たけのこのこのこにょっきにょき☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月04日〜08月07日

リプレイ公開日:2005年08月14日

●オープニング

 ジャパンから先年息子の太一郎を連れてノルマンに渡って来ていた鳩中清三郎は、家をみっしりと囲む竹薮に困惑していた。
「よもやまさか、こんな事になろうとは‥‥」
 清三郎は、ジャパンの竹が好きだった。
 ピンと一直線に天に伸びるその潔い姿といい、青竹独特の清々しい香りといい、竹を見ているとこちらの背筋もピンと伸びてくるのだ。
 そしてなんと言っても魅力的なのは筍。
 竹に成長しきる前の、土から顔を出すか出さないかの筍の柔らかさ美味さと言ったら、清三郎にとってはトリュフに匹敵する。
 だから、ジャパンから再婚してノルマンに移り住む事に決めた時、竹を持ってきておいたのだ。
 駄目で元々、それでも多少なりとも根つけば上々。
 そんな事を思いながら、竹を家の周辺に植えてたのだが‥‥竹は、予想以上に逞しかった。
 家の周囲にきっちりと根を張り、一気に竹薮と呼べるほどにまで増えて成長してしまったのだ。
 土を掘り返し、何個か筍を見つけては食していた清三郎だが、全ての筍を見付け、食せるわけではない。
 見落とし、食べ切れなかった筍は次々と竹へと成長して行く。
 そしてついに、家の高さを追い抜き、竹により一切室内に日が差さなくなったある日、清三郎は冒険者ギルドに依頼を出すのだった。
「竹をこれ以上増えないようにしてくれ。だが筍は1日一個は取れる程度にしてほしい」
 こんな状態になってもまだ筍を食べようとしている清三郎に初老のギルド受付係は半ば呆れつつ、依頼を掲示板に張りつけるのだった。
 

●今回の参加者

 ea4943 アリアドル・レイ(29歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5779 エリア・スチール(19歳・♀・神聖騎士・エルフ・イギリス王国)
 eb0005 ゲラック・テインゲア(40歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb1165 青柳 燕(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb1779 ナタリー・パリッシュ(63歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)

●リプレイ本文

 ●竹藪
「これがジャパンの竹って奴かい? 見事なもんだねえ、って感心してる場合じゃないね。これだけのものを増えないようにするのはなかなか骨が折れそうだね?」
 依頼人の家の敷地内にみっちりと生い茂った竹薮を見上げ、溜息をつくナタリー・パリッシュ(eb1779)。
「ふむふむ、これがジャパンの植物じゃな。まっすぐで気持ちの良い植物じゃのぅ。依頼人が好むのも頷けるわぃ」
「たった一年で林に‥‥。木というより草の一種なのかも知れませんね。それにしてもすごい‥‥。私なんて、ここまで大きくなるのに79年かかりましたよ」
 背筋を竹と同じくピンと伸ばして見上げるゲラック・テインゲア(eb0005)と、伸びていく音が聞こえてくるような生命力を感じさせる竹に、成長の遅いエルフのアリアドル・レイ(ea4943)はただただ感心する。
「先日は茸を相手にしたのぢゃが‥‥今度はタケノコかや。こっちに来てからとんと見とらんかったのぉ。どれ、ひとつ知恵を絞るとしようかい」
 依頼人と同じくジャパン出身の青柳 燕(eb1165)は、久しぶりに見る竹に懐かしさを感じると共に、西洋の建物と東洋の竹という珍しい取り合わせに絵心をくすぐられる。
「規模は想定の範囲内ですねぇ。ただ、家の周囲をぐるっと囲ってしまってますからぁ、日が差しこみやすいように南側を中心に伐採して、家の影になって日の当たらない北側を残せば、成長も抑えられてこれ以上増えなくなると思うわぁ」
 家の周囲をぐるりと見まわり、竹薮の規模を把握してきたエリア・スチール(ea5779)がそう提案する。
 成長した竹は、ある一定の大きさにまでは育つのだが、それ以上は伸びず、また、太くならない性質を持っている。
 しかし、筍のような新芽の場合は、日の光を浴びると1日で1m以上も育ってしまうのだ。
「清三郎さんにお話して、竹薮を残す場所を決定しましょう」
 アリアドルが清三郎に相談し、エリアの案も考慮して南側の竹は全て伐採する事になった。
 さあ、竹を切り倒そう☆


●ズンバラバッサン! 竹を切り倒せ☆
 ズバーンッ!!
 青柳が一瞬にして竹を日本刀で切り倒す。
 太刀筋の見えない素早いその動きは、一切の無駄がなく美しい。
「ふむ。見事なものですな。竹を切り終わったら、わたしと一つ手合わせをお願いしたいものですな。貴方のような男とは正面から向かい合ってみたいものだ」
 ジャパン独特の着物を羽織り、腕を組んで青柳を見つめていた依頼人は竹の如く潔い青柳を嬉しそうに誘う。
「あ‥‥いや‥‥その」
 しかし青柳は無愛想なその顔を赤くして口篭もる。
「嫌かね? 嫌なら無理にとは言わんが」
「その‥‥依頼人。なにか誤解があるようじゃが、わしゃ女性じゃぞ?」
 額に冷や汗を垂らしつつ男物の着物を着こなす青柳は、どこからどう見ても粋な男性にしか見えず。
 清三郎は慌てふためいて謝った。

 青柳が依頼人に男性と間違われているすぐ側で。
「筍が取れるぐらいには残しておかないといけないから一定の間隔をあけて間引くのがよさそうだね。ちょうど手斧が馬に乗ってたからそれを使うとしようかね。あんまり重労働得意じゃないけどこれも仕事だし」
 文句を言いつつも手斧で一本一本切り倒していくナタリーと、
「まあ我輩愛用の日本刀でバッサバッサと伐ってやるかの。力仕事のあとはエールも飯も美味いことじゃろうな♪」
 ゲラックが日本刀で地道に竹を切って行く。
 エリアはその切り落とされた竹をアリアドルのペットの驢馬『はいいろ』の背に乗せて1箇所に運ぶ手伝いをしている。
 と。
「あっ!」
「うおっ?!」
 スパーン!
 慣れない力仕事でよろけたナタリーの斧が、ゲラック目掛けて振り下ろされる!
「おおっ、わしの自慢の顎髭が二つに割れてしもうたわい」
「なにいってんだい。あんたの髭は初めから二つに割れていただろう。にしても、怪我しないでくれて良かったよ」
 軽口を叩きながら、ほっとするナタリー。
「うむ。我輩は頑丈じゃからな。さて、そろそろ穴も掘った方がよさそうじゃのう」
 大分伐採されてすっきりとした竹薮を見つめ、二つに割れた豊穣なる髭を撫でながら呟くゲラック。
「竹は地下茎で育つから、上を切っただけじゃ駄目なのよねぇ。わたくし、余り体力無いので休み休みですが、穴を掘るの手伝いますねぇ」
 エリアは依頼人からスコップを借りて、ナタリーとゲラックは持参のスコップを用いて地下茎を取り除くべく竹薮を掘り出しはじめた。


●仕上げは囲い。また増えないようにしなくちゃね☆
 一通り竹を伐採し、余分な地下茎も取り除いた冒険者達。
 しかし、筍は日々成長する。
 このまま放っておくと、再び竹が増えて依頼人が困る事になる。
 竹の根がこれ以上広範囲に生えて再び竹薮へと成長しないように何かで地中深くまで柵を作る必要がある。
 アリアドルは、予め余計な荷物を下ろしたペットの驢馬『はいいろ』でまとめておいた竹を、ハンドアックスで真っ二つに割ってゆき、
「‥‥板を沢山調達するのは難しいと思うので、板の代用に切り出したこの竹を半分に割って、柵のように地面に深めにさしていくというのではいかがでしょう? 穴を掘って板を埋めるのよりは、労力も少なく済むと思います。竹が広がらないように‥‥という手だては、今後は柵の外に出てきた筍を優先に清三郎さんには食べて頂くという事で。ただ、半分に割るのは私でも何とかなりそうですが、地面に刺す作業は力のある方にお願いを」
「ふむ、確かにいい手ぢゃな。力仕事ならまかせるがいい。体力には自信があるんじゃ」
 アリアドルの提案に青柳が頷き、率先して半分に割られた竹を竹薮の周辺に深々とつき差し出す。
 ゲラックとナタリーも同じように半分に割られた竹を柵になるように竹林の周辺に突き刺す。
 そしてエリアはアリアドルと共に竹を半分に割る手伝いをする。
 日がそろそろ沈もうかという頃には、全員の頑張りもあって依頼人の家の周辺をぐるりと囲っていた竹薮は北側だけを残して見事に刈り取られ、また、残した竹薮にもただ単に板で作った柵よりもずっと機能的で優美な竹の柵が出来あがっていた。
 
 
●美味しい筍〜煮て良し焼いて良し食べて良し☆
「うほっ、こいつは本当に美味いのう!」
 ぷはーっと持参したエールを飲み干しながら、エリアの作った筍料理に舌鼓を打つゲラック。
 エリアが依頼人の清三郎に「あのぉ労働の後に皆様に筍料理を作って差し上げたいのですが、生えている筍を使っても良いですかぁ? それで清三郎様もご一緒に食べませんかぁ?」と提案し、ナタリーも「できればエリアの筍料理と言うののご相伴に預かりたいところだねえ。ワインあげるから‥‥じゃダメかねえ?」とワインを清三郎に差し出して、清三郎から筍を使ってエリアが料理を作る許可を得たのである。
 冒険者達と清三郎、そしてその息子の太一郎を交えて、居間でゆっくりと寛ぐ一同。
 とりたての筍は、先端部分だけを極薄く切り、ジャパンの調味料・醤油につけて食べても美味しいし、先端を使って余った部分は茸やそのほかの野菜と共に煮こんでも良く、また肉などと一緒に焼いても美味いというなんともバリエーション豊かな食材だった。難点は皮をとると、非常に細くなってしまうこと。元が細い種類なので尚更である。
 依頼人の清三郎がわざわざジャパンからノルマンに持ちこみ、ここまで執着するのにも頷ける。
 筋っぽい食感は好き嫌いがわかれそうだが、幸い、冒険者達の口には合ったらしい。
 それは、エリアの調理の仕方が筍の上手さを十分に引き出せたからでもあるだろう。
「そうじゃ、わしゃ依頼人にひとつ、提案があるんじゃ。ジャパンや華国から来とる者の中から竹細工に通じた人材を募り、その材料としてここの竹を定期的に間引いて提供するというのはどうぢゃろう。竹細工は丈夫で軽い上に此方では珍しいからの、需要はそこそこ見込めると思うのぢゃがな。一度間引いたところは残し、次は別のところ‥‥と繰り返していけば竹の生長も一定に保て、日照も確保できるという訳ぢゃ。悪い話ではないと思うのぢゃが?」
 竹も一定量が保て、なおかつ収入にも繋がる青柳のこの提案に、清三郎は大きく頷き、近日街の商人と交渉をしてみようという話になった。
「そう言えば太一郎くん。2人とは仲良くしていますか? 森のいたずら者も元気だと良いですが」
 アリアドルは筍の刺身を頂きながら微笑んで、清三郎の息子であり先日の依頼で知り合った太一郎に尋ねる。
 太一郎は元気に頷き、「もちろんだよ。おれ達マブダチだもん」と笑った。