●リプレイ本文
●まずは下準備
とんてんかんとんてんかん♪
依頼人のパッドル神父が働く教会に集まった冒険者たち。
勉強を教える子供達に名札を作ってあげようと、パッドル神父から大工道具を借りて風 烈(ea1587)が適当な板切れを名札に使う大きさに加工して、首から下げれるように穴をあける。
そしてフィニィ・フォルテン(ea9114)とゴールドが、用意したハギレ布を細くねじって、風の作った名札に紐代わりに通す。
名札は子供達と冒険者、そして神父の分を合わせて12個。
パッドル神父から6人の子供達の名前を聞いて、たった今作った名札に風は明記していく。
そしてフィニィ、紅 茜(ea2848)、シェリー・フォレール(ea8427)、ウェルス・サルヴィウス(ea1787)、ラテリカ・ラートベル(ea1641)、風とパッドル神父もそれぞれ自分の名前を名札に記して首から下げる。
こうする事によって、子供達に名前を、そして文字を覚えやすくさせるのだ。
「せっかく皆様に来ていただいたのに、子供達が少なくて申し訳無いです‥‥」
6人という予定よりも少ない子供達の数に、パッドル神父は俯く。
本当なら、街中の子供達に勉強を教えたいのだ。
しかし、親達がそれを許せなかった。『許さない』ではなく『許せない』。
貧しすぎる街の生活で、例え無料でも大切な働き手である子供達を教会へ預ける事が出来る家庭というのはそうそうなかったのだ。
「子供達に何かできることがないかと、以前から思っていました。貴重な働き手である子どもたちをここへ来させてくださっていることに感謝します」
自分自身も孤児であり、貧しさというものを身をもって知っているウェルスは、落ちこんでいるパッドル神父を励ます。
そう、いまは落ちこむよりも少しでも集まってくれた子供達の為に勉強を教えてあげる事が大切なのだ。
「貧しくて教育が受けられないなんて悲しいことです。でも今は少ない人数でも、根気良く続けてゆけばきっと周囲の理解も深まりますわ。セーラ様はいつでも私達を見守ってくださっています」
ウェルスと同じく、白のクレリックであるシェリーも微笑む。
そうこうしているうちに、子供達が教会を訪れるのだった‥‥。
●6人の子供達
「せんせー、よろしくおねがいします!」
「‥‥‥‥」
「ちっ、なんで勉強なんざしなくちゃなんねーんだか。腹が膨らむわけでもねぇのにさ」
「んとんと、よろしくなのー☆」
「ままっ、ままぁっ、うわーんっ!」
「今日は。僕はランド。あなた達のお名前は?」
6人の子供達は、その挨拶からもわかるようにそれはそれは個性的だった。
元気一杯夢一杯な女の子、ポーレル。
無口で引っ込み思案、恥ずかしがり屋の男の子、ウェル。
やんちゃ小僧まっしぐら。ちょっぴりグレ気味な少年ロイ。
人懐っこい笑顔で冒険者を見上げるメリルアン。
泣き虫で6人の中では一番幼いコロン。
そして歳の割りにはしっかり者のランド。
歳も性別も性格もバラバラな6人に、冒険者と神父はそれぞれ個別について勉強をする事になった。
●勉強開始。午前中は読み書きの練習☆
まずは風とポーレル。
「これがポーレルちゃんの名札だよ。そしてこの名札に書かれているのがポーレルちゃんを表す文字だ」
ポーレルに名前を表す文字を教えながら、神父の用意した石版にゲルマン語で使う文字を全て書いて文字の書き方を手本で示す。
風のマネをして、自分の石版に名前を、そしてゲルマン語を書いていくポーレル。
時々間違うと、風が「こう書けば書きやすいはずだ」とコツを丁寧に教えてゆく。
そうして、ポーレルが全てのゲルマン語を石版に書き写している間に、風はもう一つの作業を進める。
神父からあらかじめ聞いておいたノルマンの昔話を、絵本にするのだ。
名札を作った余り板に、絵と昔話を書いていく。
「風せんせい、それはなんですか?」
興味深々で風の手元を除きこむポーレル。
「これか? これはな、絵本だ。ドラゴンがその昔大暴れした時の物語なんだ」
「ドラゴンがあばれたのー?」
「そうだ。その昔ドラゴンは‥‥」
絵心の無い風の描く絵はお世辞にも上手とはいえなかったが、子供達への愛情をたっぷりに注いだその絵本に、ポーレルは釘付けだった。
もっと読んで読んでとせがむポーレルに、「やれやれ‥‥」と疲れたふりをしつつ、満更でもない風だった。
次は、ラテリカとウェル。
「んと‥‥先生言うか、お姉ちゃんみたいにウェルくんと仲良く出来たら良いなって思うです♪ よろしくです♪」
「‥‥‥‥」
無反応。
(「ラテリカ、頑張るです!」)
話しかけても俯いてしまっているウェルに、ラテリカはちょっぴり泣きたくなりながら、めげずに頑張る。
「これがね、文字っていうですよ。ウェルくんのお名前は、well、って書くのです」
予め羊皮紙に書いて用意しておいた文字の見本をウェルに見せながら、その名前の綴りを指で指し示していく。
ピクリ。
ウェルの顔が上がり、目線が文字を追う。
まだ黙ったままだけれど、興味を引いたようだ。
「‥‥えへへ。一緒に書いてみよっか?」
ウェルの手に自分の手をそっと添えて、石版に一緒にウェルの名前を綴るラテリカ。
「僕の‥‥名前‥‥」
「うん、そうなのです。これがウェルくんのお名前なの。一緒に書いて覚えよう♪」
ウェルが、小さい声だけれど話してくれたのが嬉しい。
ラテリカは歌うように文字を綴り、ウェルに次々と言葉を教えてゆく。
お次はウェルスとロイ。
「おいおっさん、メシ食わしてくれよ。ここに来れば上手いもんが食えるって聞いたから来たんだ。勉強なんかどうせ役に立たないんだから」
机に足を投げ出して、不貞腐れるロイ。
けれどウェルスは決して叱らなかった。
「ロイ君はなぜ、勉学を無用と考えられるのですか?」
ロイを子供だからといって自分よりも下に見ることをせず、目線を合わせてかけがえの無い隣人として名前を呼ぶ。
自分を理解しようとするウェルスに、ロイは罰が悪そうにそっぽを向いて呟く。
「ずっと勉強できるわけじゃないだろ。俺達は今日たまたま来る事が出来たけど、これが終わったらまた仕事がまってる。勉強って言うのは続けてこそ意味があるって聞いたぜ? 続けられないのにこんなことしたって無意味じゃないか!」
夢も無く、ただ働く。
ロイの暗い瞳にウェルスはかつての自分をてらし合わせ、ズキリと胸が痛む。
本を読みたくても、高価で決して手が届かなかった孤児の自分。
けれど、文字を覚え、学を身につければ未来は必ず開けるのだ。
だからウェルスは、根気良くロイを説得する。
「ロイ君。確かに勉強は続ける事が大切です。ですが、一度覚えた知識というものは決して無駄にはなりません。夢を叶え、大切な人を守る力となりえるのです」
「あんたに関係無いだろ‥‥」
「‥‥関係ないかもしれませんが、ロイ君がいまこの場所にいられるのは、ご両親がロイ君の分まで働いていらっしゃるからではないのですか? それは、ロイ君に少しでも勉強を教えてあげたいからではないでしょうか。それなのに、続ける事が出来ないからといって勉強を放棄する事があなたの正義ですか?」
「!」
「勉強、しましょう」
唇を噛むロイに、ウェルスはまずロイの名前を、そして次にロイの家族の名前の綴りを教えてゆくのだった。
シェリーとメリルアンはというと。
「よろしくなのー、だきゅー☆」
ただでさえ人懐っこいメリルアンは、おっとりとしていて優しい雰囲気のシェリーによりいっそう懐きまくり。
シェリーは勉強を教えようとするのだが、メリルアンはシェリーに抱きついて離れない。
仕方がないので膝の上にメリルアンを乗せて、最低限自分の名前は書けるようにと名前の綴りを教える。
メリルアンは、膝の上に乗れてご機嫌な為か、シェリーの予想よりも早く教えられた事を吸収していく。
どうやらメリルアンに足らないのは礼儀作法のようだ。
シェリーは授業内容を切り替えて、メリルアンに礼儀作法を教え出すのだった。
「ママっ、ママーーーーっ!!」
「うわわっ、よちよち、いい子ですよー」
幼すぎるコロンにパッドル神父はたじたじ。
流石にここまで幼い子供がよこされるとは思っていなかったらしい。
ラストはフィニィとランド。
最年長のランドは、誰よりもしっかりとしていて一見手間が掛からないように見えた。
しかし、しっかりしているということと、勉強ができるということは別問題。
「貴方のお名前はこう書きます。まずはこれを書いてみましょう」
フィニィが用意した布切れにランドの名前を綴るのだが、ランドはなぜか理解できない。
何故理解できないのか原因がわからず、「焦らないで良いですから、少しづつ覚えていきましょう」とランドを励ますフィニィ。
(「こんな時、茜さんならどうするかな?」)
上手く教えられずに困惑するフィニィは、一緒に依頼を受けた友人を脳裏に思い浮かべる。
その友人である紅は、
「お昼できたよー! 焼きたてパン、おまちどうさま!」
明るく元気に厨房から出てきてみんなに声をかける。
その両腕には、紅の特製☆焼きたてほかほかのパンをのせたお皿や、栄養満点の料理を盛ったお皿を抱えている。
勉強はいまいち苦手な紅は、みんなの為に得意の料理で美味しい食事を作ってくれていたのだ。
今まで食べた事もないような豪華な食事に、わっと駆け寄る子供達。
「あはは、みんな元気だねー♪ 喧嘩しないで仲良く食べるんだよー♪」
勉強も仕事もまずは美味しい食事から。
冒険者も子供達も一旦休憩するのだった。
●午後は得意分野で勝負☆
勉強といっても色々ある。
文字を書けるようになる事も大切だが、それだけが勉強じゃない。
冒険者たちは、午前中に子供達が最低限名前だけは筆記できるようになったのを確認すると、それぞれの得意分野を子供達にまとめて教え出す。
「♪ピカピカするものなぁに? Lampe、Soleil、Etoile♪」
音楽の授業のように、文字を綴りながら覚えやすいように歌にしてゆくラテリカ。
そして音楽に興味を持ち始めた子供達を見て、本格的な歌を教えるフィニィ。
ウェルスはフィニィの用意した布で暮らしの中で役立つ裁縫を教え、シェリーは敬愛なるセーラ神の大いなる慈悲と祝福を語り、紅は質素な食材をいかに美味しく料理するかを教える。
貧しいということはそれだけ治安も悪い事から、身を守れるようにと風はごくごく簡単な、けれど力の弱い子供でも使うことの出来る手首を締める関節技を伝授する。
●さよならの代りに〜また会おうね☆
1週間はあっという間に過ぎ去った。
物事を教えるのに1週間というのは短すぎる期間だったが、それでも冒険者たちの子供達への愛情はきちんと実を結び、子供達のうち一番幼いコロンですらきちんと自分の名前を書けるようになったのだ。
子供達と別れ際。
「もし、本格的に歌を習いたいと思ったらいつでも来て下さいね」
フィニィは、自分の名前と住所を書いた布を子供達へと渡し、同時に「歌の基本は何度も歌って練習するだけですが無理をしてはいけませんよ。無理をして喉を痛めてしまっては何にもなりませんからね」と自分がいない間に子供達が無理をしてしまわないように釘を刺し、
「音楽は、誰かを幸せに出来る、不思議な魔法の1つなのですよ♪」
とラテリカも微笑む。
そうして、子供達への別れを惜しみながら冒険者達が立ち去ろうとした瞬間、風の懐から小袋が零れ落ちる。
「あの‥‥」
パッドル神父がそれに気付き、小袋を拾って風へ返そうとする前に、
「神父様、このお金で子供たちに何かおいしいものを食べさせてあげようと言っていたんですから、大事に持っていないと」
風は小袋をそのままパッドル神父に握らせて軽くウィンク。
小袋の中にずしりと入っているお金を握り締め、パッドル神父は深く深く頭を下げた。