人といつも一緒にギルドへとやってくる丁稚の少年で、今日は何故か商人の姿がありません。
「実はとある食材を調理して、旦那様に旨い、と言わせたいんですっ!」
 くっと悔しそうに唇を噛む荘吉君。
「僕の家は上方にありました。まぁ、両親も親戚もいませんし、向こうに帰る理由はないんですが‥‥ただ、可愛がってくれていた人っていうのはいるもので‥‥」
 そう言ってから少し考えるようにして、再び口を開く荘吉。
「その、蛸ってご存じですか? 江戸ではあまり一般的ではないようですが、僕が住んでいた辺りでは食べていたものなんです。その、昔可愛がってくれていた人が、シフール便を下さって、蛸を送ってくれるとなって、僕は喜んだんです」
 そう言うと、荘吉は溜息をつきます。
「あのこりこりした触感も、山葵醤油で食べるあの味も、絶対に美味しいって、そう言う自信はあるんです。ですが、旦那様に食べましょうと行ったところ、上方にいらして僕を連れてきたときに見たことがあったらしく、あの気味の悪い物が美味しいとは思えない、となりまして‥‥」
 その時の会話を思い出したのか、しゅんとなる荘吉。
「そこで考えました、冒険者の皆様にこれを調理していただき、食事会を開こうと。皆さんとわいわい話しながら出してしまえば旦那様も食べるでしょうし、後は食べさせて上手いと言わせてしまえば良いんです」
 そう言うと荘吉はぺこりと頭を下げます。
「どうか蛸を調理して、旦那様に食べさせ、旨い、と言わせては頂けないでしょうか?」

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0085 天螺月 律吏(36歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 ea0567 本所 銕三郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0841 壬生 天矢(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea3269 嵐山 虎彦(45歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 ea3891 山本 建一(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0062 ケイン・クロード(30歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

白河 千里(ea0012)/ ミフティア・カレンズ(ea0214)/ 夜神 十夜(ea2160

●リプレイ本文

●下拵え
「私は蛸は足の串焼きが結構好きです‥‥」
 ぼそりと大宗院透(ea0050)が料理の希望を述べる中、臨時講師として呼ばれた夜神十夜に蛸の扱いを習って当日の献立を決めていました。
「荘吉君の気持ちに応えるため、精一杯腕を振るうからね」
「お願いします」
 ケイン・クロード(eb0062)の言葉にぺこりと頭を下げる荘吉。
 献立を相談しがら蛸の扱いを確認している料理組とは別に、会食を行うために商人の御店の客間を準備しているのは山本建一(ea3891)。それを手伝って、嵐山虎彦(ea3269)も、部屋に置いてあった荷物を一抱えにして納戸へと運んだりしています。
「さて、こんなもので良いかな‥‥では私は足りない材料やお酒を買ってきます」
「おう、じゃあ俺は器選びかねぇ。酒はたっぷり買ってきてくれよ」
 一通り掃除を終えて言う山本に呵々と笑いながらそう言う嵐山。
 部屋の準備を、卓を運んできた壬生天矢(ea0841)に押しつけるようにして任せると出かけていく2人。
「まったく、しょうがないな‥‥」
 そう言いつつも卓を並べて席を用意する壬生。
 暫くして、丸1日を手伝いに来ていた白河千里と文献漁りに費やした天螺月律吏(ea0085)が、商人を連れて壬生が用意をしている客間へと連れてやって来ます。
「最近は物騒なご時世ですよ、全く。しょっちゅう盗賊達が暗躍するわなにわで‥‥」
 それでも活気はある街ですからなぁ、と笑いながら言う商人。
 律吏が茶を淹れて商人へと渡し話を始めるのですが、少々不穏な色合いのお茶に商人は笑顔で誤魔化したとか。
「先日ちょっと京へと行ってみたのだが‥‥やはり食も文化もなかなか‥‥」
「ほう、どんなものが良かったですかな?」
「茶や菓子一つにおいても趣が‥‥そう言えば京都で食べた蛸を使った料理もなかなかだったな」
「‥‥たこ、とは‥‥あの‥‥うねうねと気味の悪い‥‥」
 さりげなく言いはするものの、やはり蛸自体に微妙な印象を持っている様子の商人。律吏は暫く京都と江戸の話をしつつ、さりげなく蛸がいかに美味しかったかを言うのに商人もどこか考える様子を見せ始めているのでした。
 さて、当日の会食前、何の会食かを聞かされていない商人はそわそわと厨房を窺おうとしているのですが、そこへやって来たのは本所銕三郎(ea0567)とそのお手伝いのミフティア・カレンズ。
「旦那には見て貰いたくないそうだ。後でのお楽しみらしい」
「ううう、お楽しみと言われても見たくなるのが人情じゃ‥‥」
「お見せしたいモノがあるんだが‥‥暇つぶしにどうかと思ってな」
 そう言って本所とミフティアで商人を引っ張っていくと、広々とした河原へ。
「‥‥これは‥‥凧‥‥」
 心なしか引きつっている商人。それもそのはず、ミフティアを乗っけて上げているのですから、商人も驚いてるようです。
 暫くして降りてきたミフティアは楽しそうにくるくる舞いつつ今度舞を見に来てと商人へ言い、頷いた商人に本所は有無も言わせずまるごとネズミーを着せつけてしっかりと自身と商人を縄で繋ぎます。
「あ、あの、もしかして‥‥」
 ばっと大空を舞う大凧。
「や、やっぱりぃっ!!」
「大丈夫だ! 俺はコレで京の都から帰ってきたんだから!」
 本所の言葉は商人の耳へと入ったかどうか。しかし、暫く飛んでいれば大分余裕が出るのか江戸の町を感心したように見下ろします。
 ‥‥まぁ、見上げた人達はまるごとネズミーを着た商人が空を飛んでいる様はどう見えたのか、この際置いておきましょう。

●デビルフィッシュといざ勝負!
 夜神の料理法の書き付けと料理の仕方を受け取り、また律吏が見つけてきた文献などを見比べて準備が整うと、いよいよ会食の準備が始まります。
 送られてきたのは飯蛸の沢山入った桶と大きな蛸がどんと入れられた桶が一つずつ。それに干し蛸の包みで、少なくとも干し蛸は見る限り少々異様な雰囲気。
「くっ、荘吉君のため! ‥‥それに、美味しいらしいし‥‥」
 イギリス出身のケインにしてみればデビルフィッシュと忌み嫌う生き物。
「西洋では蛸は『でびるふぃっしゅ』と確かに云いますね。それではお払いでもしておきますわね」
「お払いよりは供養ようだと思うが‥‥」
 大宗院鳴(ea1569)が楽しげに言うのを、後ろで夜神から聞いて覚えた手順で蛸の皮を剥いで、慎重な手つきで手伝いをしている壬生が一言。
「でも、困りましたわ、ちょうど良い鉄板が見つからなかったのです」
 小分けに焼けるような一風変わった鉄板を用意するのはもっと前から言ってくれないと、と職人さん達に言われ諦めて帰ってきた鳴。それでも普通の使いやすそうな鉄板を借りてこられたのは流石かも知れません。
「おお、これがタコ‥‥なぁ、ちぃと触ってもいいか‥‥って、ああああ吸い付かれたっ!! 痛てぇ!」
 蛸に先程から手を吸い付かれて必死で格闘している嵐山が騒ぐ中、ケインは意を決すると蛸を掴んで塩もみ洗い。始めてしまえば料理を進めていくのは簡単で、手際よく塩胡椒をするケイン。
「蛸を叩こう!」
 珍しく元気に発言する透は、干し蛸を軽く炙って、それをとんとんと叩いています。それをゆっくりと包丁で薄く切り分けていく透。やがて下準備も終わり、後は火を使った調理に移ろうと言うところ。
「商人さんが戻ってくるのにまだ少し時間がありそうですね〜」
 そう言うと透とケイン、それに鳴で何やら相談を始め、水で溶いた小麦粉に卵黄と昆布出し汁を加えお醤油を垂らし。具として蛸をぶつ切りにしたものを加えて天かす、桜海老、葱を細かくしたのを加えて混ぜるケイン。
 透が油を引いて暖めた鉄板に具を少しずつ流して生やけのうちにくるりと返し‥‥表見をかりっと焼き上げる為に色々と手を加えているよう。
 忙しげにあっちの料理こっちの料理と様子や火加減、味の確認など忙しく動き回るケイン。出来上がったものを嵐山が選んだ器に手分けして盛りつけていく壬生と律吏。
 ちょうど商人が戻ってきてすこしした頃、料理は全て整うのでした。

●見た目も肝心
 運ばれてきた料理を目に、商人はほうほうと感心したように息を漏らします。深緑の地に白い花の描かれた器に盛りつけられた唐揚げと同じ柄の平皿に布を引いてその上に並べられた筍・玉葱・サヨリそして、蛸の天麩羅。
 どれも見た目が華やかで香りが食欲をそそります。
 椎茸と筍で作った茶碗蒸しが、また良い匂いを立てていること。
 一同で食事となりますが、どうも蛸の唐揚げを見つつ、何であるのかが想像付かないために難しそうな顔をする商人。
「いや、これは本当に旨いな」
「あぁ、こいつぁ‥‥なぁ、旦那〜、食わず嫌いも良いが人生損してるかも知れねぇぞ」
 さも旨そうに食べる本所と、そして嵐山の言葉に意を決したのかひょいと口の中へと放り込む唐揚げをゆっくりと咀嚼し‥‥。
「‥‥旨い!」
 何とも言えない食感とその味にむぐむぐと食べる商人に、壬生が酒のお猪口を手にやって来て、ぐいのみを差し出すと、注いで貰ってから直ぐに壬生へともう一つのぐいのみを差し出して酒を勧める商人。
「ではご相伴にあずかろうか」
 そう言ってくいっとぐいのみを干す壬生は、不思議そうに天麩羅を一つ摘んで見つめます。
「それにしても‥‥蛸か。あのくねくねしてた生き物‥‥ホントに旨いのかね」
「蛸‥‥ってまさかあの‥‥」
 壬生の言葉に目を白黒させる商人ですが、思わず先程から幾つもぱくついた唐揚げの山を見て暫し黙考。
「‥‥あれがこんなに美味しいとは‥‥」
 複雑な心境よりも旨さが先に立ったよう。小さな楕円形をした、表面がかりっと焼き上がったものをケインが運んできて勧めると、反応を待つ大宗院兄妹に少し緊張した面持ちながら口へと運んでぱくり。はふはふしながら食べると、これまた吃驚した表情で笑います。
「これはまた、変わった食べ物ですなぁ、何とも言えない」
 そう言いつつも満足した様子が良く窺える商人。見た目を蛸に見せないで作り上げた料理のかずかす、まずは成功だったようでした。

●そのままでも‥‥
「こちらなどは如何でしょうか?」
 そう言って山本が装って渡すのは蛸飯。こちらも良く味が出ていて思わず舌鼓を打つ商人。商人が旨いと言ったので荘吉の気が晴れたのか、一気に食事会という名の宴会へと移行していきます。
「美味しいですわ」
「‥‥何故、こんなに食べるのに全然成長しないのでしょうか‥‥」
 とても凄い勢いで食事を食べ進める鳴を見つつぼそりと呟く透ですが、異母妹との食事の時間を十分に楽しんでる様子です。
「さて、ここいらで‥‥」
 そう言って桶ごと蛸を持ってくるのは本所。商人はまだその見た目に少し引き気味ですが、むんずと蛸を掴んで商人や他の面々の前で豪快に『解体』してぬめりを取り除くその様子、流石漁師、その豪快な切り方、まさしく男の料理と言うところでしょうか。
 七輪で煮立たせてある鍋でざっと煮るとこれをぶつ切りにして皿に盛ると一行へと出す本所。
 醤油にすり下ろした山葵を添えて出される小皿を受け取って口へと運ぶと、そのこりこりした食感と醤油にあうも、噛めば噛む程に味が出るその身に商人も上機嫌。
「ささ、皆様、もっとぐっとやって下さい」
 壬生や嵐山、それに本所に酒を注ぎながらそう言う商人の側では、律吏と荘吉が並んで蛸のぶつ切りを食べつつ歓談中。
「この食感がたまらないのだよな。うんうん」
「本当に、やはり蛸は山葵醤油に限りますね‥‥」
 頷き言う律吏に、荘吉も何度も頷いてはしみじみと蛸を食べ、蛸飯には舌鼓をしています。
「蛸か、刺身もいいがご飯にしても美味しいものだな」
「ですよねぇ‥‥ジャパンの美味しい物は奥が深いですね〜」
 賑やかに進む会食を眺めつつ、山本とケインはのんびりとお茶を啜り、蛸飯を堪能しているのでした。