遅刻する冒険者
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 3 C
参加人数:6人
サポート参加人数:2人
冒険期間:08月29日〜09月03日
リプレイ公開日:2005年09月08日
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●オープニング
いつもいつもいつも。
ルーティア・セイラーンは遅刻してしまう。
夜早く寝ようとも、朝起きるのが辛いのだ。
その日も、ルーティアは寝坊してしまった。
大切な依頼で、時間に厳しい依頼人だから、決して遅刻しないようにとギルド受付係にもいわれていたのに。
朝食も取らず、寝癖がぴんぴん飛び跳ねているのも直さずに、全力で依頼人のところへ走るルーティア。
しかし。
「ご主人さまは‥‥『お引き取りください』とのことです‥‥‥‥」
なにやらうさぎ耳をつけた暗いメイドに門前払いを食らわされ、とぼとぼと冒険者ギルドへ行くルーティア。
依頼人の機嫌を損ねてしまった事を、きちんと報告しなければ、ギルドにも迷惑が掛かってしまう。
とぼとぼ。
とぼとぼ。
がっくりとうなだれてギルドを訪れたルーティアを見て、万年一人身受付係は「またですか」と呟く。
「ええ‥‥またなの。またやっちゃったわ‥‥」
「今回のご依頼は絶対に遅刻しないで下さいとあれほどお願いしたおいたのに」
「うん。ごめんなさい」
しょんぼりと愛剣を握り締めて落ちこむルーティア。
「ふむ。まあ、こっちにもあなたが遅刻の常習犯なのは分かっていたのにこのお仕事を回した責任はあります。依頼人の方にはまた改めて別の冒険者に行っていただくことにしましょう。それよりもルーティアさん。このままでは、本当になにも依頼をまわせないですよ?」
「そんなー! 仕事がもらえないと、生活できないわっ!」
遅刻ばかりする冒険者。
そんな冒険者を寄越したとなると、ギルドの評判がどんどん下がってしまう。
ルーティアには可哀相だが、「そう言われても、遅刻を直して頂かない事には駄目です」ときっぱり言いきる受付係。
基本的に女の子には甘い万年一人身受付係だったが、ここで甘い顔をしてはルーティアの為にならない。
どんなに剣の腕がすばらしくとも、いつ来るのか分からないような人間は当てには出来ないのだ。
「‥‥そうだ! 私に依頼させてくれる?」
ぽんとなにかを思いついて手を打つルーティア。
「どんなご依頼です?」
「もちろん、私の遅刻を直す依頼よ。私だってほんとに遅刻は直したいのよ‥‥でも一人じゃ治せないの。だから、冒険者に協力してもらいたいのよ。どうかしら?」
「名案ですねー。じゃあ、早速依頼書を作成しておきましょう。遅刻、治るといいですね」
ルーティアの案に頷いて、万年一人身受付係は新しい依頼書を作成するのだった。
●リプレイ本文
●だって眠いんだもん!
冒険者達がルーティアの家を訪れた時、依頼人――ルーティアはものの見事に爆睡していた。
「あ、あう‥‥? どちらさまでしたっけ〜?」
半分閉じかかった瞳を擦りながら、寝巻き姿で冒険者達を迎えるルーティア。
そんなルーティアを心の底から呆れて叱るのはレオン・ウォレス(eb3305)。
「まったく、冒険者としての覚悟が足りないから、朝起きるのが辛いなんてことになるんだろ。気合いを入れろ、気合いを!」
友人のヴィクターから、ルーティアの遅刻の多さをしっかりと聞いているから情け容赦なく厳しい。
「ベッドから出たくないー! って気持ちすっごく分かるなぁ。でもだからって遅刻はダメだよ?」
「遅刻か。私はあまりそういう傾向は無いが、ベッドが心地良いのはわかる。だがずっとそうしてる者はいないわけで、要は少し早くベッドから出るようになれれば良い」
「とりあえず、癖を変えるには新しい癖を付ける事だな早寝早起きと言う癖を」
日はもう大分高いというのにまだどこかぼんやりと夢心地のルーティアに、ユニ・マリンブルー(ea0277)は明るく元気良く注意して、ジークフリート・ヴルツベルク(ea5130)は淡々と現状を分析し、メフィスト・ダテ(eb1079)が実にわかりやすい提案をする。
「ええ、わかったわ。新しい癖をつけるわ。ええ」
うんうんと真面目に頷くルーティア。
もっとも、完全に寝ぼけていてどこまで聞いているのか不明だったが。
「遅刻ですか。人ごとじゃないのよね」
「寝坊すると色々と大変ですよね‥‥。何とか直してあげたいですね」
ふらふらと冒険者達に支えられて家の中に入るルーティアの背中に、マリー・ミション(ea9142)とシルフィリア・カノス(eb2823)はしみじみと呟いた。
●賭け事?
「家で起きられないというのは心に甘えのある証拠だろうから、次の日に何かすべき事がある時にはベットではなく、床に毛布一枚で横になるとか、壁に保たせ掛かって眠るとか冒険中と同じようにすることで緊張感をもって睡眠すべきだ」
すっかり目が覚めて、大慌てで着替えて客間に戻ってきたルーティアに、レオンが溜息交じりに冒険者としての睡眠のとり方を説明する。
少々緊張した面持ちで、愛剣を握り締めながら頷くルーティア。
寝起きと違い、しっかりと聞いているようなのだが、どこか危なっかしい気がするのはやはり寝坊ばかりするという先入観があるからだろうか?
「まあ、言っただけで即実行できるのならおぬしも遅刻などしないだろうな。そこで、一つゲームをしよう」
「ゲーム?」
「ああ。ルールは簡単だ。俺が『鍵開け』や『忍び歩き』を駆使し、夜中回数や時間などは決めず、おぬしの傍まで接近し、気付かれないように何か置く。おぬしが気付かずに5回置かれたら、罰として報酬は倍額っていうのはどうだ?」
「倍額だなんてそんなー!!」
ゲームと聞いて楽しいものをちょっぴり想像していたルーティアは、ゲームに負けたら報酬倍額と聞いて青ざめる。
いまの報酬金額だって、本気で遅刻を治したいからかなり奮発したのだ。
このままでは冒険者ギルドから依頼をもらえず、生業も今回の依頼の為にお休みをもらったから、貯金はもう雀の涙しかない。
「そんなー、じゃないだろ? ようはおぬしがきちんと気付けばいいだけの事だ」
ルーティアの抗議の声を正論で持ってにべもなくさくっと却下するレオン。
「しかし、淑女の部屋に夜中に男性が忍び込むなど、いくらルーティアさんの寝坊を治すためとはいえやり過ぎじゃないか?」
「なんだ? ジークフリート。おぬしとて冒険者。野営で女性と寝所を共にしたことぐらいはあるだろう?」
ほんのりと顔を赤らめてレオンを止めるジークフリートに、なにを今更と首をかしげるレオン。
「確かに、野営ではそうだろう。テントの数にも限りがあるしな。だが、ここは民家だ。騎士として、女性の寝室に忍び込むなどいくら仕事でも見逃せませんよ‥‥」
騎士ゆえか、若さゆえか。ついに耳まで真っ赤になってレオンから目線をそらすジークフリート。
「まあ、寝室に忍び込むのはあまり褒められたもんじゃねーな。俺たち野郎どもは早起きしてルーティアを起こしにこようぜ?」
メフィストが妥協案を提示して、寝室に忍び込むゲームは一応取り消しになり、男性陣はルーティアの寝室から一番離れた1階の客室を借りて、女性陣は2階のルーティアと一緒の部屋と、そのすぐ隣の部屋を借りて泊まり込む事になった。
●規則正しく
「寝る前に食事や飲酒をしたりするのも、ちゃんと寝られなくなる原因の一つなんですけど、そういう事をやっていませんか?」
とりあえず、ルーティアの寝室に集まる女性陣。
男性陣は、日用品の買出しに出ている。
シルフィリアは、寝室をくるりと見まわし、寝坊の原因を探るべくルーティアの生活習慣をチェックする。
「わたし、お酒は飲めないから飲まないし、食事も寝る前にとったことはないわ」
そう答えるルーティアに、じゃあ原因はなんだろうと頭を悩ますシルフィリア。
「今日1日‥‥といっても、大分過ぎていますけれど、ルーティアさんにいつも通りの行動をしてもらいましょう。おおよそ何時頃起床して食事は何時頃取るのか。生活習慣を見直して毎日の就寝時間や平均睡眠時間から対策を立てていきましょう」
マリーが緊張しているルーティアを安心させるように微笑しておだやかに提案する。
「ルーティアさん、朝は何時ぐらいに起きるのですか?」
「朝は、えっと‥‥生業のある時間に合わせて。食事はお昼と7時ぐらいに」
「朝ご飯は?」
くりくりとした青い瞳を無邪気に輝かせて尋ねるユニ。
「‥‥たべたり、食べなかったり。‥‥だって、食べてると間に合わないんですもの」
名前と同じユニのマリンブルーの瞳に覗きこまれて、しどろもどろになるルーティア。
「規則正しい生活を心がけましょう。それが遅刻解消の第1歩ですわ」
「朝早くに起きてすぐに、楽しみにしている事があったり、好きな事をやろうと考えていると、すっきりと起きやすいそうですよ?」
「心の何処かで『遅刻しても大丈夫』って思ってるから遅刻しちゃうんだと思うんだ。明日遅刻したらもう終わり! って思えばちゃんと起きれるようになるんじゃないかな。 って、ルーティアさん、剣なんか握り締めてどうしたの?」
マリー、シルフィリア、ユニの助言を聞きつつも、いつのまにか愛剣を握り締めているルーティアに、ユニが首を傾げる。
「あっ、実はそろそろ鍛錬の時間なんです」
「‥‥こんな時間からですか?」
マリーが柳眉を顰める。
そろそろ日も落ちて、夕焼け空が紫に変わり始めていた。
「それはだめだよー! 夜寝る前にあんまりハードな運動すると目が覚めちゃうからね。ちゃんと熟睡できなくなっちゃうんだよ。やっちゃ駄目」
ユニに止められて、その日は鍛錬をせずに眠ることにした。
●綺麗な花
「おーい、全員起きろー!」
ジークフリートとレオン、メフィストの男性陣が2階の女性達の部屋のドアを叩く。
「ちゃんと起きてるよ〜♪」
ルーティアと一緒に寝ていたユニがすぐさまドアを開き、シルフィリアも隣の部屋からサラサラの金髪を手のひらで抑えつつ顔を出す。
そして問題のルーティアも、まだ寝巻き姿ではあったものの、ユニとマリーのおかげで何とか目を覚まし、部屋の窓部に飾られた花を見つめていた。
ルーティアが寝巻き姿なのを見て、慌てて顔をそらすジークフリート。
朝に咲くというその花は、昨日ジークフリートがルーティアにプレゼントしたものだ。
「毎日頑張れば、このお花が咲いているところを見られるかな?」
ちょんと指で蕾を突っついて、ルーティアは微笑んだ。
●朝は辛いけど、楽しいのよ?
「朝起きたら必ず日光を浴び、身体を動かす癖を付けるといい」
まだ朝早いというのに、きびきびと指導するレオン。
どうにか目を覚ましたとはいえ、やっぱりまだぼんやりとしているルーティアは、へろへろと剣を振るう。
「朝の鍛錬は、私が回復するので多少怪我する位でやってみてはいかがですか?」
よろよろとしているルーティアに、そのおっとりとした口から出たとは思えない物騒な提案をするシルフィリア。
「えええっ?!」
慌てるルーティアに、
「じゃあ俺が相手になってやるよ」
メフィストが剣を抜いて、ルーティアを促す。
「じゃ、じゃあ、いきますっ!」
混乱しつつもメフィストと剣を交えるルーティア。
「おっ? いい線いってんじゃん。これで遅刻さえしなければそれなりにいけるんじゃねーの?」
ルーティアの剣を安々とかわしながら、けれどその動きを評価するメフィスト。
「遅刻、治したいですっ!」
身体を激しく動かす事によって、はっきりと目覚めたルーティアが叫ぶ。
「じゃあ、努力するんだぜ。よっと!」
掛け声と共にルーティアの剣が勢い良く弾き飛ばされた。
●毛布が恋しいの><!
「これは、『だぁって、毛布さんが、あたしのこと離してくれないんだもん★』というやつか?」
ぎゅうう。
毛布を抱きしめて、完璧に熟睡しているルーティアを見て、この依頼を受けた時に友人のミュウがいっていた言葉を思い出すレオン。
ルーティアは、昨日はなんとか起きれたものの、今日はマリーとユニ、そしてシルフィリアがどうにか起こそうとしても駄目だったのだ。
結局、ルーティアが目覚めたのは昨日よりも1時間以上あとになってから。
「いきなりそう簡単に起きれるようになるわけがなかったわね。朝日を浴びると寝起きが良くなるわよ。寝る時は薄いカーテンの方がいいわね」
ルーティアの部屋のカーテンをみて呟くマリー。
いまは厚手の重苦しいカーテンがかかっているのだが、これをもう少し薄手のカーテンにして、少々物騒だけれど木窓を空けておけば朝日が部屋に差し込んでぐっと起きやすくなるだろう。
「私が注文してきます。近所にショップがありましたから」
ジークフリートは先日花を購入した時に見かけたショップへ早速注文しに行った。
●秘密
「私はいつも早めに起きないといけないんですけど‥‥その理由、知りたいですか? それなら、私より早く起きられれば分かりますよ」
誰よりも早く起きるシルフィリアが寝ぼすけなルーティアに提案する。
シルフィリアよりも早く起きるなどという芸当は、寝坊ばかりするルーティアにとってはかなり無謀な挑戦だが、それでもシルフィリアの秘密は気になる。
がんばって今度こそ起きると決意をあらたにするルーティアに、「頑張ってくださいね」と微笑むシルフィリア。
綺麗な花の蕾と、シルフィリアの秘密。
ルーティアの朝の楽しみがまた一つ増えた。
●満開でぴんぴん?
最終日。
ジークフリートの注文した薄手のカーテンから、朝日が差し込み、その清々しい眩しさに目を覚ますルーティア。
冒険者達と共に毎日朝の日差しを浴びて、身体を動かして。
規則正しい生活は、確実に寝坊の癖を直していっていた。
マリーお勧めの朝の小鳥のさえずりを聞きながら、窓辺に咲いた花を涙ぐんで見つめるルーティア。
「やっと、見れたわ‥‥!」
朝日に輝くその花を感無量の思いで見つめつつ。
「そうだ、シルフィリアさんっ!」
部屋を駆け出して、隣の部屋のシルフィリアを尋ねる。
シルフィリアはもうすでに起きていたのだが‥‥。
「し、シルフィリアさん、その髪型はいったい?」
ぴんぴんぴん!
さらさらストレートに思えたシルフィリアの髪が、四方八方に飛び跳ねている。
「わたしの秘密、わかりましたか?」
ルーティアに自分の秘密を見せ終えたシルフィリアは、慣れた手付きで寝癖をなおし始める。
「びっくりしました。寝癖なおすの大変そうですね」
「ええ、毎日大変なんです」
くすくすと笑う二人。
シルフィリアが寝癖をすっかり治し終えた頃、マリーやユニも起き出して、ルーティアがこんなにも早く起きて、しかも寝ぼけていない事にびっくりする。
「うっわー、ルーティアさん早起き!」
「ルーティアさんが早く起きれるようになって嬉しいですよ。ですが油断すればまた元に戻ってしまいます。寝坊しないように強い意思を持って望まなければ駄目です。これからの事はルーティアさん次第ですよ」
マリーの助言にルーティアは自信を持って頷いた。