探してるのにないじゃない?!

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:4

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月07日〜08月14日

リプレイ公開日:2005年08月15日

●オープニング

「冒険に行きたいとは思わないか?」
 髭面の何やら暑苦しいおっさんが冒険者ギルドを訪れたのは、くそ暑い真夏日。
(「ああ、この炎天下で何かがやられたんだね」)
 さして驚きもせず、万年一人身受付係は頷いて、
「ええとですね、当冒険者ギルドで只今募集中のご依頼はこちらになります。冒険と一口でいっても色々ありまして、モンスターを倒すご依頼から皿磨きまで、ピンからキリまでそろっていますよ」
 ギルドに寄せられる、比較的簡単な依頼書を見せる。
「いや、そうじゃないんだ。仕事をまわしてもらいたい訳じゃないんだよ。僕と一緒に遺跡を探検してもらいたいんだ」
「ああ、ご依頼のほうだったんですね。それでしたら詳しい依頼内容をお話しください。遺跡の詳細も、分かる範囲で結構ですので」
「いやいや、遺跡を探すんだよ」
「‥‥はい?」
 まてまてまて。
『遺跡を探索』=遺跡の内部を調査するんじゃなくて、遺跡を探し出すってことかー?!
 呆れる受付係に気付かずに、おっさんはわくわくと話し出す。
「道端の占い師がね、俺を見て『貴方は遺跡で莫大な財産を得るだろう』って言うんだよ。凄いだろう?」
「‥‥占い料はいくらだったんですか?」
「ん? ほとんど全財産さ。なぁに、俺はこれから遺跡で莫大な財産を得るんだ。安いモンだろう?」
 瞳を少年のようにキラキラさせてまだ見ぬ遺跡の財宝に胸を躍らすおっさん。 
 ‥‥完璧に詐欺ですがな、それ。
「じゃあ、ご依頼内容は『遺跡を探す』でよろしいですね?」
「おう、報酬は財宝が見つかったらすぐにでも払うからな。頼んだぞ!」
 あるかないかもわからないというか、たぶんない遺跡のありえない財宝を夢見て去っていく依頼人。
 万年一人身受付係は呆れつつ、でもちゃっかり仲介手数料はいただいて、依頼書を作成するのだった。 

●今回の参加者

 ea0907 ニルナ・ヒュッケバイン(34歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1643 セシリア・カータ(30歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1661 ゼルス・ウィンディ(24歳・♂・志士・エルフ・フランク王国)
 ea3026 サラサ・フローライト(27歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea4792 アリス・コルレオーネ(34歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7509 淋 麗(62歳・♀・クレリック・エルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●夢見がちな依頼人
「ここまで騙され易くてよく今迄無事だったな、この男‥‥」
 あるはずの無い遺跡を探すといってきかない暑苦しいおっさんこと依頼人・ガンボウを見つめ、溜息をつくサラサ・フローライト(ea3026)。
「お宝探しか‥‥私もそういうのに胸をときめかせたときがありましたねぇ‥‥」 
 昔を懐かしむように呟くのはニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)。
 ニルナのような美女なら、幼い頃もとてもかわいらしかっただろうから夢を見るのは愛らしいが、髭面のおっさんが少年のようにわくわくしている姿というのはかなりやばい。
「悲しい事に世の中はそんなにあまくないのです。全財産を占料に取る真っ当な占い師などきいた事がございません。あなたは騙されているのです。遺跡よりもその占い師を探し出しましょう」
 淋 麗(ea7509)がきっぱりと夢見る中年ガンボウに言いきる。
 しかしガンボウは「何いってるか! お前たちは遺跡を探しもしないで。遺跡は絶対にあるんだ、早く探そう!」と耳を傾けようとしない。
「ったく、アホなおっさんだぜ‥‥」
 かったるそうに、依頼人には聞こえないように呟くアリス・コルレオーネ(ea4792)。
 ほんとはギルドで見かけた可愛いウサ耳メイドを手伝おうとしていたのだが、あまりにもガンボウがお馬鹿だったのでアリスはおもわず手伝いに来てしまったのだ。 
 しかし話しをすればするほど依頼人は夢見るおっさんで、正直手におえない。
「怪しいですけど、遺跡を探すことにします。どう考えてもおかしいですけど、情報を集めて探そうと思います‥‥」
 そういいつつもセシリア・カータ(ea1643)は哀れな依頼人から目線を逸らす。
「全財産を支払ったということだが、正確にはいくらぐらいであったのだろうか?」
 支払った具体的金額を聞き出すサラサ。
 ガンボウが貧乏で『全財産』が実は通常の占い料だった‥‥というのもありえなくはないので、その確認の為だ。
「36ゴールドだよ。まあ、ちーっと高かったが、なに、これから俺は莫大な財産を手にするんだもんな。細かい事にかまっちゃいられねぇよ」
 へへっと鼻を擦るガンボウにサラサは目をむく。
 36Gといったら、半年は遊んで暮らせるのではないだろうか?
 明らかに法外な値段だ。
(「これは本格的に詐欺だな‥‥よし」)
「遺跡は手分けして探したほうが早い。2手にわかれないか?」
 予めの計画通り、占い師を探し出して捕らえる為にそう提案するサラサ。
「では、私の方でももう少し占い師にお話を聞いてこようかと思います。そのほうが遺跡も発見しやすいでしょうからどの辺にいらした方か、あと、その人の特徴など教えていただけますか?」 
 サラサの提案にのり、ガンボウに占い師の詳細を聞き出すゼルス・ウィンディ(ea1661)。
「占い師様はな、橋向こうのパン屋の近くの路地にいらしたんだ。腰まである長い黒髪と黒曜石のような澄んだ瞳が印象的な知的な女性だよ。出会った瞬間、『この人は信用できる』と俺はおもったね!」
 その時の様子を思い出して、うっとりとする髭面のむさいおっさん。
 きっと依頼人にとって占い師との出会いは運命のように感じているのだろう――騙されたとも気付かずに。
 そうして、話し合いの結果、ニルナとセシリア、アリスが依頼人と共に遺跡を探すことにし、ゼルス、サラサ、淋は占い師を探し出すことにした。


●二手に分かれて〜まずは遺跡探索組
「うぁー、かったるいなあ。とりあえず逝っとけ!」
 コキーン!
 高速詠唱で一瞬にして遺跡に現れた雑魚モンスターを凍らせるアリス。
 二手に分かれる前にパリ近郊にある適当な遺跡をサラサが冒険者ギルドで聞き出し、ニルナとアリス、そしてセシリアは依頼人を適当にあちらこちら引きまわしたあと、もう散々探し尽くされて財宝なんて残っているはずの無い、ギルドから聞いた駆け出し冒険者ご用達の遺跡にさも今発見したかのようにガンボウを連れてきていた。
「お見事です」
 瞬時に凍らされた敵を見つめ、感心するセシリア。
 本当にすばらしいと一緒に頷く依頼人。
 そのガンボウに、
「もしも財宝がなかったらどうするんですか? 万が一ですけどね‥‥」
 無謀だとおもいつつも、それでも依頼人が騙された事実を知ってしまったときのショックが少しでも和らぐように。
 さりげなく財宝が無かった時のイメージをガンボウに描かせようとするニルナ。
 しかし、予想通り依頼人は「こうして遺跡も見つかったんだ。財宝がないなどとそんな事はありえないから安心していいぞ」と少しも安心できないことを言って胸を張る。
 アリスは「やれやれ‥‥」と溜息をついた。


●占い師の行方〜詐欺のご利用は破滅的に?
「ふむ。仮面をつけているので顔立ちはよくわからないが、占い師はいつもこの辺りに来るようだな」
 依頼人から聞き出した占い師と出会った場所に来たサラサ、淋、ゼルス。
 パーストを唱えて、占い師がいたという場所でここ1週間ほどの過去を調べていたサラサが言う。
 占い師は依頼人にまことしやかに遺跡の話を聞かせ、大金を受け取っている姿がサラサには見えた。
 しかもそんなにも怪しげな占いをしておきながら、堂々とこの場所で占い師を続けているのだ。
「あら? 噂をすれば‥‥」
 淋が路地裏に入ってきた黒髪の女性に気付く。
 しかし、その人物が問題の占い師かどうかはわからない。
 なので、
「財宝のある遺跡を知りませんか? パリから1日の距離にあるそうなのです」
 と話しかける淋。
「い、いやだね、アタシゃなんもしらないよ‥‥」
 少し逃げ腰で顔を伏せる黒髪の女性。
 はっきりきっぱり、怪しい。
 高速詠唱で怪しい女の思考を読んだ淋が、ゼルスとサラサに「この人です」と合図する。
 瞬間、怪しい女=占い師は全力で逃げ出した!
「依頼人のガンボウさんから占いでお金を受け取った人へ‥‥ムーンアロー!」
 月の光のような矢がゼルスの身体から一直線に占い師へと飛んでゆく。
 ザシュッ! 
「ひええええええっ!!」
 狙い違わず逃げ出した占い師の足に突き刺さる光の矢。 
 盛大にすっころんで逃げ場を失った占い師は、
「くっ‥‥!」
 何かの印を結ぼうとして、サラサにパシッとその手をはたかれて邪魔された。
「魅了の呪文は唱えるな。無駄だ」
 過去を見たとき、占い師はほぼ全ての占いで最初に何かの印を結んでいたのだ。
 そしてそのあとは、最初胡散臭げにしていた占われる人々は打って変わって素直に占いを聞いていたのだ。
 だからサラサは即座に妨害した。
「素直にガンボウさんのお金を返してもらえればこちらも役人に突き出すような真似はしませんよ。でも、もし返していただけないなら、どこへ逃げようと先の魔法矢が延々とあなたを襲い続ける事になりますが、それでもよろしいですか?」
 にこにこ。
 にこにこ。
 爽やかな笑顔とは裏腹に物騒な事を平然と言いきるゼルス。
 青ざめて怯えきった占い師は、言われるままにゼルスにガンボウから騙し取ったお金を差し出す。
 皮袋に入ったそのお金が36Gぴったりあるのを確認して、
「ところで、占いで騙したのはあの人だけですか?」
 とさらにハッパをかけるゼルス。
「も、もちろんだよ、アタシゃいつだって真面目に占いしてるんだ。ガンボウとか言うおっさんを騙したのはたまたま出来心なんだよ!」
「‥‥占いをするヤツらほぼ全員に魅了の術をかけていたと想うが?」
 へらへらと言い訳をする占い師をにべもなく切り捨てるサラサ。
 過去をきっちり見ているのだから、騙されようがない。 
「占いで数多くの人を騙した占い師へ‥‥ムーンアロー!」
「!!」
 再びゼルスから発せられた光の矢は迷う事なく占い師の身体にざっくりと降り注ぐ。
「きゃああああっ、死ぬ、しんじゃうワ!!」
 叫びながらちゃっかりリカバーポーションを飲もうとして傷が痛くて上手く飲めない占い師。
 なんというか殺しても死なないタイプらしい。
「さあ、これなら飲めるでしょう?」
 見かねて淋が手をかしてリカバーポーションを飲ましてやる。
 一瞬にして傷が癒えた占い師は、驚いたように淋を見つめた。
「なんで飲ましてくれるのさ‥‥?」
「占いとは、人の心を救うためにあるのです。間違っても騙す為にあるものではありません。迷い、悩み苦しむ人々が藁にもすがる想いで占いに頼る気持ちを利用してはいけません。あなたはこれからも生き続け、今まで騙してしまった人の分までこれからの占いで多くの人々を救ってお上げなさい。あなたの占いにはそれだけの価値があるのです」
 と自分を見つめる占い師を諭す淋。
 占い師は、淋から顔を逸らし、俯く。
 その瞳には、うっすらと涙が滲んでいた。
 いままで占い師に価値があると言ってくれた人など誰一人としていなかったのだ。
「あなたの前科は黙っておいてやります。騙したお金を渡しなさい」
 ゼルスに促されて、今まで騙してきたお金の、まだ使っていなかったそれをゼルスにおとなしく渡す占い師。
 その表情は穏やかで、たぶんもう人を騙す事はしないだろう。


●エピローグ〜永遠に夢を追っかけよう♪
「ちょっと空から見てみるよ。ここでまってろ」
 ガンボウに「この下に何かある! 掘れ! 」と駄々を捏ねられて仕方なくスクロールのウォールホールを唱えて地面に穴を開けていたアリスは、不意にそう言って呪文を唱えて空に舞いあがる。
「おいおい、なんだなんだ? まだ掘り終わってないじゃないか。おーい、もどってこーい!!」
 地上から上空のアリスに向かって、叫ぶ依頼人。
「穴なら、私たちが掘りますから、ここで待っていましょう」
「ええ、きちんと掘らせていただきます」
 ニルナとセシリア、2人の女性は依頼人の為にスコップも無いのにアリスの空けた穴を素手で掘り出す。
 ニルナとセシリアには、なぜアリスが途中で出ていったのかわかっていた。
 たった今、占い師を探していた淋、サラサ、ゼルス達から、占い師が詐欺であった事、奪われたお金は全て取り戻せた事をサラサのテレパシーで連絡が入ったのだ。
 サラサ達はもう遺跡の入り口にきていてるらしい。
 なのでアリスがサラサ達と先に合流して口裏を合わせれるようにすべく飛んでいったのだ。
 だから穴など掘っても何もでないとわかっているのだが、依頼人の為に白く美しい手が汚れるのもかまわず真剣に穴を掘ってあげるニルナ。
「俺も手伝うよ、うん」
 そんなニルナの様子を見て、ガンボウも一緒に穴を掘り始める。

「うおーーーーー! これが、財宝!!!」
 キラキラと遺跡の奥に輝く金貨を見つめ、喜ぶガンボウ。
 その瞳はちょっぴり虚ろ。
「占いの内容を考えてもおかしいですし、まあ依頼ですから探しましたが、本当にあってよかったですね」  
 依頼人が見ている宝の山などは見えないセシリアは、けれど依頼人が嬉しそうなので探してあげてよかったなと微笑む。
 依頼人以外には、誰にも宝の山など見えていない。
 アリスに案内されて遺跡組と合流した
 ゼルスがスクロールのイリュージョンを唱え、有るはずのない大冒険をした末に宝を手に入れたかのような幻影をガンボウに見せてあげたのだ。
「ほら、これがお前の求めた財宝だ」
 ゼルス達が奪い返した依頼人の全財産と、今まで騙された人たちの分のお金も上乗せした皮袋をガンボウに手渡すアリス。
 皮袋の中身はずっしりと重く、依頼人は大喜び。
「お前達、本当にありがとう! 俺はこれからももっともっと遺跡を探索しつづけるよ!」
 皮袋を握り締めて小躍りしそうな依頼人に、
「困っている人を助けてあげると、自分も幸せになれます。遺跡探索も素敵ですが、迷える人々を助け、そしてその人達から与えられる好意と感謝はなにものにも変えがたいガンボウさんの財産となるでしょう」
 占い師のように厳かに、助言してあげる淋。
「おお、そうだな、あんた達に助けられた俺は一生あんた達の事を忘れないもんな。いっちょ俺も人助けしてみるかぁ!」
 こうして。
 あるはずのない遺跡のありえない財宝騒ぎは幕を閉じたのだった。 


●お・ま・け☆ 
 無報酬なはずのこの依頼。
 けれど冒険者達の懐には1Gずつ報酬が配られた。
 ゼルスが占い師からお金を取り返した時、ちゃっかりと人数分の報酬を抜いておいたのである。
「備え有れば憂い無しっ、と」
 ゼルスは金貨を光にかざして笑った。