魔術師の迷宮〜石の歌〜

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:2〜6lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 8 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月09日〜08月24日

リプレイ公開日:2005年08月18日

●オープニング

 その迷宮は突如として現れた。
 ――石造りの、迷宮。
 ドレスタットからほぼ真北に2日ほど歩いた場所には本来草原が広がっていたはずなのだが、ある日突然その草原は石と化し、迷宮が作られていたのだ。
 風がその迷宮を通り過ぎると、石が反響して音楽を奏でる。
 偶然なのか、意図的にそう作られたのか。
 その音色は冒険者の探求心を刺激して止まなかった。
 未知なる刺激を求め、まだ見ぬ財宝を夢に描き、我先にと迷宮へ探索に向かう冒険者達。
 けれど迷宮は既にモンスターの巣窟だった。
 迷宮から逃げ延びてきた冒険者の話では、ゴブリンからドラゴンらしきものまで様々なモンスターがいたらしい。
 また、迷宮は時折自分の意志で動くかのようにその形を変え、パーティを組んで探索に向かってもいつのまにかバラバラになってしまい、モンスターの餌食になってしまったのだそうだ。
 迷宮の規模や、モンスターの数、仕掛けられた罠など出来るだけ詳しい情報が無ければその迷宮を攻略する事は不可能。
 そんなモンスターだらけの危険な迷宮を放置しておくわけにも行かず、その地を治める領主は冒険者ギルドに依頼を出したのだった。
『謎の迷宮を調べてくれ』と。 
 

●今回の参加者

 ea9761 グングニィル・アルカード(33歳・♂・レンジャー・ドワーフ・イギリス王国)
 eb1503 フレア・カーマイン(38歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2449 アン・ケヒト(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb2560 アスター・アッカーマン(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2582 メリーアン・ゴールドルヴィ(38歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb2937 レン・ゾールシカ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

薊 鬼十郎(ea4004)/ 駒沢 兵馬(ea5148)/ カルナックス・レイヴ(eb2448

●リプレイ本文

●迷宮
 その迷宮は、夢でも幻覚でもなくそこにあった。
 わざとそうゆう場所を選んで建てたのか、そこはやけに風が強く吹く場所だった。
「これが人知を超える自動生成ダンジョンかのう。なかなかに興味をそそるわい」
 グングニィル・アルカード(ea9761)が問題の迷宮の前で、わくわくと呟く。
 英雄になってみたいグングニィルだったが、今回は探求心が勝ったらしい。
「単なる音でなく、音楽を奏でるという事は、迷宮内の構造を変る事で風の流れを変え、音楽を奏でる仕組みだろうか? それとも構造変化の結果としての偶然か‥‥?」
 アン・ケヒト(eb2449)が、迷宮から流れ出る音楽に耳を澄ましながら思案する。
 迷宮から流れる音楽は、風が迷宮を吹きぬける事によって鳴るようで、いまのところ曲に変化はない。
「うー、重い。いやー重くてしかたねーよな‥‥アスター、これも持ってもらえるか?」
 レン・ゾールシカ(eb2937)が、身動きできないほどの大荷物を抱えてアスター・アッカーマン(eb2560)に頼る。
 アスターに予めある程度荷物を預けてここまで来たのだが、もう少し軽くしないといざというときに戦えない。
「ええ。了解しました。でも‥‥あまり考えたくはないですが、迷宮でパーティを分断されたときに備え、手元に2食程度は保存食を残しておいても良いかもしれません」
 全ての保存食を預かってしまうと、もしもレンがパーティからはぐれてしまった時に食糧難に陥る危険がある。
「助かるよ〜、良いおとこっぷりだねえ旦那。俺は体力まーるでなくってさ。保存食だけで持ちきれないんだな、これが。迷宮でなきゃもうちょっと自分で持つけど、狭いとこで火球の魔法使うと長さが倍で俺らもやばいんで、そういうときは高速詠唱で撃墜して減殺しないといかんから。すまねー」
 2食分の保存食を手元に残し、残りの荷物は全てアスターに預けながらレンが詫びる。
 しかし、全部アスターが持ってしまうと、身動きは取れるものの今度はアスターが疲れやすくなってしまうので、フレア・カーマイン(eb1503)やメリーアン・ゴールドルヴィ(eb2582)、そしてアンの驢馬の背も借りる。
「先ずは迷宮外側から迷宮全体の規模、迷宮を作る石を運んだ形跡や魔物の侵入経路、または運び込まれた痕跡など調査を調査しよう。鬼十郎の話ではこの迷宮が出来る前に怪しい集団などを見かけた者はいないそうだが、中を調べる前に外を調べておいた方がなにかと良いだろう」
 アンが薊から得た情報を考慮しつつ、迷宮の外側をまず調べる事を提案し、一同は迷宮を外側から調べてまわることにした。

 
●迷宮の外〜変化なし
「この迷宮の雰囲気‥‥好きになれぬな。誰が、何の為に、如何にして作った? 人の成せる技なのか‥‥? これは」
 迷宮をぐるりと一週して戻ってきたアンは、その迷宮の規模に眉を顰める。
「でけー。とにかくでけー。こんなもんがほんとに動くのかよ?」 
 既にバテ気味のレンが鬱陶しげに迷宮を睨む。
「うちもいろんな迷宮を見たことがあるわけじゃないんやけど、この迷宮はそれでもかわってはるわぁ」
 男性にしては長めの金髪をかきあげておっとりと呟くフレア。
 男っぽい格好や行動を好むアンと並ぶと、どちらが女性でどちらが男性かぱっとみわからない。
「どうやら迷宮は動くといっても全体が移動するわけじゃないんだね」
 外壁をこんこんと叩いて、罠がないか調べていたメリーアンはほっとする。
 原始的な罠や雑魚モンスターに負ける気はしないが、流石に迷宮自体に大移動されてしまっては手におえない。
「ふむ。今日はもう日も暮れてきたし、内部の本各的な探索は明日が良いかもしれんのう」
 未知の迷宮の中で野営するよりも、見晴らしの良い外で野営した方が安全性が高い。
 その日は迷宮の外で野営をし、明日に備えることにした。


●迷宮東〜雑魚モンスターわらわらわら!
「うおっ、そっちにいったぞい!」
 グングニィルとメリーアンの脇をすりぬけて、ジャイアントラットが後方の仲間に飛びかかる!
「まかせろ、ファイヤーボム!」
 レンが勢い良く魔法を唱え、ジャイアントラットは爆風で吹き飛ぶ。
 しかし、次から次へとジャイアントラットが迷宮の奥から際限がないかのように溢れ出てくるので、きりがない。
 全員、迷宮内でバラバラにならないようにフレアの用意した糸で身体を繋いでいるので、余計動きが鈍る。
 雑魚モンスターでも大量に出てこられるとそれなりに厄介なのだ。
「避けられぬ戦いなら喜んで先陣をつとめますが、避けられる場合は可能な限り避けたいですね‥‥ファイヤートラップ!」
 呪文を唱える間にもジャイアントラットはどんどん襲いかかってくるが、メリーアンの華麗な剣捌きとグングニィルの正確な射的、フレアのダーツによる攻撃にジャイアントラット達は怯み、その一瞬の隙を狙ってアスターがファイヤートラップを冒険者とジャイアントラットの間に設置する。
 罠に阻まれ、こちら側にこれなくなったジャイアントラット達は、しばらくうろうろと獲物である冒険者達をねめつけていたが、やがて諦めて迷宮の奥へと去っていった。


●迷宮北東〜スクリーマー!
 
 ギャアアアアアアアーーーーーーッツ!!
 
 ジャイアントラットを退け、奥への道を模索していた冒険者達を出迎えたのは、スクリーマーの叫び声だった。
 赤に白い斑点模様の一見愛らしいキノコは地面にみっちりと生え、外見とは裏腹な醜い叫び声は鼓膜を突き破らんばかり。
「うち、耳が壊れそうやわぁっ!」
 両手で耳を抑えてフレアが涙目で叫ぶ。
「こんなもんこうしてやる!」
 レンが苛立たしげにスクリーマーをブチブチと引っこ抜く。
 しかし量が量だから引っこ抜いても引っこ抜いても、別のスクリーマーの叫びで冒険者達の耳は激しい耳鳴りまで鳴り始める。
「ここは最悪ね。後回しにしましょう」
 メリーアンも耳を塞ぎつつ、こんな状態でも姿勢をピンと伸ばしマッピングをしていたアンを促し、一同はスクリーマーの群生地を後にする。


●迷宮北〜野営
 かなり迷宮の奥まで来たらしい一同は、その日までは一度迷宮の外に出て野営をしていたのだが、この日は入り口までにかなりの距離があることと、丁度テントを構える事の出来るスペースをグングニィルが発見したので、迷宮内での初めての野営をすることにした。 
「ふーむ。迷宮の音楽とやらは変わらんのぅ」
 野営のテントの天幕を木の枝等で偽装し見つかり難くしながら、グングニィルが呟く。
「いまのところ、迷宮が動く様子もありませんね‥‥けれど油断は禁物のようです」
 地面に残されたモンスターの足跡や糞などに特に注意していたアスターが険しい表情で前方を見つめる。
 
 グルルルルルル‥‥‥‥

 そこには、薄暗い闇の中、瞳を光らす数匹の黒い獣がいた。
 狼だろうか?
 はっきりとはまだ見えないが、細い通路からこちらを――特にレン、アン、メリーアン、そしてなぜか男性のフレアも一緒になって夕食の為に加工していた保存食を狙っている。
「なんやってこんなにモンスターばっかりいてはるのやろうか。うち、もううんざりやわ」
 戦闘時の緊迫感はフレアの最も好むものだったが、こう次から次へとモンスターに出くわすと流石に疲れが出てくる。
「逃げ場はないようじゃな。‥‥やるしかあるまいて」
 グングニィルが自慢の弓を構え、油断なく狙いを定める。
 瞬間、獣達は一斉に冒険者達へ飛びかかってきた!
 
 ヒュン!
 
 グングニィルの矢が狙い違わず獣の額に突き刺さる。
「んったく、どっから湧いてきやがるんだこん畜生! 吹っ飛びな!」
 レンの手からファイヤーボムが解き放たれ、
「ふんふふんふ、ふ〜〜ん♪ あたしに敵うと思うのかしら?」
 メリーアンのハンマーがドスリと鈍い音を立てて獣の背にのめり込む。
 しかし、
「あうっ!」
 接近戦になり、ナイフで戦っていたフレアのニの腕を獣の鋭い牙が切り裂く。
「セーラ神の加護よ、この者に癒しの力を分け与え給え!」
 即座にアンがリカバーを唱えてフレアの傷を癒し、アスターがライトソードで獣を切り捨てる。
 そして生き残った獣達は恐れをなして逃げ出したのだが、
「てんめー、仲間に何しやがる、ファイヤーボムッ!」
 仲間を傷つけられて切れたレンが細い道に向かってファイヤーボムを撃ち放ち、続けざまに高速詠唱でファイヤーボムを唱え、細い道からはみ出して自分達へと向かってきた爆風を相殺する。
 そのまま敵を逃すまいと駆けていこうとしたレンの腕を、アンは掴んだ。
「なんだよ、邪魔だっ!」
「フレアなら大丈夫だ。私が治した。奴等の方がこの迷宮について一日の長がある。捨て置け」
「でもよおっ、っと、もう逃げちまったか。じゃあしょうがねーな」
 アンに言い返そうとして、しかし獣達がもう逃げてしまった事に気付いて気分屋のレンはあっさりと諦める。
「明日こそは、敵に遭遇しないと良いですね」
 そう呟くアスターの願いは、しかし叶うことはなかった。


●迷宮北西〜四面楚歌
「嘘だろう‥‥?」
 目の前に現れたそれを見上げ、アンは目を疑う。
 迷宮の北西を探索し始めた冒険者達は、しかし、ありえない、信じたくないものに遭遇していた。
「ゴーレム‥‥っ、皆さん、逃げてくださいっ!」
 アスターが叫ぶ。
 アスターの持つモンスター知識もそうだが、全身が泡立ち危険を告げている。
 間違ってもいまの自分たちに勝てる相手ではない。
 雄叫びを上げるゴーレムから、全力で逃げ出す冒険者達。
 アスターが最後尾でファイヤートラップを仕掛けて逃げる時間を稼ぐ。
「なんと、行き止まりぢゃ!」
 逃げ出した先が、壁に阻まれて先に進めない。
 戻って別の道へいこうにも既にゴーレムがすぐそこまで来ている。
(「ここまでか?」) 
 諦めかけたアンの耳に、迷宮の音楽が聞こえる。
「音楽が、変わった?」
 その音楽は、いままで聞こえていたものと変わり始めていた。
 そして。
「うおうっ! なんで壁がっ!」
 ズズズズズと迷宮が地響きを響かせ、周囲の壁が消えたり現れたりしだす。
 そうして音楽がまったく別の曲に変わったときには、冒険者達は周囲を壁に囲まれていた。
「下手に動かず、この場に待機していれば再び元に戻るかもしれない。だが‥‥」
 アンはいいながら、深く溜息をつく。
 先ほど追いかけてきたゴーレムは、まだこの壁の向こうにいるようなのだ。
 もし再び元に戻っても、あのゴーレムをどうにか出来ないことには自分たちに未来はない。
「しかたがない。最終手段にと思っていたのだが、あれをやることにしようか」
 閉じ込められ、絶望しかける仲間にふふんと不敵に笑って、メリーアンは『ハンマーofクラッシュ+0』を横の壁に向かって構える。
「おおっ、おむし、何をするつもりじゃ? まさか‥‥」
「そのまさかだわ。どうりゃああああああああっ!!」
 
 ドゴーーーーーーンッ!!

 メリーアンの渾身の一撃を受けて、壁がガラガラと崩れ去る。
「なんかものすごいお宝とか出てこないかな〜♪」
 開き直って鼻歌交じりにドゴーンドゴーンと壁を突き崩して進んでいくメリーアン。
 途中途中で原始的な罠などもあったのだが、グングニィルが罠が発動するより早く気づいた為に被害は特にでなかった。
  

●エピローグ〜迷宮の地図〜
 どうにかこうにか迷宮の外に出て。
 ほっと溜息をつく冒険者達。
 メリーアンが開けた外壁の穴は、なぜか新しい壁と瞬時にすり替わり、塞がってしまった。
「全てではないがどうにか地図を作成する事は出来たな」
 迷宮内の地図はもちろんの事、罠の位置と、モンスターの遭遇場所、そして音楽の謎。
 音楽が迷宮を吹きぬける風が起こしている事、そして音が変わるのは迷宮が形を変え、その為に風の吹きぬける流れが変わり別の音を紡ぐ事。
 それらを書きこんだ地図は決して完璧ではなくとも大変重要な資料となるだろう。
「やーっとドレスタットに帰れるんだな。駒沢のにーちゃんの作った弁当がまた食いたいぜ。毎日毎日保存食は飽きちまったよ」
 ドレスタットについたら駒沢に美味しい食事を作らせる気満々のレン。
 ドレスタットを出発する時に駒沢が人数分の『干飯欧州風』弁当を作ってフレアに渡し、冒険初日は全員その美味しい弁当を食べた為にあとの保存食がとことん味気ないものに感じられていたのだ。   
「駒沢はんはドレスタットのギルドにはもうおらへんで? あれからもう何日もたっとるんや。ずっとあそこで待っているわけにもいかんやろ?」
「そういえばカルナックスももう待ってはいないだろうね。あたし達の無事を祈ってくれているだろうけど」
 保存食を大量に持って、メリーアンを見送ってくれた友人を思い浮かべる。
「またモンスターに襲われないうちに、ドレスタットに戻りましょう。皆さんのお荷物をお持ちしますよ」
「おお、わしも手伝うぞぃ。はよう戻って地図を渡さねばの」
 アスターが驢馬に乗せきれないみんなの荷物を持とうとし、アンの地図に罠の様子を詳しく書きこんでいたグングニィルもそれを手伝い、冒険は無事に終わりを迎えたのだった。