酒もってこーい!

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月13日〜08月16日

リプレイ公開日:2005年08月23日

●オープニング

 この世界には、モンスターの作るそれはそれは美味い酒があるらしい。
 酒好きの領主がその噂を聞いたのは、ちょうど10年ほど前。
 まだ自分が領主になりたての頃だった。
 その時の領主は今と同じく酒好きではあったが、モンスターの作る酒などに興味はなかった。
 モンスターといえば一番身近にいるのはゴブリンだろうか?
 あの醜い生き物が作った酒など、何故に飲めようか? 
 だが、旅の吟遊詩人が先日持ち寄ったその酒は、領主が今までに飲んだどんな酒よりも甘く甘美で、領主はその酒の虜になってしまったのだ。
 吟遊詩人が語るには、その酒はなんでもシェリーキャンという愛らしい姿の妖精のようなモンスターが作る酒だそうだ。
 醜いゴブリンの造る酒を想像していた領主にとって、味はもちろんの事、愛らしい妖精のようなモンスターが作る酒というのは非常に魅力的だった。
 しかし、モンスターが作るだけの事はあって、おいそれとは手に入らないらしい。
 シェリーキャンは幸いにして領主の領内の果樹園に棲み付いているらしいのだが、いかんせん、領主自ら赴いてもその姿を見せてはくれず、声だけが帰ってきたのだ――「面白い話を聞かせて」と。
 だから領主は冒険者ギルドに依頼を出したのである。
 シェリーキャンに面白い話を聞かせ、酒を作らせるようにと。
 

●今回の参加者

 ea4004 薊 鬼十郎(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5970 エリー・エル(44歳・♀・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb3327 ガンバートル・ノムホンモリ(40歳・♀・ファイター・ドワーフ・モンゴル王国)
 eb3346 ジャンヌ・バルザック(30歳・♀・ナイト・パラ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●貴腐妖精の棲む果樹園
「お酒を飲める依頼なんてぇ、楽しい依頼だねぇん」
 自称17歳の童顔なエリー・エル(ea5970)が、底抜けに明るく葡萄を摘む。
 領主の依頼で訪れたシェリーキャンの棲む果樹園は、見事に色づいた葡萄がたわわに実っていた。毎年最初に実る葡萄だという。
「面白い話は、愉しい雰囲気の中で聞くのが一番良いですよね。と、いう訳で宴会をしながら話を進めてみましょう」
 薊 鬼十郎(ea4004)が、籠に盛った両手にいっぱいのお菓子と日本酒――どぶろくを手に微笑む。
 そのお菓子は、あらかじめ領主に確認を取り、このシェリーキャンが棲む果樹園の葡萄を使って薊が作ったものだった。
 家事が得意な彼女は一般的な葡萄のタルトに、少し珍しいお餅のなかに餡子の代りに葡萄を入れたジャパン風の大福、それに、葡萄をふんだんに混ぜ込んだほんのりピンク色のフルーツ御団子など、見た目も愛らしく美味しそうなお菓子を作っていた。
「素敵なお菓子だね。私も早く食べたいな。シェリーキャンはどこにいるんだろう? お名前がわからないから呼ぶことも出来ないし、宴会も始められないよね」
 美味しいお菓子や珍しいお菓子には目が無いジャンヌ・バルザック(eb3346)は、薊の作ったお菓子に早くも心奪われつつ、葡萄棚を見上げながらシェリーキャンを目で探す。
 すると‥‥。

『呼んだかい?』
 
 どこからともなく声が降ってくる。 
「おっ、シェリーキャンか?」
 ヘクトル・フィルス(eb2259)がその大きな身体に見合う大きな声で、姿の見えないシェリーキャンに尋ねる。
『ええ、そう』
 ぽうっ。
 冒険者達の前に柔らかい光の玉が現れ、シェリーキャンが現れた。
 シフールのような愛らしい姿で、葡萄の葉をところどころ紐で結んで身に纏っている。
「サインバイノー‥‥こんにちは。ガンバートル・ノムホンモリだ‥‥『モリ』と呼んでくれると、嬉しい」
 少し華国語訛りのたどたどしいゲルマン語でシェリーキャンに挨拶するのはガンバートル・ノムホンモリ(eb3327)。
 ちなみに『サインバイノー』とは華国語で『こんにちは』の意味らしい。
「私はジャンヌ・バルザック。こう見えてもナイトなんだよ。貴方のお名前は?」
「わたしの名前はルーヴァ。領主から話は聞いているよ。貴方達が楽しい話を聞かせてくれる冒険者達だね?」
 ジャンヌの問いに答えて、シェリーキャン――ルーヴァは冒険者達を見まわす。
「はい、楽しいお話と、素敵な食事をご用意させていただきました。今日この時を、共に楽しめればと思います」
 薊がたおやかに微笑んで、ルーヴァにお菓子とどぶろくを見せる。
 そうして、美味しいお菓子とお酒を飲みながら、シェリーキャンとの語らいが始まった。


●1番手。ヘクトル・フィルス。
「面白い話が聞きたいっつーことで、俺もひとつ話しをしてみようじゃないの」
 へクトルは薊に酌をしてもらいながら、ドンとあぐらを組んで話し始める。
「君は知っているか? イギリスでもっとも愛されている酒を! エールにワイン、日本酒にシェリー酒。世界のさまざまな土地にはその土地特有のさまざまな酒があるんだ。嬉しい時、哀しい時、怒れる時、神聖なる時、酒は太古の昔より人の傍にあり、これからも友として人の傍にあるのだろう」
 いいながら、へクトルはぐいっと盃を煽る。
「さて、イギリスのキャメロットと云うところに<グローリーハンド>という酒場がある。多くの冒険者が集い大変な繁盛をしているらしいが、その酒場のマスターやウェイトレスには悩みの種があるらしい。あんた、どんな悩みかわかるか?」
 へクトルに尋ねられ、ふるふると首をふるルーヴァ。
「そ・れ・は、冒険者が無料の『気のぬけたエール』ばかりをたのんで全然儲からないって、今日も嘆いているのさね。まあ、イギリスは料理がまずいというけれど、ただ酒で何時間もたむろわれるのはどうかね〜って話さね。まあ〜どこにでも、『気まずい』酒はあるということで」
『気が抜けて味が不味い』エールと『気まずい』をかけたへクトルの駄洒落に、ルーヴァはぷっと吹いた。
 しかし、一番面白いのは一度もイギリスに行った事がないへクトルがイギリスの話をしたということかもしれない。事実かどうか、怪しいところだが。


●2番手。エリー・エル。
「お話しの前にぃ、まずはこれを見てぇん」
 エリーは懐からおもむろにカードを取り出し、ルーヴァに見せる。
「これは人間達が良く遊んでいるカードだな」
「うふっ♪ シェリーキャンのルーヴァ君も知ってるのねぇん? このカードの中から1枚、ルーヴァ君の好きなカードを選らんでねぇん。私はそのカードがどれか、当てて見せるわぁん」
 パラリとカードを扇状に広げて、ルーヴァに表側を、自分には裏側しか見えないようにして選ばせる。
 ルーヴァは少し悩みつつも、エリーに見えないように剣の3を抱きかかえるように選ぶ。
「じゃあつぎはぁ、そのカードをこの中に戻してねぇん」
 エリーは手にしていた残ったカードをくるっと180度回転させて、再び扇形にしてルーヴァに見せる。
 ルーヴァは言われた通りに選んだカードをエリーの持つカードにちょっと苦労しつつ押しこむ。
 もちろん、カードの数字は見えないようにだ。
「はい、ありがとうねぇん。じゃあこれを、薊君、良く切ってくれるぅん?」
「これを切ればいいんですか?」 
 突然話題を振られて驚きつつも、薊は丁寧にカードを切っていく。
「いい感じだわぁん。さぁて、ここからが本番よん。この混ぜられたカードの中からルーヴァの選んだカードは‥‥これよぉん」
 良く混ぜられたカードの数字を見ながら、1枚選んでルーヴァに見せる。
「それは、間違いなくわたしが選んだカードだ。一体何故‥‥!」
 驚くルーヴァ。
 エリーが選んだカードは間違いなく剣の3。
 先ほどルーヴァが選んだカードだった。
 一緒に見ていたジャンヌとガンバートル、それにヘクトルと薊も驚きの声をあげる。
 誰もエリーにカードの数字を教えたりはしていなかったし、知らなかったのだ。
 なのになぜエリーにはルーヴァの選んだカードが分かったのだろう?
「うふぅん、理由は内緒。おもしろかったかしらぁん?」
 ご機嫌に笑ってカードを片付けるエリー。
「さあ、余興はこれでおしまいよん。お次は私の話しを聞いてねぇん? 酒は万能の薬といわれていることは知ってるぅん? それはねぇん、嫌なことをひと時でも忘れさせてくれるからなんだよぉん。病は気からって云うしねぇん。自分の力でぇ、皆が楽しんでくれるの見るのって結構楽しいよぉん。こうして宴会を楽しくできるのもお酒の力だしぃ、お酒譲ってぇん」 
 ルーヴァにしなだれかかるようにお酒をねだるエリー。
 もちろん、シェリーキャンに人を支えれるわけがない。
 ルーヴァは驚いて避け、慌ててエリーを支える薊。
「エリーさん、もしかして酔っていらっしゃいますか?」
 薊が不安げに尋ねる。 
 ふらり、ふらり。
 エリーの上半身が舟を漕ぐ。
 エリーの手品にみな夢中で気付かなかったのだが、エリーはかなりのお酒を飲んでいたらしい。
「えへぇん? 私は酔ってないよぉん♪」 
 とろんとした瞳で薊にしがみつき、そのまま眠ってしまうエリー。
 薊は「仕方ないですね」と微笑み、そのまま膝をエリーに貸してあげて、次の話を聞く事にした。


●3番手。ガンバートル・ノムホンモリ。
「故郷に伝わる昔話など、お聞かせしよう‥‥」
 ガンバートルがおもむろに口を開く。
 ガンバートルの故郷であるモンゴル王国に伝わる昔話とは、一体どんな話しなのだろうか?
「皆は、孔雀という鳥を知っているかな? 自分の服に描かれているのがそうだ」
 ガンバートルは、服に施された孔雀の刺繍を指差し、皆に見せる。
 孔雀を見たことがなかった冒険者やシェリーキャンも、その7色に輝く扇状の羽根を興味深々に見つめる。 
 皆が孔雀を理解したのをみて、ガンバートルは話を続ける。
「昔、雄鶏はとてもお洒落で綺麗な尻尾を持っていて、鳥たちの中でも評判だった。しかし、孔雀はそれを妬んで、何とかしてその尻尾を騙し取ろうと予てから狙っていた。孔雀は、善人を装って雄鶏に近づき、仲良くなった振りをした。そして、ある時何食わぬ顔をしてこう言った。『雄鶏君、僕の尻尾と君の尻尾を交換させてくれないか? 近くの岩場にすむトンビたちに見せてあげたいんだ』人のよい雄鶏は、二つ返事で尻尾を貸してしまった。そして、孔雀は更にこう言った。『僕が今晩帰らなかったら翌朝早く呼んでくれ、僕は君の声を聞いたらすぐに走って帰ってくるから』そして、『もし明け方に帰ってこなかったら正午に、正午もまた帰ってこなかったら夕方に、夕方に帰ってこなかったら明け方に呼んでくれ、僕は必ず帰ってくるから』雄鶏は言われた通りにしたけれど、孔雀は遠い南の国に行ってしまって帰って来なかった。だから、今でも雄鶏は『尻尾を返してくれ』と朝・昼・晩に大きな声で鳴き続けているのだそうな‥‥どんとはれ」
 おかしくもあり、もの悲しくもあり。
 そんな昔話の最後は『どんとはれ』で締めくくるのが常。
 ガンバートルは、そこで一息ついた後、
「‥‥と、まあこんなお話だ。あまり、面白く無かったかな‥‥?」
 と苦笑いをした。
 シェリーキャンは、「随分と性格の悪い鳥がいたのだな」と眉を顰める。
「自分も、この話を初めて聞いたときには孔雀の性格の悪さに驚いたものだ。だから、自分はこの孔雀のように見た目ばかりを気にして他人を陥れる事のないよう、肩書きよりも実力を重んじる事の出来る人物となれるよう、戒めに孔雀の刺繍を服にいれてあるのだ」
 大切にしている自慢の髭を撫でながら、ガンバートルは話を終えた。


●4番手。ジャンヌ・バルザック。
「私の話す番ね。私は、私のお爺さんのお話をしてあげる」
 ジャンヌはおもむろに立ち上がり、ちょっぴり自慢気に話し出す。
「私のお爺さんのお父さんは、ナイトじゃなかったんだ。そう、お爺さんが、我が家の最初のナイトなの!
 お爺さんはね、若い頃は小さな村で用心棒してたんだ。
 その村にね、ある日、戦争で負けた軍隊がやってきちゃったの!
 村はもう大騒ぎ。
 そいつらは、その村で食料とかを奪って、逃げるつもりだったのよ。
 村の人達に、食料をよこせ、逆らえば‥‥、って脅してきてね。
 パリに助けを呼ぶのなんて、とても間に合わなかったの。
 そこでお爺さん――当時はまだ30歳くらいだったのよ、もちろん――が、一計を案じてね、な〜んと、三十路の男の人なのに、こうやって女の子の服を着てね」
 ジャンヌは話しながらマントを腰に巻き、スカートのようにして当時を再現する。
「なが〜い髪のカツラを被って顔を隠して。キンキン声の裏声出してね‥‥『戦士様、食料を持ってきました。どうかおゆるしください』な〜んて言ったもんだから、相手のリーダーはすっかり油断しちゃって」
 キンキン声の裏声を、実際にまねて見せるジャンヌ。
 クスクスとわらうシェリーキャン。
(「うんうん、いい感じ!」)
 笑う一同を見まわして、へ久トルにさりげなく近づきながら更にジャンヌは話しを続ける。
「盗賊のリーダーが背中を向けた所をね、スカートの中から剣を取り出して‥‥忍び足で近づいて‥‥えいやあっ! ってやっつけちゃったのよ」
「うおっ?! 俺をやっつけてどうする!」
 ヘクトル目掛けて振り下ろされたジャンヌの剣をとっさに避けて、その特徴的な目を見開いて抗議するヘクトル。 
「あはっ、ごめんごめん、ついね。で、話の続き。お爺さんはそれで偉い人に目をかけてもらって、その村のナイトになったんだって。そう、私もその村で育ったんだ。お爺さんはいつも言ってる、本当に大事な物を守る為なら、恥ずかしい事なんて何一つ無いんだ、ってね 」
 誇らしげに語るジャンヌは、それはそれは輝いて見えた。


●ラスト。薊 鬼十郎。
「最後は私ですね。面白い話というと‥‥欧州を廻国修行中に会ったのですが、行く所行く所に現れる謎の商人エチゴヤでしょうか。彼は、私が訪れたイギリスのキャメロット、ノルマンのパリ、それにここドレスタット。そのどの場所にもいらしたんです」
「その商人はわたしも港で見たことがある。スキンヘッドが中々にいかした殿方だったな。彼は人間だったと思うのだが、そんなに早く移動できるのか? シェリーキャンでもシフールでもなく、羽を持たない人間がキャメロットやパリを常に移動してそのどちらでも物を売る事など不可能だと思うのだが」
 ルーヴァは以前見たエチゴヤの商人を思い出す。
「ええ、人間は通常ならそんなに早く移動できません。実は、エチゴヤの主人は顔がそっくりな兄弟が何人もいらして、それぞれがそれぞれの街で商売を営んでいらしたのです」
「なるほどな。あの商人は兄弟が多いのか。しかし兄弟とはいえそんなに似ているのか?」
「それはもう。何度かお会いしていた私も兄弟だときかされるまで、ううん、聞かされた後もなかなか見分けがつきませんでした」
「ふむ。今度わたしもイギリスへ飛び立った時にはエチゴヤを覗いてみようか。それほど似ている顔とやらを見てみたい。いや、いっそのこと兄弟全員を並べて見比べてみたいものだな」
 真顔で言うルーヴァに薊は一瞬マッチョなスキンヘッドがずらっと並ぶ様子を思い浮かべてくすくすと笑う。
「? なにかおかしいことを言ったか?」
 首を傾げるシェリーキャンに、薊は、
「いいえ、なんでもございません。もう一つ、面白いお話をいたしましょう」 
 エリーに膝枕をしたまま、薊は次の話を始める。
「蝦蟇を鏡の箱に入れると、自分の姿を見て蝦蟇は全身から汁をタラタラ出すんです。その汁をすき取って柳の小枝で煮詰めると、止血の薬になるんですよ。独特の売り口上がまた人気なんです」
 いいながら、薊はすこし芝居がかった声でがまの油の売り口上を真似る。
 その声真似にルーヴァも冒険者もくすくすと笑いが止まらない。
 そして、話し終えた薊はじーっとシェリーキャンを見つめて、真顔で一言呟いた。
「出ないですね‥‥汁が」
 首を傾げる薊に、「おいおいおいおい」と突っ込みを入れる一同。
 オーガについてはそれなりに詳しい薊だったが、シェリーキャンについてはまったく知らなかったらしい。
 蝦蟇の油よろしくシェリーキャンの身体からワインが溢れ出ると思っていたようだ。
「わたしの身体からはなにもでないぞ‥‥」
 やっと薊の勘違いに気付いたルーヴァは、額に冷や汗を垂らして否定した。

 そうして。
 冒険者達の楽しい話しを沢山聞いて満足したルーヴァは、「今日は本当に楽しかったよ」と約束通り貴腐ワインを作り上げて冒険者に手渡し。
 今回の依頼を無事、終えたのだった。