【黄泉の兵】露払

■ショートシナリオ


担当:霜雪

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月01日〜06月06日

リプレイ公開日:2005年06月12日

●オープニング

「あぁん?」
 一部の組長・隊士が大和の国へと出払い、若干静かになった新撰組の屯所。その一室で寝そべっていた漢は、どたどたという足音を聞きつけて訝しげに声を上げた。段々と近付いてくる足音に、嫌な予感を覚える。
 そして、その予感は的中した。近付いてきた足音とその主は、見事に漢の目の前へとやってきたのだった。
「‥‥おぅ、どうした」
 あからさまに不機嫌な声で誰何し、漢は足音の主に鋭い視線を投げかけた。どうやら、足音の主は新入りの隊士らしく。初見である漢の、眉間に皺を寄せ、口髭を蓄えたいかにもその筋の者といった風貌と眼光に威圧されているのか、返事が来ない。
 漢は先ほどまで横になりながら目を通していた本−−何度も読み返しているのだろう、かなりボロボロになっている−−を懐に仕舞い込んで立ち上がると、新入りの隊士の胸倉を掴んだ。
「黙ってちゃ解らねぇだろうが!」
 唾が飛ぶほどに叫ぶと、新入りの隊士は半泣きになりながら事の次第を説明を始める。隊士によると、どうやら京都付近に『黄泉人』と呼ばれる亡者たちが確認されたと言うのだ。
「‥‥‥‥打ち漏らし、か」
 漢は隊士を突き飛ばすと、独りごちた。源徳・平織の呼びかけで集まった義勇兵は、全てが手練れという訳ではなく。ましてや亡者どもを目にしたことも無いものも多い。初心者とはいえ、冒険者の方が役に立つとも言え、既に陰陽寮にも話はついているという。
「それで、ウチからは俺が出ろってこったな?」
 コクコクと新入り隊士は漢−−二番隊組長・永倉新八−−に向かって、何度も頷いたのだった。

●今回の参加者

 ea1401 ディファレンス・リング(28歳・♂・ウィザード・パラ・ノルマン王国)
 ea5517 佐々宮 鈴奈(35歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 ea9659 竜造寺 大樹(36歳・♂・僧兵・ジャイアント・ジャパン)
 eb0487 七枷 伏姫(26歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1258 森山 貴徳(38歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb2216 浅葉 由月(23歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb2585 静守 宗風(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2613 ルゥナ・アギト(27歳・♀・ファイター・人間・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●寺田屋
「そろそろ来てもいい頃合なんだけど‥‥」
 依頼を受けた冒険者の一人、佐々宮鈴奈(ea5517)は白湯をちびちびと飲んでいたにも関わらず、空になってしまった湯呑み茶碗を弄びながら呟いた。ギルドの話では、半時ほどしたら『彼ら』が寺田屋に向かうとのことであったのだが。
「まだ、来てから二つの鐘は鳴って無い‥‥よね?」
「う、うん」
 鈴奈に小声で同意を求められ、浅葉由月(eb2216)は慌てて頷く。
「おぅ、邪魔するぜ」
 鈴奈たちの会話を聞いていたとは思えぬが。そのタイミングで、一人の漢が寺田屋の暖簾を潜ってきた。いかにもそのスジの者といった風貌の漢はお登勢を呼びつけ二言三言やり取りすると、促されるままに近付いてきた。
「どうやら、来たようだぞ」
 隣で座っていた竜造寺大樹(ea9659)がジャイアントであるその巨体に反し、由月の肩をポンと優しく叩いた。慌てて由月は姿勢を正す。
「失礼。俺はギルドの依頼を受けた、静守宗風という者。そちらは新撰組の永倉新八殿とお見受けするが」
 漢に先んじて、静守宗風(eb2585)が問いかけると。漢は大きく頷いた。
「あぁ。いかにも俺が、新撰組二番隊組長の永倉新八だ。やはり、お前達がギルドの」
 名乗った永倉新八は値踏みするように冒険者達を見やった。
「女子供がいるってのがアレだが‥‥まぁいい。‥‥‥‥行くぞ」
「ちょっと待ってくれ」
 横から差し出された茶を一気に飲み干して店を出ようとする新八を、宗風が呼び止めた。
「敵はどの辺りで討ち取るつもりなんだ? 情報不足で依頼失敗なんて言い訳はしたくないんでな」
「何処も何も、ギルドで聞いた通りだ。ヤツらだって、黙って俺らを待ってるってワケじゃねぇんだし。見かけたっていう場所を洗ってくしかねぇだろ」
 永倉は不機嫌そうに、どっかと椅子に腰掛けた。ギルドから聞いた話だと、京の都から南へ半日ほどの所で数回。目撃証言があったという。
「俺達だって、手の掛かる相手だ。堅気が細かい所まで見てる暇があるんだったら、まずは逃げるに決まってんだろ?」
「解った。足手纏いにならん様にやるつもりだが、後は結果で判断してくれ」
「もう一つ、依頼とは直接関係無いのでござるが」
「あァん?」
 更なる質問を投げかけた七枷伏姫(eb0487)に、新八は睨みを利かせる。伏姫は一瞬、ひっと声を上げそうになったのを我慢した。
「新撰組は、京の治安のために動いておると聞いたのでござるが。入るには、一体どうしたらよいのかと」
「入隊希望者を俺達組長やらが面接して、気に入ったヤツがいれば仮入隊させる。その後、新撰組の資格有りや否やを見極めて、局長に許可を頂ければ正式に入隊だな。まぁ、武士以外のヤツや異国人は、大抵が俺達が見るまでも落とされるがな」
「拙者のような女の身でも、構わぬのでござろうか?」
「さぁ、な」
 新八は興味無さそうに吐き捨てた。
「ガキの総司や女好きの斉藤、阿呆の左之助ならともかく。少なくとも俺は、女を傍に置く気はねぇが」
 今度こそ、新八は席を立つと。店の前で待たせていた隊士を引き連れ、現場へと向かっていった。

●黄泉人と冒険者と
「あの‥‥さ」
 寺田屋を出立してから時間は経ち、日も暮れてきた頃。京の街を背にしたまま、森山貴徳(eb1258)はそっと鈴奈に耳打ちする。
「『彼女』、大丈夫だと思う?」
 貴徳は立てた親指で後方を示した。そこには、皆より五間ほど離れてついてくる『彼女』−−ルゥナ・アギト(eb2613)がいた。
「何とか、なるんじゃないかなぁ?」
 不安げに答えた鈴奈は、小さく付け加える。
「‥‥‥‥多分」
 二人が心配するのも無理は無い。髪は伸び放題、服はさらしを巻いただけに近い姿。さらには素足で歩くルゥナは、どうやらインドゥーラ出身の者のようで。ギルドではインドゥーラの言葉が理解できる者が対応に出たようだったが、この場にいる冒険者は誰一人ルゥナと会話をすることが出来ず。体を使って意思の疎通を図ってはみたが、きちんと伝わっているのかどうかは怪しいところである。
「何事もないといいんだけど‥‥おわッ!?」
 鈴奈と額を合わせて進んでいた貴徳が突如現れた肉の壁−−もとい、大樹の背中(腰?)にぶつかり、素っ頓狂な声を上げた。
「何だッ!?」
「静かに」
 貴徳による誰何の声を、先を歩いていたディファレンス・リング(ea1401)がそっと手で制した。五十間ほど離れたその行く手には、確かに亡者どもが蠢いている。数は、黄泉人が一、怪骨が一、死人憑きが二。
「まだ、向こうに気付かれてはないようだな」
 額に手をかざし、目を細めていた宗風が、こちらへ向かってくる様子の無い亡者どもを見て皆に告げた。
「此処まで歩き詰めだったからな。一休みしてから一気に攻め込むぞ。‥‥いいな?」
 新八の言葉に皆は頷くと、亡者どもに姿を悟られないよう木陰に集まり。各々戦いへの準備を始めた。
「町には来させないようにしなくっちゃ」
 懐から道返しの石を取り出し、鈴奈は優しく握って祈りを捧げる。隣では、大樹が得物である六尺棒を片手に素振りを始め。
「落ち着け馬鹿野郎」
「※◆◎×¥$+▽!?」
 股座を新八に握られ、大樹は声にならない悲鳴を上げる。
「な、なッ!」
「わざわざ見つかるようなことをするな。そうでなくてもデケェんだから、見つかったら隠れてる意味がねぇだろうが」
 そう窘められた大樹はそれ以上何も言えなくなり、背中を丸めて小さくなった。一方の新八は握っていた拳を解いて胸元に潜り込ませると、干し柿をつまみ出してひょいと口に放り込んだ。
「‥‥何だ。食いてぇのか?」
 二人のやり取りを見つめる貴徳の視線に気付いた新八は、干し柿を口の中で弄びながら尋ねた。
「い、いや、そういうつもりじゃ‥‥。ただ、甘いモノが好きだなんて、ちょっと意外だなー? って」
「俺が干し柿食ったら、何か悪ぃのか?」
「そんなコト無いッスよ!」
 慌てて、頭(かぶり)を振る貴徳。フンと鼻を鳴らすと、新八はくちゃくちゃと干し柿を再び噛み始めた。

「‥‥お待たせしました」
 暫くの後、道返しの石に祈りを捧げていた鈴奈が顔を上げると、準備を終えた面々は徐に立ち上がった。
「ギルドに話しておいた通り、俺達が黄泉人とかいうヤツを仕留める。お前らは周りの死人憑きどもを引きつけて、俺らが動きやすいようにしておけ」
 再度、皆に確認を取った新八は何事か呪文を唱えると、傍らにいる二番隊隊士の刀にそっと触れ。その手で大樹の尻を力強く引っぱたいた。
「オラ、暴れてこい!!」
 『痛ぇ!』と叫んで、走り出す大樹。それを追う様に、他の皆も走り出す。
「オラオラッ! 粉微塵にされてぇ奴はどいつだぁー!」
 六尺棒を振り回し。先頭で走る大樹のその前を、何かが駆け抜けていった。
「何だッ!?」
「ガゥッ!」
 飛び出したのは、ルゥナだった。その足で怪骨に跳びかかり、右の拳を叩き込む。
 ‥‥いや、右の拳は牽制でしかなかった。本命は、左。ダメージこそ僅かだが、怪骨は右胸に受けたその衝撃に一瞬よろめく。
「どけぇッ!」
 発せられた言葉自体の意味は、理解してはいなかっただろう。しかし恐らく、ルゥナは本能的に飛び退ると。大樹の六尺棒が怪骨の横っ面を殴り付ける。
「チッ」
 小さく、大樹は舌打ちした。大樹の心積もりでは怪骨の頭を打ち抜く予定だったのだが、怪骨は頭を飛ばすことなく仰向けに倒れた。
「気を抜くでないでござるよ!」
 その大樹に、伏姫の檄が飛ぶと同時に。
−−ギィンッ!
 足元で、金属の打ち合う嫌な音が響いた。起き上がりつつ怪骨が振り上げた剣を、伏姫の刀が弾いたのだ。
「破ッ!」
 気合とともに。左手に持つ輝く闘気の剣が、立ち上がった怪骨の腰の辺りを切り裂く。
「痛み知らずの奴だと分が悪いぜ!」
 大樹が骨を砕く鈍い音を響かせながら叫ぶと、その後ろからルゥナが怪骨の後頭部を殴る。だがそれでも、怪骨の動きを止めることはない。
『ギィィッ!!』
 叫び声のようなものを上げて、怪骨が腕を振りかぶる。後ろにいたルゥナは剣の柄で殴りつけられ、錆び付いた剣は大樹の肩に振り下ろされたた。
「ガゥァ‥‥ッ!」
 額を押さえ、思わずうずくまるルゥナ。一方の大樹は。
「やるじゃ‥‥ねぇか」
 肩に剣を食い込ませたまま、怪骨の腕を掴んでいた。
「今だッ!」
 逆手の盾で小突かれながら、大樹は宗風に合図を送る。
「うぉぉぉぉッ!」
 雄たけびと共に。宗風から突き下ろされた太刀の一撃が、怪骨を打ち砕いていた。

「死人憑きは引き付けておくんで、魔法の援護を頼む!」
 暫く時は遡(さかのぼ)り。怪骨へと向かっていった大樹やルゥナたちにやや遅れて、貴徳は死人憑きの元へと駆けていく。
「ほら、こっちだこっち!」
 小太刀を抜いた貴徳が死人憑きを挑発するように声を掛けると、思惑通り二体の死人憑きは貴徳に近寄っていく。
「いいぞ‥‥」
 摺り足でジリジリと、貴徳は向きを変えていき。抜いてある小太刀で斬り付ける。
−−ザッ!!
 脇腹の辺りに小太刀が食い込んだが、死人憑きは意に介せず爪を振るってきた。
「風よ、敵を切り裂く刃となれ!!」
 しかし、振り下ろされるかと思われた死人憑きの爪は、貴徳のすぐ目の前を掠めていった。ディファが放った『ウィンドスラッシュ』の呪文が死人憑きに命中し、貴徳の元に振るわれた腕の軌道が逸れたのだ。
「間に合いましたね」
「助かった!」
 ディファへ死人憑きを越えて感謝の言葉を投げながら、もう一体の死人憑きからの攻撃を小太刀で受ける貴徳。だが、いくら死人憑きの動きが鈍いとはいえ、二体からの攻撃を回避し続けることは出来ない。貴徳は腕に傷を負ってしまう。
「えいっ!」
 そこへ、もう一人の術師である由月が、『氷輪斬』の術で作り置いた氷の戦輪を投げつけた。戦輪は違わず死人憑きの背中から腹へと突き抜けた。
「やった!」
 戻ってきた氷輪を受けた由月から、笑顔がこぼれた。それに続くように、貴徳の小太刀が閃き。更にはディファと由月が続けて放つ風の魔法と氷の戦輪に、片方の死人憑きが崩れ落ちた。残る一体もやがて、三人から繰り出される攻撃によって土へと返ることになるのだった。

「そちらも、終わりましたか」
 鈴奈の術による手当てを受け、息を整える冒険者達へ近付く複数の影。その正体である永倉達新撰組二番隊に、ディファが声を掛けた。
「おぅよ。‥‥結構やるじゃねぇか」
 ニヤリと、永倉は余裕で笑みを浮かべた。その表情に、息を切らした様子は無い。‥‥代わりに、隣に控えている二人の隊士は肩で息をしていたが。
 かくして、京の帰途へと着こうとする皆に、伏姫が待ったをかけた。
「このまま、放っておく訳にもいかぬでござる」
 崩れ落ちた亡者たちの腐った肉片を焼こうと、油壺と火打石を取り出す伏姫。
「‥‥油は、ほんの少しあればいい」
 意図を察した永倉が、一面に油を撒こうという伏姫の手を止めた。訳も解らぬまま、永倉の指示通り火をつけると。俯(うつむ)き、呪文を唱えた永倉によって、火はゆっくりと燃え広がっていった。

「さて、と。仕事も終えたことだし、京に戻ったら一杯どうだ?」
 肉の焼けた嫌な臭いが漂い始めた頃、踵(きびす)を返した永倉に向かって。宗風はお猪口を傾ける仕草を見せた。
「ほぉぅ。それじゃお前の驕りだな」
「え!?」
 永倉の言葉に、ギョッとした表情を浮かべる宗風。それを見て、永倉は思わず噴き出した。
「馬鹿野郎。冗談に決まってるだろうが。まさか新撰組の組長が、目下の輩に金を出させる訳がねぇだろ」
 ホッと安堵のため息をつく宗風を見て、皆も一斉に笑うのだった。