●リプレイ本文
●うさ耳着用?
冒険者達が依頼人・ロジィの仕えるお屋敷に訪れた時、まず最初に目に付いたのは地面に生えているうさ耳だった。
白いうさ耳はピクピクと振るえている。
「あのー‥‥ロジィさん、何をしていらっしゃるんですか?」
三笠 明信(ea1628)が地面にめり込んでいるロジィに声をかけながら、よいしょっと抱き起こす。
うさ耳は依頼人のつけているヘアバンドだった。
「あうう、みなさまが‥‥来られる頃だったから‥‥お出迎えしようとおもったです‥‥そしたら‥‥地面がわたしを転ばせたです‥‥えうう〜っ!!」
何にも無い地面を指差して涙目でそう訴えるロジィ。
アンジェリカ・リリアーガ(ea2005)の予想通り、ロジィは何もないところで転ぶタイプらしい。
「この依頼は明信殿も一緒で心強い‥‥。幼子では仕事も滞る事もあろうかな。ロジィ殿、よろしくだ。それと可愛いとは思うが‥‥何ゆえロジィ殿はうさ耳をつけてたりするのだ?」
「ちなみにうさ耳を付けてるのは? ご主人様の趣味‥‥?」
三笠と実はラブラブ☆ なルミリア・ザナックス(ea5298)と、底抜けに明るい女の子大好き男☆ ラファエル・クアルト(ea8898)がロジィに素朴な質問をする。
「んとんと‥‥ご主人様が‥‥危ないからつけておくようにっていったです‥‥。わたしはよく転ぶのです‥‥そうすると‥‥後から来た人に踏まれちゃったりするのです‥‥でもでも、ご主人様の言うとうりウサ耳つけたら‥‥踏まれなくなったのです〜‥‥」
やっぱり小声で聞き取りづらいが、嬉しそうに語るロジィ。
「なるほどー。さっきもあなたがそこにいることがウサ耳でわかったものね。あ、そうそう、殴りの人ってあたしは呼ばれてますけど、皿壊しにきたんじゃないからねー? こう見えても家事は得意です、うん。で、んーと、まず確認。あたし達はウサ耳は着用義務あるんだっけ? いや、あたしはいいんだけどさ、ほら、男衆が。つけたら何とか言うか‥‥オエー?」
ロジィの答えにノリア・カサンドラ(ea1558)が納得しつつ、しかし男性がつけるウサ耳というのを想像して顔を顰める。
でもアンジェリカが、
「てゆーか、あたしもそのウサ耳とロジィちゃんと同じ服着た〜い☆ ‥‥ということで全員ウサ耳メイド姿で、男性はメイド・ガイで銀食器を磨くのを提案しま〜す♪」
と言い出し、ロジィも自分と同じウサ耳をつけてもらえればうれしいというので、ロジィが持っている予備のウサ耳を装備して、冒険者達は銀食器を磨く事になった。
●まずは準備☆
「冒険者になって、これが初めての依頼。気合入れていかなきゃね! まずは小さなことからこつこつと‥‥って。ぜんぜん小さくないわね、これ」
初めての依頼だから頑張ろうと気合を入れつつも、目の前にどーんと置かれた300枚の銀食器を前に冷や汗が出るエイル・ウィム(eb3055)。
なし崩し的につける羽目になったウサ耳がぴょこぴょこ揺れる。
「さて、お仕事の方だけど、あたし家事はさっぱりなんだけど秘密兵器を用意してきたの〜♪」
た〜った〜た〜ったたらりら〜♪
とラッパっぽい効果音を口笛で吹いて、ドクロマークのラベルが貼ってある小瓶をご機嫌に取り出すアンジェリカ。
その頭にはもちろんぴょこりんとしたウサ耳がついている。
「それはなんですか、アンジェリカさん。なにやら怪しげですが‥‥」
長い時間の作業になるので不慮の事故に備え、なるべくその場から動かずに済む様にクッションと敷物や水入りのコップを、人数分用意して床に座って作業できる様に準備していた三笠は、燦然と輝く髑髏マークを見つめ、ちょぴり腰が引け気味。
「錬金の秘術を駆使して作った奇天烈大発明‥‥超強力銀磨き剤こと『ピカピカニナール』ナリ〜☆ 金をも生み出す錬金術の力、てゆーか主成分の果汁を以てすれば、黒くなった銀だってイチコロナリよ☆ ラベルのドクロマークはイチコロってゆーのを強調したいだけなんで、そんなに気にするでないナリよ?」
満面の笑みを浮かべつつなにやら語尾のおかしくなったアンジェリカだが、もし本当に銀の黒ずみが取れやすくなるのなら、作業がぐっと楽になる。
髑髏マークの子瓶からは、リンゴの甘酸っぱい香りも漂っている。
どうやらリンゴをすり潰して作ったものらしく、人体に害は無いようだ。
「調理で使ったゆで汁があれば、洗い汁として使わせてもらうつもりだったんだけど、アンジェリカの作った磨き剤を使ったほうが効率よさそうだね。で、実際の皿洗いだけど、まず、食器ごとにわけておかないとね。その方がわかりやすいし、元通り戻す時に便利だしね」
いいながら、テーブルにバラバラに置かれていた大量の銀食器を種類ごとにてきぱきと分け始めるノリア。
「僕も手伝います。形状別・複雑さ別に分類して磨く計画を大まかに立てましょう。他を巻き込まない様に一日分ずつ分けて並べなおしておきます。‥‥ルミリアさんも手伝って頂けますか?」
さりげなく、恋人のルミリアを誘う三笠。ちょっぴりほっぺたが赤い。
「うむ、腕力ならまかせて欲しい。尽力をつくす」
真面目に言いつつも、こちらもほっぺたが赤いルミリア。
「お皿の磨き方だけど‥‥武器を磨くのと同じ要領でいいのかな? お皿が傷まないように、武器よりも幾分優しく、丁寧に磨こうと思うけど‥‥」
そう言いながら、エイルは他の人の見様見真似で、ノリアと三笠、ルミリアの分けた銀食器を用意された布で磨き始める。
「実際の皿洗いは結構重労働なのよね。『大皿三枚洗うのは腕立て伏せ五回ぐらい大変』だとあたしは思う。ただ洗うだけじゃダメなのよね。具体的には以下のことをするといいよ」
ノリアが家事の苦手なエイルに丁寧に順序を教えてあげる。
「1)洗う前にまず汚れを拭き取ってから洗う
2)調理で使ったゆで汁があれば、洗い汁として使わせてもらう
3)なかなか落ちない汚れは付け置きしておいて後から洗う
順番はこんな感じだね。(2)は、アンジェリカさんの磨き剤を使わせてもらうからいいとして、汚れのひどい物は漬け置きしておかないと汚れが取れないから、今日のうちに漬けておいて明日と明後日で磨けばいいんじゃないかな? だから今日はまず磨くよりざっと銀食器をふき取ってもらって、汚れのひどい物を探してもらえる?」
「わかりました。まずざっとふき取ってみますわ」
真剣な面持ちで言われたとおりに銀食器を拭きなおすエイル。
「それにしてもノリアちゃんてば意外よねー。家事が得意だなんて」
ラファエルが感心したように髪をかきあげて呟き、
「あたし、結構家事できるんだけどいまいちそう思われてないのよね?」
とノリアは笑った。
●磨け磨け銀食器! でもどじっ子にはご用心☆
「真っ黒くろなお皿でも すぐに綺麗にキラキラに♪
お皿を磨こう☆ 心をこめて あなたの笑顔が映るように♪
さぁ、キュッキュッキュッ ほら キュッキュッキュッ♪
喜ばせたいあのヒトの微笑み きっと映せるよ♪」
『喜ばせたいあの人』と歌ったときに思い浮かんだは三笠の顔だったりするのだが、どじっ子のロジィがリラックスできるように明るく歌いながら食器を磨くルミリア。
エイルがざっと拭いた食器に、アンジェリカの磨き剤を使って、
「皿自体を回して円を描くようにー♪ 細かい所は布の端で〜♪」
子守りが生業のラファエルもお遊戯の如く楽しく歌いながら磨き続ける。
磨く側から手分けして食器を棚に戻していくアンジェリカを、
「わたしも‥‥手伝うです‥‥」
と食器を抱えるロジィ。
「磨くの専念して手伝ってくれると嬉しいな〜」
と慌ててロジィが食器を運ぶのをラファエルが止めたが間に合わず。
たちあがったロジィの手から銀食器が零れ、止めようとしたラファエルの顔面直撃!
そのままぱったりと倒れるラファエル。
「ああ、やっぱり‥‥」
倒れるラファエルを抱え起こしつつ、溜息をつくノリア。
ノリアはメイドさんがドジって話を聞いていたときから、なんか余計な仕事が増えそうな気がしていたのだ。
「ノリア殿、ドジなメイドさんといえば転倒して皿をこぼすのが基本ゆえ‥‥。倒れるロジィ殿と側面衝突とか‥‥飛んだ皿を我らが手足と足りなければ口とかで受け止めたりせぬばとか‥‥飛んだ皿が思わぬヒトの急所にど真ん中ストライクで目から星が飛ぶとか‥‥転げた皿が通りすがりの恐怖のGさんを直撃して天に召されたGさんと残された皿による悲劇とかは、デフォルトなのですよ。そう考えると今回は比較的被害が少ないかもですぞ」
冷静に状況を分析するルミリア。
「ラファエルさん、しっかり!」
倒れるラファエルに慌てて応急処置を施すエイル。
ラファエルのおでこには、ぷっくりとたんこぶが出来ていた。
●皿磨き、完了! そして美味しく☆
最終日。
キラキラ。
ピカピカ。
冒険者達の働きによって黒ずんでいた銀食器は本来の輝きを取り戻してキラキラと輝いている。
油をちょびっとだけづつ皿に馴染ませるのに専念していたラファエルのおかげで、以前よりも銀食器は錆びづらくなっていた。
「うんうん、あたしの作った磨き剤は完璧だね☆ あ、いいこと考えたナリっ! 丁度メイドさんもいることだし、この超強力銀磨き剤ピカピカニナールを売れば大ヒット間違いないナリっ! 今ならダイナミックキャンペーン中につき、1個お買い上げいただいたら、さらにもう1個付いてくるナリ〜〜っ! とかって売りこんじゃおうかな♪」
ぴっかぴかの銀食器を惚れ惚れと見つめるアンジェリカ。
「頑張った甲斐がありましたね」
夜更かしして精一杯食器を磨き上げたエイルも感無量。
そして三笠は一人、そわそわしていた。
なぜなら最愛のルミリアが自分の為に料理を作ってくれることになったからだ。
当初はロジィのご主人様が長期の出張から戻られるというので、その歓迎パーティをしようという話しだったのだ。
だが、依頼人が「あうぅ‥‥そんなことしたら‥‥ご主人様に磨き忘れたことがばれちゃうです〜‥‥」とえぐえぐ泣くので、ご主人様歓迎パーティは諦めたのだ。
でもそのかわり、冒険者とロジィで「銀食器磨きおつかれさまパーティをやろうよ。あ、この料理の皿洗いはあたしがちゃんとやるんで。」とノリアが提案し、それならとロジィも頷き、料理の得意なノリアとラファエロが率先して料理を作ってルミリアはこの機会に大切な三笠に初めての手料理を食べてもらうべく、ノリアとラファエロに料理を教わることにしたのだ。
「こんな感じだろうか‥‥?」
ノリアとラファエルに簡単な卵料理を教わり、三笠の為に作った茸のオムレツをお皿に盛ったルミリアが部屋に戻ってきて恐る恐る三笠に見せる。
「誰かに何かしてあげたい! ってなってる女の子は可愛いわね〜」
とラファエルは微笑んでおっかなびっくりなルミリアの背を押してやる。
「本当に作ってくださったのですね。ありがとうございます」
ギクシャクと緊張しているルミリアから三笠専用のオムレツを三笠は受け取り、さっそく一口食べてみる。
ほわん♪
卵独特の柔らかい香りとふんわりとした食感は、ルミリアの愛情がたっぷりと篭もって美味しかった。
「ルミリアさん、僕の為にありがとうございます。この味を一生心に刻む事にします」
真っ赤になってルミリアを見つめる三笠。
同じく真っ赤になって三笠を見つめるルミリア。
ラブラブな2人に微笑みつつ、
「はいはい、みんなの分ももちろんあるわよ〜♪」
「ノリア的家庭料理もたべてねー!」
ラファエルとノリアの2人が作った美味しい家庭料理をみんなで食べて、ちゃんと後片付けもして。
今回の依頼も無事終了したのでした♪