【新隊士試験】任侠集団・新撰組二番隊

■ショートシナリオ


担当:霜雪

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月25日

リプレイ公開日:2005年12月08日

●オープニング

−−寺田屋
「クソッ!」
 男−−新撰組二番隊組長・永倉新八の握られた拳が思い切り振り下ろされると。卓の上に置かれていた数本の銚子が震え、手前に置いてあった猪口が倒れる。
「新八っつぁん‥‥」
 荒れる永倉の隣にいた原田左之助は懐から手ぬぐいを取り出すと、倒れた猪口を拾い上げて零れた酒を拭き取った。
「おぅ、左之。返せ」
 左之助の手にしていた杯を奪い取ると、永倉は温くなった銚子の熱燗を注ぎ込む。
「んだぁ? これしか入ってねぇのか」
「八っつぁん。マジで今日のトコはこの辺にしといた方が‥‥」
 恐る恐る、左之助が声を掛けた。と、いうのも無理のない話。新撰組の中でも、殊更荒くれ者の集団とも呼ばれる二番隊。その組長である永倉と比較的親しい左之助でさえ。ここまで酒に溺れて気の立っている永倉を目にしたことは、未だかつて無かったのである。
「五月蝿ぇ!」
 左之助を軽く突き飛ばすと、その拍子に新八の手から抜け落ちた銚子がパァンと言う音を立てて粉々になった。
「チッ‥‥。おい、女将! もう一本持って来い!!」
「女将、すまねぇ。こっちはやっとくから、酒の方を頼まれてくれるか?」
 鳩尾の辺りを押さえ、落ちた銚子を片付けながら。左之助は酒を持ってくるようお登勢を促す。
「へ、へぇ。ただいま」
 お登勢は慌てて奥へ消えると、湯気を立てた新しい熱燗を持ってきた。永倉は奪い取るように銚子を掴み取ると、猪口に注ぎ込む。
「一体、どうしたってんだい。新八っつぁん‥‥」
「‥‥どうしたもこうしたもあるかよ」
 酒を煽ると、吐き捨てるように永倉は呟いた。
「ついこの間、京の西が焼けたばかりだってのによ。江戸でも火事があったって話じゃねぇか」
 京と西部に位置する−−位置した、と言うべきか‥‥?−−『妖怪荘』なる物の怪どもの溜り場が焼けた。先日、その焼け跡を永倉は己が目で確かめており、所用で駆け付けられなかった自分を悔いたばかりだったのだが。十日に起きたという、江戸の大火。既にその報はここ京都にも届き始めており。しかも出火の原因が、どちらも人の手によるもの−−即ち『放火』ということも、永倉の耳に入っていたのだ。
「俺がその場にいりゃぁ、ちったぁなんとか‥‥」
「八っつぁん、『火』の志士だからなぁ」
 精霊の力を借り、火を操ることが出来たならば。永倉ほどの力量を持ってして、現場の被害を少しでも止められたのは誰の目にも明らかである。
「何が新撰組だ! 何も出来やしなかったくせに、組長とは笑わせるぜ!!」
 何度も何度も、永倉は握った拳を柱に打ち付ける。組長という立場にあるからこそ、現場へすぐに駆け付けることが出来なかったのだが。永倉にとって、そんな言葉は何の慰めにもならなかった。
「畜生ォッ!!」
 怒号とともに殴りつけられた拳から、じわりと赤い血が滲み出す。だが、それでもなお振りかぶられた永倉の腕は、悲痛な左之助の叫び声とともに掴まれた。
「もう、止めてくれよ新八っつぁん!」
 暫くの間、二人の間で力の押し合いがあったが。やがて、左之の掴んでいた永倉の腕に込められていた力が、ふっと抜けた。
「‥‥‥‥‥‥‥‥すまねぇ、左之」
 腕を大きく二度ほど振り、永倉は残っていた酒を流し込んだ。左之助も向かいに座ると、手酌で酒を猪口に注ぐ。
「今夜の『見廻り』は、長くなるなぁ」
 酒を飲みながら。ぼそりと左之助が独りごちた。

−−翌日、新撰組屯所
「頭痛ェ‥‥」
 こめかみの辺りを押さえながら、永倉は溜め息をついた。滅多に深酒をしない性質(たち)なのだが、昨日は勢いに任せすぎてしまったようだ。
「かったりぃな‥‥。陰陽寮にでも行くか」
 『魔術の鍛錬』と称して、永倉が向かう避難場所。陰陽寮−−同じ精霊魔法使い、そして新撰組組長という立場から。永倉の出入りについては、陰陽寮側も仕方なしに目を瞑っている−−へ書物でも漁りに行こうとしたところで。永倉は屯所内に、見掛けない服装である袈裟を纏った人間がいることに気付いた。
「おい」
 永倉は徐(おもむろ)に、近くにいた隊士の首根っこをつかむと声を掛けた。突然のことに隊士は驚いて小さく悲鳴を上げたのだが、声の主が永倉だと解ると幾分落ち着いたようで。小さく息を飲んで、心を落ち着かせた。
「な、なんでしょう?」
「あの、袈裟を着たヤツ。坊主だろ? ‥‥誰か、死んだのか?」
 顎で先程の人物を指し、脅すように−−といっても、本人に自覚は無いだろうが−−尋ねると。隊士は怯えながら答えた。
「あ、あいつなら。何でも、一番隊に入った新入りって話です。ハチマンだかヤハタだか」
「何ィ?」
 永倉は坊主に一瞥をくれると。隊士を突き飛ばして走り出していた。

−−新撰組屯所・局長室
「失礼致します」
 肩を怒らせて局長室まで歩いてきた永倉は、局長室の手前で咳払いを一つすると。いつになく落ち着いた声で新撰組局長・近藤勇の前に現れた。
「永倉さん? どうしたんですか、その格好‥‥」
 近藤は書き付けをしていた筆を置いて、そう問うた。一度自分の部屋に戻った永倉は、普段は身に着けない浅葱色の隊服を纏っていたからだ。
「今日は、一つ。頼み事があって参りました」
 永倉はゆっくりと、近藤の前で正座で座る。只ならぬ永倉の雰囲気に、胡坐(あぐら)をかいていた近藤も正座に座り直した。
「それで、『頼み事』とは」
「ここの所、他の隊で新規隊士を募っておるようで。我が隊も採用試験を行いたいのですが」
「‥‥その格好から察するに。ただ、試験を行いたいというわけではないのでしょう?」
 はい、と永倉は近藤の言葉を受けて頷いた。
「以前から申し上げておりましたとおり、後方支援の出来る隊士を募りたく。どうやら、総司‥‥一番隊にも、坊主の隊士が配属されたようですし」
「それを言われると、痛いなぁ‥‥」
 先日入隊を認めた僧侶の話を引き合いに出され、ポリポリと近藤は頬を掻いた。確かに、永倉には術師の採用を打診されてはいた。しかし、武士の集団であるが故、寺院関係者を含む者を今まで拒み続け。また、新撰組が源徳家康によって組織されたものであり、ジャパンにおける術師である志士は平織虎長が束ねている。この両者の微妙な関係から、志士の採用をも積極的に行うことはなかったのだ。
「‥‥近藤さん。いえ、近藤局長! どうか、術師採用の許可を!!」
「永倉さん」
 両手を付き、深々と頭を下げた永倉に。近藤は小さくその名を呟くと、腕組みをして瞳を閉じた。
 暫くの沈黙の後。近藤がゆっくりと口を開く。
「芹沢さんに、掛け合ってみますか」
「近藤さん‥‥! 恩に着るぜ!!」
 思わず抱きついて来た永倉に、近藤は優しく肩を叩いたのだった。

●今回の参加者

 ea0366 藤原 雷太(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea2001 佐上 瑞紀(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea2700 里見 夏沙(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea6526 御神楽 澄華(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0216 物部 楓(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb0601 カヤ・ツヴァイナァーツ(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb1258 森山 貴徳(38歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●鴨川
「アレは予想通りだな」
 新撰組二番隊組長・永倉新八は川縁で火の番をしつつ、川に飛び込んだ佐上瑞紀(ea2001)を見つめて呟いた。瑞紀は女といえど体付きは良く、走り込みも問題は無かった。程なく、瑞紀に続いたのは御神楽澄華(ea6526)。その澄華を追うように、里見夏沙(ea2700)・森山貴徳(eb1258)も川の中へ。
「遅くなりました!」
 少し遅れて物部楓(eb0216)がやってくる。川では瑞紀が対岸から折り返した所だ。
「ようやっと着いたでござる」
 元来た道を見つめながら永倉が膝を細かく叩いていると、藤原雷太(ea0366)も鴨川へと到着。
「さ、寒い‥‥」
「いいから早く行け!」
 尻を蹴り飛ばされた雷太は悲鳴とともに鴨川の藻屑と消えると、カヤ・ツヴァイナァーツ(eb0601)もやってきた。カヤが川へと入っていくと、入れ替わりで瑞紀が岸へ現れる。
「面接は向こうの林の中で行うから、次の奴が来るまで身体を暖めておけ。次の奴が来たら俺ン所へ来い。面接が終わったらもう一度ここに来て、待っていた奴に声を掛けて屯所へ戻れ。採用結果はそこで発表する」
 濡れた髪を手拭いで拭き取り、頷く瑞紀を残して。永倉は林の中へと消えていった。

●受験者:佐上瑞紀の場合
「まず最初に言っておきたいのは、私は『女だから』とか言われたり。そういう風に扱われたりするのが嫌いって事。今回試験を受けたのは、ありきたりかもしれないけど。京を護る力の一部になりたいと思ったから、ね。あ、一言で『京』って言っても。そこに住む人とか色々なものを含んでるわ。それと‥‥あなたみたいな人。嫌いじゃないしね」
 妖しげな瑞紀の笑みを永倉は鼻息で一蹴し、照れ隠しからか視線を外した。
「アイスコフィンなんかを建物に使えば、延焼範囲を狭めるのに使えたりすると思うわよ。凍らせた建物を守るのは無理でしょうけど、打ち壊すよりも早く効果を発揮するから。一時的とは言え、火の進路を防ぐのは打ち壊すのより早いでしょうし。時間稼ぎにはなるからその間にそのすぐ外の建物を打ち壊す為の余裕は増えるでしょうから」
「アイスコフィンは使えるな。氷が解ければ火は燃え出すが、時間稼ぎと割り切れば悪くねぇ」
「戦いでは割と色々な戦い方が出来るわ。ソードボンバーで密集してる相手を纏めて攻撃したり、ソニックブームで空飛ぶ敵を攻撃したりね。どちらかといえば、一対一より対複数戦の方が得意かしら」
「その見た目じゃぁな‥‥っと、冗談の通じねぇ女だな」
 笑みを浮かべた永倉だったが、その笑顔が一瞬で引き締まると瑞紀は何も言えなくなった。
「術使いじゃねぇが、考え方は中々いい。だがな、俺を買ってるってんなら最初の一言は余計に言ってほしくなかった。お前の言い方じゃ『私は他の女とは違う』とでも言いてぇのか? 俺にはどうにも、お前が女であることから逃げてるようにも聞こえるぜ」
 残念そうな表情で、永倉はそう言った。

●受験者:御神楽澄華の場合
「志望動機は、自らの進む道をはっきりと定める為。士として正しきを志向したとしても。己一人の恣意のままに、振るう剣では救えぬもの、斬れぬものがあると知りました。貫く信念あるならば、例え組織に身を置きそれに従っても、己の望まぬ場所に拘泥する事はないとも感じたため。
術の使い方に関して、私は未熟ではありますが‥‥火の術でいうならプットアウトが真っ先に思い浮かびます。他に、逃げ遅れがいないと確認した上でですが。ファイヤーボムにて爆風で可燃物と火を吹き飛ばし、延焼を防ぐなどもありましょう。前者は夜襲、後者は対多数戦などの戦いにも重宝しますでしょうし。後は自己を示す事、ですか‥‥。剣の腕も達者というにはやや遠く、術もまだまだ未熟な身の上。なれど己を未熟と知ればこそ、望むべき高みも願いも胸の内にあります。そのための努力を惜しむ気だけはありません」
「プットアウトで消火ってのは、火の使い手なら当たり前だな。だが、ファイヤーボムは頂けねぇ。延焼を防ぐ為に建物壊すってんなら、他の術で十分事足りる。そこを、なんでわざわざ範囲のデカい術使ってブッ壊す? 下手すりゃそっちの方が被害がデケェだろうが!」
 激昂する永倉。ファイヤーボムは範囲を狭めて使うことが出来ないということを、火の志士である永倉は言っているのだ。
「‥‥次、呼んで来い」
 『はい』と力無く、澄華は返事をしたのだった。

●受験者:森山貴徳の場合
「正直に言うと術より武芸の方が得意だが、これからは術の習得にも身を入れていきたいと思っている」
 小さく頭を下げ、貴徳は永倉の前に座った。
「俺はジャパンで生まれて育った。そして今は京都で生活している。その京都の治安を守るのが新撰組だと思ったからです」
 国を守る為に、先ずは身近な所から。そう、貴徳は新撰組入隊の動機を話した。
「火事の際、必要な行動は火を消す、人命救助、二次災害の防止だと思う。加えて、出火原因の調査もしておいた方が良いと思うな。
火事の原因は自然出火ばかりとはかぎらないし‥‥放火‥‥とかな。これ以上、似たような被害を出すなんて御免だ」
 消火作業にウォーターボム、プットアウト、ファイヤーコントロールを。人命救助には僧侶のデティクトライフフォースで取り残されている人が居ないか探査。救助に向かう者は煙を吸い込まないように口と鼻を保護した後、レジストファイヤーで耐火能力を付与。リカバー、クローニング、メンタルリカバー、メタボリズムで負傷者の心身を癒すこと。二次災害の防止には、ウインドレスで風を弱め。ファイヤーコントロールで炎が他の家などに燃えうつらないよう操作。出火原因の調査ではアッシュワードで灰に出火原因を聴き、パーストで出火場所の過去見。ミミクリーで犬等の嗅覚の優れた動物に変身して怪しい臭いを追う。これらのことを貴徳は永倉に提案した。
「消火作業や人命救助は一般的な術の使い方だが、アッシュワードとパーストの使い方。これが一番気に入った。まぁ、お前の言うミミクリーでも使われでもすると、パーストで犯人特定するのは危険だがよ」
 貴徳に向かって、永倉は悪戯っぽく笑うのだった。

●受験者:里見夏沙の場合
「俺――もとい、私の名は里見・夏沙。宜しくお願いします‥‥って、一人称は『俺』で許して貰えますか? それから、生業は気にしないで貰えると嬉しいです。俺は京生まれって訳ではなく、むしろ江戸で育ったようなもの。だからどことなく、既存の京都の組織には微妙にとっつきにくさが。けれど、時代の胎動を感じられる今。ただの『冒険者』でいるには悔しい事が多すぎて‥‥。だからこの新撰組に志願しました。この隊なのは‥‥貴殿が隊長だから。永倉殿なら、俺が俺のままいられると思ったからです」
 普段素直で無い夏沙にとって、こういった台詞を口にする機会は少なく。あまりの恥ずかしさに、顔が赤くなるのが自分でも解った。
「‥‥俺は素直じゃないし、見た目に感情を表せる方じゃない。けれどだからこその負けん気はある‥‥と思います。それからジャパン語、文献解析とかも大好きなんでその辺でも役立てたらな、と思ってます」
「別に、表情の有る無しじゃ採用は決まらねぇから安心しろ」
「そうですか。火事の時ですが、俺の使える術でなら。まずはインフラビジョン。炎の中に取り残された人を発見するのにきっと役立つ。それからファイヤーコントロール。これなら消火は勿論、炎を操り逃げ道を確保したり、炎の向かう方向を調節して延焼を防ぐことも出来る――火は怖い物だ、一瞬で全てを灰にしてしまう‥‥」
「残念だが、インフラビジョンは使えねぇぞ。あの術は熱いモンが皆赤く見える術だ。火事の時に使ってみろ、熱で辺り一面真っ赤だ。普通に見た方がよっぽど良く見えるんじゃねぇか?」
 聞き返されてうな垂れる夏沙の肩を、励ますように永倉はそっと叩いた。
「自分の持つ術から考えたのは評価するが。ちぃとばかし、今回は考えが足りなかったな」 

●受験者:藤原雷太の場合
「拙者は風の志士、藤原雷太でござる。副業として、言語学者を営んでいるでござる。言語を学ぶのに決して楽な道は無いという意味でござるよ。言葉一つ一つに意味があるのは良いことでござる」
「『口は災いの元』とも言うしな」
 何やら含みの有る言い方をし、永倉はニヤリと笑う。雷太は一瞬ピクリと反応したが、咳払いを一つすると志望動機を語り始める。
「拙者は貴殿の望む術士としては幾分か足らないところもあろう。だが、補うだけの知識はある。考えられる手立てがあれば申し上げることも出来る。拙者とて人々を救いたい気持ちは同じでござる。救えない者等はどうするかって? 縦んば救えなくとも、どんなモノであっても、そこが死の境地であっても、諦めない事でござる。諦めることはさせないでござるよ」
 また、術士の募集と聞いて、二番隊であれば術を磨くことが出来るだろうことも、一つの理由と言う。邪な考えかも知れぬが、と雷太は付け加えた。
「術ってのは、本来人の力じゃどうにもならねぇコトを現実に出来る。っつーコトは、ちょいと考え方を変えるだけで、思いつきもしなかった効果が出ることもあるからな。可能性を捨てねぇのは術師としては重要なことだ」
「さて、試験でござるが。風の術で挙げるとするなら‥‥ブレスセンサー。拙者が最も得意とする術。生き残りを確かめるに最大限の効果を発揮するでござろう。覚えていない術では‥‥ウインドレス、これは延焼を防ぐ意味では効果的でござる。リトルフライ、まぁ、制限は掛かるものの足場の不安定な場所を歩かなくても荷物や人を背負えるというのが利点でござる。他にもあるが、挙げるときりがないでござる」
「ブレスセンサーか。まぁ、救助ってコトを考えりゃぁ子供と犬ッコロやらの見分けが付かねぇから、僧侶の生命探査の術には劣るが。お前自自身が持ってるってのが強みだな。何せ、いくら便利な術があったとしても、その場に無けりゃ意味がねぇからな」
 ただし、と永倉は断りを入れる。
「『挙げると切りが無い』と言ったがな。思い付いた中から最善のモノを選び出すってのは重要なことだ。試験だからってワケじゃねぇ。何かあった時に的確な判断が出来るのかってコトでもある。違うか?」

●受験者:物部楓の場合
「物部楓と申します。京の都‥‥山城は‥‥生まれ育った地元ですから。故郷が只荒んでいくのを指をくわえて見ているのは、余りにも忍びなく‥‥。また、先祖代々この地で代々の帝に御仕えしていながら、主上の御威光のみ借りて忠義も知らぬ偽志士どもをのさばらせて置くは山州志士の名折れと思いました故に。火事の際に矢張り主力となるのは火と水の系統かと思われます。火の魔法であればファイヤーコントロールで火の方向を変えレジストファイヤーで延焼を食い止めプットアウトで消火を行えます。水の魔法ならば、クリエイトウォーターで水を作り出すそれだけでも消火活動の援けになりましょう。他では天候操作の魔法でしょうか、雨を降らせれば鎮火する時間は格段に早まるでしょう。‥‥どれもかれも私は修めておりませなんだが。しかし未熟の身と言えど、成長の速さと余地であれば他の皆様には引けをとりませぬ。技術は以降も魔法を中心に納めて行こうと考えております」
「ま、無難な所だな。何せプットアウトはそれさえありゃ一発で解決だしな。天候操作の術も水系であれば時間が掛かり過ぎちまうし、陽系なら条件が厳しい。火事ってのは晴れた日に起こりやすいからな」
 諭すように永倉は言う。
「ま、じっくり術ってモンを理解していくこった」

●受験者:カヤ・ツヴァイナァーツの場合
「初めまして、僕はツヴァイ。フルで言うとカヤ・ツヴァイナァーツって言うんだけど、ツヴァイと呼んで下さい。志願したい理由は‥‥以前、六番隊の源三郎さん達と仕事した事があるんだけど。その時の皆さんの気持ちが嬉しくてね。ほら僕ってハーフエルフだから、京都でも偏見の目で見られたりとかはあるわけで」
 カヤは髪をかき上げ、小さく尖った耳を永倉に見せた。
「それからいつか新撰組の皆さんの役に立てたらなって‥‥けど僕は異国の術師で。だから機会なんてないと思ってたんだけど。貴方みたいな組長さんがいた事に感謝します」
 もう一度、永倉に向かって礼をする。
「僕は血を見ると狂化する。だから名実共に後方支援しか出来ない‥‥けどだからこそ徹する事が出来る。でも知ってる、術で薙倒す怖さと万能でもないことも。あ、古代魔法語がちょこっと出来るってのも何かの役にたてない‥‥かな? 火事の時はレビテーションで火勢確認。アイスコフィンで炎に対し壁を作り、そしてバキュームフィールドで真空にして鎮火って所かな? 後はプラントコントロールで川に橋を架けて人々に逃げ道を作るよ」
「もし、その植物の橋が火事の火を貰ったらどうする?」
 予想していなかった永倉の突っ込みに、言葉の詰まるカヤ。
「まぁ、生の木だからすぐに燃えるこたぁねぇだろうが、川に一度くぐらせて燃えにくくするとか。いやいっそ‥‥」
 頭を抱えて思案していた永倉は、面接中だということを思い出して講評に戻る。
「それと、幾つか勘違いしてるみてぇだからこの際ハッキリ言っておくがな。俺ァ、完全な後方支援の人材を雇った覚えはねぇ。単なる頭脳労働だったら、陰陽寮から一人二人かっぱらってくりゃぁいい。だが俺が欲しかったのは、ちったぁ動ける術使いよ。それだから、走り込みと泳ぎで体力と気合を確認した。それと、血を見るとなんたらって言ってたが。戦いの時に斬られた傷があんまり深けりゃ、俺が熱で焼いて応急処置をすることもある。取り敢えず血ィ止めりゃぁ、あとは坊主がなんとか出来るからな」
 最後に、と永倉は締めくくる。
「ハーフエルフの件についてだが、アレはギルドの一時的な仕事だ。ま、相手があの源さんだからってのもあっただろうよ。あの人は誰にでも優しいからな。だが、新撰組は冒険者の集まりじゃねぇ。採用となると、異国人、それもハーフエルフとなりゃぁ、源さんでも通るかどうか‥‥」

●屯所
「今回、即採用はナシだ」
 再び屯所に戻ってきた一行は、永倉から試験の結果を言い渡されていた。
 結果、今回の試験による二番隊への即採用は見送られた。何せ、近藤が芹沢に頭を下げてまで許可してもらった術師の採用。甘い採用基準では、そうまでしてもらった近藤の顔に泥を塗ることになるからだ。
「但し、森山貴徳・藤原雷太の両名については仮採用。更に佐上瑞紀に関しては、他隊の採用を望めば口添えをしてやる。以上!」
 こうして、二番隊採用試験は幕を閉じた。しかし、正式採用が無かったことから、再び採用試験を行うかもしれないことも、永倉は臭わせたという。