●リプレイ本文
●がんばるからね!
荷馬車を借りに依頼人のパン屋へ集まる冒険者達。
「パン焼き職人パラファイターのターシャ・リトルです☆ 絶対無事に小麦粉を買って帰るからね☆」
パン屋の店の前で、店長と一人娘のポエットににっこり元気に声をかけて安心させてあげようとするのはターシャ・リトル(ea7165)。
「お久しぶりです〜っ、元気でしたか〜? 今回も頑張りますですよ〜。それにしても、パン屋さんが盛況で嬉しいです〜!」
とこちらもにっこり笑ってポエットに握手するのはアリエラ・ブライト(eb2581)。
「えへへ、アリエラおねーちゃんにまた逢えてうれしいな。ターシャおねーちゃんもよろしくお願いします!」
ぴょこんと二つに結わった三つ編みを揺らしてお辞儀するポエット。
「店長、例のモンスターが出るという噂だが、いつ頃から出始めたのか、また、どの辺りに多く出没するかなど詳しくお聞かせ願えるか?」
パラだからお子様のように見えるアリエラとターシャ、そしてほんとにお子様ポエットの3人組みの横で、店長に噂について諸々を確認するのはシュゼット・ソレンジュ(eb1321)。
油断や過失は禁物だが、敵の情報は出来るだけ多いに越した事はないからだ。
「モンスターですか‥‥。荷物が増える前になんとかしておきたいですよね」
おっとりと、けれど真剣に呟くのはシルフィリア・カノス(eb2823)。
シルフィリアがその場にいれば殆どの怪我は治癒できるのだが、購入した小麦粉を襲われてしまっては修復できない。
「射手のクロードだ。よろしく頼む」
ハーフエルフの特徴である耳をフードで隠したまま、無愛想に挨拶するのはクロード・レイ(eb2762)。
特に種族を隠す必要も無かったのかもしれないが、依頼人の一人娘を恐がらせたくなかった。
「うむ、用意が出来たぞ」
店長の用意した荷馬車は思ったよりも大きく、頼まれた小麦粉を購入して積んだとしてもスペースに余裕があったので、馬を所持していないターニャやシルフィリア、クロードの荷物を積みこんでいたエルヴィン・バードナー(ea9969)がみんなに声を掛ける。
「わあっ、エルヴィンさん準備ありがとうです〜。あ、そだ! 店長、とっても申し訳ないのですが、私の馬を預かっていては貰えませんか? 御者をするので連れていけないのです‥‥」
荷物を馬車に積んでくれたエルヴィンにお礼を言って、パン屋の店長に愛馬を預かってもらえないか交渉するアリエラ。
店主は快く預かり、アリエラはお礼を言うと荷馬車の馬に掛けよって、「道中ヨロシクなのです〜」とその首を撫でて馬にもにこにこと挨拶する。
さあ、準備万端出発だ☆
●森の中。
「モンスター相手か‥‥後腐れが無くて良い」
小麦粉を売っている村への往路、荷馬車の幌を予め巻き上げておき、荷台の上からの視界を確保して荷馬車の上に陣取っていたクロードが、目と耳で周囲を警戒しながら呟く。
「そろそろモンスターが出るって言う森に入りますです〜。みなさん気をつけて下さいです〜」
荷馬車をゆっくりと走らせながらアリエラが注意を促す。
馬車の荷台に乗っていたターニャとシルフィリアも緊張した面持ちでよりいっそう周囲に気を配る。
「ここからもう少し先に行くと木が倒れて出来た丁度いい空き地がある。そこでなら野営もしやすいと思う。店長の話ではモンスターの鳴き声を聞いたのもその辺りだそうだしな」
荷馬車より少し先を愛馬に乗って走り、前方の危険を調べていたシュゼットが戻ってきて皆に伝える。
「うむ。いつモンスターが襲ってくるかわからんからな。早めにテントを設置してモンスターに備えるか」
馬車の少し後ろを愛馬で走り、後方からのモンスターの襲撃を警戒していたエルヴィンも馬車に近づきシュゼットに同意する。
「モンスターは出来れば空荷の往路に片づけてしまいたいが、おびき出す手段が思いつかないな‥‥匂いの強い保存食でもあれば良いんだが」
悩むクロードに、
「生肉を用意しておいたから、これを焼けば良いと思うよ。調理器具はいつも持ち歩いてるし火打石ももってるんだよ〜☆」
両手をぐっと握って「まかせて☆」とターニャ。
そうこうしているうちにシュゼットが調べた空き地に到着。
エルヴィンとクロード、力のある男手2人がテントを張り出す。
ターシャ、アリエラ、シュゼット、シルフィリアはみんなの食事を作り出す。
しかし、手際よく調理していく家事の得意なターシャに比べ、シュゼットとシルフィリアの動きはぎこちない。
ターシャに借りた包丁を扱う手もおっかなびっくりで、材料を切る前に手を切りそうだ。
アリエラは料理は特に得意というわけではなかったが、持ち前の器用さで何とかなっている。
「ふむ。この時季なら、森にハーブの類があるかも知れんな。すまんが、少し薬草を採取してきても良いだろうか? ‥‥調理はあんまり役に立てそうもない」
「お一人では危険です。私もご一緒します。ターシャさん、アリエラさん、あとお願いしてよろしいですか?」
食事の用意では余り役に立てないとみると、シュゼットはそう提案し、やはり料理はいまいちなシルフィリアがパラの2人に断りを入れる。
「いいよ。美味しい香草も見つけてきてくれたら嬉しいな☆」
「お夕食頑張ってつくっておくですよ〜」
アリエラとターシャの2人のパラは笑顔で了解し、シュゼットとシルフィリアは薬草探しに出かけるのだった。
●罠を仕掛けよう!
「そろそろこのお肉を焼いてモンスターを呼び寄せてみる?」
冒険者達が美味しい食事を終えて一休みいれた頃。
ターシャが事前に用意しておいた生肉をバックパックから取り出してクロードに尋ねる。
行きの馬車で話したように、この生肉をシュゼットとシルフィリアが探してきてくれた香草と一緒に香ばしく焼き上げ、この森に棲み付いているというモンスターをおびき出そうという作戦なのだ。
「そうだな。頼む」
相変わらず馬車の荷台に乗って、周囲への警戒を怠らないクロード。
「うむ。いつモンスターが襲ってくるかわからんからな。日が完全に落ちきる前に退治できれば野営も幾分楽になるだろう」
馬たちにも餌をやりながら、エルヴィンも頷く。
「よっし! 腕によりをかけて美味しい匂いにするぞ〜☆」
腕まくりしてお肉と香草を焼き出すターニャ。
しばらくして、辺り一帯に香ばしい匂いが充満しだす。
よりいっそう匂いを森に流そうと使っていなかったマントでパタパタとターニャの横でお肉を仰ぐアリエラ。
小柄なパラの2人が寄り添ってお肉を焼いていると何やら微笑ましく、無愛想なクロードの頬も自然とほころぶ。
が。
「来ました、敵です!」
シルフィリアが森の奥を指差して叫ぶ。
一気に緊張する冒険者達!
匂いにつられて森から姿を現したのは、シュゼットの予想通り数匹のコボルトとゴブリンだった。
「コボルトなら毒が厄介だ。エルヴィン、ターシャ、気をつけろ!」
接近戦が主なエルヴィンとターシャの前衛に注意を促すシュゼット。
「了解! これでも食らうがいい!」
攻撃の軌道に変化をつけてフェイントをかけ、ゴブリンの身体にクルスソードで切りつけるエルヴィン。
シルフィリアは後方でいつでも治癒の魔法を唱えられるように待機し、ターシャは、
「ポエットちゃんに小麦粉を届ける為に! アリエラさん、お願い!」
えいっとゴブリンの攻撃を素早いサイドステップを踏んで回避して、自分で攻撃するよりも後方支援の人達が攻撃しやすい隙を作る!
「いっきま〜す! 当たって〜!」
ターニャの作った隙を逃さず、ゴブリン目掛けて弓を射るアリエラ。
成功!
ゴブリンの胸に深々と矢が突き刺さり、その場に倒れ伏す。
パラパラコンビお見事☆
見事なコンビネーションだ。
しかしコボルト共は狡賢い。
別のコボルトが気の弱い馬を目掛けてさらに攻撃を繰り出す!
だが馬を切りつけるよりも先に、コボルトの身体には2本の矢が即座に突き刺さった。
「生憎と、餌にくれてやるつもりはないな」
馬を傷つけられては面倒なので、荷台の上から予め馬を狙う者を優先的に見張っていたクロードの矢だ。
「コボルトにはコボルトの事情があるだろうが、運が悪かったと諦めてくれ。‥‥ライトニングサンダーボルト!」
シュゼットの手からコボルトに向かって一直線に稲妻が迸る!
『ギュブブゴブ‥‥!』
断末魔の叫びをあげて最後のコボルトは手にした剣をシュゼットに投げつけた。
「うっ!」
避けきれずにシュゼットの腕をかする剣。
「セーラ様の大いなる慈悲よ、そのお力をお貸しください‥‥リカバー!」
すぐさまシルフィリアが癒しの呪文を唱えて傷を癒す。
しかし剣先には毒が塗られており、リカバーの呪文だけでは治せない!
「コボルトたちは‥‥解毒剤を持ち歩いてるわ‥‥」
毒が回り始め、身体が麻痺し始めながらコボルトを指差すシュゼット。
アリエラが慌ててコボルトの身体から解毒剤を探し出す。
「ありましたです! これ飲んでくださいです〜!」
シュゼットの口にわたわたと解毒剤を流し込むアリエラ。
「ん‥‥ありがとう、アリエラさん。これで少しすれば良くなるわ。シルフィリアさんもありがとう」
まだ少し顔色は青いものの、危機は去ったようだ。
冒険者達はほっと息をついた。
●小麦粉買ってきたよ! 美味しいパン頂きます☆
無事に、森に棲みついたモンスターたちを倒し、村から小麦粉を買って戻ってきた冒険者達。
早速、店長がその小麦を使ってパンを焼き始める。
料理を作って人に食べさせることが好きなエルヴィンは「パンを作る過程を見せてもらいたいのだが‥‥宜しいだろうか?」と店長に頼み、一緒にパンを作っている。
しばらくして、冒険者達の前にはそれはそれは香ばしいパンが並ぶ。
「シュゼットおねーちゃんが取ってきてくれた香草も使ってみたの。パンによく合うみたい」
ポエットがシュゼットに香草を飾りに使ったパンを手渡しながら笑う。
「美味しいね☆」
「うん、やっぱりおいしいね〜」
パラパラコンビは双子のように向かい合ってご機嫌。
無愛想なクロードはやっぱり無愛想だけれど、それでもパンの味には満足しているようだ。
「私もお料理覚えようかな」
シルフィリアは2人の兄を思い浮かべながら、パンをぱくりとほうばった。