〜土砂崩れの村〜未知の洞窟

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 63 C

参加人数:6人

サポート参加人数:3人

冒険期間:08月10日〜08月17日

リプレイ公開日:2005年08月20日

●オープニング

 村人達がそれを発見したのは、冒険者達の指示に従い根をきちんと張る草を山に植えに行ったときだった。
 崩れた山肌に、ぽかんと空洞が開いていた。
 人が入れるほどの多いさのその穴は、恐る恐る中を覗くと、奥は結構深そうで、暗くて良く見えないが鍾乳石が連なっている。
 小さな洞窟といっていいだろう。
 その洞窟の側には小さな、けれどとても綺麗な淡いピンク色の小石が落ちており、これを磨いて装飾品として加工したなら、小さな村の多少の収入に繋がりそうだった。
 村人達は洞窟の周辺をよくよく調べてまわり、その小石を集め、また、周囲を調べ尽くすと洞窟の中を調べて回ろうとした。
 洞窟の中には、もっと大きな石があるに違いない――そんな風に欲をかいて。
 だが、欲などかくものではない。
 洞窟の奥へ奥へとピンクの小石を求めて調べてまわるうちに、村人達はその洞窟に棲み付いていたモンスターを刺激してしまったのだ――振動と共に、死に繋がる胞子を撒き散らすモンスターを。
 幸い、村人の中に解毒剤を持っていた者がいたので九死に一生を得たが、そんな危険なモンスターが洞窟に棲み付いているとなると、ピンクの石の採取はもちろんの事、いつ村に毒の胞子が降り注がないとも限らない。
 だから村人達は、さっそくピンクの小石を加工して、村の特産である小麦の買取に来る行商人に買い取ってもらい、そのお金で冒険者ギルドにモンスター退治の依頼を出すのだった。
 
 

●今回の参加者

 eb0029 オイゲン・シュタイン(34歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2021 ユーリ・ブランフォード(32歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2818 レア・ベルナール(25歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb2898 ユナ・クランティ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3243 香椎 梓(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ キサラ・ブレンファード(ea5796)/ マルケルス・アグリッパ(eb2749

●リプレイ本文

●出発前〜荷物の整理はお早めに☆
「おーい、オイゲン、まだかー?」
 棲家の前で、ユーリ・ブランフォード(eb2021)がオイゲン・シュタイン(eb0029)を呼ぶ。
 オイゲンは、大量の荷物を友人のキサラとマルケルスにも手伝ってもらいながら選り分けていた。
「すみません、後もう少しで終わりますから」
 金箔の仏像にエクセレントマスカレード、天狗の面に藁人形。
 一体何に使うのだろう?
 数え上げたらきりがないぐらいこれでもかというほどの荷物をどうにかこうにか整理して、必要最低限の荷物だけを持ったオイゲンは、「お待たせしてしまってすみません」と皆に詫びて、一同は問題の村へと出発したのだった。


●村〜未知の洞窟〜
「村人の話ですと、この洞窟をかなり進んだところに鍾乳石が2本大きく天井から伸びている場所があり、問題のモンスターにはそこを過ぎた辺りで遭遇したそうです」
 村につくと、すぐにシルフィリア・カノス(eb2823)が聞き込みを行い、モンスターの洞窟での出現位置を調べてくる。
 モンスターは移動しているかもしれないが、「いつ位に遭遇するかが大体でも分かっていれば、心構えもしやすいでしょうからね」とシルフィリアはおっとりと呟く。
「村の人が困っているんだよね。うん、がんばろう‥‥」
 レア・ベルナール(eb2818)が自慢の長い銀髪をきゅっと握り締めて、暗い洞窟の入り口を見つめる。
「オイゲン、一応これを持っておけ」
 ユーリがオイゲンに解毒剤を手渡す。
 今回の敵は噂によると死に至る猛毒を撒き散らすモンスターなのだ。
 オイゲンは今回のメンバーで唯一アンチドートを使える術者。
 彼が毒に犯されて解毒呪文が唱えられなくなったら、パーティの全滅もありえる。
「ありがとうございます。助かります。ええ、中でモンスターに遭遇した時は任せて下さい。アンチドート発生器として頑張りますよ」
 モンスターに遭遇したら常にアンチドートを唱えつづけ、皆が毒に犯される事のないようにする予定のオイゲンは、ユーリから解毒剤を受け取り、いつでも使えるように身につけておく。
 これで万が一オイゲンが毒に犯されても問題ないだろう。
「それにしても、村人の話しからすればビリジアンモールドだと思うんだが、特定できないな」
 ユーリが自分の豊富なモンスター知識と村人達の話しを照らし合わせ、モンスターを特定しようとするが、村人達の話しは尾ひれ背鰭がついていていまいち信憑性にかける。
 とある村人が言っていた「5m以上もあるおっきな緑の塊があっただよー!」というのは流石に嘘だと思うのだが‥‥もしも本当ならかなり厄介だ。
 なんにせよ、洞窟の中に入って実物を見る――倒す方が早そうだ。
 全員、布で口と鼻を覆い、少しでも毒を吸いこまないように準備して、洞窟の中へと歩き出した。
 

●洞窟内部〜モンスター、出現!
「やはり薄暗いですわね。それにじめじめとしていて気味が悪いですわ‥‥」
 ユナ・クランティ(eb2898)がランタンで洞窟を照らしながら、あたりを見まわして呟く。
「なんだか怖いです‥‥きゃあっ?!」
 ユナにしがみつくように歩いていたレアが、不意に叫び声を上げる。
「敵か?!」
 冒険者達に一気に緊張が走る。
「せ、背中に‥‥なんか冷たいものがっ!」
「ふふっ、私の手ですよ」
 香椎 梓(eb3243)が片手をひらひらとさせて笑う。
 あんまりレアが怯えているので、人をからかうのが趣味な香椎はついつい脅かしてしまったのだ。
「も、もうっ、こんなところで悪い冗談はやめてください‥‥」
 にこにこと微笑んでいるが、レアの顔色は真っ青だ。
 レアの怯え方は尋常ではない。 
「レアさん、もしかして体調がお悪いのですか?」 
 シルフィリアが心配気に俯きがちなレアの顔を覗きこむ。 
「ううん、違うんです。なんだろう‥‥この洞窟に入ったら、どんどん怖くなってきて。みんなと一緒にいるのに変だよね‥‥」
 洞窟の奥に近づけば近づくほど、嫌な予感がしてたまらない。
 上手く言えないが、ピリピリと何かがレアの危機感を刺激するのだ。
「騒いじゃってごめんなさい。先、進みましょう」
「うむ。いまの騒ぎで敵に感づかれたかも知れませんな。急ぎましょう」
 オイゲンが松明を不機嫌に揺らめかし、先を急ぐ。
「ごめんね?」
 と香椎はレアにこっそり詫びて、怯えるその手を軽く握ってやりながら松明をかざして先を急ぐ。
 小半時ほど歩いた頃だろうか?
「村人達の言っていたのはあれかしら?」
 ユナが洞窟に大きくぶら下がっている2本の鍾乳石を指差してランタンをかざす。
 すると。
 
 コロコロコロコロ〜

 追い風に乗って、なにやら緑の丸っこい物体がこちらに向かって転がってくる。
「やはりビリジアンモールドだったな。ビリジアンモールドはカビの一種だ。洞窟や日のあたらないじめじめとした場所を好んで生息する。通常だと1mぐらいだが、大きなものになると3mにもなるらしい。さらにもっと大きなものもこの世界には存在するというが僕はまだお目に掛かった事がない。だがしかし対処方法は通常のビリジアンモールドと大差ないだろう。奴らの攻撃方法はその身体から撒き散らされる毒の胞子だ。毒は致死毒だから、十分に距離を取って胞子を吸いこまないように気をつけろ。そしてビリジアンモールドというのは‥‥」
 延々、延々。
 こちらに向かってくるモンスターを見て長々とうんちくを語り出すユーリ。
「ユーリさん、説明よりもなによりもやっつけませんと!」
 ユナがユーリの説明をぶった切って注意を促す。
 モンスターは追い風のせいで転がってきているだけのようだが、風がこちら側に向かってきているという事は胞子が飛び散ったら通常の飛散範囲よりもぐっと距離が伸びて冒険者達に降り注ぐ可能性が高い。
「時間をかけて倒すよりは、一瞬で決着をつけたほうがよいかもしれません‥‥ですがまん丸のあの形ですと切断は難しそうですね」
 矢を番え、狙いを定める香椎。
 本当なら殺傷力の高いポイントアタックEXを使ってモンスターの首を落としたかったが、1mほどもある丸いビリジアンモールドには首やら手足といったものがなく、その本体を真っ二つに切り落とすにはポイントアタックEXでは不可能だ。
 射撃はあまり得意ではなかったが、あれほどの大きさならまず間違いなく当たる。
 香椎はギリギリまで玄を引き、撃ち放つ。
 向かい風をものともせずに真っ直ぐに飛んでいく矢は狙い違わずビリジアンモールドに突き刺さる。
 けれど自分の意思で動いているわけではなかったビリジアンモールドは、生きてるのか死んでいるのか分からないまま追い風に乗ってコロコロと冒険者に向かってくる!
「怖いけど‥‥行きます!」
 レアが忍び足でビリジアンモールドを刺激しないようにそっと忍び寄り、剣で切りつける!
 ボフッ!
 切られた瞬間、ビリジアンモールドが胞子を撒いた。
「?!」
 布で口と鼻を覆っていたものの至近距離で毒を浴びてしまったレアはその毒の苦しさに倒れ伏す。
「ちっ!」
 舌打ちしてユーリが自分にレジストプラントをかけてレアに駆け寄り、胞子の散乱している場所から安全なところまで引きずり戻す。
 レジストプラントをかけているユーリには植物性の毒は効かず、毒の胞子の中でも通常通り行動できるのだ。
「慈愛深きセーラ神よ、この罪深きものの身体を蝕む毒素を消し去り給え‥‥アンチドート!」
 常に後方に下がり、いつでも解毒魔法を唱えられるように構えていたオイゲンがレアの身体を解毒する。
 解毒されたレアは、シルフィリアにさらにリカバーをかけてもらう。
 
 さらに奥を目指すべく、香椎は床に置いておいた松明を拾い上げ、ユーリと共に先頭を歩く。歩き始める前にユーリがビリジアンモールドを焼いている。
 そのすぐ後にユナ、シルフィリア、レアがついてゆき、オイゲンは、
「神聖騎士である私が後方に下がるなど、いやしかし毒をうけてアンチトードが使えなくなると依頼が‥‥」
 騎士としてのプライドと、唯一アンチドートを使えるものとしての責任に挟まれて百面相しながら最後尾を歩く。
 奥へと進むにつれ、ビリジアンモールドがだんだんと大きくなって出現するのだが、意外に広い洞窟だったのでユーリが次々と瞬時に燃やして倒していく。
 焼くに適さない場所に張り付いているビリジアンモールドには、ユナがアイスコフィンで凍らせて、ロープでしばって広い場所に移動させてユーリが止めを刺していく。
「ユナさん、ロープの扱いがお上手ですね」
 凍らせながら、丸くて縛りづらいビリジアンモールドを器用にロープでしばっていくユナの手さばきに感心するシルフィリア。
「私のロープは本来こういう使い方をするために携帯しているのではないんですけど‥‥まあ、良いですわ」
「?」
 ユナの呟きに首を傾げるシルフィリア。
 縛る為ではないロープの使い道とは、どんな物なのだろう?
「‥‥え? ロープの本来の使い方‥‥ですか? ふふふ‥‥それは、ひ・み・つ、です♪ あっ、シルフィリアさんやレアさんにならお教えしてもかまいませんよ? 実践形式という事でよろしければ」
 うふふと怪しい笑みを零しながらロープを構えるユナに、シルフィリアとレアはぶんぶんと首を左右に振って断わった。

●ラージビリジアンモールド
「ここから先はいってはいけない気がします‥‥」
 順調にビリジアンモールド達を倒しながら奥へ奥へと進んでいたのだが、レアが止める。
「私もです‥‥」
「う‥‥む」
 レアにシルフィリアも同意し、洞窟の奥を睨むオイゲン。
 薄暗い洞窟の奥に、なにかうごめく気配を感じる。
 おそらく、レアがこの洞窟に入ったときから感じていた恐怖の主は、それに違いない。
「そんなこといっても『じゃあ帰ります』ってわけには行かないぜ。やるしかないだろ?」
 怯えるレアとシルフィリアの背を押すようにユーリが力強く笑い、洞窟の奥へ、うごめく物へ向かって歩みを進める。
 徐々に徐々に。
 ランタンと松明の光に照らされてぼんやりとその姿を現しだす。
「これ‥‥ビリジアンモールド‥‥?」
 ランタンを上にかざし、見上げるように呟くレア。
「ですね。大きさが尋常ではありませんが、形状はまったく同じですし」
 香椎が頷く。
 額に冷や汗が流れるのは、ビリジアンモールドのその巨大過ぎる大きさのせいだろうか? 
 そこにうごめいていたビリジアンモールドは、5mはあろうかという巨大さだったのだ。
 
 ボフボフボフッ!
 
 冒険者達の足音に反応したのか、一気に毒の胞子を撒き散らし出すラージビリジアンモールド。
「こっちにこないでください!」
 シルフィリアが毛布をばたばたとはためかせて胞子がこちら側に飛んでこないように煽ぐ。
 レアもその毛布を掴み、一緒に煽ぎ出す。
 追い風がやんでいたせいか、緑色の胞子が毛布に煽られてラージビリジアンモールドの後に流れ出すが、レアとシルフィリアはちょっぴり毒を吸いこんでしまってむせる。 
「うふふっ、随分元気なモンスターですのね。でもちょっとおいたが過ぎたみたい」
 にこにこと微笑みつつも目が笑っていないユナが一瞬にしてラージビリジアンモールドを凍らせる。
「可愛い女の子達に毒を負わすなんて許しませんわ〜♪」
 氷の塊と化したラージビリジアンモールドを見て満足げに微笑むユナ。
 オイゲンがレアとシルフィリアに解毒魔法をかけ、全員、ラージビリジアンモールドから十分に離れるとユーリが渾身の力でファイヤーボムをぶっ放す。
「火の精霊達よ、僕の手の中で踊れ!」
 ドゴーンドゴーン! と数発撃ちこみ、香椎も弓を番えては撃ち、ラージビリジアンモールドに止めを刺す。
 毒にさえ気をつければ、それほど強い敵ではなかったのだ。
 黒焦げに焦げて動かなくなった巨大なビリジアンモールドを見て、ほっとするレア。
「ん? 村人達が言っていたピンクの石は、これのことか?」
 ユーリがラージビリジアンモールドの側に落ちていたピンク色の小石を拾い上げる。
 水晶を少し濁らせたような感じの半透明のその石は、エメラルドやルビーなどの輝石と比べて確かに価値は低そうだったが、綺麗に磨き加工すれば女性に好まれそうな石だった。
「見てください、奥に、もっと沢山ありますよ!」 
 シルフィリアがラージビリジアンモールドの背に隠れて見えなかった壁を指差す。
 そこには、壁一面にピンクの石が埋っていた。
「うむっ! これだけあれば災難続きだったこの村の村人達はさぞや喜ぶでしょうな」
 オイゲンは壁を見上げて大きく頷いた。
 
 そうして。
 村へ戻った冒険者達は、村人にモンスターを退治したこと、奥に、沢山のピンクの小石があることを伝え、村人達に心から感謝されつつ。
 今回の冒険を無事に終えたのだった。