駆け落ち助太刀
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■ショートシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月13日〜07月18日
リプレイ公開日:2004年07月21日
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●オープニング
どこか飄々とした青年がギルドの顔を出したのは、そろそろ焼け付くような暑さが感じられるようになった、ある昼下がりでした。
「駆け落ち助太刀、頼めないかな? いや、後ろ暗いって訳じゃないんだけどさ、なんか逃げなきゃいけなくなったらしくって」
そうへらっと笑いながら言う青年は、軽く肩を竦めて続けます。
「僕が駆け落ち? 冗談言っちゃいけない、幾らなんでもそれだったらもっと慌てているよ。駆け落ちしたがっているのは僕の義妹。親同士が再婚しててね、ちっちゃい頃から一緒に育っているから、仲は良い方だよ」
そう言いながら「失礼」と言って煙管を取り出して銜えてゆっくりと薫らせて、話す内容を頭の中でまとめているようでした。
「ま、義妹は丁度18の、それなりに良くできた子でね。親にも逆らったことはないんだが、僕の知人の浪人と会って以来、一目会ったその日からって言うの? もう互いにべた惚れって感じでさ、ま、恋人がいるって言うのは親に話してて、もうトントン拍子で話が進んでたんだよ」
そう言いながら、どこか遠い目をして青年は溜息をつきます。
「僕もさ、当人たちが幸せならいっか〜って、軽い気持ちで考えてたから忘れてたんだよね、親の性格」
そう言うと煙管口元から話して深く溜息をつきました。
「やっぱ、40後半の浪人者じゃ、年の差がありすぎるよなぁ‥‥それまで相手が尋ねてくるのをうきうき指折り数えてた両親、急に用心棒なんか雇っちゃって、義妹も閉じこめられて、外にまで出して貰えなくなっちゃってさ。泣かれるんだよ」
煙管の灰を捨てながら、半分愚痴に近い言葉を漏らす青年。微妙に哀愁を誘います。
「相手も何とか嫁に貰えるようにって努力して、最悪農民になって畑耕したって良いから、一緒になりたいって言うし‥‥許可は親の性格上、出ないんだよね、絶対。かといって、1人で乗り込んで攫うにはちと多勢に無勢でさ‥‥はは、初めて親に逆らうことになっちゃうけど‥‥」
そう言うと、がしがしと頭を掻いて青年は溜息混じりに切り出した。
「ってことで、義妹を屋敷から連れ出して、駆け落ちさせてやりたいんだ。当座の金は僕が用意したし、必要な手引きや屋敷の配置とか、協力出来る事はするからさ、この駆け落ち、誰か助太刀してくれない?」
●リプレイ本文
●いざ潜入!
一行が実際に娘の恋人にあった印象は、実直の一言でした。
程良く鍛えられた体躯に真面目さが滲み出てくるような顔つき。ただ、あちこちにうっすらと怪我の痕が見受けられます。
「では、娘さんのお兄様の手引きで、途中までは上手く行ったのですね? ただ、追っ手が掛かって数で押されて逃げ切れなかったと‥‥」
「‥‥単身で乗り込むは愚策‥‥分かってはいたがすぐにでも迎えに行ってやりたく。これには初めから人を雇ってと諫められたのだが‥‥」
「これって何だい、協力してやっているじゃないか」
白羽与一(ea4536)の言葉にそう答え短慮であったと悔やむ浪人と、茶々を入れる依頼人。様子を見たところ、浪人の傷はまだな完全に癒えておらず、連れて行くのは危険のようです。
「出来れば娘さんが信用してくれるよう、一筆書いて貰えないか?」
漸皇燕(ea0416)が言うのに、浪人は木簡と筆を用意し達筆で手紙を書いて渡してくれます。
「言われたところできちんと待機していまる。なにとぞ‥‥なにとぞ」
浪人は深く頭を下げて、そう頼み込んでいました。
後々問題になってはいけないから終わったら焼き捨てるという条件で見取り図を書いて貰った一行は、警備の手薄な場所や用心棒達の数と配置を確認しています。
「何か悪い夢を見ている様だ‥‥」
皇燕の言葉も無理はありません。実力が伴わないような人数を入れると、何の冗談かと思うぐらいに数を雇って辺りの警戒をしているようです。
「救いがあるとすれば、実力としては大したこと無い物が多いと言ったところだな」
確認をして奉丈遮那(ea0758)はそう指摘します。事実、それなりに使える者となると片手で足りる人数です。
暫し打ち合わせをしてから、一行は各々の準備へとかかるのでした。
霧山葉月(ea0367)は依頼人の口利きで、奉公人として屋敷に入り込んでいました。知り合いの娘ということで、依頼人の人脈で上手く誤魔化しをしてくれたようです。多少刀が使えるというと、娘さんの身の回りの世話と護衛をするように言い渡されます。当の娘さんは、離れで閉じこめられふさぎ込んだ様子で、筆を取って手習いなどをしています。
「もうすぐ何とかなるから安心して」
葉月の言葉に驚いたように目を上げる娘さんに笑いかけると、障子に映った影が、なにやら気が付いて貰おうとでも言うように羽をぱたぱたさせながら呼んでいます。
「私にかかれば壁など無意味っ、なんてね♪」
葉月が障子を開けるとそこには手紙を持って笑うアオイ・ミコ(ea1462)が居ました。窓からひょいと部屋の中に入って、アオイは笑いながら手紙を差し出します。
「浪人さんから預かってきたよっ♪」
そう言って渡される手紙を慌てた様子で読み始める娘さん。すぐに手紙をぎゅっと抱きしめてボロボロと涙を零します。
「良かった‥‥あの方はご無事だったのですね。先日のことがあって以来、兄にすらろくに会えなくなってしまったので‥‥」
そう言う娘さんはほっとしたように手紙を抱きしめ続けていました。
●いざ強奪!
夜も更けて来た頃、娘さんはアオイとお茶菓子などを頂きながら、時間が来るのを待っていました。ほんの少しの着替えと、兄から渡された当座の金子をこぢんまりと纏めて風呂敷へと包んでおいてあります。随分と思い切りよく荷物を少なくしたようで、それが決意を感じさせます。
そして、草木も眠る丑三つ時‥‥夜の町に犬の遠吠えが響き渡ります、3度ほど。
山石伝(ea4829)が大蝦蟇を呼び出してから、合図として声色を使い挙げた声です。
屋敷の周りが俄に騒がしくなってきました。
「な、なんだあれはっ!? か、蛙‥‥?」
「っ!? 灯りがっ!?」
合図と共に一斉に動き出す一行。離れたところより、正面で焚かれた篝火を射倒す与一。必然的に辺りが薄暗くなるその中に、のそのそと大蝦蟇が東側から正門の方へと歩いてきます。その異様な光景に、ぞろぞろと引き連れられてきた用心棒達は、どこか気味悪げの遠巻きに刀を構えて様子を窺っています。
西側で張っていた用心棒達は辺りが騒がしくなるのに、その場を指揮していた用心棒が2人ほど正門へ様子を見に行かせます。ふと、その用心棒の視界にすらりとした足が入り、驚いたように顔を上げると、そこに立っていたのはパフィー・オペディルム(ea2941)でした。
「すみません。其処のお兄さん、近くの宿までの道を教えて頂けませんか? わたくし、ジャパンに来て間もないので、道に迷ってしまいましたの。困りましたわぁ‥‥」
色っぽい声でどことなく不安そうに上目遣いで見上げるパフィーに、用心棒は顔を背けて無言でぐっと拳を握ると、すぐに表情を引き締めて言います。
「異国のお嬢さん、ここにいたのが私で良かった、他の者でしたら怪しいと言って掴まってしまいますぞ」
「宜しければ、宿まで送って下さいませんか? こんな時間にわたくしの様な、か弱い女が一人歩きするのは不安ですの‥‥」
「ふむ、任務の途中なれど、手は足りている‥‥宜しいお送りしましょう」
用心棒と共に歩きだすパフィー。少し離れたところの暗がりへと入ったとき、声にならない男の悲鳴が上がっていました。
表の方が騒がしくなった頃、静かに迅速に、裏での作戦は始まりました。
辺りを窺いながら鍵を開けに走るアオイに、様子を見に行くように言われた葉月が娘の所へと行って準備を整えるようにと告げます。
アオイはあちこちの灯りを消して、離れへの主立った扉を開けるも、裏口の閂に苦戦をしていました。すっと側に寄る人影にはっとアオイが顔を上げると、遮那が外壁を越えて、辺りの安全を確認してから手を貸しに来たようです。
閂が開けられると、皇燕と桜澤真昼(ea1233)がそこから滑り込むように入ってきて、皇燕は遮那の指示する井戸の陰へ、桜澤は建物の陰へと素早く入り込みます。
「さ、こっちへ‥‥」
葉月に連れられて、娘は皇燕の待つ裏口へと向かいます。庭へと足を踏み入れたとき、屋敷の奥からバタバタと走る足音が迫ります。と、鈍い音と共に派手に転がる音がします。遮那がそっと近づいて行って足止めをしたようで、廊下に2人ほどが伸びていました。きっと当たり所が悪かったのでしょう。
裏口の扉へと娘が辿り着いたときでした。
「おっと‥‥侵入失敗か‥‥」
ぴしゃっと台所の扉が開き、あまり腕が立つようには見えない数人が現れたのに、咄嗟に皇燕は屋敷の中へと注意を引くように駆け出します。
用心棒は二手に分かれて、2人ほどが皇燕を追い屋敷の中へ。残りが裏口をくぐった娘を追おうとやってくるのに、潜んでいた桜澤は娘を庇うように立ちふさがり、ダガーを構えます。
「くそっ、なんだお前はっ!?」
「名乗るいわれなどありませんっ!」
斬りつける用心棒の刀を交わしながら、桜澤は娘と仲間が裏口を抜け外へと逃げるのを見届けます。しつこく斬りつける刀を、渾身の一撃で砕いて吹き飛ばすと、桜澤自身も裏口を抜けて外へと飛び出します。
屋敷の中へと駆け込んだ皇燕は、頭に叩き込んだ屋敷の配置を頭の中で反芻していました。突き当たりを曲がったところに‥‥、などと考えていると、丁度突き当たりを曲がったところで部屋の襖が開いて手招きが。飛び込むと同時に襖が閉められ、静かに、とばかりにしている依頼人がいました。
「奥の部屋で茶でも飲んで時間を潰しましょう。裏口を抜けたんでしたら、後は安心でしょうし」
そう言いながら依頼人は、奥の部屋に皇燕を押し込むように入れると、追ってきた用心棒をからかいつつ追い払って、見張りが手薄になるまでの間、自分の趣味の茶に付き合わせるのでした。
伝が撤収の合図に気が付いたのは、大蝦蟇の3体目を呼び出した直後でした。大蝦蟇に防がせて落ち合う場所へと急ぐ伝。
伝が着く頃には皇燕を覗いた全員が与一の待つ所へと戻ってきました。
「どうやら依頼人のところに身を隠しているらしい」
遮那の言葉にほっとした空気が流れます。
「あたしはこのごたごたに乗じて戻るね。怪しまれても困るし」
「分かりました。では、白羽様、こちらの方はお任せします」
葉月の言葉に頷くと、桜澤はそう言って与一へと娘さんを預けて言います。
「お任せ下さい、必ず‥‥」
そう言うと、与一は娘さんを乗せると馬の腹を蹴り声を上げます。
「いざ愛しき者が待つ場所へ‥‥漣、共に駆けましょうぞ!」
その言葉に奮い立ったかのように、与一の愛馬漣は勢いよく駆け出します。それに気が付いた辺りを探していた、僅かに残った用心棒達が追おうとするのに、パフィーが手の中で作った炎の玉をその用心棒達の中へと投げ込みました。
錐揉み状態で吹き飛ぶ用心棒達に、投げキスをしながら、パフィーは上機嫌に言いました。
「バイバイですわ〜♪ もう会う事も無いと思いますけ・れ・ど♪」
●妹からの手紙
与一が娘さんを浪人の元へと送ってから数日が経ちました。
その間に、依頼人が上手く説得したのか葉月も咎めを受けずに屋敷の奉公から戻り、報酬も受けとって一息ついた頃です。再び依頼人がギルドへと顔を出しました。
「今さっき、シフールからこんな手紙を受けとりまして‥‥皆さんへのお礼の言葉のあったので、持ってきてみました」
手紙の内容は、無事に逃げ延びて今ではひっそりとした居心地の良い村に身を寄せて、2人で仲良くやっていること、置いてきた両親を心配する言葉、そして何より、皆さんへの感謝を書き綴ったものでした。
「なんだか、義妹がいないと少し屋敷の中も寂しくなりますが‥‥そのうち慣れるでしょう。あの2人に子供でも出来れば両親も折れて、何とか上手く行くんじゃないかなって軽い気持ちで考えたりしてますよ」
そう言いながら、依頼人はどこか嬉しそうに手紙を眺めているのでした。