【小鬼あたっく】田植野郎ガテン系

■ショートシナリオ


担当:霜雪

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや易

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月26日〜08月02日

リプレイ公開日:2005年08月06日

●オープニング

 今年も村に田植えの季節がやってきた。


 ギルドに田植えを手伝ってくれる冒険者を募集する依頼書が張り出された。
 わざわざ冒険者に頼まなくてもと思うが、どこも人手不足なのだろう。村を捨てて町に出る若者が増えていると誰かが言っていた。
 何気なく依頼書を読んでいたその冒険者が声をあげた。
「あれれ?」
 田植えの仕事に、どうして妨害役まで募集しているのだろう。

『今年も、奴らがやってくる‥‥』
 その村では毎年、小鬼のいたずらに悩まされていた。
 この時期になるとどこからか現れて、水を止めたり、植えたそばから苗を引き抜いたり。刈り取りの時期には実った稲穂を、錆びた鎌で薙ぎ倒されたりもあったとか。既に今年も代かき(=田植え前に田に水を入れてかきならすこと)した時に、泥遊びをしている小鬼の姿も見られたという。
 何度か小鬼退治を侍にお願いしたりしたが、その時は小鬼が居なくなっても、しばらくすればまたどこからか現れて元の木阿弥。小鬼に好かれた村に愛想をつかして村を去る者まで出る始末。
 そこで村人考えた。
「いっそ誰かが小鬼の真似て、そこで田植えをやったらどうだ。訓練代わりになるやもしれん」
 自分達がやられてばかりだから小鬼も付け上がるのだろう。
 ならば小鬼退治より、村人自身が強くなることだ。
 ‥‥とまで考えたのかは分からないが、このアイデアは受けた。
 しかし一体誰がやる?
 本物の小鬼が来ないとも限らない。そうなったら、田植えどころの騒ぎじゃない。
「お前がやれよ」「アタシゃ腰が痛くてね」。やっぱり村人、自分が可愛い。押し合いへし合い押し付け合い。ああだこうだ言ってると、『こんなときこそ冒険者』。誰が言ったか知らないが、確かに冒険者であれば。小鬼の本物来たとして、追い払うのもわけないだろう。『そーだそーだ』と皆頷き。
 かくして田植えの人手募集に一筆加えられて、一風変わった田植えの依頼、京都のギルドにおわしまし候。

『村の田植えを手伝ってくれる冒険者を募集中。
 田植えを邪魔する小鬼の役をしてくれる人も募集中』

●今回の参加者

 ea1467 暮空 銅鑼衛門(65歳・♂・侍・パラ・ジャパン)
 eb2180 紅蓮 百華(20歳・♂・ファイター・エルフ・華仙教大国)
 eb2938 エリカ・カーム(23歳・♀・クレリック・人間・ビザンチン帝国)
 eb3028 犬神 外道丸(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3155 七坐 慶太(35歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb3187 雨月 まつり(27歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●小さな宴
「俺っち、姓は犬神、名は外道丸。どうぞよろしくおねげーしやす」
 同行していた冒険者には、改めて。目の前にいる村人達には初となる挨拶とともに、犬神外道丸(eb3028)は深々と頭を下げた。
 半日ほど歩いた先の、小さな村。冒険者達が田植えを−−約一名はその妨害を−−行うその村で、彼らは早めの夕飯をご馳走になっていた。
「粗末なもので、申し訳ないですが‥‥」
「そうでやすねぇ。もう少し色んなオカズがあったほうが、俺っちとしては嬉しいっす」
 麦飯と漬物を口へと軽快に詰め込みながら箸を進める外道丸の脇を、七坐慶太(eb3155)が小突いた。
「ぅぐッ!?」
「わしらのことは、お気になさらずに」
 隣ではゴホゴホとむせる外道丸が恨めしそうに見やったが、慶太は意に介すことなく、もてなしてくれた村人に笑顔を向けた。
「そんなことより、田植えというのがわしは初めてでしてな。簡単で構わないので、どなたか植え方をご教授いただければ有難いのじゃが」
 そっと箸を置いて手を合わせた慶太が立ち上がると、一人の青年が近付いてきた。
「それなら、私がお教えします」
「かたじけない」
 未だ食事をとっている者もいたので、邪魔にならないよう二人は屋敷の外に出ると。二人は早速、田植えの講習会を始めた。
「この籠の中に苗を入れて、腰にくくりつけて植えていくんですよ」
 講習会の会場となったのは、青年の家。青年は家の中から苗籠を取ってくると、器用に籠を巻きつけていく。だが、慶太は。
「申し訳ないが、こちらだとわしには無理なようじゃ‥‥」
 青年から手渡された籠に付いていた紐は、巨人族である慶太の腰周りには短過ぎたのだった。
「と、取り敢えず、籠の紐は明日までに何とかしておきますが‥‥。今は植えるところをやって見せますから、その後同じようにやってみてください」
「心得た」
 徐に青年が苗を植える仕草を始めると、慶太は腕をまくり。『ふむふむ』と頷きながらその姿を目に焼き付けていく。
「こんな感じで良いかの?」
 青年の手本が一通り終わると、慶太は見様見真似でやってみせる。
「そうですね。動きはそんなもので良いと思います。ただ、手の大きさが違うので。苗を一回で取り過ぎないように気をつけてください」
 にこやかに笑うと、青年は慶太に及第点を与えたのだった。

「遅いなぁ‥‥」
 時を少し巻き戻る。慶太が宴の席を外してから暫くして、食事を終えたエリカ・カーム(eb2938)がお茶を飲みながら呟いた。
「遅いって? 何が?」
 げっぷを隠そうともせずに吐き出しながら、外道丸が聞き返す。
「何って、二人のことですよ」
 エリカが言う『二人』というのは、暮空銅鑼衛門(ea1467)とあと一人。
「暮空さんは『ミーのことには構わず、ユーたちは先に行くでござる』とか言ってた割に、来る気配がないし。途中で何かあったんじゃないかって‥‥」
「心配するこたぁねぇって」
 ポン、と外道丸はエリカの肩を叩いた。
「あの手のオッサンは、心配するだけ損するぜ? すんげービックリするぐらい荷物持ってたから、あれ持ってくんのに時間かかってんだろ」
「そう‥‥かな‥‥?」
 茶碗の中を見つめていた顔を、エリカが上げたところで。
「いやー、遅くなったでござる!」
 銅鑼衛門の声が、玄関先から聞こえてきた。
「‥‥ほら、俺っちが言った通りだろ?」
 外道丸はエリカに向かってウィンクしてみせると、クスクス笑いながらエリカは小さく頷いたのだった。

−−深夜
「ん‥‥」
 誰もが寝静まった頃。夕飯を食べてから部屋の隅で寝続けていた紅蓮百華(eb2180)は、ムクリと起き上がると。用意されていた部屋を抜け出し、目的の場所へと歩き出す。
「我ながら、面倒臭いなぁ」
 そんなことを呟いて、紅蓮は大きな欠伸と共に夜の闇の中へと消えていった。

●田植え
「それでは、よろしくお願いします」
 翌日の朝早く。目的の田んぼへとやってきた一行は、村人が用意してくれた握り飯を朝ごはんとすると。早速田植えを始めることにした。
「何か、田植えの為の‥‥ほれ、木で作った枠のような道具があると聞いたことがあるのじゃが」
「田植え枠ですか?」
「名前は解らんのじゃが‥‥。すまぬ」
 聞き返す村人に、慶太は申し訳無さそうに呟いた。
「いえいえ。植えていくところの目印にするのは、ここら辺では田植え枠じゃなくて。紐を張ってやるんですよ」
 慶太が村人が指差した先を目で追うと、ピンと張った紐が田面にその跡を格子状に付けていた。
「ほほぅ。確かに、紐の跡に沿って植えていけば、曲がったりすることはなさそうじゃな」
 顎に手を添え、田んぼを覗き込みながらフムフムと頷く慶太の隣で。エリカが村人に尋ねる。
「他に何か、田植えに使う道具ってありますか?」
「うーん。うちでは他に、道具は使わねぇなぁ」
「そうですか‥‥。あ、でも。なんとかやってみます!」
 一瞬、しゅんとしたエリカだったが。すっくと立ち上がると、苗の入った籠を腰にくくりつけて田んぼに入っていく。
「そういえば、紅蓮‥‥とか言うたか? あの者、どこへ行ったんじゃ‥‥?」
 気が付けば、朝から姿の見えない百華の姿。慶太は苗籠を腰にくくりつけながら、その姿を探してみると。
「コラーッ!」
 先に田植えを始めていた外道丸の怒号を浴びている、百華の姿を発見した。
「お前さん、見かけないと思ったら。何やってるんだー!?」
「? 新しい水路を引いてるんだが‥‥」
 百華の話によると、『妨害で水をせき止められてもいいように、新しい水路を引く』とのことであり。昼間に村人から借りておいた鍬で、昨日の深夜から作業を開始していたのだが。生来のサボり癖により殆ど進んでいないのだという。
「『新しい水路』って、そんなことしたら。植えた後に水が入れられないだろー!」
 農家の出であることもあるが、それよりも持ち前の正義感により激昂する外道丸。だが、外道丸の剣幕に嫌気が差したのか、胸倉をつかまれた百華は鍬をその場に放り投げる。
「そうか。俺は、無駄骨を折ったってわけだ」
 ゆっくりと外道丸の腕を外すと、百華は畦(あぜ)に寝転んだ。
「それじゃ、後は頼む。俺は、疲れたから寝る‥‥」
 目を閉じたかと思うと、既に寝息を立て始めた百華を見て呆然とする外道丸だったが。自分の頬をパァンと弾き、気合を入れ。
「と、ともかく‥‥。頑張るしか無いっすよね!」
 そんなこんなで。エリカ・外道丸・慶太の三人によって、田植えが始められた。

●エリカの場合
『美味しいお米が出来ると良いですね』
 そんな風に『聖なる母』と『自然の恵み』に感謝の祈りを捧げつつ、田植えを行っているエリカ。ゆっくりとした進め具合だが、エリカの植えた跡は一直線に苗が並んでいる。
「結社ぐらんどくろす平社員、暮空銅鑼衛門参上でござる〜」
 そこへやってきた、銅鑼衛門。彼曰く、鎧で固めた『ふるあーまー銅鑼衛門』とのことなのだが。
「えーっと、小鬼のつもりで襲ってくるんじゃなかったっけ‥‥?」
 振り向いて銅鑼衛門の姿を確認したエリカの頭に疑問が上ったが、彼女は銅鑼衛門に構わず田植えを続けていく。
「ミーを無視するとは、許せないでござる〜」
 瞳に涙を浮かべ、迫り来る銅鑼衛門。エリカはザバザバと音を立てて近付いてくる銅鑼衛門に気付いて顔を上げ、再び振り返ると。銅鑼衛門が折角植えた苗を薙ぎ倒してやってくるではないか。
「苗を傷つけるような悪い子はダメです!」
 エリカは詠唱を始めると、銅鑼衛門に向かって呪文を放つ。
「『コアギュレイト』!」
「ふぐッ!?」
 駆け寄る姿のまま、銅鑼衛門の体が硬直すると。エリカは徐に、お小言‥‥もとい、説法を始めた。
「いいですか。苗というのはやがてお米になって‥‥」

●外道丸の場合
「一休みでやすね」
 半分ほど田植えを終えたところで、外道丸は休憩のため。畦にどっかと腰を下ろしていた。
「なかなかうまく植えられたっすね」
 昔取ったなんとやら。子供の頃、親の手伝いで田植えしたのを思い出しながらの外道丸だったが、なかなか綺麗に植わっていた。また、正確さを重視して植えていったのだが。エリカに比べて体力があるので、植えるスピードも速くもあった。
「さーて、もう一仕事‥‥」
 汗を手拭いで拭き終え、再び田んぼへ入ろうとしたところで。
「結社ぐらんどくろす平社員、暮空銅鑼衛門参上でござる〜」
 エリカの説法を聞き終えた銅鑼衛門が、外道丸の田んぼへとやってきていた。
「無理に討って出ないで、迎え撃つっすよ!」
 銅鑼衛門、今回は褌一丁に武器を何本も持った『すとらいく銅鑼衛門』とのことである。先ほどのエリカの有難い説法を思い出し、今度は苗を踏まぬよう気をつけながら歩を進めると。
「隙有り!」
「のわっ!」
−−バシャーン!
 外道丸に足を取られ、仰向けに倒れこむ銅鑼衛門。どうやら、足を気にしすぎたようである。
「まだまだ‥‥!」
「反撃は良いけど。残ってたら刈り取りのときに危ないから、武器を拾ってからにしてくれよ」
「むぐぐ‥‥」
 外道丸が指差す先には、『すとらいく銅鑼衛門』に使った数々の武器が散らばっており。銅鑼衛門は二の句が告げないまま、武器を拾い続けるのだった。

●慶太の場合
「どうも、変じゃのぅ‥‥」
 ほぼ田植えの終わった慶太は腰を叩きながら自分の植えた跡を見返すと。紐の筋通りに植えていったはずなのだが、どうも少しずつ曲がって植えてしまったようだった。
「とはいえ、今更植え返すことも出来まいて。良しとしよう」
 あと少しで植え切るということで。慶太は腰を拳で叩き、再び植え始めようとした所に再びあの男の声が響く。
「結社‥‥ぐらんどくろす平社員‥‥、暮空‥‥銅鑼衛門‥‥参上でござる‥‥」
 外道丸の所での武器拾いが堪えたのか、息も切れ切れに『るーじゅ銅鑼衛門』が現れた。
「また無視でござるか‥‥」
 エリカに続き、無視を決め込む慶太に怒りを覚えるものの。疲れのため大声を出せない銅鑼衛門。しかし妨害側としての責務は全うしようと、フラフラとした足取りで慶太に近付くのだが。
「き、気色悪いでござる‥‥」
 『るーじゅ銅鑼衛門』とは、女装バージョンのことであり。その体型と相まって、得も言われぬ気持ち悪さをかもし出していた。
「しばらく、静かにしていてもらうでござるよ」
「ま、また‥‥!!」
 呪文を唱え終えた慶太が嘆息すると、銅鑼衛門は『影縛り』の術で動きを止められていた。
「あと少し、待ってるでござるよ」
 慶太は黙々と田植えを進め。銅鑼衛門が動ける頃には、田んぼの一面に苗が植わりきっていたのだった。

●襲撃
「ん?」
 田植えも、そしてその妨害も終わり。銅鑼衛門は『るーじゅ銅鑼衛門』から普段着へと着替えようと、荷物を隠した林の中を彷徨っていたのだが。
「あれは‥‥」
 その荷物の近くで、何やらうごめく二つの影。良く見れば、銅鑼衛門の荷物の近くで二匹の小鬼が楽しそうに何かを食べていた。
「ま、まさか‥‥」
 銅鑼衛門の不安は的中。持ってきていた酒や保存食で、二匹はしめたとばかりに宴会を開いていたのだった。
「むむ〜、ミー一人では役不足でござる〜。ユーたちも手伝うでござるよ」
 しかし、転んでもただでは起きないとばかり、銅鑼衛門は小鬼を仲間へと勧誘する。
「江戸の若葉屋という由緒ある店の物でござる〜。ユーたちはこんな易しい仕事でぼろ儲け出来て幸せ者でござるよ〜」
 銅鑼衛門は荷物を探り、褌を二枚取り出すと。小鬼へそれぞれ手渡すのだが。
−−ビビッ!
 酔っ払っているからか、言葉が通じないからか。小鬼たちは楽しそうに褌をビリビリと破いて、笑い声を上げる。
「の、ノォォォォッ!」
 破れた褌のかけらを大事そうに拾い上げる銅鑼衛門を尻目に。酔いどれ小鬼たちは林を後にするのだった。

「やぁ、今日は疲れたっすねー」
 田植えが終わり。外道丸と慶太は体についた泥を落とすべく、近くの川で水浴びをしていた。
「それにしても‥‥。やっぱ、デカいっすねー」
 濡らした手拭いでゴシゴシと身体を洗っていく慶太の身体を見やり、感嘆の声を上げる外道丸。
「皆、巨人族ってのはそんなにデカいんすか?」
「うーん、わしは同族の中でも細身の方なんじゃが‥‥。それでもおぬしには負けぬでござる」
 ニヤリと笑って慶太は腕に力を入れると、太い二の腕と厚い胸板を強調して見せた。
「良かったら、触ってみるかの?」
「えぇッ!」
 冗談交じりに笑みを浮かべる慶太に、なぜか赤面してしまう外道丸。すると。
「きゃぁっ!!」
 二人とは別場所で水浴びをしていたエリカの悲鳴が聞こえてきた。
「エリカさん!?」
「急ぐでござる!」
 慌てて川から上がり、外道丸と慶太は現場へと駆けつけるのだった。

「どうしよう‥‥」
 胸を隠しながら、川の中へと逃げ出すエリカ。一匹の小鬼は『コアギュレイト』の魔法で無力化したのだが、その間にもう一匹が川の中へと入ってきていたのだった。
「あッ!」
 薄暗くなってきたので、川底が見えず。エリカは石につまずき、川の中で尻餅を付いてしまった。
「来ないでっ!」
−−カッ!
 覚悟を決め、エリカがしゃがみ込んで目を伏せた瞬間。一条の光が小鬼の背中を打ち抜いた。
「ぐ?」
 何が起こったのかわからず、声を上げて後ろを振り向く小鬼。するとそこに聞こえてきたのは、外道丸の声。先ほどの光は、駆けつけた慶太が放った『月光矢』の呪文だったのだ。
「待て待て待てーーーー!」
 刀を抜き、ザバザバと川の中に走りこんでくると。外道丸はその刀で小鬼の脚を切りつける。
「間に合ったでござるな」
 回りこむようにエリカへ近付き、慶太は脱いだ上着を掛けてやる。
「‥‥さて。仕置きの時間じゃ」
 慶太は脚を切られて痛がる小鬼の前で、不気味に笑いながらボキボキと拳を鳴らすのだった。

−−追記
 外道丸と慶太によって『お仕置き』をされた小鬼たちは、その後村に近付くことは無くなったという。

−−さらに追記
「ん? 終わったのか‥‥?」
 田植えが済んだことに気づかず。眠り続けていた者約一名がいたとかいなかったとか。