はにはにーん♪

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月09日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月19日

●オープニング

 埴輪。
 それは、土で作られた人を模した粘土細工。
 なんにも考えていなさそうなぽかんとした瞳。
 驚いたかのように開いた口。
 そして無意味に片手を挙げたポーズ。
 その何もかもが無意味に見える不思議な物体・埴輪に魅入られてしまった男がここにいた。
 なんでそんなものに魅入られるんだと言う突っ込みは無しで。
 魅入られてしまったんだからしょうがない。
 ジャパンからノルマンに渡って来た行商人が持っていた埴輪に深く深く魅入られてしまった男は、毎晩埴輪を作りつづけた。
 ジャパンから持ちこまれた埴輪に比べて男の作るそれは明らかに劣っていたが、愛情だけはたっぷりだった。
 来る日も来る日も作りつづけた埴輪の模造品は、男の家だけでは置ききれず、一個、また一個と男は泣く泣く村外れの空き地に埴輪を飾る。
 それは飾ったんじゃなくて捨ててるんだろうと言う突っ込みも無しで。
 埴輪に魅入られた男に『捨てる』などと言う行為は出来ないのだから、現実はどうであれ『飾る』なのである。
 そしてある晩。
 男はそれはそれは巨大な埴輪の模造品を作りあげた。
 今までに無い巨大さに大満足していた男は、しかし埴輪の異変に気付けなかったのである。
 キュピーン!
 埴輪が、不意に動き出した。
 驚く男を尻目に、巨大埴輪に共鳴するかのように家中の埴輪達ががたがたと動き出す。 
 ズシーンズシーン! 
 テカポコテカポコ。
 巨大埴輪と普通の埴輪たちは男の家をぶっ壊し、空き地に『飾った』埴輪たちも合流し、一個が動くと一個が止まり、2個が動くと2個止まり。
 動いたり動かなかったりしながら埴輪はずんずんずんずんドレスタットに向かって歩き出す。
 何でそんな事が起こったのかわからない。
 男の愛が不満だったのだろうか?
 それとも夏だし、暑苦しいし、お出かけしたい気分だったのだろうか?
 無表情な埴輪のその表情からはなにも読み取る事が出来ず、しかしこのままドレスタットに埴輪の大群が直撃したら笑い事では済まされない。
 男は全力で馬を飛ばすと埴輪の大群を追い越し、冒険者ギルドに愛しの埴輪退治を泣く泣く依頼するのだった。 
 
 

●今回の参加者

 eb0005 ゲラック・テインゲア(40歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2244 クーリア・デルファ(34歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb2411 楊 朱鳳(28歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 eb2678 ロヴィアーネ・シャルトルーズ(40歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●愛すべき埴輪?
「ううむ、ハニワ‥‥じゃったか? そんな粘土の人形などにドレスタッドを侵されてはたまらんのぅ。白の教会とその信者を守るため、この【豊穣なるヒゲ】ゲラック・テインゲアが打ち壊してやるとするかのう!」
 気の抜けた顔立ちの埴輪達を前にして、高らかに宣言するゲラック・テインゲア(eb0005)。
 その装備は埴輪相手とは思えないほどとっても本気装備。
「埴輪、なんでいきなり動き出したんだろう?」
 突然動き出したという埴輪の大群を見て、首を傾げるカグラ・シンヨウ(eb0744)。
「本当に気の抜ける顔だな。こいつらの弱点は『継ぎ目』だ。関節部分といってもいい」
 あらかじめ依頼人に作成した埴輪の材質や構造を聞き、埴輪の構造上の弱点を探しだしたクーリア・デルファ(eb2244)が埴輪の弱点を周知する。
「ハニワ退治か‥‥何だか堅そうだな」
 少々不安げに呟くのは楊 朱鳳(eb2411)。
 あまりにも硬いと素手戦闘を得意とする武道家の自分の攻撃は埴輪たちには効かないかもしれない。
 愛用のナックルをぐっと握り締める。
「とにかくハニワを倒す、というか壊すのよねぇ。ま、トラップでも仕掛けることにするわ」
 ロープをピンと両手で引っ張って微笑むのはロヴィアーネ・シャルトルーズ(eb2678)。
 相手が埴輪だから、どうしても緊張感に欠けてしまう。
 そして冒険者達にいまから倒されるはずの埴輪達といえば。

 ズンドコズンドコ♪
 テカポコテカポコ♪
 
 動いたり、動かなかったりを繰り返しながらその無表情な顔を少しも変える事なくドレスタットに向かっていく。
 つまり冒険者達の事はアウト・オブ眼中=シ・カ・ト☆
「ふん、良い度胸だ。後悔させてやるよ」
 クーリアは鼻で笑って、冒険者達は進行の遅い埴輪達をあっさりと追い越して、埴輪達の進行方向に罠をしかけることにした。


●罠を仕掛けよう☆
 ザックザックザックザック!
 ゲラックとロヴィアーネが中心となり、埴輪達、とくに巨大埴輪を罠に落とすべく落とし穴を掘る冒険者達。
「‥‥なんか我が輩、最近穴掘ってばっかじゃのぅ‥‥。穴掘りレベルが上がりそうじゃわい」
 つい先日も別の依頼で穴を掘ったばかりだから、つい笑ってしまうゲラック。
「‥‥何となく上はカモフラージュしなくても良いような気もするけど、一応草葉や土で軽くね」
 みんなが掘った落とし穴に、軽くカモフラージュを施すロヴィアーネ。
「私はロープトラップを張ってくるわねぇ。と言ってもただ単にハニワが横断しそうなところに通せんぼのようにロープを張るだけなんだけど。埴輪が引っかかって転んでくれたら嬉しいわ」
 埴輪が転ぶ様子を思い浮かべてわくわくのロヴィアーネに、
「叔母さん‥‥じゃなくって、ロヴィ姉さん、私も手伝います」
 おもわず叔母さんといいかけてロヴィアーネにギロリと睨まれ、慌てて言いなおす楊。
 楊にとってロヴィアーネは実の叔母なのだが、童顔で30歳だというのに20代に見えるロヴィアーネは叔母さんと呼ばれると怒るのだ。
 落とし穴の場所から少し離れた木々にロープを縛りながら、
「小さいハニワは転ばなそうだから、ハニワが一カ所に集まるような感じでロープを張りたいわ。漁師が魚を罠に追い込むのに網で魚の群れを誘導するでしょ。多分そんな感じ。あんたはそっちの端を向こうの木に括り付けて。私はこちら側をやるわ」
 ロヴィアーネはロープの端を楊に手渡す。
「了解。少し急いだ方が良いかもしれない。埴輪達がそろそろ来る」
 急ぎ、ロヴィアーネの指示に従ってロープをピンと張って木と木の間に括り付けていく楊。 
 いくつかロープの罠を仕掛け終わった頃。
 埴輪達の足音があたりに響き渡り始めた。 


●落とし穴にご用心☆ でももっといろいろご用心?
 ズンドコズンドコ♪
 テカポコテカポコ♪
 
 罠が仕掛けられているとも知らず、とことん無表情に進軍してくる埴輪達。
 ロヴィアーネのロープを避けるように、そして落とし穴の方へ向かってくる。
 わざとロープを邪魔な位置に張り巡らせ、落とし穴の方へ大きな埴輪も小さな埴輪も集まるように仕向けたのは大正解だったようだ。
 
 ズンドコズンドコ‥‥ずでーーーーーんっ!

 落とし穴の目の前に、けれど下のほうに見えづらく張られたロープにものの見事に引っかかり、まともに落とし穴に落っこちる巨大埴輪。
 そしてドミノ倒しのようにばたばたと前にのめって落とし穴に落っこちていくミニ埴輪達。
「うほっ、やったのじゃ! 盛大に穴を掘ったかいがあったわい!」
 ガシャガシャと落下して自分の重みで壊れていく埴輪をみて、ゲラックが歓声を上げる。
「やっぱり、埴輪って自分の重みで壊れる物だったんだね」
 カグラも掘った穴を覗きこんで壊れた埴輪を見て喜ぶ。
 頑張って穴を掘った甲斐があったというものだ。
 その顔の横を、一瞬白い影が通りすぎる。
(「あれ? いまの‥‥」)
 カグラが影に気付き、けれどそのことについて考えるまもなく落とし穴に落ちなかった埴輪達ががたがたと揺れて冒険者に襲いかかってきた!
「ハンマーで粉砕してあげるわ!」
 ドカッとハンマーを埴輪に叩きつけるロヴィアーネ。
 ハンマーの重さに粉々に崩れる埴輪。
「邪魔だ。どきな!」 
 クーリアが手近の埴輪にラージハンマーを叩きつける!
 カシャーン!
 あっさりと避ける事も出来ずに壊れて動かなくなる埴輪。
 それを見て、楊も拳を埴輪に叩きこむ!
 カシャカシャと抵抗もなく壊れていく埴輪達。
 しかし、壊すと何か白い影が埴輪から出ていき、動かない、けれど壊れていない埴輪に入り込むのだ。
「‥‥‥‥ニュートラルマジック!」
 カグラが白い影の入った埴輪目掛けてニュートラルマジックを唱えてみる。
 けれど何も変化が無い。
(「‥‥考えすぎかな? でも‥‥」)
 何かが引っかかるのだ。
「むう、キリがないわい! 親玉をやれば止まるかのぅ? いや止めるのじゃ〜!」
 モーニングスターを振り回し敵を蹴散らしながら落とし穴の中の巨大埴輪を覗きこむ。 
 埴輪は割れて壊れてピクリとも動いていない。
 どうやら巨大埴輪が親玉だったというわけではないらしい。
「無駄かもしれないけれど‥‥ホーリー!」
 カグラが悩みつつ、神聖なる魔法を動く埴輪に唱えてみる。
 瞬間、

『キャアアアアアアアッ!』
『ケケケケケケケッ』

 埴輪の中から先ほど見た白い物体が2つ、悲鳴を上げて埴輪から飛び出してくる。
「レイス‥‥それにポルターガイストまで!」
 突然埴輪が動き出すなんて変だから、埴輪以外にも怪しいものに注意しようとはおもっていたカグラだが、まさかこんな物が隠れていようとは! 
『ヨクモヤッタナアアアアアアアッ!』
 レイスが叫び、驚くカグラに襲いかかる!
「っッ!」
 とっさに避けようとしたものの避けきれず、カグラは精気を奪われて片膝をつく。
 とどめを刺そうと更に攻撃をしかけてきたレイスに、
「させるか!」
 クーリアはハンマーで殴りつける!
『イタイ、イタアアアアアイイイイ? キャハハハハ!』
『ケケケケケケケ♪』
 一切ダメージを受けず、けらけらと笑うレイスとポルターガイスト。
 笑い声に合わせて埴輪もカタカタとまるで笑っているかのように動く。
「ポルターガイストやレイスには、魔法か銀の武器しか効かないから、みんな気をつけて!」
「こいつらが原因ぢゃったのか!」 
 カグラが皆に注意を促し、ゲラックは驚きに目を見張る。
「OK! 傭兵の力を見せてあげるわよ、うふふ‥‥」
 ロヴィアーネが魔力を持った『ハンマーofクラッシュ+0』でレイスを叩き潰す。
『キャアアアアアアーーーーー!』
 冒険者の武器など効かないと高をくくっていたレイスが痛みに悲鳴を上げる。
「その武器ならあたいも持ってる。さっきはよくも笑ってくれたな? 覚悟しな!」
 バックパックから『ハンマーofクラッシュ+0』を取り出して、レイスを殴りつけるクーリア。
『イヤ、イヤアアアアアアーーーーーー!』
 断末魔の悲鳴を上げて消え去るレイス。
『ケケケケケケケケ!』
 消えていくレイスを嘲笑うポルターガイスト。
 仲間意識というものはないのだろうか? 
『ケケーケケッ!』
 笑うポルターガイストの声に合わせて、残っていた埴輪達が一斉に冒険者達に襲いかかった!
「今回の敵は奥義が効かなそうだが‥‥試してみるか。‥‥秘儀、爆虎掌(ばっこしょう)!」
 楊の拳が飛びかかってきた埴輪にめり込み、さらにその後ろにいた埴輪すらも吹っ飛ばす!
「ふむ、銀の武器も魔法もないがの、お前らには負けんぞい!」
 モーニングスターを振り回し、埴輪を一気に粉砕するゲラック。
「親愛なるセーラ神様‥‥邪悪なるものを打ち滅ぼさん為にどうかお力をお与え下さい‥‥ホーリー!」
 カグラの聖なる魔法が嘲笑うポルターガイストに降り注ぐ!
『ケケケケケケーーーー!』
 笑いながら、それでも身体をくねらせて苦しむポルターガイスト。
「いま楽にしてやろう。くらいなっ!」
 クーリアが渾身の力をこめてポルターガイストにハンマーを叩きこむ!
『ケーーーーーッ!』
 その場に霧のように消えるポルターガイスト。
 そして動かなくなった埴輪達。 
「さあって。依頼人のところへかえるとしますか」
 背伸びして腕を伸ばして微笑むロヴィアーネ。
 さあ、依頼人のところへ帰ろう☆

 
●エピローグ〜愛情も程々に
「ハニワ達‥‥ああっ、僕の可愛いハニワ〜〜〜!!」
 冒険者から、全てのハニワを粉砕したと聞いて、その場に突っ伏して泣き出す依頼人。
 動かなくなった埴輪も、またレイスなどに憑依されては危険だから、全員で粉々に粉砕し、掘ってあった落とし穴を元に戻すついでに一緒に埋めたのだ。
「元々埴輪は土から作られてるから、これはお母さん‥‥セーラ様の所に帰るのと同じ。あなたの愛は、きっと埴輪達にも伝わっていたよ」
 埴輪を土に埋めたときに、祈りをささげてあげていたカグラが、一つだけ埋めずに持ってきておいた巨大埴輪の欠片を依頼人に手渡してあげながら慰める。
 依頼人はその欠片をぎゅっと握り締めて涙を拭う。
「そうじゃ、依頼人。キミは住むトコがなくなったみたいじゃから、望むなら近くの白教会に世話を頼み込んでやるぞい。どうじゃ?」
「はい‥‥もしもお願いできるのなら、どうかお願いします」
「うむ、さっそく連絡を取りにいくわい!」
「好きな気持ちもわかるけれど情熱もほどほどに‥‥ね?」
 教会でまた同じような事を起こさないように、楊が釘を刺す。
 依頼人は「ええ、もう大丈夫です。わたしにはこれがありますから。これからはセーラ様のところへと帰った愛しいハニワ達に、教会で祈りを捧げて過ごしたいとおもいます」とカグラから手渡された欠片を大切に包んで懐にしまい、ゲラックに連れられて白の教会へと去っていった。