●リプレイ本文
●グロリア
ジェラルディン・ブラウン(eb2321)とリユニティ・ブラッドプール(ea9925)、そしてティラ・ノクトーン(ea2276)がグロリアの家を訪れた時、グロリアはそれはそれは元気だった。
「よくいらしてくれたわね。なんにもないあばら家だけれど、寛いでもらえたらうれしいわ」
びっこをひいて、それでも笑顔でお茶を煎れるグロリア。
「やっぱり、まだ痛みますか?」
ジェラルディンが包帯を巻いたグロリアの足首を見て心配げに問う。
「薬草湿布をソウジが作ってくれたんだよね。きっと治りが良くなるんだよ。ちょっと足を見せてもらえるかな?」
友人のソウジが作った薬草湿布を籠から取り出して、グロリアに見せるリユニティ。
「ありがたいわね。ええ、歩けるようにはなったのだけれど、まだ痛むのよ」
椅子に腰掛け、おとなしくリユニティの手当てを受けるグロリア。
「あわわっ、ほんとに痛そうだねっ‥‥」
包帯をはずされて、紫に腫れあがっているグロリアの足をみておろおろと飛びまわるティラ。
グロリアはとても元気そうに見えたが、足の腫れはかなり酷い。
「こういう怪我って、リカバーは少しでも効くのかしら? よく判らないので試してみるわね」
ジェラルディンがいいながらリカバーを唱える。
すると。
「‥‥治った?」
ティラが目を見開く。
グロリアの足の腫れはみるみるしぼんでいき、見た目にはなんともない状態に治ったのだ。
「凄いわね。痛みもなくってよ」
グロリアも驚きながらたち上がる。
けれど歩き方がどこかぎこちない。
「ずっと傷ついた足を庇って生活していたから、余分な負担が膝に掛かっていたのかもしれないね。ここ痛い?」
グロリアの膝裏を軽く指で押すリユニティ。
「っ!」
「やっぱり痛いんだね。湿布を張らせてもらうよ。足首は治ったけれど、慢性的な負担からくる痛みにはきっとこれが効くから」
くるくると手馴れた手付きで湿布を患部に当てて包帯を巻くリユニティ。
「グロリアさん、すっかり回復したら、グロリアさんの踊りを見せてくれる?」
期待の眼差しで、グロリアを見つめるティラ。
「この感じなら、酒場の記念パーティには間に合いそうだね。大丈夫そうだったら、私たちと一緒に舞台に出てほしいんだよね」
リユニティも打診する。
グロリアは大きく頷いて、「わかったわ。早く完治するように体調を整えて最終日にのぞむわ」と約束した。
●酒場
「やっほ〜みんなー、今日も一日お疲れさま〜♪ 一日の締め括りに楽しんでいってね〜っ♪」
グロリアのお見舞いを終えて、そろそろ日も沈みかけた頃。
ティラが楽しげに飛びまわり、酒場の前でシルバーと一緒に呼びこみをはじめる。
シルバーはその端正な眼差しで女性客を魅了し、見つめられた女性達は「無口で素敵!」とうっとりしながら連れ立って酒場へと入って行く。
隠密行動には忍び込む屋敷のメイドを口説いたり口説いたり口説いたりしなければならないことも多々あるから、無口でも呼びこみなどお手のものだった。
「踊りの技術は私ではグロリアさんに到底及びませんわ‥‥ですがっ! ここは女の武器を最大限に生かして舞台を盛上げてみせますわっ!」
酒場の舞台裏では、拳をぐっと固め、極限まで身体のラインを出した魅惑的な踊り子の衣装に身を包んだリリー・ストーム(ea9927)が高らかに宣言する。
酒場は、呼びこみの効果もあってかすでに仕事帰りの男性客や女性客でかなりの賑わいを見せている。
「柄の悪いお客様には‥‥何処まで手を出していいのでしょうか? お店のイメージが悪くなるので放置も出来ませんけど‥‥一応お客様‥‥ですし‥‥」
長く艶やかな黒髪を動きやすくポニーテールに纏め、自前のスリットを深く入れた黒い民族服を身に纏った明王院 未楡(eb2404)がおっとりした物腰とは裏腹になにやら激しく物騒な事を呟く。
尋ねられた酒場のマスターは、「お手柔らかに頼むよ‥‥」と青ざめつつ、「その刀はなんだい?」と明王院の手に持った刀を指差す。
「刀剣ですわ‥‥」
ほがらかに。
とことんほがらかに微笑む明王院。
(「いや、刀なのはわかっている。わかっているけれど何故に剥き身の刀剣を手に持って微笑んでいるんだ?!」)
心の底からそう叫びたいのをマスターはぐっと我慢して。
「本当に、お手柔らかに頼むよ‥‥」
天を煽いで呟いた。
●歌と踊りと炎と乱闘。
「うひょうっ、ねーちゃん最高だぜー!」
ヒューヒューと口笛を鳴らす観客の前で、舞台の上のアンデッタ・アンラッキー(eb3421)が炎の舞を見せる。
アンデッタはクリエイトファイヤーで自ら炎を作りだし、さらにリユニティの友人から一日だけ借りたファイヤーコントロールのスクロールを用いて炎を変幻自在に操っている。
ボシュっ!
シュボボボボボボボッ!
くねくねと蛇のように舞う炎は、観客の上空をくるくると踊り、時折、炎の粉を撒き散らせながら薄暗い酒場を楽しく照らし出し、観客達は大喜び!
「うむ、いい感じだね。もっとよく見せてあげようね」
観客の歓声に気を良くしたアンデッタは、炎の輪を幾重にも重ねてちょっぴり危険だけれど自分の身体に纏い、さらに腕をピンと伸ばして炎を天井に走らせて観客を魅了する。
炎の舞が最高潮に達すと、舞台の袖から魅惑的な曲と共にリリーが現れる。
曲と共に見事な肢体を惜しげもなく晒し、アンデッタの炎に照らされながら踊るリリーは、踊りこそ本職の踊り子に比べて拙いものの、十分魅力的だった。
リリーのなんともいえない色香に釘づけになる観客達。
「へへっ、ねーちゃんいろっぺーなあ♪」
片手にビールのジョッキを持ち、赤ら顔でよろよろと危ない足取りで舞台に上がってくるおっさん。
(「あらあら、お約束ですこと」)
半ば呆れながら、踊りを止めるリリー。
「リリーさん‥‥これを‥‥」
舞台の袖から明王院が予備の剣をリリーに投げて寄越す。
「あらあらっ、ありがとう」
普段リリーが使うハルバードや斬馬刀に比べてあまりにも軽いその剣を取り落としそうになるリリー。
「ねーちゃんねーちゃん、そんな使いなれないもん持っちゃあなんねえよ。なあ、俺と一杯どうだい♪」
酒くさい息を吐きながら、使い慣れないというより軽すぎる剣に戸惑っていたリリーに迫るおっさん。
ヒュン!
「!!」
そのおっさんの前髪を刀剣でパラリと切り落とすリリー。
絶句するおっさん。
「続いての演目は‥‥『華麗なる踊り子への刺客』‥‥ですわ」
明王院が舞台に上がり、リリーと2人でおっさんを刀剣で弄ぶ。
「うわっ、うわわっ?!」
すっかり酔いが冷めて2人の剣に踊らされる哀れなおっさん。
しかし、
「おうおう、ねーちゃんたち、随分やってくれるじゃねぇか‥‥ただで済むたぁ思ってねぇよな?」
観客席から怒りをあらわにして厳めしい男が立ち上がる。
それに従うようにチンピラ風情の男達も立ち上がってにやにやと舞台を見つめている。
どうやら舞台で踊る哀れなおっさんの仲間らしい。
「あら、お金を払ってくださるの?」
しれっと言い切るリリーにチンピラの親分はブチ切れた!
「てんめえっ、女の癖に生意気だぜ!」
一気に舞台に乱入してくる男達。
「女の癖に。いま、女の癖にといったのかい?」
舞台の袖に下がっていたアンデッタのこめかみに青筋が立つ。
「僕はそう言われるのが大っ嫌いなんだよね!!」
バシュっと炎を男達に飛ばして切れるアンデッタ。
「うふふ‥‥いくらでもお相手して差し上げますわ‥‥」
乱入してきた酔っ払いどもをいともたやすくなぎ払う明王院。
もちろん、全員みね打ちだ。
そしてリリーは、
「お願い、助けてっ!」
舞台から駆け下りて観客の中でいちばん見栄えのいい容姿の男性に擦り寄って助けを求めてみたりする。
「えっ、ええっ?!」
頼られた男はおろおろしつつ、リリーに引っ付いてきた酔っ払ったブ男達に袋叩きにされている。
「おまえばっかりおまえばっかりいい思いしやがって〜」などという罵声が聞こえる事から、酔っ払い達は日ごろから相当嫉んでいたのだろう。
(「ふぅ〜後で、上目遣いで『私のために‥‥ありがとう‥‥』と言いながらフォローしておきましょっと‥‥」)
ぼこぼこにされる生贄=色男を尻目に、さっさと舞台裏に隠れるリリー。
「もうもうっ、暴れるのやめてよ〜! もぉ〜あと片付けとか、ホント大変なんだよ〜っ!」
ティラが必至に飛びまわってスリープをかけて暴れる男たちを眠らして、給仕をしていたジェラルディンは意を決して歌い出す。
ジェラルディンが歌うのは酒場にはおよそそぐわない聖歌。
けれど聖なるその歌は、酔った男達の頭を冷やすには十分な効果があったようだ。
一人、また一人と正気を取り戻して自分達の行動を思い返し、恥ずかしげに席につく。
(「次は私の出番よね」)
指をぱちんと鳴らしてリユニティが舞台に上がる。
薬草湿布と同じくソウジが作ってくれた簡易のヴェールは、水晶のティアラに良く映えて、神秘的だった。
聖歌でしんと静まり返ってしまった酒場に、リユニティの歌声が響き渡る。
高く遠く、強く明るく。
陽気な歌声は、酒場に健全な活気をもたらす。
●エピローグ
最終日。
完全に回復したグロリアと、1週間酒場を盛り上げつづけてきた冒険者達。
酒場の客は、冒険者達の日々の教育的指導(?)のおかげでとても健全になっていた。
「見違えるようだわね」
踊り子の衣装を身にまとい、舞台の袖から観客席を覗くグロリア。
酒場の客達は、グロリアがどんなに上手に踊りを踊ろうともいつも赤ら顔で野次を飛ばしていたというのに、今見る客達は酔ってはいるものの誰一人舞台に野次を飛ばそうなどというやからはいない。
「えへへ〜、これからはグロリアさん安心して踊れるね?」
ティラが嬉しそうにグロリアの肩に舞い降りる。
「いよいよ最後ね。がんばろうね!」
リユニティがぱちんと指を鳴らして明るく合図して、リリーとグロリアが舞台に上がり、リユニティ、明王院、ティラ、アンダンテ、ジェラルディンもあらかじめの打ち合わせ通りそれぞれ酒場の端へとこっそり移動する。
神秘的なグロリアの踊り、魅惑的なリリーの踊り。
舞台の上を踊る二人を彩るように、ジェラルディンとティラ、リユニティのコーラスが響き渡る。
ジェラルディンも今日ばかりは聖歌ではなくここ1週間で覚えたばかりの酒場に似合う陽気な歌を、少し戸惑いつつもティラとリユニティに合わせて歌い、3人は、酒場の右端からゆっくりと舞台へ移動する。
明王院は、得意の剣舞をやはり酒場の隅から舞台に向かって踊りながら歩みを進め、アンダンテは一人、異色を放ったくねくねダンスを踊りながら、酒場の端から舞台へとあがってゆく。
身体をくねらすだけのその踊りは滑稽だったが、しかしかえってお客さんには受けたようだ。
楽しげな笑い声に微笑みながら、アンダンテもタイミングを見計らって舞台へあがる。
間近で踊り子と歌い手の姿を見れて感動する観客達は、舞台の上に集合した冒険者達に更に盛りあがる!
「みんな、ありがとうーー!」
舞台の上でグロリアが深く礼をして。
酒場の1周年記念パーティーはかつてない熱気と盛りあがりと共に、幕を閉じた。