【黄泉の兵】少年の簪(かんざし)
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■ショートシナリオ
担当:霜雪
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 31 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月30日〜04月02日
リプレイ公開日:2005年04月07日
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●オープニング
−−黄昏時
「さぁて、今日は何処で飲むとする‥‥‥‥?」
鼻歌交じりで京の街を闊歩していたその男。男は押し殺すような泣き声を耳にして、ふと。その歩みを止めた。肩越しに振り返ってみると、そこには一人の少年がうずくまっている。年の頃は十二、三歳。恐らく彼が、泣き声の主だろう。
「しょうがねぇなぁ」
ばつの悪そうな、舌打ち一つ。ボリボリと後ろ頭を掻きながら、男は少年の元へと近づいた。
「おい、坊主」
突如投げかけられた低く通る声に、少年の体は一瞬震えた。
「坊主、何があったんだ? 泣いてちゃ解んねぇだろ?」
「な、泣いてへん!」
ポンと置かれた頭の上の大きな掌を、少年は真っ赤になって振り払った。
「おっと、そりゃ悪かった」
子供とは言え、泣いている所を−−しかも、通りすがりの人間に−−悟られたくはなかったのだろう。男は少年の心を思いやって、素直に謝った。
「取り敢えず、何があったのか話しちゃくれねぇか? どうやら何か、捜し物があるみてぇだしよ」
「簪」
ぽつり、少年がつぶやいた。
「簪がないねん」
「‥‥? 簪って、お前。その短い頭で」
「オレのやないわ! アホ親父!」
「お、親父‥‥」
少年の叫んだ『アホ』よりも『親父』に衝撃を受け、片膝を付く男。
「まだ、そんなに年は行ってねぇんだけどなぁ、俺‥‥」
男の呟きを無視して、少年は続ける。
「死んだ妹の形見や。‥‥やっぱり、家に置いてきてしもうたんや‥‥」
聞けば、少年は両親を早くに亡くし、病気がちだった妹と共に叔父夫婦に引き取られたのだが。義父母からは厄介者扱いで良い暮らしはさせてもらえず、病状が悪化した妹は半年ほど前に息を引き取っていた。そこへ、住んでいた村が先の亡者襲来。我先にと逃げ出した義父母を追ってきたが、いい厄介払いが出来たと思ったか。京の都に二人の姿はなく、少年は行くも帰るも出来ずに今に至るのだ。
「アイツ一人で、寂しがってるんやろなぁ‥‥」
「しょうがねぇ、『お兄さん』が手ぇ貸してやっか」
よっ、と掛け声をかけて少年を背負うと。男は颯爽と走り出していた。
「降ろせっちゅうねん!」
「だから、暴れるなっての!! そこで、お前の大事な簪。拾ってきてもらうよう、頼むんだからよ」
暫くして。目的の地へと辿り着いた男は背で暴れる少年を地に下ろすと、その先にいる青年に声をかけた。
「‥‥こちらに、何か御用ですが」
やや訝しげな表情で問いかけた青年に、男は応えた。
「仕事を一つ、引き受けてくれ」
「どういった内容でしょうか?」
「こいつの住んでた村に行って、忘れモン。取りに行ってもらいてぇんだ」
男は今までのいきさつを大まかに説明する。
「どうだ?」
「依頼料頂ければ、すぐにでもお受けしますが」
青年の言葉に、少年はガッカリとした表情を浮かべる。
「オレ、金持って無い‥‥」
「それが、決まりですから‥‥」
困った表情を浮かべながらも、そう言うしかない青年。すると、男は大きく息を吸い込んだ。
「天下の陰陽寮直下のギルド様がぁ! いたいけな少年から、依頼料ふんだくろうと‥‥」
「わ、わ、解りました! 解りましたから!! そんな大声で叫ばないでください!」
慌てて男の口を塞ぐと、青年は依頼内容を書き付けていく。
「そうそう、解りゃぁいいのよ」
眉間に皺を寄せている青年の耳元で、男は少年に聞こえないよう小声で囁いた。
「当然、依頼達成までは。そっちで依頼人保護すんだろ?」
「え? そこまでこちらが面倒見る‥‥!?」
反論しようとしたところで、男は青年の唇に人差し指を突きつけた。
「依頼料と、ヤツのお守り。あとは、依頼達成のあとに、なんかあるだろ。ガキでも出来そうな仕事の斡旋」
その指を懐に潜らせると、金貨を数枚。男はそっと、差し出した。
「ちったぁ、世の中。捨てたモンじゃねぇって、思わせてやれよ‥‥なッ!」
男が額を爪で弾くと、青年は思わず呻いた。
「痛ッ!!」
真っ赤になって青年が怒鳴りつけようとしたときには、男の姿は夕闇の中へ溶け込んでいた。
「今日はまっすぐ帰って、寝るとするか」
そんな声が、ギルドに響いたとか響かなかったとか。
●リプレイ本文
●作戦の間
「‥‥妹の簪、か」
冒険者ギルドで依頼を受けた者達が事前に調査や打ち合わせを行う、通称『作戦の間』と呼ばれる一室。その部屋に集まった冒険者達が、一通り自己紹介を済ませたあと。そのうちの一人、セラフ・ヴァンガード(eb1362)が何とはなしに呟いた。
「確かに、一人では寂しいかもしれないな」
セラフに向かって森山貴徳(eb1258)も頷き、独りごちる。
「家族の絆っていうのは大切な物だ。亡くなった妹の物だって言うのなら、なおさらだ」
「うんうん。絶対に見つけなくっちゃね」
セラフと貴徳、二人の間に舞い降りたシフールのフィン・リル(ea9164)。彼女も笑顔で同意する。
「さて、少年のことなんだけど」
座卓の端を軽く叩いて皆の注意を集めると、琴宮葉月(eb1559)が皆に話し掛けた。
「彼を実際に村まで連れて行くか否か。皆はどう考えてるのかしら? 連れて行くとなれば私は少年を護る側についていって、亡者達を近づけないようにするつもりよ」
少年を連れて行けば、探索の時間は短くて済むだろう。しかし、冒険者でもない彼を連れて行くとなれば、自分達だけではなく少年の身を護る必要もある。
「少年をどうするか。皆の意見で決めてもらって構わないと、私は考えてるんだけど」
「彼が行きたいというのであれば、その権利はあるかと思う」
最初に意見を口にしたのは、小野織部(ea8689)。
「今、彼の意思を尊重せねば。何も出来なかった無力感を、ずっと抱えて生きていくことになりかねん」
「しかし、いくらその気持ちがあっても。力無き者を連れて行くことは我が神が許しません‥‥」
瞳を閉じ、ミスティ・フェールディン(ea9758)が静かに言った。
「まぁまぁ。取り敢えず、少年に話を聞いてみましょう」
ミスティをなだめるように、鷺宮吹雪(eb1530)が優しく微笑みかける。
「失礼致します」
その時。まるで部屋の中を察したかのように、ギルド員から声がかかった。
「彼に聞きたいことがあるとか」
ギルド員が言うと、件(くだん)の少年が前に出てきて小さくお辞儀をした。
「そうそう! 今、丁度君のこと話してたとこ!」
フィンが駆け寄る−−もとい、飛び寄る? と、少年の袖を引っ張って皆の元へ引き寄せる。
「そうそう、名前、なんて言うの? 教えてくれないと、『少年少年〜』って呼んじゃうよ〜?」
座卓の前に座らせた少年の周りを飛び回りながら、矢継ぎ早に話しかけるフィンに困惑する少年を見かねて。
「ほらほら。困っちゃってるでしょう」
吹雪がフィンをそっと捕まえ、胸の前に抱きかかえた。
「それじゃ、改めて。君のお名前は?」
「銀太。銀太言います」
吹雪の優しい笑顔に、銀太は薄っすらと頬を赤く染める。
「今回の依頼だがな」
銀太の正面に座り直し、織部はその目をしっかりと見据えて語りかけた。
「俺達と一緒に、村へついて来るか?」
織部の言葉を聴いた瞬間。紅潮していた銀太の表情が、固まった。
思い出される、村での惨劇。逃げ惑う村人、襲い来る死人憑き。或る者は爪で背を引き裂かれ、或る者は喉元を喰い千切られ。噴き上がる鮮血、立ち込める腐臭と死臭。
「大丈夫か!?」
それでも我慢したのだろう。銀太が小さく嗚咽を漏らしたところで、貴徳が駆け寄る。
「白湯を持ってきてくれ。急いで!」
銀太の背中を擦りながら貴徳は言うと、慌ててギルド員が白湯を取りに走っていった。
「やはり、彼は連れて行かないほうがいいんじゃないか?」
貴徳が銀太を横にさせると、セラフが皆に囁いた。一同が頷くの見やると、銀太にそっと声をかける。
「君はここで待っててくれないかな? 自分で取りに行きたい気持ちもあるかもしれないけど」
横になったままで小さく『ごめん』と口にした銀太の頭を、セラフはそっと撫でてやった。
「大分落ち着いた? 話ぐらいは出来そう?」
暫く経って、吹雪が尋ねると。銀太はゆっくりと起き上がって小さく頷いた。
「体調が悪いところ、ごめんなさいね。いくつか書き留めておきたいことがあるの」
言って、吹雪が筆記用具を取り出した。
「村への行き方は、ギルドで聞いたのだが。どこに何があるかまでは聞けなかった故、大体で構わない。教えてくれないか?」
そう言ってセラフが銀太に聞いてみると、村は殆どが農地と住居で占められており。少年の家は、入り口からやや奥まった所にあることが解った。
「落とした所に心当たりはある?」
村の見取り図を書き付けながら、吹雪が聞く。
「‥‥多分、家の箪笥の中やと思う。無くさんように、奥にいつも仕舞ってあったし」
「その簪のことなんだけど」
『は〜い』と、フィンが手を挙げる。
「銀太君。簪の形を教えてくれない? もしかすると、あたしの魔法で場所が解るかもしれないし」
「えーっと、銀の簪で。根元に珊瑚の飾りがついてて、先が二つに割れてんねん。高かったんやけど、おとんとおかんが『珊瑚は外に出られへんのやから、髪ぐらい可愛くさせてやらな』て、買うてくれてん」
「『珊瑚』?」
隣で聞いていた貴徳が、聞き返す。
「妹の名前、『珊瑚』言うねん。オレが『銀太』で妹が『珊瑚』やから、『いつも二人一緒やね』って」
「そうか。優しい両親だったんだな」
「こんな感じのものかしら?」
銀太が少し嬉しそうな表情を浮かべると、吹雪は自らが描いた簪を見せる。
「うん。大体こんな感じやった」
「はいは〜い! それじゃ、魔法で調べてみるね〜」
フィンが座卓の上に降り立つと、ごそごそと金貨を取り出し。呪文を唱え始める。
「うーん、やっぱお日様も解らないって」
「持ち出されてないといいのだが」
ミスティの言葉に、皆が頷く。そこに、今まで眠っていた百合月源吾(eb1552)が大きな欠伸とともに起き上がる。
「相談は終わったのか?」
眠そうな目で、源吾は小指で耳の穴をほじくる。
「そうだな、皆。準備はもういいだろう?」
立ち上がる織部に、異論を唱えるものはいない。
「それじゃ、さっさと行こうぜ」
ふっと小指に息を吹きかけると、源吾の姿はもうなくなっている。
「あ、もう。デカイ図体してせっかちなんだから〜」
頬を膨らませながら飛んでいくフィン。他の皆も、後を追って作戦の間を後にする。
「ここは、私達を信じて待っていてほしい。それが、君の戦い」
最後に残ったセラフが声を掛けると。銀太は深々と頭を下げた。
●捜索
「見えたぞ!」
日も陰ってきた頃。目的の村が程なく見えてきたところで源吾は振り返り、後ろにいる者達へと叫んだ。ジャイアントである源吾は体力もあり、『韋駄天の草履』を履いていたこともあって。皆を先導するように進んでいた。
「疲れた‥‥」
ようやっと追いついた貴徳は、木の幹にもたれかかるよう。どっかとその場に腰を下ろした。
「ふん。これしきで根を上げおって」
疲れ切った様子の貴徳を見下ろし、源吾は鼻で笑った。
「化け物め」
「‥‥何か言ったか?」
「べ、別に?」
肩で息をしながらも悪態をついた貴徳を、ジロリと睨み付ける源吾。
「皆は少し休んでて〜。あたしは先に、村の様子を見てくるから!」
フィンはそう言い残して、一足先に村へと向かう。
「どうでした?」
皆の息が整い始めたころ。村から一旦戻ってきたフィンに、葉月が尋ねた。
「やっぱり、ズゥンビ‥‥死人憑きがいたよ〜」
泣きそうな表情で報告するフィンによると、村にはやはり。聞いた通り、数体の死人憑きが徘徊しているようだった。
「ズゥンビとは、神聖騎士として倒さねばなりません‥‥」
「待て待て」
微妙にやる気を出したミスティを、織部が手で制した。
「あくまで、今回は簪の奪還。無駄な戦闘はしないに限る」
そして各々、最後の準備を始める。
「気休め程度かもしれんが、やっておいて損は無いだろう」
源吾は懐から何やら石を取り出すと、念を込め始める。持ち込んだのは、道返の石。念を込めておくと、亡者の動きを鈍くさせる効果がある。
一方、貴徳は布の切れ端を取り出して呪文を唱えると、その姿を犬へと変え。着ていた袈裟を口に咥える。
「さぁ、行くぞ!」
源吾の号令とともに、皆走り出した。
「こっち! こっち!!」
暫くして。空から指示を出すフィンのお陰で、一向はズゥンビと遭遇することなく銀太の家を探し当てることが出来た。
「簪は、頼んだぞ。俺達は外の警戒をしておく」
犬と化した貴徳、ミスティ、フィンを中に通すと、残りの五人は家の周りでズゥンビの警戒を始める。
「これは、酷いな‥‥」
中の惨状を見たミスティが、小さく漏らした。恐らく、銀太と魏父母も襲われたのだろう。所々に見える黒く変色した血の跡と、滅茶苦茶になったままの家財道具が、当時の混乱を思い描かせる。
「あ、これかな?」
先に入っていたフィンが見つけたのは、倒れこんでいる箪笥。慌ててミスティを呼び、箪笥を起こしたのだが。
「全部、出ているか」
起こした箪笥の前には、引き出しとその中身が散乱している。しかし、その山に向かって犬となった貴徳が吼え始めた。
「ここに、ありそう?」
フィンが尋ねると、貴徳は大きく頷いた。
というのも、貴徳が変身する前。取り出した布切れは銀太の服の裾で、変身直後に臭いを覚えておいたのだった。
「よ〜し、見つけるぞ〜!」
瓦礫にまみれた箪笥の中身を、フィンはあれでもないこれでもないと呟きながら。ミスティは黙々と選り分けていく(貴徳は犬の姿のままなので、手が上手く使えないのだ)。
やがて。
「ん?」
土まみれになった、桐の小箱をフィンが見つけた。しかし、倒れたときの箪笥の重みだろうか、蓋の部分がひしゃげており。
「う〜ん、う〜ん」
非力なフィンでは、箱を開けるには至らない。
「ミスティさぁん」
ヘロヘロと揺れながらミスティの元に小箱を持っていくフィン。
「フンッ!」
力を込め、ミスティが箱を開けると。確かにその中には、銀太に聞いた通りの姿をした簪が一つ。
「見つかったのか?」
箱の中の簪をフィンが取り出したところで、現れたのは貴徳。呪文の効果が切れ、奥で袈裟に着替えていたのだ。
「多分、これだと思う〜」
「ならば、戻‥‥」
「早くしろッ!」
フィンが懐に簪を仕舞いこみ、戻ろうとしたところで源吾の怒号が屋敷の中に響く。慌てて外に出ると、現れた二体の死人憑きを相手にそれぞれが武器を振るっていた。
「破ッ!」
葉月の持つ水晶の刃が、死人憑きの肩口を裂く。そこへ、織部もすかさず切りつけると、死人憑きの右肩から先がその場に落ちる。
「退け退けぇ!!」
吹雪の掻き鳴らす『鳴弦の弓』の音色を背に、源吾が刀を振るう。その太い二の腕から繰り出される一撃は、いとも容易く死人憑きの首を斬り落とした。
「今のうちだ! 早く!!」
セラフに急かされ、フィンは早々と上空へと逃げ出した。続いて、貴徳とミスティも駆け抜けていく‥‥かに見えた。
「ふっふっふ‥‥」
確かに、貴徳は織部達の後を追って行ったのだが。死人憑きから滴るどす黒い血を見て、ハーフエルフであるミスティの狂化が始まってしまった。しかし、セラフが狂化していないところを見ると、部屋の中で見た血もミスティに影響したのかもしれない。
ともかくも、普段のミスティからは考えられない不気味な笑みを浮かべながら。片腕を斬られ、吹雪の『鳴弦』で動きの鈍った死人憑きにミスティは突進していく。
「ミスティはん、何やっとんの!?」
弓を鳴らしながら、吹雪が叫ぶ。しかし、ミスティの狂化は止まらず、文字通り狂ったように槍で死人憑きを薙ぎ払ってゆく。
「仕方のねぇお嬢ちゃんだ!」
舌打ちしながら源吾が戻ると、ミスティの腕をがっちりと掴んで槍を奪い取り。地面へと投げ捨てる。
「このお嬢ちゃんは俺が連れて行く。その槍、誰か持ってきてやれ!」
尚も暴れるミスティを抱きかかえながら、源吾は走り出す。
「承知!」
殿(しんがり)を務めていたセラフは、ミスティの槍を拾い上げ。同じく狂化状態にならぬよう、視線を集中させないよう気をつけながら、前を往く皆の後を追っていったのだった。
●作戦の間、再び
「これで、いいのかな?」
ギルドへと戻ってきた一行は、作戦の間に銀太を呼び寄せると。フィンが回収してきた簪を差し出した。
「そや。これや。この簪や‥‥」
受け取った銀太は、感極まってか。簪をしっかりと握り締めると、目に涙を滲ませた。
「ホンマ、皆さん。ありがとう御座いました」
涙を拭いながら、何度も頭を下げる銀太。そんな銀太に、皆が声を掛けていく。
「何になりたいってのは、自分で極めるもんだ。憧れや努力だけで、なりたいものになれるほど人生は簡単なものじゃない。特にお前みたいな境遇になってしまったらな。だが、憧れも努力も力になるだろうし、必要ってや必要なもんだ。若いうちから何でも見限って計算で動くよりかはいいだろ。まぁ人一倍苦労するだろうが頑張れ」
くしゃくしゃと、織部が銀太の頭を撫でる。
「悔しいのなら、勉学に励み、力をつけ、生き残りなさい‥‥。それが生き残った者の使命‥‥」
真摯な瞳で、銀太を見つめるミスティ。
「銀太君は独楽遊びできる? 出来なくても、あたしが教えてあげるから。あとで一緒に遊ぼうね!」
笑顔を浮かべ、元気に誘うフィン。
「これからも、辛い事がまだまだあるかもしれない。けど、強く生きろよ。大切なもの、自分の力で守りきれる漢になるように」
貴徳が差し出した右手を、銀太は力強く握り返す。
「これから‥‥京都はまだまだ混乱が続くだろう。私達の戦いは、その混乱の中にある。でも、君の戦いは混乱が終わった後‥‥荒れた都を建て直すときに、始まる。だから、それまでは無茶しないこと。約束ね」
優しく微笑む、セラフ。
「君が今後どうするかは知りませんが、一人で生きていくのならまず何をしたいかを考えなさい。そして進むべき道が決まった時、あなたと生きたかった妹に誇れるような男になる、とその簪に誓うと良いでしょう」
我が子に諭すように、吹雪。
「辛いこと楽しいこともひっくるめて、思い出とはお前の心にのみあるものだ。大切な人に忘れられたとき、初めて死ぬ‥‥ともいえようか。
簪は簪。いずれは朽ちるモノに過ぎぬが、覚えていてやれ。それが妹の、何よりの喜びだろう。良い大人になるのだぞ」
その大きな手で、銀太の肩を叩く源吾。
「それじゃ、銀太君。お達者で」
葉月が小さく頭を下げると。依頼を終えた冒険者達は、作戦の間から消えていった。
その後、ギルド員が密かに手を回し。とある小物職人の丁稚として銀太が元気に働くことになるのは、もう少し先の話。