消えた番頭

■ショートシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:5〜9lv

難易度:難しい

成功報酬:3 G 30 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月04日〜05月11日

リプレイ公開日:2005年05月15日

●オープニング

 すっかり木々は輝くばかりの緑に埋め尽くされてきた頃、ギルドの前で遊び人風の男に少々派手な、花街などで客引きでもしていそうな女が口論をしているよう。
 直ぐに口をへの字に曲げた男がギルドへと入ってきて、すぐに女もぷいと膨れながら付いて入ってきます。
「ちょいと急ぎの仕事なんだが、人はいるかい?」
 そうギルドの人間を掴まえて言う男は達蔵と言う遊び人で、付いてきた女は花街のとある店で呼び込みをしているおしま。
「実はな、川に身投げしかけていた酔っぱらいを捕まえて、おしまの家に連れて行って事情を聞いたんだか、もう馬鹿なことをしないようにと約束させて休ませたわけだが‥‥」
「この人、うっかり寝ちまって、その人が出て行ったのにも気が付かなかったんですよぅ」
 おしまの言葉に仕方ねぇだろ、と返す達蔵。
「なんだか、幼馴染みの小町娘がいなくなっちまったのは自分の所為だとか、あの時冒険者にたのまなけりゃ、とか‥‥」 
 言われたことを思いだして話し始める達蔵。
 大まかな内容としては、自分の御店の若旦那と幼馴染みで自慢の小町娘は相思相愛。
 後数日で御店へ迎えられるはずだったのに、横恋慕した上方の方から来ていた商人から守ると言う依頼をギルドに頼んだところ、娘は無事だったが悪い噂が流れてしまい婚約は破棄、娘一家もいなくなってしまったと言う話を酔っぱらった男から聞いたそう。
 若旦那はそれからすっかりとしょげたり荒れたり目も当てられない様子。
 自然、冒険者を雇った番頭へ、若旦那以外の風当たりが強くなり、耐えられず酒を飲んだ勢いで橋に足をかけていたとのこと。
「もう身投げなんて馬鹿なことはしねぇと言っていたが、どうにも気になってなぁ」
「だから、達さん、いなくなってしまったんですから、あたしらにはどうしようもないでしょ?」
「んなこと言ったっておめぇ、放っとけねぇだろ? おめぇだって、万が一のことがあったら大変だって言ってたじゃねぇか」
「だけどさぁ、何だってお前さんがそこまでしなきゃいけないって言うんだよぅ」
 そう言いながらも仕方がないと諦めているようで小さく息を付きます。
 どうやら御店に寄ってきて、番頭さんがいなくなって大変なことになっていたところを見てきたよう。若旦那は番頭までいなくなったと悲嘆に暮れ、店の方は暫く休業になるとか。
「その御店の方も見ちゃいられねぇし、事情を聞いちまって放ってもおけねぇ。かといって俺一人ではどうしようもねぇ。まぁ、そう言うわけだ、なんとか、いなくなっちまったその御店の番頭さん、見つけちゃ貰えねぇだろうか?」

●今回の参加者

 ea0443 瀬戸 喪(26歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea0592 木賊 崔軌(35歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1636 大神 総一郎(36歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea3220 九十九 嵐童(33歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 ea3874 三菱 扶桑(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5973 堀田 左之介(39歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

御神楽 紅水(ea0009)/ 御影 涼(ea0352)/ 和紗 彼方(ea3892)/ 片桐 惣助(ea6649

●リプレイ本文

●御店
 御店へと大神総一郎(ea1636)が従兄弟の御影涼とやって来たのは昼下がり、辺りの店で開いていないのはこの御店と他に一件程で、そちらはどこか物々しい雰囲気なのに比べると、こちらはすっかり暗く、貼られた張り紙の休業を知らせる文字もどこかよれて物悲しさを誘います。
「上方からの質の良い扇を扱っていると聞いていたのだが‥‥何故店を閉じておられる?」
 幾度か戸を叩き店中へと入れさせると、自身の名の知られているのを利用し店の者達を御影に任せると暗くやつれきった様子の若い旦那へと大神は問いかけます。
「手前共の店は番頭が全てを取り仕切って動いておりましたが、私の縁談が流れたあとから様子がおかしくなり、番頭が出て行ってしまいまして‥‥」
 そう顔色悪くがっくりと肩を落として言う若旦那。店と自身の恥を言うのは信用のおける技かも知れません。
「気の良い人達が彼を心配し私達を頼ったのだ‥‥そうまでさせる番頭の人柄の良さがこれでわかるな」
「はい、本当に手前共の店には勿体ない、良い番頭で‥‥なればこそ、余計にいたたまれなかったであろう事は容易に想像が付いたはずですのに‥‥」
 自身が至らず、とただただ口惜しそうに項垂れる若旦那に大神は口を開きます。
「皆店を思い主人を思い憤っている、それは店がいかに良い人間環境か伺わせるものだ、番頭の事も心底ではないだろう。彼の戻る場所を作ってやるのも若旦那の仕事だと思うぞ」
 項垂れたまま頷く若旦那。よっく話を聞いてから席を立つ大神、使用人達へ御影があくまで穏やかに『何故番頭を庇わないのか』と言う疑問を投げかけて、2人は御店を後にしました。
 2人が去って程なくして、瓜生勇(eb0406)が従業員達に話を聞きに来ていました。
「お美代さんの事を心配している方から私は頼まれたんですよ」
 その言葉に裏口で雑談に興じていた下働きの女性2人が顔を見合わせます。女性達は嫉妬や羨望からの、噂で追い落とされたお美代への優越感でどこか口汚く罵るのですが、番頭のことになると先程のことがあったからか顔を見合わせて、ただいなくなってしまった、とだけ言います。
 勇が他の使用人に話を聞くと、店の下男は絵姿を一枚くすねてきて勇に渡してくれ口を開きます。
「お美代さんは気立ても良く優しい娘さんだったもんで‥‥彼女を知っている人はあの噂なぞ信じないんですがねぇ‥‥噂が忘れられるまではと言っている間にいなくなってしまったから‥‥」
 そう言って下男は番頭とお美代が見つかるんだったら、せめて若旦那へ知らせて上げて欲しいと何度も頼んで見送るのでした。

●番頭
「‥‥早まった事をしなきゃ良いんだが‥‥」
 九十九嵐童(ea3220)が小さくそう呟いたのは達蔵から人相を聞いて番頭を保護したという辺りから足取りを追ったのは、ちょうど大神達が御店へと尋ねていったのと同じ頃のことでした。
 朝早くといえど活気のあるこの江戸、棒手振り達が仕事を終えて長屋で寛いでいるところで話を聞くことが出来、やはり休みを貰ったときに行く、馴染みの店の方へと足を伸ばしていることが分かると、嵐童はそちらへと先に向かっている一行と合流するために急ぎ向かうのでした。
「んーどうにも居心地の悪い依頼だな‥‥」
 手を貸しに来ていた御神楽紅水と和紗彼方に確認して貰った話を聞いて、本当だったら幸せだった2人か、とやりきれない表情を浮かべる御神村茉織(ea4653)。
 御神村は依頼人宅から番頭の足取りを嵐童と同じく追って行きつけの店の方へと向かっていました。
 その店に着くには大分時間がかかりましたが、先に店へと向かっていた瀬戸喪(ea0443)・木賊崔軌(ea0592)・堀田左之介(ea5973)の姿を見つけることが出来ます。
 堀田は店の側に有る川を見張り、喪は町娘に扮して付近の聞き込みをしているところで、木賊は気になった噂にそこからもう少し行ったところの大百姓屋敷へと足を進めているところでした。
 その日、既にとっぷりと日もくれた頃、馴染みの店の2階からよたよたと降りた人影に気が付いたのは嵐童でした。
 薄暗い中で番頭本人か確証が持てないままに付いていくと、橋の前に来てきょろきょろと辺りを見回しいきなり橋へと足をかけた、その時です。
「‥‥大馬鹿野郎‥‥早まるなっ!」
 嵐童がスタンアタックで止めようとするのと、川を見張っていた堀田、橋を警戒していた御神村が止めに入り、3人がかりで一瞬にして取り押さえられて昏倒する男性。
 直ぐに先程の店の主をたたき起こして2階へと運び込むと、心配そうに手当をする店の主の手当で目を覚ますその男性、やはり依頼人から聞いていた番頭本人であるの側借りました。
 3人の風体に冒険者が過ぎりさっと顔を真っ赤にする番頭に口を開く堀田。
「事情は全部聞いた、でも十羽一絡げで見てくれんなよ」
「すまねぇ、俺達が信用できねぇってのは判る。だが、若旦那が心配して、店を休業にしてるってのは事実。帰ってやってはくれねぇか? あんたを必要としている人の為によ」
 苦笑混じりの堀田に続き御店の現状を説明してからそう言う御神村にぐっと唇を噛んで目を落とす番頭。
「そこに至った経緯はともかく、現在のお店は動いていない。それはアンタが出ちまったからだ。若旦那もアンタがいなくなった事を嘆いている。これは番頭冥利につきねぇかい? それだけ頼りにされててもおっぽりだしちまうのかい?」
 片桐惣助から聞いた御店の現状を指し、畳み込む堀田の言葉に、番頭は膝で拳をぎっと握りしめたまま俯いて肩を震わせているのでした。

●大百姓の屋敷
「罠職人さん、ですか?」
 その大百姓家の裏口で木賊の言葉にそう聞き返してからぱっと表情を明るくするのは、その屋敷で奉公をしている様子のすらりとした美しい娘でした。
「きっと旦那様は喜ばれますわ、最近畑を荒らす生き物が多くて‥‥あ、でも、生きたままで捕まえられますか?」
 死なせてしまうのは可哀相だと言われると思いますし、と良いながら茶を淹れて旦那様にお会いになります? と進める娘に礼を言って何気なく名を聞く木賊。
「すまねぇな、えーっと、お前さんなんて言うんだ?」
「私は‥‥お美代って言います」
 一瞬名を言うのに躊躇った様子を見せるのですが、直ぐに困った様な顔で笑って名乗ると主に取り次ぐために木賊を待たせて奥へと入っていく娘。
 直ぐに取り次がれた主は壮年で柔和な顔つきの、堂々とした人物で、木賊は考えた末に簡単な事情を説明すると、主はお美代の事情を知ってなお、屋敷で仕事を与えてその家族の面倒も見ているとか。
「人の噂も何とやら、ですからね。ああいう若い娘には可哀相なことだが、いずれ江戸に戻れるのではと思いましてね」
 そう言って何かあれば協力を惜しまないと約束する主に見送られて木賊は屋敷を後にするのでした。

●今暫く
 勇がお美代の噂を辿ってやって来た屋敷が、以前のんびりとした日を送った屋敷であることに少々驚きつつ、仲間と合流し転倒に、せめてお美代の元気なところをと少し離れた場所から屋敷を眺めさせて事情を説明していたときにそれは起こりました。
 少々時間が遡りますが、三菱扶桑(ea3874)がその屋敷を訪れたのは、木賊が訪れてから1日程経った頃のことでした。
「おまえさんは娘も番頭もいなくなったと泣くだけで自分では何もしないんだな、どうせ仕事も手に付かないのなら自分の為に探してみたらどうだ?」
 そこにお美代がいると聞いてから三菱は御店へと向かうとそう言って若旦那をけしかけ、その足で大百姓の屋敷へと急ぎやって来たのです。
「ある人からこの娘を連れて来いと言われてるんでね」
「はぁ、その、お美代に大事がないように気を付けて頂けますでしょうか?」
 心配そうに言う屋敷の主に頷いてお美代に急ぎ旅支度をさせた三菱は、詳しい事情も分からぬままに旅支度を終えたお美代を連れて裏口から表へと出た、その時でした。
「お美代っ!」
 馬に乗れないためか籠を乗り継いでやって来た若旦那が転がるように飛び出して呼ばったのには、物陰から見ていた一行にも予測出来ないことでした。
「わ、若旦那!? な、何故ここに‥‥」
 そう言って三菱を見上げるお美代にからからと笑い声を上げる三菱。
「お、来たな」
「き、ききき、来たなって、当たり前じゃないですか!? お美代も、番頭も、私に取っちゃ掛け替えのない存在なんですっ!」
 三菱にそう言って食って掛かる若旦那と、その言葉に真っ赤になるお美代。
 その様子を見ていた一行ですが、誰とはなしに番頭背を押して3人の元へと向かうと、番頭は2人の前で膝をついて男泣きに咽び、それを若旦那とお美代が互いに目に涙を浮かべつつ立たせます。
「‥‥有難うございました、本当に、何から何まで‥‥」
 まだ完全に消えていない噂もあり、屋敷の主の好意もあって、今暫く主の屋敷で世話になることが決まったお美代。
 先に番頭を伴って江戸に戻った若旦那。きっとこちらの方も少しずつ元に戻っていくのでしょう。
 お美代は一行に頭を下げると若旦那が迎えに来るのを待つと言ってはにかみます。
「実は、前の依頼に来ていた友人が気にしていてな‥‥」
 そう言う嵐童の言葉にお美代は思い浮かんだ人がいるのかにこりと笑って小さく首を振ります。
「あの時も、皆さん一生懸命考えて下さってのことでしたし‥‥それに、少し先に伸びてしまいましたけど、こうして皆さんのお陰で‥‥本当に有難うございました」
 そう言って頭を下げるお美代。
 お美代に見送られ、一行はやきもきしつつ報告を待っている達蔵の元に戻っていくのでした。