●リプレイ本文
●初日〜生粋のデ○。その名はマジェンダ。
依頼人は肥満体型だと聞いていたが、これほどまでとは思わなかった。
依頼人―マジェンダの巨体を前にして青ざめる冒険者たち。
金髪碧眼は美形の代名詞だったはずだが、突き抜けた○ブの前には意味を為さないものらしい。
大宗院 奈々(eb0916)などは依頼人を見て、
「可愛そうに、恋してないから、そんなになるんだ」
と独り言を呟いて眉を顰める。
「まずは自己紹介を、私はニルナ・ヒュッケバインと言います。今回は最善を尽くしますので、宜しくお願いしますね」
予想以上にデ○な依頼人にもめげずに、そう挨拶するのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
少しでも人の役に立ちたい彼女は、自分の妹と同じ16歳だという依頼人の○ブさ加減よりも、その悩みを解消してあげたい気持ちでいっぱいなのだろう。
「こんにちは〜、シフールのレンジャーのキャル・パルだよ〜。みんなよろしくね〜♪ 依頼者さんも、しふしふ〜☆」
こちらもデ○のショックから立ち直って、マジェンダと冒険者たちにシフール流の挨拶をするキャル・パル(ea1560)。
「えっとね〜、痩せるにはやっぱり動くのが一番いいとキャル思うよ〜。だけど、苦しいだけじゃダメだよね〜。楽しさもあるといいかな〜? あ、そうだ〜。依頼者さん、キャルと一緒に追いかけっことか、かくれんぼして遊ぼ〜☆」
明るく元気に依頼人に痩せる方法を提案する。
けれど依頼人は、そのドンとした身体を指一本動かそうともせずに、
「なぜわたくしがかくれんぼだの鬼ごっこだの下町の者のするようなまねをしなければなりませんの? あなた達冒険者でしょう、だったらさっさとわたくしを魔法で綺麗になさい!」
きいっとヒステリックに命令する。
やっぱりお嬢様、ニュイ・ブランシュ(ea5947)の予測通り自分で痩せる努力をする気などさらさらなかったようだ。
「わがままはいけませんです! ダイエットの道は茨の道、艱難辛苦なのです。痩せない○ブはただのデ○なのです! さぁ、レッツ・ゴーなのです!」
熱血しながら依頼人に禁句『○ブ』を連呼して走り出すのはサレナ・ブリュンヒルド(eb2571)。
「いま、デ○っていったわねえぇっ?!」
どすっどすっどすっどすっ!!
軽やかに走り去るサレナを地響きをさせて追いかける依頼人。
「何だかんだ言っても、走る気満々だったのですね〜」
血相を変えて追いかけてきた依頼人を見て喜ぶサレナ。
いや、あなた、喜んでいる場合じゃないですよ、依頼人に捕まったら命ないですよ?
突っ込みたくなる冒険者たちを尻目に、屋敷の外へ走り去るサレナと依頼人。
「キャルも一緒に行くよ〜♪」
「ご一緒します。私も綺麗になりたいですから。ってゆーか、つきあわせろ」
「はいはい。あたしも協力するから頑張りましょう、お嬢様」
キャルと、自分も痩せたいメリーアン・ゴールドルヴィ(eb2582)、そして一瞬地が出て誤魔化し笑いをしながらもマジェンダを追いかけて行くアリシア・キルケー(eb2805)。
そうして残された冒険者、ニュイとフォーレ・ネーヴ(eb2093)、ニルナと大宗院は、事前に計画していた汗をかかせる為の個室を作り始めるのだった。
●2日目〜まずはどこが太る原因なのか?
与えられた客室で朝食を取りながら、依頼人の肥満の原因を考える冒険者たち。
「えーと、ねーちゃんが一日追跡した結果、やはり食事と運動不足は大因ぽい。遺伝でなくて良かったんだけどね」
ぱくぱくぱくぱく。
ご飯を食べ終えて、さらにニュイ専用のお菓子袋から美味しそうにお菓子を食べてそう報告するのはニュイ。
ニュイの姉、シアンは、昨日1日お嬢様の行動をしっかりチェックし、問題点を羊皮紙にびっしりと記入してニュイに渡しておいてくれたのだ。
「ええ、確かに遺伝ではないようですね。マジェンダさんのお母様は本当にお綺麗な方ですし‥‥」
羊皮紙を眺めて真剣に思案するニルナ。
そう、依頼人の母親はとてもスリムな体つきをしており、依頼人とは似ても似つかない美女だったのだ。
「マジェンダさんにどうして痩せたいのか、キャル走り終わった時に聞いたの〜。そしたらね、お母様みたいになりたいからだって言ってたよ〜?」
「とあるパーティ会場でお母様と一緒に出席なさって、その席で体型を笑われたそうです」
初日に依頼人と一緒に走ったキャルとサレナが口々に言う。
走りながらも色々とお嬢様と話をしたらしい。
もっとも、お嬢様は途中で力尽きて屋敷に戻ってくる頃にはとても話など出来る状態ではなかったのだが。
「あれ? 今日の食事、なんだか昨日と違って野菜が多いよね‥‥?」
朝食のメニューが明らかに昨日と変わっている事に気付くフォーレ。
昨日は肉類中心で、スープも割とこってりとした料理が多かったのだが、今日の朝食は肉より魚を中心とし、香草や海草をふんだんに取り入れた物になっている。
「気がついた? 料理に詳しい友人に協力してもらって、昨日の夜ここの料理人に食事の徹底管理もお願いしておいたんだよ」
友人のヒサメと協力して、ニュイは自分の植物知識をフル活用して身体に良いメニューを考え、屋敷の料理人にお願いしておいたのだ。
「そろそろ依頼人も食事を終えた頃だよね‥‥。私、お嬢様をお風呂場に連れていくから、ニュイ君はその間にアレの準備をしておいて‥‥」
おもむろに席を立ち、ピュイっと口笛を吹いて去っていくフォーレ。
そしてニュイも頷いて即席お風呂場へと立ち去って行くのだった。お菓子袋は持ったまま。
「きゃああっ、いやーーーーーーーーー!!」
「リカバーも使えますし、応急手当も出来るので多少の無茶は大丈夫です。皆さん、安心してくださいです!」
「わがまま言うな、○ブが嫌だから俺達を雇ったんだろう? ちゃんとヤル気もあるんだよな?」
即席お風呂場の柱に捕まって、ガンとして入浴を拒否するお嬢様を必死にひっぱって引き離そうとするニュイとサレナ。
しかしお嬢様はびくともしない。
標準体重5割増のお嬢様を華奢なニュイとサレナでは動かせるはずもなく、ましてやニュイはお菓子袋を片手に持っているから余計に無理だったりするのだ。
お嬢様がこんなにも嫌がるお風呂場は、昨日冒険者達によって浴槽の回りに囲いが施され、その下には熱しても壊れる事のない石像がいくつか置かれていた。
そしてその石像はニュイのファイヤーコントロールによって熱く熱く熱され、フォーレがそれに水をかけて浴槽の湿度を上げている。
もちろん、お嬢様が湯船に入っても火傷などしないように湯船の底に板を敷き、熱くなりすぎないように常にニュイとフォーレが湿度、温度共に調節し、お嬢様に汗をかかせて痩せさせようという計画なのだが、炎に焼かれた石像は見るからに恐ろしげでお嬢様は必死で柱にしがみつく。
ピシュッ!
そのお嬢様の頬すれすれをかすめるように、ナイフが飛んできて壁に突き刺さる。
「!!!」
「あ、手が滑っちゃった‥‥あんまりわがまま言うと、また滑っちゃうかも‥‥」
ナイフを手の平で弄びながら呟くフォーレ。
お嬢様は青ざめてすごすごとお風呂に入るのだった。
●3日目〜街へ気晴らし?
「嫌よ、もう絶対にここから出ないわ!」
部屋に閉じこもり、ヒステリックに叫ぶお嬢様。
どうやら昨日のお風呂が相当辛かったらしく、部屋に立て篭もって出てこないのだ。
「困ったの〜。マジェンダさん、キャルといっしょにがんばろ〜?」
「もう嫌だって言ってるでしょ?! なによ、まだぜんぜん痩せないじゃない!」
「美しくなりたいと努力してもすぐには結果はでませんよ。こういったことは続けることに意味があるのです。ってゆーか、出てこいよ!」
ドカッと普段の上品な雰囲気からは想像もつかない見事な蹴りをドアにブチかますアリシア。
しかし、ドアは開かずお嬢様もだんまりを決め込んで出てこない。
「わかった。じゃあさ、こうしないか? あたしと一緒に街に買い物に行かないか。流行りのドレスでも買って気晴らししようじゃないか」
「お買い物ですって?」
「ああそうさ。美人になる方法も教えてやるから、ついて来な」
大宗院の提案に、いそいそと部屋から出てくるお嬢様。
ニヤリと大宗院はほくそえんだ。
「なあ、マジェンダ。あんたはどんな男が好みだ?」
お嬢様と一緒に街を歩きながら、恋多き女・大宗院は問いかける。
「わたくしは恋など興味ありませんわ」
「‥‥だろうね。ちょっと待ってな」
お嬢様が何か反論する前に、向かいの通りを歩いていたイケメン2人に駆け寄っていきなりナンパする大宗院。
しかも成功したらしく、二人を連れてマジェンダの元にやってくるではないか。
「この子がマジェンダ。金髪碧眼の生粋のお嬢様。どう? イケてるでしょ」
おろおろとするマジェンダに、二人を紹介する大宗院。
しかしイケメン達はマジェンダを見た瞬間、「僕達、ちょっと急用思いついちゃったから‥‥」といって逃げ去って行く。
しかも駆け去る途中で「デ○はかんべん」「化け物だよなぁ」と呟いた声も、しっかりとマジェンダに届いていた。
「どうだ、悔しいか。本来ならあんたはあんな奴らを鼻であしらえる身分なのに。悔しかったら、あいつらを見下せるぐらい美しくなってみな。昔から云うだろう、『恋する乙女は美しい』と。問題は外見だけじゃないってことだ」
ドレスの裾を握り締めて悔し涙を零すお嬢様に、大宗院はそうハッパをかけるのだった。
●4日目〜やる気が違うの
その日のお嬢様は、前日までと打って変わってやる気だった。
「あなた達の言う事を聞くわ。だからわたくしを必ず綺麗にしてちょうだい!」
昨日までのだらしない雰囲気が一気に引き締まって心なしか身体も初日に比べて一回り小さくなっているようだ。
「じゃあ今日もキャル達と走ろう〜♪ まずは追いかけっこ。キャルが逃げて隠れるから、依頼者さん追いかけてみてね〜。キャルに触れられたらそこでおしまいだよ〜」
キャルが走り出すと、おとなしく依頼人も一緒に走り出す。
●5日目〜力の方向性を見極めて
「今日は剣術をお教えいたします」
お嬢様に木刀を手渡し、木板を用意するニルナ。
そしてニルナはその木板に剣をぶつけるように舞い、見本を見せる。
「剣技が美しく舞うことが出来る女性は美しいと言います。しかし、それは人を傷つけるためではなく守ることに使っているときこそ発揮するものです。容姿端麗も美しいことに入るのでしょうが、心の強さもまた美しさですね」
キラキラと陽光に輝く金髪をなびかせて舞うニルナをマジェンダは羨ましく見つめる。
同じ金髪でありながら、思い通りに動く事も出来ない自分とはなんという違いだろう?
お嬢様は必死にニルナを真似るのだった。
「お嬢様、痛くはありませんか?」
夜。
マジェンダの疲れた身体を得意のマッサージで解してあげるメリーアン。
本当なら毎日してあげたかったのだが、初日はお嬢様は激怒しすぎていて手におえなかったし、2日目は疲れ果てて自室で倒れていらしたし、3日目に至っては街から戻るなりずっと部屋に引篭もっていたから今日までする機会がなかったのだ。
「お嬢様、本当に良く頑張っていらっしゃいますね。体重も日々落ちていくのが目に見えてわかりますでしょう? 一緒に最後まで頑張りましょうね」
メリーアンの美容にも通じるマッサージは、身体だけでなく心のコリも取りほぐしていく。
●6日目〜美しい衣装とは?
「装飾品を付けるのは結構なのですが‥‥やはり、数多く付けると折角の貴女の持ち味がなくなってしまうような気がするのですよね。どう思います? 皆さん」
マジェンダの装飾華美な衣装を指摘して、皆に意見を問うニルナ。
「派手なドレスは確かに美しく感じるかもしれないわ。けれど無意味にレースやフリルをふんだんに使って木枠で膨らませたドレスはよりいっそう横幅を広げてしまう結果になっていると思うの。それと色合いだが、赤は見る人にキツイ印象を与えてしまうから、あまりにも多用しすぎるのも問題だわ。ドレスが赤が良いのなら、下地は生成りにするべきよね」
理美容に多少の知識があるメリーアンが、ニルナに同意しながら適切なアドバイスを依頼人におくる。
「宝石はとても綺麗だと思いますけれど、付け過ぎればお互いの魅力を相殺しあってしまうのではないでしょうか? ってゆーか似合わないからはずせ」
最後にアリシアがキパリと止めを刺して、お嬢様はしぶしぶながら装飾品をはずし出す。
するり。
いままでパンパンに肉が詰まって張っていた指にくい込んでいた指輪があっさりと外れ、マジェンダは驚いた。
●エピローグ〜とっても綺麗だから。
素直に、でもたまにわがままを言いつつ。
日々のカリキュラムを冒険者と共にこなして行くお嬢様。
そして運命の最終日。
大宗院とメリーアンが選んだゴージャスかつ洗礼されたドレスに着替えるお嬢様。
「入った、入ったわっ!!」
見事に痩せたお嬢様は、ダイエットを始める前とは見違えるほどに美しかった。
「うん。ばっちり! 綺麗になったわよ〜」
拍手しながら褒めてあげるメリーアン。
「結局は、僻まず自分に自信を持てるよう努力したモン勝ちだな」
お菓子袋を相変わらず抱えながらニュイが呟く。
お嬢様は痩せただけではなく、冒険者たちとのダイエットで努力と自信をも身につけたのだ。
「でもね〜、こういうのって続けることが大事だってキャル思うよ〜。キャル達が帰っても、マジェンダさん頑張ってね〜☆」
キャルがひらひらと手を振って。
冒険者たちはお嬢様に別れを告げるのだった。
後日。
「――ちょっ! なんで、あたしは全然痩せてないのよう!」
と自宅で悔しがるメリーアンがいた。