マジェンダと不思議な光
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月17日〜08月22日
リプレイ公開日:2005年08月28日
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●オープニング
その日、冒険者ギルドを訪れたのは、見た事もないような美女だった。
蜂密色に輝く豊かな金髪を縦ロールにして束ね、碧い瞳は大きく知的に輝き、ふくよかな胸は否応無しに異性の視線を引きつける。
そしてその美女が、じっと自分を見つめていたら、万年一人身受付係でなくともでれでれと舞いあがってしまうのは自然の性というもの。
「あのー、僕になにかご用ですか? お嬢様」
鼻の下が伸びそうなぐらいにこやかに話しかける万年一人身受付係。
「ふぅん。あなた、わたくしがわからないの?」
「えっ? どこかでお会いしていますかね?!」
まじまじと自分を見つめて呆れる美女に、慌てふためく受け付け係り。
自慢じゃないが、こんな美女の知り合いはいない。
「そう? じゃあ、また首をしめてあげましょうか?」
ふふんと笑って美女は大胆にも万年一人身受付係の襟元を締め上げる振りをする。
その、シチュエーション。
その声。
‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥!
「あーーーーーーーーー!! あの時のデ○な依頼人?!」
「‥‥ええ、そう。その『○ブ』のマジェンダ。思い出してくれて嬉しいわ」
首を締める振りだったのが、きゅうっとついつい力をこめてしまったのはなにも依頼人の根性が悪いからではないだろう。
女性にデ○というのは禁句なのだ。
例え事実であっても。
「あうう、くるしいっすよ、マジェンダさんっ! でもほんとにお綺麗になられましたね」
マジェンダから解放されてちょっぴり咳き込みつつ、そう呟く受付係。
マジェンダは先日ギルドを訪れた時とは信じられないぐらいに痩せて綺麗になっていた。
「冒険者達のおかげよ。でも、今日ここに来たのは別件なの。最近家の周りに変な光が現れるのよ‥‥」
「光、ですか?」
「ええ、そう。夜になると、いくつかの光が家の周囲を巡っているの。まるで見張られているみたいで恐いのよ。それにその光が現れる前にちょっとした火事もあったし。調べてもらえないかしら?」
柳眉を顰めて不安がるマジェンダに受付係は快く請け負い、ギルドにまた新たな依頼書が張り出されるのだった。
●リプレイ本文
●生粋の美女。その名はマジェンダ。
「今回、依頼を任されたニルナ・ヒュッケバインです‥‥っと、お久しぶりですね。マジェンダさん」
謎の光に悩まされる依頼人・マジェンダの為にその屋敷を訪れた冒険者達。
以前別の依頼でマジェンダと面識のあったニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)がその変貌振りに少々驚きながらも親しげに挨拶する。
「しかし、本当に変わったな。どうだ、一緒にナンパしにいかないか?」
と依頼人をナンパに誘うのは恋多き女・大宗院 奈々(eb0916)。
やはり彼女も以前のマジェンダを知っている分、その変わりように驚いている。
「わたくしはインドゥーラの僧、シャクティと申します。皆様、どうぞ宜しくお願い致します」
礼儀正しく初対面のマジェンダに挨拶するのはシャクティ・シッダールタ(ea5989)。
しかし、態度は礼儀正しいのだが‥‥。
「貴方、その格好は一体‥‥?」
マジェンダの額に冷や汗が流れる。
「マジェンダ様に失礼のないよう、ジャパンの礼服を着て参りました。そうだ! 皆さんも着てみませんか、十二単? ちょっと重いですけどね」
着物を何十にも重ねた12単を見事に着こなして皆にも勧めるシャクティ。
でも12単は確かに綺麗だけれど、夏場にそれはちょっと無理があるようなないような。
「シャクティさん、それは普通は重くて着られないです。お洒落も体力あってのことなのですよ」
どうしたものかと悩むマジェンダの代りに、シャクティの友人であるクリシュナ・パラハ(ea1850)がすかさず止める。
「あら、そうなの? 残念だわ」
友達に止められたシャクティは心底残念そうに呟く。
「しかし、なんなのでしょうか‥‥。不審火‥‥人なのか、それ以外なのか、調べて見ればわかるでしょうが」
あたりを見まわしながら、セシリア・カータ(ea1643)が謎の光を思案する。
まだ日が高く明るいせいか、それらしい光は見当たらない。
「マジェンダ、私はサラサ。バードのサラサ・フローライトだ。よろしく頼む。早速だが、火事現場の場所と日時を教えてもらえるだろうか?」
マジェンダに面識のある面々が彼女の姿に驚いている事に内心首を傾げつつ、淡々と情報提示を依頼人に求めるサラサ・フローライト(ea3026)。
さあ、謎の光を探し出そう☆
●美味しい食事?
謎の光は夜に現れる。
だから、サラサとシャクティの提案で昼間は夜に備えて睡眠をとり、日が落ちる頃に起き出した冒険者達。
謎の光の調査の前に先に食事をとることになったのだが‥‥。
「わたくしは仏教徒です。依頼中に振舞われるお料理ですが、肉や魚、獣の油を使った料理は一切、手をつけられません。食べる事が出来るのは、野菜と果物のみなんです」
それはそれは豪華な食事を前にして、十二単はとうに脱ぎ、いつもの動きやすい服に着替えていたシャクティは申し訳なさそうに席を立つ。
「どこへ行かれるの?」
少しむっとしつつ、問いかけるマジェンダ。
冒険者達のために以前の自分がよく好んで食べた栄養もボリュームも人並み以上の豪華な食事を用意したつもりだったのだが、口に合わなかったのだろうか?
「はい、マジェンダ様。宗派の違いがありますから、食前の祈りにも参加できないのです。申し訳ありません」
「なるほどね。それなら仕方ないわね。料理人に貴方用の料理を作らせるわ。気付かなくて悪かったわね」
「いいえ、お気遣いをありがとうございます」
深々とお辞儀をして食堂を出ていくシャクティ。
シャクティを除く全員で食前の祈りを捧げた後、美味しく食事をぱくつき出す冒険者達。
「なあ、マジェンダ。こんな食事を食べつづけていたら、また太るんじゃないか?」
子ウサギのソテーをナイフとフォークで切り分けつつ、上座に座るマジェンダに問いかける大宗院。
せっかく以前の依頼で痩せる方法や食事を教えたのに、美味しいがまた以前と変わらない脂っこい肉類中心の豪華過ぎる食事に眉を顰める。
「普段は皆様に教えていただいた食事をしていますのよ。今日も、わたくしの食事はこちらですから」
大宗院の疑問に手前に置かれた小量のサラダを指差すマジェンダ。
「マジェンダさん、まさか今日のお食事はそれだけですか?」
ニルナが驚く。
「ええ、そう。どんどん痩せて楽しいわ」
「‥‥それは駄目です、マジェンダ様」
嬉しそうに笑うマジェンダに、しかしニルナはいつになく厳しく言い放つ。
「あら、なぜ? 無駄に食べたりはしていないわよ?」
「食事というものはきちんと食べてこそ、その力を発揮できるのです。武道と同じですね。力の使い方を間違えると怪我をしたりしてしまいます。無理な食事制限は身体を害するだけなんです。マジェンダさん、最近きちんと眠れていますか?」
マジェンダの身体を気遣い、心配するニルナの言葉に、マジェンダは、そう言えばここ最近余りよく眠れていなかったと思い当たる。
よく眠れなくて、窓の外を眺める事が多くなり、それで不審な光にも気付いたのだ。
「やっぱり‥‥。無理は禁物です。ゆっくりゆっくり、焦らずに痩せていきましょう。マジェンダさん、本当にお綺麗になられたのですから。私、負けちゃいそうです。あ、相談なんですけど、できれば依頼主と冒険者との関係以外でお付き合いできませんか?」
「外で? また稽古をつけてくださるの?」
「マジェンダさんが望むならまた一緒に稽古に励みましょう。そしてお友達になってくださいません‥‥?」
突然のニルナの言葉に驚くマジェンダ。
いまでも目に焼き付いている。
キラキラと陽光に輝く金髪をなびかせて舞うニルナ。
日に透けて輝く金髪は、本当に美しく、ニルナのような女性になりたいとマジェンダは強く思っていたのだ。
だから、その憧れのニルナによもやまさか友人関係を申し込まれるとは思ってもいなかった。
「ええ、いいわ。喜んで友人にならさせていただくわ」
マジェンダはちょっぴり照れつつ、ニルナに微笑んだ。
●夜の見回り〜謎の男と謎の光。
「このあたりか?」
夜。
食事を終え不審火の正体を探して屋敷の周囲を見まわっていたサラサがマジェンダから借りたランタンを掲げ、小声で呟く。
サラサ、ニルナ、セシリアの3人と、シャクティ、クリシュナ、大宗院の3人がそれぞれグループとなり、屋敷の周囲を見まわっていた。
「サラサさん、こちらを見てください!」
サラサと共に見回りをしていたニルナが屋敷を囲う塀を指差す。
「これは‥‥焼け跡でしょうか?」
やっぱり一緒に見まわっていたセシリアも、かがんで塀の黒ずみを覗きこむ。
「そのようだな。マジェンダの言っていた火事現場はここで間違いないな」
火事と不審火の関連性を調べる為に、サラサはあらかじめ火事が起こった日時をマジェンダから聞きだし、先ほどから探していたのだ。
「‥‥怪しげな男性が見える‥‥」
その場に屈み込み、焦げ後に指先を触れてパーストで過去を視るサラサ。
サラサの脳裏には、この場所で起こった過去の出来事が色鮮やかに映し出されていた。
――しかし。
「サラサさん、どうかなさいましたか?」
眉間に皺を寄せ、黙ってしまったサラサを心配げにニルナが覗きこむ。
「‥‥いや、たいした事ではないのだろう。夜間の出来事を見たから、少し見えづらいのかもしれない。‥‥この場所で、数日前に不審な男が放火をしているんだ。髭面の、少し筋肉質な男だ。この男については、あとでマジェンダに確認を取ろう。ここまではよく視えた。だが、問題はその後だ。その男が放火をした瞬間、なにやら明る過ぎる光があたりを覆ってしまってよくみれないんだ」
「明るい光ですか?」
「ああ。明るい光が薄まった後は、放火犯も消えていた。そのあとは異変に気付いた使用人達が屋敷から出てきて放火の火を消しにかかっているのをみる事が出来た」
立ち上がり、服のほこりを払うサラサ。
「謎の男‥‥ストーカだったら怖いですね‥‥」
気味悪げにあたりを見回すセシリア。
(「‥‥光、か。もしや精霊が関わっているのだろうか?」)
サラサは心の中で呟いた。
●夜の見回り〜犯人!
連日、見回りをする冒険者達。
サラサの調べた謎の男には、マジェンダは面識が無いという。
そろそろ、冒険者達に焦りが見え始めた頃、それは現れた。
「あの光は一体‥‥?」
シャクティが前方を指差す。
「謎の光か!」
大宗院が光に向かって走り出す。
謎の光は、何やら見知らぬ髭面の男に襲いかかっていた。
「ひいいっ、ひいいーーっっ!!」
地べたに這いつくばって怯える男を見て、
「おぉ、中々いい男だな。今夜どうだ?」
そう誘って大宗院が謎の光に向かって手裏剣を投げつける!
怯える男は髭面だが、なかなかに整った顔立ちをしており大宗院の好みだったのだ。
謎の光は手裏剣を投げつけられて怒ったのか、ぶるぶるっと震えると次の瞬間、大宗院めがけてファイヤーボムが撃ち放たれた!
派手に爆ぜる炎を浴びて、その場に倒れ伏す大宗院。
「奈々さま、しっかり!」
駆け寄ってリカバーを唱えるシャクティ。
「くっ、火の玉風情がまさかこんな魔法を唱えるなんてな‥‥」
シャクティに支えられて悔しげに顔を歪める大宗院。
「‥‥ファイヤーコントロール!」
屋敷に燃え移りかけていた炎を消し去るクリシュナ。
謎の光はふるふると空中に漂い、様子を見ているようだ。
ファイヤーボムの音を聞きつけて、セシリア、ニルナ、サラサが駆け付ける!
「みなさま、ご無事ですか?!」
「クリシュナさん、シャクティさん、その男性を捕まえてください!」
「そいつが放火犯だ! 光には手を出してはいけない!」
口々に叫んで、サラサはあらかじめ唱えておいたテレパシーで、謎の光――エシュロンに語りかける。
過去を見たときには光が強くて上手く見ることが出来なかったが、恐らく放火していた髭面の男性を止めていたのだろう――エシュロンは火を良からぬ事に使われるのをとても嫌うから。
自分達に敵意がないこと、そのイメージをサラサがエシュロンに伝えると、エシュロンはサラサの周囲をふんわりふんわりと回り、理解してくれたようだった。
「サラサさま、この男の人はなんなのです?」
シャクティが逃げ出そうとしていた男の腕をすかさず捕らえ、ねじり上げて抑えつける。
「そいつは数日前にマジェンダの屋敷に放火した犯人だ。ここにいるエシュロンに邪魔されて逃げ出したようだが」
エシュロンは男を見るとその炎をいっそう強く燃えあがらせて威嚇する。
「ひいっ」と情けなく怯える男。
「呆れた奴だな。さっきの言葉は取り消そう」
と恋多き女・大宗院も呆れる。
いくら顔が好みでもチキンな放火犯などごめんだ。
「エシュロンは、この男がまた悪さをするんじゃないかと、屋敷の周囲を見まわっていたらしい。律儀な奴だ」
ふわん、ふわん。
サラサに擦り寄るように浮かぶエシュロン。
どうやらサラサに懐いてしまったようだ。
自然と、無愛想なサラサにも笑みが零れた。
こうして。
放火犯は無事に捕まり、謎の光はその後、マジェンダの屋敷に現れる事は無くなったのだった。