●リプレイ本文
●お酒に合うパンってどんなパン?
「お酒に合うパンか。作りがいがありそうだね」
依頼人であるパン屋の主人の店の中で、パン独特の香りを楽しみながらカルナック・イクス(ea0144)。
「んー、お酒にあうパンかー、実際の所はおいしいパンを作ればなんだっていいような気がするんだけど‥‥、ま、そんなこと考えるのはあたしだけかな?」
食べるの大得意☆ 大食漢なノリア・カサンドラ(ea1558)が身も蓋もないことをいう。
「食べてしまえば確かに同じ気もするね。でもお酒と一緒に食べやすいパンというものもあると思うんだよね。ラルフ兄様もそう思わない?」
フェルトナ・リーン(ea3142)がノリアの言葉に同意しつつ、義理の兄のラルフ・クイーンズベリー(ea3140)にゆっくりと尋ねる。
ラルフは、イギリス語は流暢なのだが、ゲルマン語はあまり得意ではない。
だから聞き取りやすいように、また他の2人にも会話がわかるようにフェルトナはゆっくりと話しかけるのだ。
「うん、そうだね。僕もお酒に合うパンをフェルと一緒に作れたらいいなと思っているんだよ」
可愛い義妹に頷くラルフ。
さあ、みんなでパン作りを始めよう☆
●試行錯誤。がんばってつくろう☆
「ふんふんふ〜ん♪」
パン屋さんの厨房を借りて機嫌良く鼻歌を歌いながら、フライパンにオリーブオイルを垂らし、あらかじめパンに挟める大きさに切っておいた鶏の胸肉を、小麦粉をつけて焼くカルナック。
「これをふわふわのパンに挟んで食べたらどうだろうかな?」
カルナックは、パンそのものではなく、依頼主の店長自慢のパンをそのまま使い、そのパンに挟んで食べられる料理を作っているのだ。
鶏肉はにんにくのみじん切りと白ワイン、レモン汁に塩をあわせた下味に1時間もじっくりと漬け込んであり、フライパンの上でこんがりと焼き色がついてきたところへ、今度は下味に使った調味料を加えてとろみが出るまで煮詰める。
くつくつと弱火でじっくりと煮からめていると、
「それだけで食べても美味しそうだね」
興味津々♪
ノリアが美味しい匂いにつられてカルナックの手元を覗きこむ。
「そう言っていただけると作りがいがあるね。でもね、これはこのまま食べるには味が濃すぎるんだよね」
「そうなの?」
「うん。パンに挟んで食べる事が前提だから、その分味を強めにしてあるんだよ」
いいながら、「よっ」と掛け声をかけて鶏肉をひっくり返すカルナック。
「なるほどねー」
と頷くノリア。
「ノリアさんの方はどうなのかな? うまくいってる?」
「んー、とりあえず考え付いたのは、既存のパンをちょっと工夫してワインにあうようにすることかな? こんなかんじ」
そういってカルナックに差し出したのは、丸くてふんわりとした茶色いパンの真中に、お花のように黄色くとろけたチーズがのったパン。
「かわいらしいな。それにワインとチーズは良く合う」
ノリアの作ったパンを意外そうな目で見るカルナック。
「うーん、あうことはあうんだけどこれだと手間がかかる気がするんだよね」
一つ試食してみて、ワインに合う事は確認済みなのだが、焼けてとろけるチーズが上手く真ん中に収まらなかったり、パンの上から零れて横に流れだしてチーズに熱が通りすぎて硬くなってしまったり。
見た目も味も中々一定には出来あがらなかったのだ。
一見するとパンの真ん中にチーズをのせるだけの簡単料理に見えるのだが、なかなかどうして難しい。
「それなら、パンの中種にブロック状に切ったチーズを練り込んで焼き上げたりするのも良いんじゃないかと思うんだ」
綺麗に焼きあがった鶏肉をバケットに写し、粗熱を取りながら提案するカルナック。
「あ、それいいね! それもつくろう、うん。でもカルナックさん、すぐにパンに挟まないの? せっかく出来立てなのに冷めちゃうよ」
オリーブオイルの良い香りを漂わせながら『たべてーたべてー♪』といわんばかりの焼きたて鶏肉をわくわくとみつめるノリア。
「冷めていいんだよ。むしろ冷まさないと不味いんだ。暖かいままパンに挟むとパンと鶏肉の間に蒸気が溜まり、パンが湿ってしまうんだよ。だから最低でも30分は冷ましてからの方がいい」
不思議がるノリアに微笑んで、カルナックはノリアと一緒に次のパンを作り始める。
そしてその少し離れた場所では、
「ラルフ兄様、油がはねます、離れていてね!」
「う、うん!」
フェルトナとラルフが何やら危険な料理を作っている。
ボチャーンボチャーンと厚手の鍋に並々と注いだ熱した油の中に、近所の森で摘んできた香草を卵と小麦粉を混ぜた衣をまぶして投げ込むフェルトナ。
ジャパンからの旅人から聞いた『天麩羅』を作ってみようとしているのだが、一度も見た事も食べた事もない料理だから、はっきりきっぱり怪しさ無限大。
ましてやフェルトナは器用ではあるものの料理は作れず、ラルフも余り料理は作れず可愛い義妹のフェルトナに教わろうと思っていたから、手伝いなど出来ようはずもなく。
バチバチと油を飛ばしながら揚がる香草は何やら怪しげな香りを漂わせ、どろりとした物体が出来あがった。
「‥‥これが、天麩羅なんだね?」
おそるおそる、控えめに尋ねるラルフ。
「‥‥たぶん」
額に冷や汗を垂らして頷くフェルトナ。
ここにジャパン出身の冒険者がいたなら、激しく違うと突っ込みをいれた事だろう。
けれどその場に突っ込みを入れられる人物はおらず、間違った認識のまま焦げてでろでろなその物体をパンに挟んで試食してみるフェルトナ。
はらはらと固唾を飲んで見守るラルフ。
「‥‥‥‥ジャパンでは、変わった物を、食べるんだね」
一言一言噛み砕くように。
あまりの不味さに涙ぐむフェルトナ。
「フェル、僕もパンを少し考えてみたんだ。手伝ってもらえるかな?」
話題を変えようと、ラルフがいそいそと提案する。
「‥‥ラルフ兄様がそういうなら。どんなパンかな?」
「えっとね、僕はパンの間に挟んで食べられる様にする物と、つまみ程度に気軽に食べられる様に2通り考えてるんだ。ジョッキ片手に持って、パンを軽く摘んで食べられる方が良いと思うんだよね」
実際に酒場のお客様が食べる様子を思い浮かべながら、ラルフはそう提案する。
「素敵だね。うん、それつくろう!」
大好きなラルフの提案に1も2もなくフェルトナは頷いて、2人は再びパンを作り出す。
●試食〜どのパンを売りこもう?
「できましたかな?」
依頼人の店長が、一人娘のポエットを連れて厨房に現れる。
「わあっ、美味しそうなパンがいっぱいですね!」
ぴょこんと2つに分けた三つ編みを揺らして喜ぶポエット。
テーブルに並べられた冒険者達が作ったパンは、どれもこれも美味しそうだった。
さっそく試食を始める冒険者と依頼人。もちろんポエットも一緒に食べる。
「ふむ、このカリカリとした食間は男女ともに好まれそうですな」
「それ、あたしが作ったんだよ。命名、カリカリパン!」
ノリアが依頼人にパンの説明をする。
棒状にして、筒の中に入れて食べやすくなっているそのパンは、うーんうーんと悩んで頭から煙をふきそうになりながらノリアが作ったパン。
パンをこねて生地を作る際に、割ったクルミを入れ、その生地を転がして伸ばす。
それを細長い棒状にして並べ、発酵させた後、チーズとあら塩をまぶして焼く。
チーズはもちろんワインに合うし、塩がよりいっそうチーズのうまみを引きたてて、魅力的だった。
そして作り方も簡単で、量産できる点もポイントが高い。
「カルナックさんのパン、頂いていいかな?」
「もちろんだよ。十分冷ましたから、美味いはずだよ」
カルナックのパンが食べたくてうずうずしていたノリアは、嬉々としてカルナック作のパンを頬張る。
「鶏肉が柔らかくて、にんにくが効いているから食欲も湧くし、これってほんとに冒険者のためのパンって感じがするね」
ぱくぱくぱくぱく。
一つでは飽き足らず、次々と平らげていくノリア。
「キミ達2人のパンは、これかな?」
ノリアの作ったパンよりも更に細く棒状になっていたパンを摘んで、尋ねるカルナック。
「ええ。私とラルフ兄様で作ったのよ」
流石に天麩羅もどきは試食前に処分したようだ。
「ふむ。ひぃ、ふぅ、みぃ‥‥4種類ですか。どれもこれも美味しく、どれか一つを選ぶ事などできません。この際、全て酒場に売りこんでみましょう!」
娘のポエットに微笑みながら、4種類のパンを絶賛する依頼人。
ノリアのつくったカリカリパン、カルナックのチーズ入りパンと鶏肉サンド、ラウルとフェルトナが一緒に作った辛めの香草を使ったパン。
その4種類を、依頼人とポエット、そして冒険者達は酒場へと売りこみにいくのだった。
●エピローグ
「美味しそうなパンですねぇ」
酒場のウェイトレス――アンリが籠に入った冒険者達の作ったパンにうっとりと呟く。
「ええ、もちろん。あたし達が作ったパン、食べてみて」
アンリにパンを差し出すノリア。
フェルトナはこっそりチャームを使って酒場のウェイトレスやマスターに交渉しようと思っていたが、酒場には冒険者が多く、とてもばれずに使える状態ではなかった。
「ふむふむ、おひとつ頂きます」
ぱくっと一口パンを齧るアンリ。
「うわー、これ本当に美味しいですね‥‥ふふっ、マスターはいま手が離せなくて。だからこちらは私が預かっておきますね。マスターにはのちほど私からお話しておきます」
いいながらアンリの目がキラキラと籠の中のパンを見つめている。
「‥‥キミ、全部食べてしまっては駄目だよ?」
カルナックが釘をさし、アンリは「そ、そんな事するはずないじゃないですかー‥‥!」とあわてて抗議して。
売りこみが成功したかどうかはまだわからないもののお酒に合うパンを作れた冒険者達は、無事に依頼を終わらせたのである。