椿姫〜男殺油地獄〜【鮒】

■ショートシナリオ


担当:霜雪

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月22日〜03月27日

リプレイ公開日:2005年04月01日

●オープニング

「諸君! いま京都は大変な危機に陥っている! このことには家康公も心底、心を痛めておられるのだ‥‥いまこそ我らの志を無駄にはせず‥‥」
「ああ、あれですか‥‥何でも、京都へ向かう有意の者たちを集めているんだそうです」
 冒険者ギルドの一室で熱弁を振るう一人の武士。それを見ながら、冒険者ギルドの係のものはつぶやいた。
「あのお侍様‥‥何でも、清河八郎、って方らしいんですけどね。どうやら、京都の危機に、神皇様をお助けに参ろうと、そういう話らしいですよ?」
 後ろで続いている檄の声を背負いながら、係は興味を持った一同に声をかけると、資料を手にその続きをまくしたてる。
「先年、家康様が京都より戻られたのは、ただ江戸の町を妖狐に襲われた、という理由だけじゃないらしくてね。風の噂じゃ、京都でも妖怪どもが大きな顔をしてるらしいんだよねえ」
 そんな話を聞いている最中、清河の熱弁は一通り終わったようだった。改めて自分が人を集めていることを語り、一礼して去る武士に向けて、ギルドのものは愛想の拍手を送ったりしている。
「あっと、話がずれてましたね‥‥京都のほうも不穏で、新撰組や京都守護だけじゃ手が回らないってことだそうですね。そこで、江戸から力の余っている浪人者や冒険者を集めて、京都の警備にあたらせたり、あっちでできたばかりのギルドの仕事を任せてみようという話になったそうなんですよ」
 そこまで告げると、係ににこりと微笑んで、依頼の内容を指差した。
「‥‥一旗揚げようという気があるのなら、この話に一枚噛んで、ぜひ上洛してみてはいかがですかね?」

「頼もー!」
 後ろから響いた青年の声に、ギルド員は仕事の手を止め振り向き‥‥視線を落とした。案の定、眼下には一人のシフール。請け負った依頼に冒険者が集まらず、流れてしまったことを伝えると。シフールの青年はガックリと肩を落とした。
「そのことはもう、イイッス‥‥」
 あまりの落胆加減に、前回の依頼についてはそれ以上触れないよう心に決め。ギルド員は改めて。今日の用向きを尋ねた。
「そうッス。今までお世話になったッス」
 服の乱れを直し、青年は深く一礼した。聞けば、シフールの青年と『姫』は数日のうちに、この江戸を去るというのだ。
「『姫』の我侭でこっちへ静養に来たんスけどね。今度は『そろそろ飽きたから、京都に帰る』って聞かなくて‥‥」
 青年によると、飽きたというのは建前であり。清河八郎なる侍が剛の者を引き連れて京都へ向かうという話を『姫』が聞きつけてしまったようで。好みの漢がこぞって京に向かうだろうと考え、急遽帰京を決めたのだという。
 しかし、ただ帰るのではないのだろうと聞き返すとシフールの青年はコクリと頷いた。
「船で木曽川と琵琶湖を通って帰るんスけど。途中に琵琶湖の『なれ寿司』を食わせて帰りたいって‥‥」
 一つ大きく、シフールの青年はため息をついた。
「それじゃ、しばらく会えないと思うッスけど。依頼よろしくッス!」

●今回の参加者

 ea0053 高澄 凌(34歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8078 羽鳥 助(24歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1258 森山 貴徳(38歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb1313 椿 蔵人(59歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)

●リプレイ本文

「な〜な〜、まだ〜?」
 もう、三度目。羽鳥助(ea8078)がくぅくぅと寝息を立てて居眠りをしているシフールの青年の頬を突っつくと、大欠伸をしながら青年は言った。
「もう少しッスね〜。それまで静かに待ってるッスよ。ムニャムニャもう食べられないッス‥‥」
 これまた三度目。同じ回答が、青年から返ってくる。
「『もう少し』『もう少し』って、いつなんだよ〜」
 寿司−−といっても、江戸前の生寿司ではないが−−食べ放題の依頼と聞いて、喜んで飛びついた助だったが。まだまだ十三歳、また、その性格も相まって。船の上でじっとはしていられなかった。
「まぁまぁ。待たされたほうが、食べる寿司の味もまた格別だろ?」
「そうだけどさぁ」
 なだめるように森山貴徳(eb1258)が言ったが、それでも助の怒りは収まらず。頬を膨らませて口を尖らせた助はその場にしゃがみこむと、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「‥‥どうでもいいけど、俺の頭のコレ。なんとかなんねぇかな‥‥」
 プルプルと震える指で頭上のシフールを指差しながらは、高澄凌(ea0053)。最初、凌と会った時にシフールの青年と助が、物珍しさで膨らんだ凌の髪の毛を引っ張ったりなんだりして遊んでいたのだが。船の縁(へり)に背を預けて眠っていた凌が気付くと、更にその上。凌の頭の上で、布団代わりにシフールの青年が居眠りをしていたのである。
「いい加減、く、首が‥‥!!」
 そしてかれこれ数刻が経ち。凌の頭の上で眠られていたのでもう限界といったところで、ふっとその頭が軽くなった。
「我慢せずとも、下ろせばよかろう」
 呆れ顔で、椿蔵人(eb1313)が呟いた。蔵人がシフールの首根っこをつかんで、甲板に寝かせたのだ。
「それにしても‥‥」
 自らもその隣に胡坐(あぐら)をかくと、蔵人は依頼主である『姫』のことを考えていた。
「今日も姿を現さず、か」
 先日の依頼で牛車の御簾越しにしか姿を見せなかった『姫』は、今回もまた。船の一室から出て来た様子は無い。
「護衛が必要かと思ってついてきたが‥‥。必要なかったか?」
 小さな声で、自問する蔵人。すると突然、助が立ち上がって叫んだ。
「これが琵琶湖〜!?」
 ジャパン最大の湖、『近江の海』とも呼ばれる琵琶湖を前に。助は舳先へと走り出していた。

「四人にはここから岸に向かって泳いでもらうッス」
 琵琶湖に船が到着してから少々時間を経て。凌・助・貴徳・蔵人を前にしたシフールの青年が、競技(?)の説明を始めた。
「そのあと、岸でなれ寿司を食べまくってもらうッス。食べた分が『姫』様持ちだから、現地のヒトも喜んでるッス。そんで、時間までに一番食べたヒトが優勝ッスよ!」
「‥‥その『姫』さんはどこに?」
「あそこッス」
 蔵人の質問に、青年は岸を指差した。
「もう、『姫』様は先に行ってるッス」
 見れば、確かに。なれ寿司を食べるであろう腰掛のその先に、既に牛車が陣取っていた。
「一つ、質問なんだが」
 凌が左手を挙げて、質問する。
「食うとき、酒を飲んでもいいのか?」
「お茶は用意してあるッスけど、酒はないッスね〜」
「じゃぁ、自前なら構わないのか?」
「俺も用意があるんだが」
 凌、そして蔵人が、持ってきている酒を取り出した。
「多分、酒を飲むぐらいは大丈夫だと思うッス。じゃ、他に何か質問はあるッスか?」
 シフールの青年が
「七つ時になったら終了ッスよ。それじゃ、開始ッス!!」

●高澄凌の場合
「水遊びなんて滅多にせんけど、この距離なら‥‥」
 大きく息を吸い込み、凌は湖へと飛び込む。暖かくなったとはいえ、未だ三月。凍えるような湖の冷たさに体が縮こまるが、気力で凌は泳ぎ出した。
 しかし、トレードマークでもあるボリュームのある髪が水分を含み、泳ぎを妨げてしまっていた。
(「筋肉で沈むとは思ってたが‥‥。これじゃ、『姫』さんを喜ばせるだけだな」)
 一瞬そんなことを考えながら、凌は岸へと泳ぎ続ける。
「くっ、少し時間かかったな」
 岸に上がると、シフールの青年から渡された手拭いでまずは髪の毛を拭き。先に食べ始めている助を横目で見ながら、凌はなれ寿司に手をつける。
「こりゃぁ、なかなかイイ臭いがするじゃねぇか」
 一切れ口に放り込んだ凌は想像以上の臭いに、勢いでがっつくのを躊躇(ためら)った。
「‥‥‥‥死人を思い出すなぁ」
 鼻をつまむと、凌は預けておいた酒でなれ寿司を流し込んでいく。
「『漢らしくない』、とか言い出しそうだな」
 だが、『姫』が文句を言ってくる様子はない。凌はちらりと牛車に視線を投げかけながら、なれ寿司をどんどん飲み込んでいくのだった。

●羽鳥助の場合
「よいしょっと」
 助は始まりとともに上着を脱ぐと、脱いだ服を頭にくくった。
「言っておくけど 『さぁびす』でも何でもないからな」
 細く締まった肌をさらした助は、誰に言うでもなく呟くと。使い慣れた得物である忍者刀を口にくわえ、湖へと飛び込んだ。
(「ち、ちべたー!」)
 ぶるぶるっと水の中で震えると、助は岸へ向かって泳ぎだす。
(「あ〜‥‥まさか、泳いでる途中に何かに襲われるってコトは無いよな‥‥?」)
 幸か不幸か、助が考えるような妨害は発生せぬまま。すいすいと泳いで、凌と蔵人とを抜き去る助。
「へへへっ、一番乗りだ!」
 鼻の下を指でこすりながらシフールの青年から受け取った手拭いで体を拭いて上着を羽織ると、助は備え付けの茶をなれ寿司にかけて茶漬けにする。
「何か茶漬けにすると美味いって聞いたんだけど‥‥。だ、大丈夫かな?」
 臭いをかいでしまった助は、出来栄えに心配になり。箸を持つ手が止まった。
 気付けば、抜いたはずの凌と蔵人が両隣の席に着いていた。
「良いなぁ‥‥すげーなぁ‥‥」
 ふと見た二人の肉体を見て、ため息をつく。俺もアレ位になれるんだろーか? そんな想像をし始めたところで、助は現実に戻るべくプルプルと頭を振った。
「ぃよ〜し!」
 意を決して、助は茶漬けをすすっていく。
「うぅ‥‥」
 上品にさらさらっと食べるつもりだった助だが、やはり、その臭いは強烈で。なかなか箸が進まないのだった。
「こ、これが‥‥お、大人の味‥‥?」

●森山貴徳の場合
「取り敢えず、これだけは持って行くか‥‥」
 一人、こっそり船の反対側へ回っていた貴徳は着ていた服を脱ぐと。袈裟を小さく丸めて湖に投げ込んだ。
「さて、と」
 裸になった貴徳は小さく呪文を唱えると。詠唱が終わるか終わらぬかのうちに、湖へと飛び込んだ。
 完成した呪文は、『ミミクリー』。淡く黒い光に包まれたかと思うと、水の中にある貴徳の身体が魚の姿へと変わっていく。
(「元の姿に戻ったとき、素っ裸ってワケにはいかないもんな」)
 貴徳は丸めて投げ込んでおいた袈裟の端を口でくわえ、岸へと向かう。
(「よし。うまくいった」)
 大き目の魚が良いかと、鮪の姿に変身した貴徳。投げ込んだ袈裟は水を吸っても引っ張ることができ、あっという間に岸へとたどり着いていた。
 しかし。
(「うまくいったと思ったけど、失敗したかな‥‥」)
 心の中で舌打ちし、貴徳に後悔の念が押し寄せる。それもそのはず、『ミミクリー』の効果が切れるまで魚の姿を解くことは出来ず。岸に上がったとしても、ビチビチと跳ねるぐらいしか芸がないからだ。
(「仕方ない。元に戻るまで泳いでおくか」)
 どうせ何も出来ないなら、と。貴徳は腹を空かせるために、岸の近くをまるで回遊するがごとくグルグルと泳ぐのだった。

●椿蔵人の場合
−−ザァンッ!
 一際大きな水飛沫を上げ、湖に飛び込んだのは巨人族である蔵人。泳ぎは得意ではなかったが、その巨体を活かして蔵人は湖を突き進んでいく。
「‥‥少々出遅れたか」
 先に席に着いていた凌と助を見て呟くと、蔵人もまた腰掛けに座る。
「悪いが、『姫』を呼んできてくれないか」
 手拭いを受け取り、短く刈った髪をガシガシと乱暴に拭きながら。蔵人はシフールの青年にそう頼んだ。
「はぁ。解ったッス」
 一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、青年が御簾の元に近付くと。ゆっくりと蔵人に近付いてきた。
「まぁ、焼こうとか煮ようとか言うんじゃない。ちょいと酒に付き合えと言うんだ」
 御簾の向こうの『姫』に向かって、蔵人は話しかける。
「俺は大量に食える体じゃなし、どうせなら酒でも飲みながら美味いものを喰うのが一番じゃないか」
 徳利に口をつけて中身を一口流し込むと。蔵人は湯呑みの中に入っていた茶を地面にこぼし、その中に酒を注ぐ。
「ほれ、一杯」
 なみなみと酒が注がれた湯呑みを差し出すが、受け取る代わりに『姫』が何事か御簾の中で呟いているのが聞こえた。
 果たして。
−−スッ‥‥
 御簾がほんの少し上げられたかと思うと、蔵人の手にしていた湯呑みがゆっくりとその中へと入っていく。
「な、何だ‥‥!?」
 蔵人が驚いている間に、御簾は再び下ろされてしまった。そして、その直後。まるで何かがぶつかったような派手な音が、御簾の奥から聞こえた。
「『姫』様ッ!?」
「もしかして、酒。弱いのか‥‥?」
 慌てて牛車へ飛び込んでいくシフールの青年を見て、唖然とする蔵人だった。

●結果発表
「そこまでーッス!」
 七つ時を知らせる鐘が鳴ったところで、シフールの青年の掛け声とともに競技が終了した。
「えー、今回の優勝者は‥‥」
 食べ終えたなれ寿司の残骸を数える青年。そして。
「高澄さんッスね! おめでとうッス」
「おう、どうも有難うよ」
 牛車の『姫』から預かった金貨を、青年は凌に手渡した。
「さて、最下位の人ッスが。『姫』様直々に、お言葉を受け賜るッス」
 青年が頭を下げると、その先の牛車がゆっくりと動き始める。音を立てながら進む牛車がゆっくりと止まったのは。
「俺、か」
 蔵人の前だった。
 青年は牛車の御簾のそばに寄ると、中にいるであろう『姫』に向かって真摯に見つめる蔵人に向け。賜った言葉を伝える。
「えー、『姫』様より一言。『濡れたその服を脱げ』」
「あ? はぁ‥‥」
 間の抜けた声を上げるも、蔵人は言われた通りに服を脱ぐ。現れたのは、盛り上がった厚い胸板と、割れた腹筋。
「下も脱ぐのか?」
 蔵人の問いに、シフールの青年を通じて『姫』からは『今日はこのへんにしてやる』との答えが返ってきたところで。
「ぐわぁッ!?」
 御簾の隙間から放たれた光線が、凌の髪の毛を撃ち抜いていた。
「な、何で、俺‥‥!」
 蔵人の言うように、酔っていたのだろうか。ともかくも、凌は半泣きになりながら走り出し、煙の出ている頭を湖に浸すのであった。