ノイシュバン家の50の家訓
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■ショートシナリオ&プロモート
担当:霜月零
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 93 C
参加人数:4人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月26日〜08月02日
リプレイ公開日:2005年08月03日
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●オープニング
ノイシュバン家には、50の家訓がある。
一つ、ノイシュバン家の若者は草むしりをしなければならない
一つ、ノイシュバン家では、決して魔法を使ってはならない
一つ、ノイシュバン家の女子は、16歳で結婚しなければならない。
一つ、ノイシュバン家の家人は決してぬいぐるみを手にしてはならない。
一つ‥‥
数え上げると馬鹿らしくなるくらいの家訓は、しかしノイシュバン家に生れ落ちたのならば必ず守らなければならないものだった。
なぜ純然たる淑女な自分が草むしりなどをせねばならぬのか?
シュタイン嬢でなくとも悩みたくなる家訓の内の一つ、草むしりなど、使用人に任せれば済む事なのに。
しかし、家訓を破るとどうなるか?
それは、ノイシュバン家からの絶縁を意味している。
わけのわからない家訓ばかりのこんな家は、いっそ飛び出してしまえたら良いのだが、いかんせん、両親や家族はもちろんの事、生まれ育ったノイシュバン家に深い愛情を持っていた。
草むしり。
そんなものをするためにシュタイン嬢は産まれてきたわけではない。
だかしなければ待っているのはノイシュバン家からの絶縁。
だからシュタイン嬢は冒険者ギルドに依頼を出す事に決めたのだ。
広大な庭の草むしりをシュタイン嬢がしたことにして、代わりにむしってくれる冒険者を探す為に。
●リプレイ本文
●変な家訓
「ほぅ‥‥これだけの草むしりとは‥‥腕がなるっ!!」
依頼人のシュタイン・ノイシュバンに連れられてその広大な敷地に生える雑草を見つめ、腕まくりするラガーナ・クロツ(ea8528)。
「これはまた随分と膨大な量ですわね。それにしても家訓ではこれをシュタイン様が全てむしらねばならない事になっているのですか? 変わった家訓ですね‥‥」
リリィ・ガードナー(ea9755)は首をかしげる。
以前の依頼では故郷に変わった風習がある方と知り合ったが、草むしりをしなければならない家訓というのもまた変わっている。
「初めまして。『聖なる母』に仕える神聖騎士、イルリヒト・ブライヒです。よろしくお願いします、シュタインお嬢様。そして先にご依頼の草むしりについて一つ確認しておきたいのですが家訓に『草むしりは1人でやらなければならない』という項目はございますか?」
50もの家訓があるというノイシュバン家。
それほど多くの家訓があるのなら、一人でむしらねばならないという項目があってもおかしくない。
しかしお嬢様の返事は幸いにしてNO。
家訓にそのような物はないらしい。
安心するイルリヒト・ブライヒ(eb2920)。
「これも修行の内だ‥‥頑張らなくてはな。しかし草むしりを監視する者が居たりするのだろうか?」
もしもいるなら、その監視の目を潜り抜けて草をむしらなければならないと、毛 翡翠(eb3076)。
「ええ。毎日15時に見回りがあるわ」
「そうですか。それなら少々お嬢様には服や手を土で少し汚してもらうことは出来ますか? 見回りがあるのでしたら、その時間に私達はどこかに隠れて、お嬢様には草を一人でむしっていたふりをして頂きたいのです」
見まわりがあると聞き、シュタインに口裏合わせをするリリィ。
シュタインは頷き、広大な土地の膨大な草むしりが始まった。
●草むしり、開始☆
ぷちぷち。
ぷちぷち。
地道に、ただひたすらに草をむしる冒険者達。
「小さい頃はよくやらされましたねぇ。コキ使ってくれた爺様の髪の毛と思って毟る事で気を紛らわしたり。懐かしい思い出です。‥‥しばらくして本当に爺様が禿げてしまったのも」
目を細めて昔を思い出すイルリヒト。
「イルリヒトさんは、禿る家系ですの?」
近くで草をむしっていたリリィが尋ねる。
「ええ。そのようです。僕も将来禿ないか心配ですね」
「まあ、大変ですわね。そうですわ、こちら、良かったら使ってくださいな。夏の日差しは余り髪にはよろしくありませんわ」
リリィはそう言ってハンカチを差し出す。
「これは‥‥?」
「頭に巻きますと、日差しを多少は防げますわよ」
「‥‥ありがとうございます」
リリィから借りたハンカチを微妙な面持ちできゅっと頭に巻いて、ちょっぴりオヤジ風味なイルリヒト。
オヤジっぽい人が好きなリリィはその姿にほんのりどきどきしつつ、再び草をむしり出す。
イルリヒトとリリィが禿話に花を咲かせていた頃。
「うぉらあああああああああ!!!!」
と心の中で叫んでいるつもりで勢い余って本当に叫びながら、ラガーナが凄まじい勢いで草をむしって行く。
彼女が通った後には雑草の中で剥き出しになった土が道を作っている。
その勢いたるもの、一人で全ての草をむしり終えそうなほど。
だが彼女は時折ちきんと休みを取ることを忘れない。
一気に草を毟り取ってしまえば、シュタイン嬢が一人で毟れる量を軽く超えてしまい、彼女が毟っていない事が監視人にばれてしまうからだ。
「くそ!! むしった草が顔に付く!! だが此処で負けるようなら‥‥!!」
毟った草が、ラガーナの汗ばんだ頬にへばりつく。
取っても取っても草を毟るたびに顔や手足にまとわりつく邪魔な雑草。
「ふっ!! 上等!! このラガーナ・クロツへの挑戦と受け取る!」
ビシィッ!
ラガーナはまとわりつく雑草にそう宣言して、よりいっそう気合を入れて草を毟る。
「うむ‥‥魔法を使おうとする者はいないようだな」
毛は、ノイシュバン家の家訓の一つ、『魔法を使ってはならない』という項目を忘れて魔法を使おうとする者がいたら注意を促そうと思っていたのだが、どうやらみな覚えていたようだ。
自慢のコールマン髭を一度ピンと引っ張って、あたりを見まわす。
そろそろ、監視役が見まわりに来る頃だ。
予め城から離れの小屋――といっても、普通の家よりも豪華なのだが――に隠れていたシュタインがこちらに向かって歩いてくる。
「貴殿に聞きたいのだが、ここら辺に水場や温泉はあるか?」
「水場といえば、川があるわね。温泉は、ここからだと少し遠いわ。でも温泉に入りたいのならわたくしの城でお風呂を沸かさせるわよ?」
「いや、城に入るときに私たちの身体に草や土の匂いがついていたら怪しまれるだろう? 城に入る前に匂いは落としていかねばならん」
「‥‥そういわれればそうね。私に土や草の匂いはつけたけれど、あなた達の匂いは失念していたわ。川はここから東に行ったところにすぐあるからそこを使うといいでしょう」
「ふむ、情報提供感謝する」
毛は、依頼人に会釈をし、まだ草を毟っているリリィ、ラガーナ、イルリヒトに声をかけて、監視役に見つかる前に川へ向かって歩き出した。
●豪華なお食事
「うむ、これがノルマンの食事というものか。噂に違わず豪華だな」
好物のお茶も出て、前々から興味のあったノルマンの食事を満足げに口に運ぶ毛。
「小兎のソテーにシチュー、香草たっぷりの新鮮マリネ! ワインにチーズケーキ‥‥凄いな、ほんとに!!」
草むしりと同じような勢いで今までいっぺんに食べた事も無いようなご馳走に感動するラガーナ。
酒場などで食べた事のある料理も材料が違うのかシェフの腕が違うのか、美味しさがワンランク上に感じる。
「労働の後の食事は格別ですね。明日もがんばろうという気力が湧きますわ」
出された食事の味を一つ一つ楽しみながらリリィ。
「そう? 毎日食べていると飽きてくるのだけれど気に入って貰えたなら良かったわ。明日もよろしく頼むわよ」
まんまと監査役を騙せたシュタインはご機嫌だ。
「聖なる母よ、貴女の慈しみに感謝してこの食事をいただきます」と祈りを捧げた後、黙々と食事を勧めていたイルリヒトは、
「本当にご馳走ですね。‥‥毎日食べてたら一回りは太れそうなぐらい」
喜ぶシュタインを横目でちらりと見て小声で呟いた。
●草むしりは順調完了☆ でも?
ぷちぷちぷちぷち。
丹念に丁寧に毎日草を毟って行く冒険者達。
美味しい食事が待っていると思うと自然と力が入るとはラガーナの言葉。
時折、引っこ抜いた雑草の根に絡まってにょろにょろとしたミミズが顔を出しては冒険者を驚かせたりもしたし、草むしりという単純な作業の繰り返しは飽きも来るし、とても疲れる。
しかし、毎日の豪華な食事に草むしりの疲れも吹っ飛んだ。
おおむね草むしりは順調だった。
そうして最終日。
この日は、今まで抜いた雑草の処理と、抜き残した細かい雑草を調べて抜き取ったり、今までの後片付けが中心。
今まで抜いた雑草はイルリヒトがあらかじめ散らかさないでまとめていた為、雑草の片付けは以外と早く済んだ。
「芽は小さいうちに抜かないと。見落とさないように。この時期は少し放っておくだけであっと言う間に伸びますし、根が張って面倒ですから根までしっかりと。あ、その草は手を切りやすいですから気をつけて」
小さい頃から草むしりをさせられていたイルリヒトは、苦労した自分の経験から小さな雑草であってもしっかりと根まで引っこ抜く。
「すこし、むしった跡を慣らしておきます。こうしておけば、よりいっそうお嬢様が抜いたように見えるかしら」
広大な敷地にみっちりと生えていた雑草は、冒険者の手によって綺麗に抜かれ、リリィが丁寧に慣らして行く。
ここまですれば、草むしりは完璧だろう。
清々しい労働の汗を掻き、すっきりとした笑顔の冒険者達。
けれど、依頼人のシュタインの顔は冴えなかった。
なんと、イルリヒトの呟き通り、シュタインは太ってしまったのだ。
無論、はっきりと目立つほど太ったわけではない。
けれどこの依頼をギルドに出す1週間前、シュタインが自分で草むしりをしていた頃から比べると、明らかにウェストに余分な肉がついている。
シュタインは気のせいだと思いたかったが、ドレスを着るときに嫌でも痛感せざる負えなかったのだ。
「やっぱり、そうゆう事だったのですね」
一人頷くイルリヒト。
「なんだよ、おまえ。一人で頷いてないで俺にも教えろよ」
そんなイルリヒトを小突いて率直に聞くラガーナ。
リリィも毛も、イルリヒトが何に納得しているのか分からない。
もちろん、お嬢様もだ。
イルリヒトは、首をかしげる面々に、
「『ノイシュバン家の若者は草むしりをしなければならない 』などという一見おかしな家訓ですが、家訓になるからには意味があると思いますよ? つまり、この家訓は働く事によって身体を動かし、日々の豪華な食事で肥え太らないようにするものだったんです」
はっと息を呑むシュタイン嬢。
おかしな家訓だとばかり思って、何故その家訓があるのかまでは考えたこともなかったのだ。
自分の浅慮に恥ずかしくなって俯くシュタイン。
「でもさ、一人で全部やる必要はないんだ。また困ったら俺たちを呼べ。いつでも手伝うぞ」
そんなお嬢様にぶっきらぼうに言うラガーナ。
一見無愛想だが、言葉に込められた思いやりを感じとって、シュタインは微笑む。
「そうね。出きるだけ家訓を守りつつ、でも困った時はあなた達を呼ぶわ。家訓は50もあるのですもの。きっとわたくし一人では出来ない家訓はまだまだあるかもしれないわ。その時は、頼んだわよ?」
冒険者達は力強く頷いて、おかしな家訓のノイシュバン家をあとにするのだった。