死に絶えた村〜魂の鎮魂歌〜
|
■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 62 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月26日〜08月05日
リプレイ公開日:2005年08月01日
|
●オープニング
それは不幸にして偶然が重なり、導かれた結果だった。
地震。
そして突然のモンスターの襲撃。
倒れ、崩れるいくつもの家屋。
村外れに住んでいた女が、その家屋の下敷きになっていた。
しかし、必死に助けを求めても、その声が届いても、誰一人彼女を助けようとはしなかった。
何故なら、彼女はハーフエルフだったから。
この世界の忌むべき存在。
今まさにモンスターに襲われ、自分の命すら危険だというのにハーフエルフの女を助けようとする者などその村には誰一人としていなかった。
まるでそこには何もいないかのように、彼女を見捨てて逃げて行く村人達。
死に逝き消え逝く意識の中で。
彼女は全てを憎んだ。
ハーフエルフというわが身を。
自分を見捨てた村人達を。
この世界の全てを憎んで憎んで憎みきって滅びを願って。
そうして。
彼女の願いは最後の最後で叶えられたのだ―最悪の形でもって。
死した瞬間に、彼女の身体は魔物へと変貌を遂げた。
白い肌はよりいっそう透けるように艶やかに輝き、泣き腫らし、狂化したかのように瞳は赤く染まり、ぞっとするほど美しい魔物に。
けれど村人達が女のその姿を見ることが出来たのはほんの一瞬だった。
何故なら、魔物へと変貌を遂げた女が、全ての生命を奪い去ったから。
憎しみと悲しみを織り交ぜた全てを憎むその身体は、生きとし生けるもの全てを凍らせる。
(「憎い憎い憎い憎い‥‥」)
彼女の憎しみが、村人を殺し、モンスターをも殺す事によって消えたなら、彼女はまだ救われたのかもしれない。
(「憎い憎い憎い憎い‥‥」)
けれど全てを憎んでしまった彼女の憎しみは村人を消し去っても消えることなくその地に残りつづけ。
(「憎い憎い憎い憎い‥‥‥‥」)
憎しみだけをその心にもった彼女はその地を通りかかる旅人も渡り鳥もなにもかも関係なく生あるものの命を奪うようになってしまったのだ‥‥。
●リプレイ本文
●死に絶えた村
――胸を衝く、異臭。
冒険者ギルドから依頼を請け負い、その村を訪れた冒険者達を出迎えたのは、この世のものとは思えない凄惨なる有様だった。
「レイスが村を滅ぼしたとは聞いていたけど、凄まじいな」
道端に転がる何体もの腐乱死体を見つめて、ダン・トレーダー(ea9729)は眉を顰める。
「随分過激だな。こりゃ領主も動く筈だ」
そして月村 匠(ea6960)が冷静に状況を判断する。
冒険者ギルドにレイスの退治を依頼したのは、この地を治める領主だという。
「レイスと化すには相応の理由があったことでしょう。とはいえ哀しみが増えるのを見過ごすことはできません。一刻も早くこの悲しみの連鎖を止めて差し上げなくては」
ウェルス・サルヴィウス(ea1787)は、辛そうに胸を押さえ、死した人々に短いながらも祈りの聖句を捧げる。
ウェルスは本来であればすぐに手厚く弔い、きちんとした祈りを捧げたかった。
けれど今は出来ない。
いつどこでこの哀しい惨劇を作り出したレイスに襲われるとも限らないから。
「本当は彼女の魂を救ってあげられるのが一番良いのですけど」
「堕ちたる魂は浄化してあげないといけないのです。‥‥哀しい場所なのです。死んでしまった土地をそのままにしちゃいけないのです」
アニー・ヴィエルニ(eb1972)とシェリー・フォレール(ea8427)も、ウェルスと同じように死者に祈りを捧げ、
「とうの昔に悲劇は起こり、終わってしまっています。いつもの事とはいえ‥‥」
オイゲン・シュタイン(eb0029)は沈痛な面持ちで過去を振り払うかのように首を振る。
オイゲンの提案で、戦闘の邪魔になる馬や驢馬は全て冒険者ギルドに預けていた。
ギルドでは馬の預かりなどは通常していないのだが、オイゲンに「まぁ、仮に私が帰って来れなければ処分してしまってください。‥‥まぐさ代は置いておきますので、なにとぞ‥‥」と1Gを手渡され、断われなかったのだ。
しかし馬を連れてこないという判断はとても正しかったようだ。
この惨状では、臆病な馬は恐怖で暴れ出したかもしれなかったから。
冒険者達は、レイスを探すべく村を調べてまわることにした。
●倒すべき相手。けれど‥‥。
ピリピリと張り詰めた空気の中、冒険者達は村を慎重に調べて周り、村外れの空き地に辿りつく。
そこには、他の家々とは離れて建っていたらしい崩れ落ちた家屋のほかは、視界を遮る物は何も無い。
盾も壁もすり抜けるレイスを迎え撃つ場所は、「どうせ待っていたらあちらさんから来るんだ。動きやすい広場辺りで待つのも良いだろう」との月村の提案で、一同はその空き地でレイスの出現を待った。
油断無く、周囲へと気を張り巡らす冒険者達。
『憎い‥‥‥‥』
ゾクンッ!
ウェルスの背後に凍るような殺気が突き刺さる!
「来ます、皆さん気をつけてっ!!」
ゆらり。
レイスがその姿を空き地に現す。
生前の姿を写しているのだろうか?
レイスは、とても美しい女性だった。
ただ、人にしては長すぎる、エルフにしては短すぎる尖った耳が、彼女が生前何であったか、そしてその事こそが全ての不幸の始まりだったのだろうと冒険者達の胸をつく。
冒険者にとって、ハーフエルフは身近な存在だった。
その特異な体質からハーフエルフは真っ当な職に付き辛く、冒険者になる者も少なくないからだ。
だが一般的には忌み嫌われる存在であったハーフエルフの彼女が、生前この村でどのような目に遭っていたかは想像にかたくない。
レイスと化すほどの、悲しみと憎しみ。
それでも。
「やれやれ、運がなかったと言ってやるしかねえがべっぴんさんが死んじまって悪霊になるなんてもったいない話だぜ。とやかく言っても結局は滅ぼすしかねえ。行くぞ!」
月村、オイゲンが前衛に立ち、ダン、ウェルス、シェリー、アニーが後方支援の体勢をとる!
「悪しき威力よ、聖なる母の御名において去るのです! レジストデビル!」
「セーラ様のご加護を‥‥グットラック!」
アニーがレジストデビルを自分にかけ、レイスの憑依被害を少しでも減らそうとし、ウェルスが自分以外の全員に向けて幸運の魔法をかける!
『憎い‥‥憎いいいいいいいいいい!!』
前衛の月村とオイゲンを避けてレイスがダンに襲いかかる!
「うわああああああああっ!!」
避けきれず、レイスに触れられた瞬間、ダンの右腕に凄まじい激痛と全ての力を奪われていくような錯覚が広がる!
「ちっ! これでもくらいな!」
月村が鎮魂剣「フューナラル」アンデッドスレイヤーでレイスを横凪に切り払う!
「セーラ様、どうかかの者の傷をその大いなる慈悲でもってお癒しください‥‥リカバー!」
すぐさまシェリーがダンに駆け寄って、その傷を癒す。
『痛みなど感じない‥‥ナニモカンジナイワ‥‥!』
アンデットに多大なダメージを発揮する剣で月村に斬られたレイスは、一瞬飛び退き、しかし確実にダメージを受けているにもかかわらず壮絶な笑みを浮かべて月村を抱きしめた。
「うおっ?! ‥‥くっ、う、がっ!」
そのまま、月村の身体に溶け込んでいくレイス。
「聖なる母の御名において、浄化の光よ、堕ちたる魂に浄化を! ‥‥ピュアリファイ!」
アニーが月村に取り憑いたレイスに浄化の魔法をかける。
しかし、
『憎い‥‥どうして‥‥あなた達は生きているの‥‥私は‥‥死んでしまったのに!』
月村の口からレイスの声が響き、レイスはそのまま月村の身体を使ってオイゲンに斬りかかる!
ザシュリ!
斬りつけられたオイゲンの身体から鮮血が飛びちる。
「くはっ、ぐっ、ごふっ!」
片膝をつくオイゲンに、なおも斬りかかろうとするレイス。
「これ以上貴方が傷つく事はさせません‥‥ホーリー!」
忌み嫌われる存在のハーフエルフ。
ウェルスにとって、ハーフエルフは大切な存在だった。
幼い頃育った孤児院でのハーフエルフの笑顔に、どこにも居場所の無かった自分がどれほど救われた事だろう?
だから。
裁きとしてではなく、セーラ神のお力でレイスと化したハーフエルフの女性がその憎しみの想念から解き放たれるように。
彼女がこれ以上傷つかずに済む様に。
自分の魂を絞られるような思いで聖なる呪文を唱えるウェルス。
けれどレイスは、自分を包み込もうとするかのような、白く暖かい光に戸惑い怯え、よりいっそう月村の身体を支配する!
『憎い‥‥憎いわ‥‥全てが憎いのよ!』
レイスの操る月村の剣は、オイゲンを治療しようとしていたシェリーに襲いかかる!
瞬間。
「いやああああああっ、オイゲンさん!!」
シェリーの悲鳴が響き渡る。
ズシュリと鈍い音を立ててレイスの操る月村の剣に胸を貫かれたのはオイゲンだった。
オイゲンは咄嗟にシェリーを庇い、その凶刃の前に身を差し出したのだ。
「‥‥‥‥‥‥」
オイゲンが無言で合図する。
自分にかまわず、レイスを倒せと。
目の前の惨劇に気が遠くなりかけながら、シェリーは自分を庇ったオイゲンに癒しの呪文を唱え、
「聖なる母の御名において、悲しき魂を癒し給え‥‥ピュアリファイ!」
「心を解き放って安らかに眠れ、もうあんたは死んだんだ!」
「憎しみからは何も得る事は出来ません‥‥死してなおも貴方を苦しめるその憎しみから、どうか救われますように‥‥ホーリー!」
アニーの、ダンの、ウェルスの邪を払い浄化する聖なる呪文がレイスに降り注ぐ!
『いやよ…いやあああああっ!』
苦しみもがいて月村から離れるレイス。
そして憑依から開放された月村は、その強靭な精神力で持って倒れるのを防ぎ、
「あんたの気持ちはわからなくもないが、俺に出来るのはこれだけさ。せめてこの鎮魂剣で成仏してくれよ!」
レイスに、渾身の一撃を叩きこむ!
それは、致命傷だった。
避けることも出来ず、深々と切りつけられた実態の無いレイスの半透明の身体は、徐々に、しかし確実に消え去ろうとしていた。
『‥‥どうして‥‥どうして私は‥‥生まれたの‥‥?』
その呟きを最後に、レイスは完全にこの世から消え去ったのだった。
●エピローグ〜どうか心安らかに
「この方が、レイスに‥‥」
村中をもう一度調べて周り、弔う為に全ての遺体を村の空き地に集めていた冒険者達は、あの村外れの空き地に一つだけあった崩れた家から、ハーフエルフの女性を見つけ出していた。
既にその身体は白骨化していたが、あのレイスと同じ服は、身間違えようが無かった。
「こいつ、なんでレイスになったんだろうな‥‥」
命を奪われた村人や旅人、そしてレイスに対して祈りを捧げるダン。
たった一つだけ、隔離されて建っていた家。
潰れた家の下敷きになって死んだハーフエルフ。
今となってはその時の状況を正確に知ることは出来ないが、崩れた家屋が少しも退かされた様子の無いことから、誰も彼女を助けようとはしなかった事が見て取れた。
「生前、もしも彼女が私に助けを求めてくれたなら、そして私がその場にいたなら、後先考えずにハーフエルフを救出しようとしたでしょうな」
辛そうに呟くオイゲンと同じく、神聖ローマ帝国出身でありながら人間至上主義にはなじめないウェルスも頷く。
「起こってしまった過去を変えることは出来ませんが、せめてここで亡くなった方達全ての冥福と彼女の魂が神の慈悲により救われんことを」
シェリーは潰れた家屋の下から、ハーフエルフの遺体を救い出そうとする。
冒険者達は、力を合わせて重い家屋を退かし、遺体を潰れた家から助け出す。
そうして。
救い出したハーフエルフの遺体は見晴らしの良い小高い丘の上に埋めてあげた。
冒険者達は、レイスと化してしまったハーフエルフと、この村で命を落とした全てのものに、深く深く祈りを捧げたのだった。