●リプレイ本文
●どうしたの?
「どしたのキミ、泣いてるの? 名前は?」
泣いている少年にそう話し掛けるのはユスティーナ・シェイキィ(eb1380)
少年―ヴィエルは、泣きじゃくりながら必死に事情を話しだす。
あんまりにも少年がぼろぼろ泣いているので、丁度その場所を訪れていた他の冒険者達―カールス・フィッシャー(eb2419)、楊 朱鳳(eb2411)、アルバート・オズボーン(eb2284)、ナタリー・パリッシュ(eb1779)、アリアドル・レイ(ea4943)もいつのまにかヴィエルとユスティーナの側に集まってきていた。
「‥‥頭に角の生えた男の子? それはモンスターかも知れないね。よーし、お姉さん達に任せて〜。その角の生えた男の子をどこで見たか教えてくれる?」
「やれやれ、子供に泣きつかれちゃしょうがないね。まあ、自分のことは自分で片をつけなさいと言いたい所だけども、今回のは少々勝手が違うわけだし、力になるかね?」
ユスティーナが少年をなぐさめ、ナタリーは厳しそうにしながらもなんだかんだいって面倒見がいい。
やはり自分にも子供がいるからだろうか?
「友達に誤解されたままでは辛いだろう‥‥。犯人を見つけないとな」
「私も子供を泣き顔のままで居させたくないですしね」
「俺は、ちょっと街へ行ってヴィエルと同じ目に会ったやつがいないか聞いてくるよ」
楊とカールスも頷き、アルバートは早速街へと情報収集へ向かう。
「悪口に使われたのでは言葉も可哀相ですし、あなたの誤解を解いてあげられるよう頑張りましょう」
気の毒な少年にアリアドルはそう強く請け負うのだった。
●森の中〜罠はいっぱい?
ゴソッ、バリッ、パキキッ!
ヴィエルが角の生えた少年に出会ったという問題の森の中で、わざと大きな音を立てて歩き回り、時折薬草を摘む真似をするアリアドルと楊、そしてアルバートとユスティーナ。
「この辺りのはずですね‥‥」
角の生えた少年に出会ったという場所で、周囲を伺うアリアドル。
ヴィエルの話によれば、角の生えた少年は声真似が得意だということから、真似られないように仲間にだけ聞こえるような小声で話掛ける。
「『大きな楡の木の前』ですから、ここで間違い無いはずです」
この森に来る前、少年の話を元に簡単な地図を作った楊は、その地図に付けた記しを確認して現在の位置を確かめる。
ヴィエルは森の入り口より南東、大きな楡の木があるのが目印だといっていたが、いま3人の目の前にもそれはそれは立派な楡の木がそびえたっていた。
「酒場の噂じゃ、昔からこの森には変な噂があったようだ。曰く、この森に入ると喧嘩になりやすって話だ。なんでもお互い言ってもいない暴言を相手が言ったと主張して喧嘩になるらしい。ヴィエルの話と一致するよな?」
バキッと小枝を踏みつけて音を出しながら、けれど声は小声で答えるアルバート。
角の生えた少年を捕まえるべく、4人とは別行動でカールスとナタリーが森の中に罠を仕掛けているはずなのだ。
だからそれに気付かれないように4人はわざと音を立てて、そして森の中にいることを怪しまれないように薬草採集のふりをして、角の生えた少年の気を引いているのだ。
「グリーンワードで犯人の正体について聞いてみるね」
やはり小声で、ユスティーナは呪文を唱える。
「森の草木よ、角の生えた少年について、何か知っていたら教えて‥‥」
ユスティーナの身体が茶色に輝き、囁くように問われた質問に草木が答える。
「角の生えた男の子を見たことがある? ‥‥そう、あるのね。その男の子は種族は分かる? 人間? 悪魔? 人間でも悪魔でもないの? じゃあ、その子の家を知ってる?」
しばらく草木の声に耳を傾けていたユスティーナは、
「問題の角の生えた少年は、いつもこの楡の木の上に住んでいるって。でも今この辺りにはいないみたい」
「高いところを好み、人を不愉快にさせる角の生えた子供といえば‥‥グリムリーか?」
アルバートがその豊富なモンスター知識と照らし合わせて、問題の少年にまだあっていないから確証は無いが、ほぼ間違い無いだろうと呟く。
「なんにせよ、問題の少年はここにはいないとなると、捕まえるにはおびき出すしかないようですね」
アリアドルがいつも持ち歩いているリュート「バリウス」を構え、鳥の羽でできたプレクトラムを使って奏でだす。
重厚な木で作られたリュートの中心部には木目細かな飾り彫りが施されており、その意匠がよりいっそう音色に深みを与える。
リュートにあわせ、楽しげに歌い出すアリアドル。
♪〜
おかしな噂を聞いたもの
不思議の森があるという
そこでは声が一人旅
姿を変えて飛び回る
果てさて 何ともおかしな話
こだまを返すは山彦だけで
それすら姿は変えぬもの
となればこれは法螺話
私の声が一人歩きを 始めぬ事が良い証拠
〜♪
グリムリーと思わしき犯人を挑発するように、アリアドルは真似てみろといわんばかりに楽しげに歌う。
その声は、深い音色のリュートと共鳴し合い、森の中に響き渡る。
すると。
♪〜
お菓子の噂を聞いたんだ
食べきれないほどあるという
それを吟遊詩人は食べきれず
豚に変わって食べたのさ
果てさて 何ともおかしな姿
おならをするのは豚に変わった吟遊詩人
それすら臭いは臭いもの
となればこれはほんとの噂
豚の声が響き始めた事が良い証拠
〜♪
アリアドルの挑発に乗り、どこからともなくアリアドルと同じ声で馬鹿にした歌詞の歌が森に流れ出す。
(「かかりましたね」)
歌の聞こえる方角から、グリムリーらしき犯人の居場所を特定しようと耳を澄ますアリアドル。
「そう言えばこの森に人を騙す奴がいるらしいが、私を騙すことは出来ないだろうな」
と楊も犯人を挑発する。
「バーカバーカ‥‥!」
むきになったように、アリアドルの声を真似て『バーカ』を連発する犯人。
「わかりました、あちらです!」
ずっと耳を澄ましていたアリアドルが犯人の居場所を特定して森の奥を指差す。
気付かれて、慌てて逃げていく犯人。
「あちらは‥‥ナタリーとカールスが罠を仕掛けている方向だ!」
「急ぎましょう!」
●罠は完璧さ!
「おや、血相を変えてどうしたんだい?」
罠を仕掛けていたナタリーとカールスに合流する4人。
「カールス、ナタリー、こっちにグリムリーがこなかったか?!」
「犯人はグリムリーだったのですか? いえ、こちらでは見かけていません」
周囲を伺い、警戒するカールス。
「罠は一通り設置し終えたよ。足元には特に気を付けておくれよ。あんた達が罠に掛かっちゃ洒落にならないからね」
ナタリーも周囲を伺いながら他のメンバーに警告する。
「あっ!」
目をこらして犯人を視認できるように頑張っていた楊が声をあげる。
「角の生えた子供‥‥確かにいました!」
見た目は人間の子供にそっくりだけれど、頭に生えた角がその存在を人間ではない事を裏付けている。
「グリムリーは言霊と引っかき攻撃が得意だ、気をつけろ!」
犯人を目の当たりにして、やはりグリムリーであると確信したアルバートが叫ぶ。
「カールスの‥‥バーカ! ナタリーの‥‥アホー!」
もう正体がばれているというのに、アルバートの声を真似て悪口を言うグリムリー。
「それで?」
不敵に笑ってグリムリーを挑発するナタリー。
「ナタリーのクソババー!!」
「それで?」
「‥‥アホー!!」
少しも相手にしないナタリーにブチ切れたグリムリーは、叫びながらナタリーに飛び掛ってくる!
‥‥こけっ!
後少しでナタリーに触れるかという瞬間、仕掛けられていた草を結んで作った罠にあっさりと引っかかって盛大にすっ転ぶグリムリー。
そして、グリムリーが立ちあがる前に、
「‥‥シャドウバインディング!」
スクロールを広げてシャドウバインディングを発動するユスティーナ。
「バカー!」
グリムリーは必死で罵声を飛ばして逃げようとするが、呪文で縛られて動けない。
すぐにカールスがバックパックからロープを取り出して動けないグリムリーを縛り上げる。
さあ、無実の証明だ!
●エピローグ〜仲直り☆
「こいつが犯人だぜ」
依頼人のヴィエルと、そのお友達である太一郎とロッテの前にグリムリーを突き出すアルバート。
冒険者が森へ入る前、「犯人が見つかったらちゃんと謝って仲直りしてくれないかな?」と楊に言われて、ロッテと太一郎は問題の森の前にヴィエルと一緒に待っていたのだ。
「ほんとに角が生えてるわ!」
「嘘じゃなかったのかよ?!」
口元に手を当てて驚くロッテと、半信半疑でグリムリーを見つめる太一郎。
「ほら、お前の得意な声真似をして見せろ」
縄をぐいっと引っ張って、グリムリーに声真似をさせようとするアルバート。
しかしグリムリーはそっぽを向いてだんまりを決め込んでいる。
「声真似をしてくれないと、ヴィエルくんの疑いが晴らせないわ」
困るユスティーナに、しかしナタリーは余裕の表情で、
「なあに、こいつは声真似なんてほんとは出来ないのさ」
とグリムリーを挑発!
「ナタリーのバーカ!」
挑発にまたしても乗るお馬鹿なグリムリー。
「うわっ、こいつナタリーさんと同じ声でしゃべった!!」
「なんてこと‥‥!」
実際に声真似を目の当たりにしたロッテと太一郎はばつが悪そうにヴィエルを見つめる。
「こいつは君たちとの友情を護る為に必死で頑張ったんだ。その気持ちを酌んで、今まで通り仲良くしてやってくれないか」
ヴィエルの肩を叩き、口添えするカールス。
「疑ってしまってごめんなさい!」
「嘘つきなんて言ってごめん!」
ヴィエルに謝る二人を見て、
「誤解が解けたんだもの。今まで以上に仲良くできるよね、きっと」
ヴィエルの頭を撫でてあげながら楊も仲直りを促す。
「うん!」
元気に返事して、ヴィエルは太一郎とロッテに抱きついた。
「これからも、ずっと仲良くしてね!」
「さて、仲直りしたら皆で一緒に遊ぼう! ‥‥歳いくつだとか聞かないでね? 太一郎くんだっけ、ジャパンの遊びをあたしにも教えてくれる? 」
ユスティーナの提案に笑う子供達。
そしてグリムリーの処分は、「次やったら‥‥」とナタリーが目一杯グリムリーを脅し、十分に反省させた後に森へ逃がしてあげたのだった。